ロボット魚と人工筋肉


「同じ群れの魚同士は、互いに情報を共有し合っていることがわかりました。視覚や触覚などの合図をもとに、いつ群れをなして泳ぐかを決めているのです。つまり、この合図を研究すれば、魚がどのようにしてリーダーを認識し、ついていくのかがわかるのです」
ニューヨーク大学・マウリツィオ・ポルフィリ助教授

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魚型ロボットを使って、本物の魚の群れをコントロールする研究が行われている。

モンペリエ大学のステファノ・マラス氏とニューヨーク大学工芸研究所のモーリツィオ・ポーフィリ助教授は、魚の群泳の力学を調査するために魚型ロボットを使う実験を行った結果、本物そっくりに泳ぐ少し大型の魚型ロボットと本物の魚を一緒にすると、ロボット魚をリーダーとするような群れを作って泳ぐことが分かった。

魚型ロボットは、北米東部に生息する銀色の淡水魚「ゴールデンシャイナー(Notemigonus crysoleucas)」をモデルとしていて、全体はプラスティックで覆われている。大きさは本物の2倍もあるけれど、前後に動く尾びれの動きは本物そっくり。

マウリツィオ・ポルフィリ助教授によると、本物の魚の中に魚型ロボットを入れると、魚がロボットの動きに騙され、群れのリーダーだと思い込んでついていき、魚型ロボットが進行方向を変えると、魚の群れも一斉に方向転換をするのだそうだ。

魚が魚らしい動きをするためには、もちろん、体をくねらせ、尾びれを動かして泳ぐ必要がある。まぁ、鰻のように全身をくねらせたり、ハコフグのようにひれだけを動かく泳ぎ方もあるのだけれど、多くの魚は下半身をくねらせて泳ぐ。

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2009年、イギリスのエセックス大学と技術系コンサルタント会社「BMT」グループの共同研究チームが、海中の汚染を検知するための「魚型ロボット」を開発している。これは鯉に似た形で、全長は約1.5メートル。検知器を搭載していて、海中に流れ出た船舶の燃料や化学物質などの汚染源を特定できるという。駆動には内臓している電池を使用し、遠隔操作は不要で8時間連続で駆動できるという。

エセックス大学の魚型ロボットは、鯉の泳ぎ方を真似して、下半身をくねらせて泳ぐのだけれど、下半身をいくつかのパーツに分けて、それぞれにサーボモータを搭載し、互いに関節で繋いでやることで、各パーツを自由に動かせるようにすることで実現している。

実際の動きも、驚くほど、本物そっくりで、動きだけなら魚も騙されるかもしれないと思わせる。ただ、外見が非常にメタリックで、ケバケバしいのが残念。

この魚型ロボットは、最速で秒速1メートル(時速3.6km)の速さで、完全自動で泳ぎ、8時間ごとの充電も「充電ハブ」に戻って自ら行う仕組みになっているそうだ。

この充電ハブは、魚型ロボットが集めた探査情報を港のコントロールセンターに転送する機能を兼ねていて、これによって、汚染源や汚染規模を3Dマップで表示して、海の水質状況をリアルタイムでチェックすることができるという。

ただ、こうしたモーターで駆動するタイプの魚型ロボットは、その構造上どうしても大きくなってしまう。体長1.5mもあると、マグロやカツオなら騙されてくれるかもしれないけど、イワシやサバくらいだと警戒して近寄らないのではないか。

いずれにせよ、この手のロボットにも小型化の要求はなされる筈なのだけれど、近年、全く新しい技術によって、それが現実のものになってきている。

それは、人工筋肉を使った魚ロボット。



この魚ロボットは、2001年8月に経産省の産業技術総合研究所・関西センター内に高分子アクチュエータの研究プロジェクトに参加していた研究者が主体となって設立した、ベンチャー企業イーメックスが開発したもので、体長わずか6センチ。

アクチュエータとは「動作させるもの」という意味で、モーターも人工筋肉もアクチュエータの一種なのだけれど、その媒体として高分子化合物を使っているのが、高分子アクチュエータ。

高分子アクチュエータにはイオン伝導アクチュエータと、導電性高分子アクチュエータの2種類があり、前者は金メッキを施したイオン交換樹脂で出来ていて、後者は導電性高分子であるポリピロール樹脂で出来ている。

それぞれ、1~3V程度の電位を印加することで、動作するのだけれど、たとえば、イオン伝導アクチュエータの両面にある電極に電位を掛けると、高分子中の陽イオンが陰極側へ移動して、陰極が膨れて湾曲する。ここで、逆方向に電位を掛けると、今度は逆方向に湾曲するから、これを繰り返してやることで、魚がヒレを動かすような動きができることになる。

また、導電性高分子アクチュエータも基本動作は同じで、こちらはイオンを含む電解液内部に導電性高分子と対向電極が配置された構造を持っている。そして、対向電極と導電性高分子との間に電圧を印加すると、高分子内に陰イオンが取り込まれたり放出したりすることで、伸縮する。

こうした人工筋肉は、電気的にコントロールできるものの、モータとは違って、軽くて柔らかく、音が発生しないという特徴があり、また、積層してセル化することで、ロボットなどの動力としても利用できるという。

新時代の動力として期待される。

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