また野田内閣が火を吹いた。
4月15日投開票の岐阜県下呂市長選挙において、前田国交相が選挙違反をしたのではないかとして問題になっている。
これは、前田国交相が4月2日付消印で、下呂建設業協会の理事長宛に、下呂市長選に立候補した前民主党衆院議員の石田芳弘氏への「ご指導、ご鞭撻」を依頼する内容の書面を送ったとされる問題。
文章は元市長である、山田良司民主党衆院議員が作成したのだけれど、書面には「国土交通大臣」の下に前田氏の自署があり、国交省の封筒に、前田氏の名刺とともに入れられていたという。
今のところ、この前田氏の行動で選挙違反ではないかとの疑いがあるのが、選挙の「事前運動」と「地位利用」の二つ。公職選挙法からこれに該当するであろう部分を引用すると次のとおり。
第百三十六条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、その地位を利用して選挙運動をすることができない。
一 国若しくは地方公共団体の公務員又は特定独立行政法人若しくは特定地方独立行政法人の役員若しくは職員
二 沖縄振興開発金融公庫の役員又は職員(以下「公庫の役職員」という。)
(事前運動、教育者の地位利用、戸別訪問等の制限違反)
第二百三十九条 次の各号の一に該当する者は、一年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
一 第百二十九条、第百三十七条、第百三十七条の二又は第百三十七条の三の規定に違反して選挙運動をした者
二 第百三十四条の規定による命令に従わない者
三 第百三十八条の規定に違反して戸別訪問をした者
四 第百三十八条の二の規定に違反して署名運動をした
(選挙運動の期間)
第百二十九条 選挙運動は、各選挙につき、それぞれ第八十六条第一項から第三項まで若しくは第八項の規定による候補者の届出、第八十六条の二第一項の規定による衆議院名簿の届出、第八十六条の三第一項の規定による参議院名簿の届出(同条第二項において準用する第八十六条の二第九項前段の規定による届出に係る候補者については、当該届出)又は第八十六条の四第一項、第二項、第五項、第六項若しくは第八項の規定による公職の候補者の届出のあつた日から当該選挙の期日の前日まででなければ、することができない。
(未成年者の選挙運動の禁止)
第百三十七条の二 年齢満二十年未満の者は、選挙運動をすることができない。
2 何人も、年齢満二十年未満の者を使用して選挙運動をすることができない。但し、選挙運動のための労務に使用する場合は、この限りでない。
(選挙権及び被選挙権を有しない者の選挙運動の禁止)
第百三十七条の三 第二百五十二条又は政治資金規正法第二十八条 の規定により選挙権及び被選挙権を有しない者は、選挙運動をすることができない。
と、公職選挙法では、選挙の「事前運動」に違反すれば、1年以下の禁錮か30万円以下の罰金。また、公務員の地位を利用した選挙運動とみなされると2年以下の禁錮か30万円以下の罰金と定められている。
下呂市長選挙は、4月8日告示だったから、前田氏が4月2日付で、石田候補をよろしくとした書簡を送った行為が、事前運動と見なされれば完全にアウト。また、国交省の所管部門にあたる、下呂建設業協会に対して、国交相という立場にありながら、書簡を送ったことが、「地位の利用」と見なさされば、これもアウト。
まぁ、見なされれば、とはいったけれど、傍から見る限り、違反があまりにもあからさまで、判り易すぎる。グレーなところ少しもがない。
前田国交相は、16日の衆院国土交通委員会理事会と参院国交委員会理事懇談会で、この問題についての調査結果を報告し、「読み返すと内容、宛先とも問題があった。結果責任は十分感じる」と陳謝したという。
調査結果によると、署名入りの文書は民主党の山田良司衆院議員の働きかけで作成されたのだそうだ。山田氏は、3月27日、国交省大臣室で前田国交相に「下呂市長選が近いので激励の文書に署名をいただきたい」と要請し、前田氏もこれに応じると返事。
これを受けて、29日の朝、山田氏の秘書が、前田国交相の政務秘書官に対して2通の文書をメールで送付。文書の宛先はそれぞれ、下呂建設業協会理事長と下呂温泉旅館協同組合理事長となっていたのだけれど、前田国交相は30日の夕方、メールを印刷した文書2通に署名している。
4月2日になって、山田氏の秘書が参院議員会館の国交相の事務所で、この文書を受け取り、国会内の「国交省連絡室」で国交省の省名の入った封筒を入手して、事前に入手していた国交相の名刺を同封して郵送したというのが事の顛末。
前田国交相は、問題の文書について、一般的な激励の文書と認識していて、文書の宛先や内容に目を通す暇がなかったとし、記者会見では、「私の関与していないところで思いもしない使われ方をされた。そういう結果を認めるわけにはいかない」と、自発的な辞任を否定している。
だけど、国交省大臣室で署名して、国交省の封書を使い、御丁寧に国交大臣の名刺まで添えて、建設業協会に「石田候補をよろしく」という書簡を送られたのは事実。いくら本人が思いもよらない、といったところで、受け取った方にしてみれば、選挙運動以外に"思いもよらない"使い方などあるわけがない。
藤村官房長官は記者会見で、この問題について「軽率だ」としながらも、「軽率さだけで辞任というのは酷だ」と庇ってみせているけれど、軽率だなんて、言われなくても分かり切ったこと。
だけど、そんなことを言う前に、前田氏及び、署名を求めた山田議員の行為が選挙違反なのかそうでないのかをハッキリさせる必要がある。
山田議員は記者団に対して、「国交相なら説得力があると思い、依頼した。軽率だったが、不特定多数に依頼したわけではなく、違法だという認識は今でもない」と述べているけれど、少なくとも表向きには、明らかな選挙違反。それを"軽率"の一言で片づけられては堪らない。それで通じるなら、今後、バカスカ選挙違反しても、知らなかった、軽率だったで済んでしまう。
また、中身を見ずにホイホイと署名するような前田大臣に、公共事業の可否の判断が出来るとも思えない。
自民党の大島副総裁は、党本部で記者団に対して、「前田氏が自ら署名したのに『知らなかった』『秘書のせいだ』と言っても誰も信じない。野田佳彦首相が処置を考えるべきだし、それができないなら、そういうこと(問責決議案)も視野に入れなければならない」と問責決議の構えを見せているけれど、簡単に問責せずに、山田議員や秘書、政務官など関係者を全部参考人招致してすべてを詳らかにしたらどうか。
たとえ、結果として辞任することになったとしても、そうして筋を通してからのほうが、まだ傷は浅くなるだろうと思う。

この記事へのコメント
おれ
しかも現総理大臣、政調会長とか本当に笑えない冗談。
ス内パー
田中防衛大臣というデコイが機能しているので時間稼ぎさえ出来れば完全になんのおとがめもなく終わってしまい、これを前例にモラルハザードが深刻化しかねないです。
sdi
しかし、この件に関して世間(含むマスコミ)の静かなこと。自民党がこんなことしていたら「責任を取って内閣総辞職しろ」の連呼でしょうね。ただし、この手のスキャンダルは倒閣には繋がるとしても総選挙に結びつくかどうか。そろそろ、キングメーカー仙谷の最後の切り札の出番ですかね。