昨日のエントリーでも触れましたけれども、書き残していた部分がありましたので、続きをエントリーさせていただきます。
1.反響を呼んだ石原都知事の尖閣購入発言
石原都知事の尖閣購入発言が反響を呼んでいる。
東京都庁では「報道で初めて知った」という職員も多く、「午前中は5台の電話がひっきりなしに鳴った」というくらい対応に追われたそうなのだけれど、尖閣購入に関する意見が電話やメールなどで100件以上寄せられ、過半数以上が「決断に感激した」「国が動かないなかで、よくぞ言った」などと賛同する意見なのだという。
今回の尖閣購入の動きについて、4月18日、自民党の山東昭子参院議員が、自ら仲介をしたと明らかにしている。山東氏によれば、債権者である栗原氏の母親とは30年来の付き合い。栗原氏は「個人で所有していくには限界がある」と感じていたため、山東議員に「『尖閣を譲ってほしい』とあちこちから言われるが、背景のわからない個人には譲れない」「政府に買い上げてもらいたいが、今の政府は信用できない」と相談を持ちかけていた。
山東議員は、この件について、古くからの知人だった石原都知事に連絡し、昨年9月、2人で栗原氏の自宅に訪問したそうだ。当初は、寄付金を募って購入する案も検討されたのだけれど、石原都知事が「時間がかかる」として都予算による買い取りを提案し、最終的に栗原氏が「石原さんなら任せられる。腹は固まった。世界遺産にしてもらいたい。」と、石原都知事が訪米する数日前に売却を決意したのだという。
元々、この件については、石原都知事と周辺のごく一部の幹部だけで進められていた。幹部らは、まず、東京都などの自治体がほかの自治体にある土地や海上の島などを購入することが法律的に問題がないか国などに照会し、行政としての妥当な目的があれば可能だという回答を得た上で、地権者に購入の意思を伝え、「都に購入してもらいたい」という返事を得て合意に至っている。
石原都知事は、今回の訪米の直前、栗原氏に「アメリカでこの話をしていいか」と尋ね、売却の意思を最終確認をした上での今回の発表だから実に手堅いし、一部の幹部には、石原都知事が滞在先のアメリカから直前に発表について伝えるといった具合に、発表に至るまで、殆どこの件についての情報が洩らさなかったことも見事。
今回の石原都知事の発表の要旨については、産経新聞が次のように報じている。
中国は尖閣諸島を日本が実効支配しているのに、ぶっ壊すためにあそこでもっと過激な運動に走り出した。日本の固有の領土ってのは、沖縄を返還するときに、あそこの島は全部帰ってきたんだ。その尖閣に(中国が)「俺たちのもん」だって。とんでもない話だ。東京都はあの尖閣諸島、買います。買うことにしました。私が留守の間に実務者が決めてるでしょう。東京が尖閣諸島を守ります。
ほんとは国が買い上げたらいいと思う。国が買い上げると支那が怒るからね。なんか外務省がビクビクして。あそこは立派な漁場になりますしね。沖ノ鳥島だって中国や台湾の人が乱獲して、守らせるために国や地方が頑張っている。
日本人が日本の国土を守るために島を取得するのは、何か文句ありますか。ないでしょう。やることを着実にやらないと政治は信頼を失う。まさか、東京が尖閣諸島を買うってことでアメリカが反対するってことはないでしょう。「東京が尖閣を守る」石原知事講演発言要旨 2012.4.17 より
とまぁ、この講演で、石原都知事は、本当は国が買い上げるべきだが、支那にビクビクして何もしていないと厳しく批判している。
これに対して、4月17日、玄葉外相が記者会見で、「何もやっていないということは全くない」と反論しているのだけれど、世論はそう思ってないし、何をやっているのか説明もしていない。仮に、百歩譲って何かをやっていたとしても、ここ数年来ずっと、中国による領海侵犯や接続水域での航行など、挑発行為が延々と続いている。だから、その"何か"とやらは、効力ゼロ。つまり、外からは何もしてないのと同じと見做されてしまっている。
また、4月17日、藤村官房長官は記者会見で、「報道は承知しているが事実関係を承知していない。事実であるなら相談があったりすることは今後の展開だ」と述べ、記者から、尖閣諸島を国有化する可能性があるかと質問されると、「必要ならそういう発想で前に進めることも十分ある…政府はさまざまな機会をとらえて所有者と連絡を取っている。内容はプライバシーに関わるので言えないが、政府としてもきちんと話は続けている」と国による購入もあり得るとの認識を示している。
2.尖閣都債で開発を促進せよ
所有者である栗原国起氏の弟の栗原弘行氏は、売却について、「当然、石原知事は国土とか国益を非常に重要視する意識が高い。そういう中で、元々兄の考えは売却を一切考えてきてないから、もし売却するなら国や自治体という意識しかなかった。方向性だけは一致しているということです。自治体でも国でも同じ。あそこを日本の領土として維持できればいいわけですから」と述べている。
だけど、そもそも今回の交渉が纏まったのは、東京都が所有するのであれば、任せられると所有者が思ったからで、それを今頃のこのこと購入を検討すると言っても、その本気度をきちんと示さないと、国に売るという話にはならないと思われるし、既に東京都が話を基本合意のところまで詰めている。
栗原弘行氏は、国による買い取りについて、「政府もそういう方向のことを検討すると官房長官が言っているが、石原知事がそういうコメントを出さないと、こっちは独自でやるという話が浮上してこないわけですね」とコメントしている。だから、国が横槍を入れて買うにしても、石原都知事を納得させられないと、そういう話にはならないだろう。
石原都知事は、藤村官房長官が、尖閣を国が購入する可能性に言及したことについて、「さっさとやればよかった。こっちはもうじき地権者と取引が終わる。持ち主が国は信用できないから、東京都ということだったんですが」と余裕綽々。
ただ、都が土地を購入する為には、購入価格を決めなければならない。そのための手続きとして、どのような目的で利用するのか決めた上で、土地の現地調査を行なって、価格が適正かどうかについて都の審議会で検討を行う必要がある。更に、購入する土地の広さが2万平方メートル以上で価格が2億円以上する場合は、更に都議会の議決が必要になる。
現在、尖閣諸島は、栗原氏から国が単年の賃貸契約を結んで、賃借料を払って管理しており、島への上陸許可も国が行っている。国は、これまで民間人の尖閣への上陸を禁止している。
だから、もし政府が、都の尖閣購入を邪魔しようと思えば、上陸を禁止して都による現地調査をさせなければいいということになるけれど、果たして政府がそこまでやるかどうかは分からない。ただ、それでも、来年3月には、国との賃貸契約が切れるから、それまで待って、都が現地調査する方法もある。だから、これは、結局のところ国が本気で領土を守る気があるかないかに掛かっているのだと思う。
勿論、尖閣の所有権が都に移れば、政府が上陸禁止させることもできなくなる。更に、東京都と石垣市との共同所有ともなれば、尖閣への上陸は増えていくだろう。そもそも石原都知事は、尖閣購入後の開発を示唆する発言をしている。そうなると、中国との更なる衝突の機会が増えるであろうことは容易に想像できる。
この動きに対して、予想どおり中国は反発している。4月17日、中国外務省の劉為民報道官は、東京都の尖閣購入計画について、「違法かつ無効で、釣魚島が中国に帰属するという事実は変えられない」などとする談話を発表している。
中国は、今年1月に、尖閣諸島を台湾、チベット自治区、新疆ウイグル自治区と同じ「核心的利益」、すなわち、安全保障上、譲れない国家利益と位置付け、3月に、日本政府が尖閣周辺の離島に命名するや否や「議論の余地のない主権」を主張して、独自の名称を発表。更に、周辺海域での巡視活動を常態化させ、その目的を「日本の実効支配の打破」と公言までしている。だから、今以上の挑発、或いは、工作を仕掛けてくる可能性は十分考えられる。
防衛相幹部は、東京都が尖閣を購入、或いは、開発を進めた場合、「自衛隊と海上保安庁の警戒監視態勢を強化する必要がある」とし、尖閣に潜水艦を常時探知できる監視装置や無線中継基地を設置することも挙げたそうなのだけれど、それは、結果として、尖閣の防衛、ひいては国防の強化に繋がることなのだから、日本にとってはいいこと。
猪瀬直樹・東京都副知事は尖閣の買収費用について「都民や全国から寄付が集まると思う」と語っているけれど、実際に寄付を募れば、本当に相当額が集まる可能性はあると思う。
まぁ、筆者の思いつきを述べさせて戴くならば、寄付でもいいけれど、例えば、「尖閣都債」とでも銘打って、都債を発行して、債権者には、尖閣周辺で獲れた海産物を都債の「利子」として、支払うなんてことはできないのかと考えてしまう。
仮に、「尖閣都債」が発行されて、その資金で尖閣開発が進むのであれば、"尖閣"都債の債権者の権利を守るために、都および国は、尖閣を絶対的に守る必要が出てくる。
尖閣の開発については、筆者はこれまで色んな案を述べてきたけれど、例えば、「戦略的海洋温度差発電プラント建設」のエントリーで述べたように、尖閣に海洋温度差発電プラントを建設して、電力供給を賄うと同時に、発電時の副産物である真水を中国に売ってやるプランなども面白いかもしれない。
あとは、都が購入できたとしても、石原都知事後についても、きちんと考えておく必要がある。少なくとも、簡単に他人に売却できないように、何らかの歯止めを用意しておく必要があるだろう。今の尖閣の所有者の想いは、日本の領土として維持することにあるのだから。

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