アイ・ファイター「心神」開発着手

 
「イメージは、相手から見つからない忍者のような航空機。高機動性に優れ、ひらりとかわすことができる」
三菱重工業・浜田充プログラム・オフィス長

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3月27日、三菱重工・名古屋航空宇宙システム製作所飛島工場(第一工場)で、「先進技術実証機鋲打ち式」が開催された。先進技術実証機というのは、航空自衛隊・技術研究本部が指揮する「先進技術実証機:ATD―X」のことで、通称「心神」。

式典には、防衛省から秋山義孝技術研究本部長や片岡晴彦航空幕僚長など多数が参加。鋲打ち式は、鉄骨にボルトとナットを取り付けて、スパナで締め付け、締めた鋲をハンマーで叩く儀式のことで、家の建築でいえば、上棟式に当たる。今回の組み立ては、中胴前方に電子機器を搭載する中胴前部機器室と燃料タンクとを隔てる隔壁(バルクヘッド)に艤装品取付け金具を鋲で装着したもので、この鋲打ちを第一歩として、いよいよ「心神」の組み立てがスタートしたことになる。

今回鋲を打った、実大構造試験供試体は、「心神」の設計妥当性を確認するため、機体主要構造部の強度試験に用いるもの。

この「心神」プロジェクトは、三菱重工を主契約者として、2010年3月に「先進技術実証機研究試作その1(総事業費329億円)」として防衛省より発注されたもので、ステルス性や高運動性といった将来の戦闘機開発に必要とされる各種の先進技術について飛行実証を行うための試験機を製作する。

初飛行は、2014年9月を予定していて、2015年には、技本と航空自衛隊での飛行試験、そして2016年頃の開発完了を目指している。

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「心神」の性能は重量約13トンという以外は正式に公表されていないのだけれど、事前に製作された実物大模型サイズが全長約14メートル、幅約9メートルで、これとほぼ同サイズになると見られている。このサイズは、F22の全長19.5メートル、F35Aの全長15.7メートルと比べても大分小さく、F16の全長15メートル、全幅9.45メートル並みのサイズ。

「心神」が搭載するエンジンは、防衛省技術研究本部がIHI(旧石川島播磨重工)を主契約企業として開発したXF5-1。XF5-1はアフターバーナーを備えたターボファン方式のジェットエンジンで、重量約640kg。推力はアフターバーナー使用時で5トン。エンジンが小型なので、エンジン単体の推力重量比はおよそ8.0ある。

推力重量比とは、瞬間推力の重量に対する比率のことで、ロケットエンジンやジェットエンジンの性能指数として使われるのだけれど、「心神」の推力重量比8.0というのは、F-15搭載のF100エンジンの推力重量比である7.8以上であり、F22のF119エンジンの推力重量比9.0、そして、現在世界最強のエンジンであるF35のEJ200エンジンの9.2と比べても、左程見劣りしない。

ようやく日本もF15搭載エンジン以上のエンジンを作れるようになった。「心神」はこのXF5-1を双発搭載する。

また、XF5-1エンジンの噴射口には、3枚の推力偏向パドルが取り付けられており、これによって、通常の戦闘機では失速してしまう低速でも、機動制御を維持かつ高運動性を確保することができるようになっている。

推力偏向パドルとはその名のとおり、ジェットエンジンの噴射方向を直接変える板(パドル)のことで、エンジンの後方に3枚の推力偏向パドルが120°間隔で設置され、機体装備のアクチュエータで駆動する。

この推力偏向パドルは当然のことながら、ジェット噴射の向きを直接変えさせるものだから、ジェット噴射に耐えられる素材でなければならない。特にアフターバーナー使用時は2200℃以上の高温に一定時間さらされることから、耐熱、耐食性に優れたニッケル合金(インコネル材)が使用されている。



また、ステルス性も高く、実物大のRCS(Radar Cross Section:レーダー断面積)試験模型を三菱重工で制作し、2005年、フランス国防装備庁の電波暗室で電波反射特性の試験を行い、レーダー画面上では中型の鳥より小さく、昆虫よりは大きく分析表示されるだけのステルス性を確保している。(ただし、尾翼周りのRCSが良くないという噂があるようだ)

更に、高度なアクティブ・フェーズドアレイレーダーを装備していて、防衛省は「心神」を第6世代の戦闘機として位置づけている。

第6世代とは、F22、F35といった第5世代ステルス機の更に先をいくもので、第5世代の能力に加えて、カウンターステルス、情報・知能化、外部センサー連携、瞬間撃破力といった能力を持つとしている。

カウンターステルスとは文字どおり、相手を凌駕するステルス性能を持つことで、従来ステルス機に対抗しようというもので、日本の最先端素材技術を駆使してより高いステルス能力を持つと共に、世界一のパワー半導体デバイス技術を応用して、次世代のハイパワーレーダーを搭載することを目指している。

また、情報・知能化や外部センサー連携は、これからの戦闘機の戦い方を示唆するものでもあり、必須の技術となると思われる。

これまでの戦闘機同士の空戦では、自分でロックオンして自分で撃つのが基本だったのだけれど、これからは、先行させた偵察機や無人機などの他の航空機からの情報を共有することで、先行航空機がロックオンした敵機を、後方の戦闘機が攻撃するようになるという。(クラウド・シューティング)

2010年12月に公開された映画「SPACE BATTLE SHIPヤマト」で、ブラックタイガーがガミラス艦に近づいてロックオンしたターゲットデータに対して、ヤマトが砲撃するシーンがあったけれど、イメージとしてはああいう感じになると思われる。

更に、従来、航空機の操縦および飛行制御の操舵信号を、気体各部に伝えている電線(フライ・バイ・ワイヤ:Fly-by-wire)を光ケーブルにする、フライ・バイ・ライト (Fly-by-light:FBL) 技術を導入して、電磁干渉から強くすることで、対電子戦対策としたり、将来的には、高出力レーザー、高出力マイクロ波といった、指向性エネルギー兵器(ライト・スピード・ウエポン)を搭載し、瞬間撃破力を確保する構想がある。

防衛相はこれらを、高度に情報(Informed)化、知能(Intelligent)化され、瞬時(Instantaneous)に敵を叩く戦闘機として、 i3FIGHTER(アイ・ファイター)と総称しているようだ。

まぁ、防空任務にステルス性がどこまで必要なのかは、議論があるところだろうけれど、高度な軌道性能や、クラウド・シューティング能力は、航空優位を確保するためには有利に働くだろうし、防衛費が縮小傾向にある日本にとっても必須の能力になることは間違いない。

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この記事へのコメント

  • 腰抜け外務省

    残念ながら推力5トンのエンジンでは出力が足りません。ほぼ同じ機体サイズのEF2000の場合、バーナー使用時で9トン以上の推力を発揮します。この出力では超音速クルージング能力は期待できないでしょう。

    エンジン単体の推力重量比も重要ですが、それ以上に重要なのは機体とエンジンとの推力重量比です。因みにEF2000は空対空ミッション時の推力重量比は1.13です。

    まあ、量産機には推力10トン以上のエンジンを持ってくるでしょうが。

    ステルス性ですが、F22は昆虫位のRCSだそうですが。

    ステルス機がこれから主流になって行くのでしょうが、カウンター・ステルス能力も日進月歩です。バイスタティック、マルチスタティックレーダーの開発も進んでいますし、赤外線センサーの能力も今後ますます向上していくでしょう。

    さらに、ステルス機の問題として、高い維持保守費が挙げられます。

    何やらネガティブなことばかり書いておりますが、本当に申し上げたいところは、日本1国で開発するメリットがあるのか?その際の調達コストは?調達後の保守費は?と言ったところです。言い換えるならば、ステルス機の開発コストは膨大なものと
    2015年08月10日 15:25
  • 日比野

    腰抜け外務省さん。コメントありがとうございます。

    ユーロファイターは、これまで日比野庵で何度か取り上げ、筆者も推していた機体です。スーパークルーズが使えるのはやはり大きい。ライセンス生産もできたでしょうしね。

    機体とエンジンとの推力重量比が大事になるというのはそのとおりです。やはり量産時は1を超えないとちと厳しい。

    F22のRCSが昆虫並みというのは承知しています。F22が買えれば一番よかったのでしょうけれども、今となっては仕方ないですね。

    日本一国で開発するメリットがあるとすれば、技術の民生への波及ですかね。防衛省は航空産業への波及効果は103兆円と弾いているようですけれども。あと、共同開発国が探して見つかればいいですけれども、何とも言えないですね。
    2015年08月10日 15:25

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