4月8日、野田首相は、民主党の城島国対委員長と会談し、消費税増税関連法案などに関する党首会談の日程を調整するよう指示した。
1.ステルスモードで打開を図る野田首相
城島国対委員長は早速、翌9日に野党各党に党首会談を呼びかけたのだけれど、共産、新党きづな、たちあがれ日本の各党は応じるとしたものの、自民、公明、みんなの党、新党改革は拒否した。
だけど、野田首相は諦めておらず、日程を延期して11日の党首討論以降、あらためて党首会談を呼び掛けるようだ。
「亀裂が入り始めた民主党執行部」でも触れたけれど、民主党内の動きがバラバラなのに、自公がホイホイと乗ってくるはずもない。
党首会談なんていう寝技を仕掛ける暇があるのなら、法案審議の為の国体委員会を設置するのが先。百歩譲っても、幹事長会談か国対委員長会談を先にすべきだろう。
そんな折、自民党は4月9日に仙台市で全国政調会長会議を開いて、次期衆院選のマニフェスト原案を発表している。これは、茂木政調会長が「日本の再起のための政策」と題して提示した原案で、その要旨は次のとおり。
1)消費税:税率は当面10%に引き上げ、安定した財政と社会保障制度を確立
2)社会保障:年金は現行制度の基本を堅持。生活保護は給付水準引き下げなどの見直し
3)憲法改正:自衛権を明記。自衛隊を「自衛軍」と位置付け。緊急事態条項を新設
4)地方制度・道州制:大都市制度の見直し、特別区設置のための地方自治法改正
5)円高・デフレ対策:政府・日銀の協定で2%インフレ目標を設定。法人税の20%台への引き下げ
6)TPP:「聖域なき関税撤廃」を前提とする交渉参加には反対
7)外交・安全保障:日米同盟再構築、安全保障基本法の制定で集団的自衛権の行使を可能に
8)原子力政策:10年で結論
9)政治・行政改革:地方を含む公務員総人件費の2割削減
自民党は、これらに対して、都道府県連などの意見も取り入れて、最終案を取りまとめる予定。また、5月の連休明けには第2弾も公表するとしている。
これらの原案の中で際立っているのは、やはり、デフレ脱却を掲げていること。
まず、日銀との政策協定によって、2%のインフレ目標を設定し、実質成長率3%、名目成長率4%を「巡航速度」として、大幅な金融緩和措置を実行するとしている。また、大規模な法人税減税や投資減税を盛り込むと同時に、大規模災害に備えた会資本整備の為の投資として、平成24年から10年間、特別国債を発行して道路、港湾、上下水道、通信といったインフラ整備に200兆円規模の集中投資を実施するとしているから、実行されれば、景気が活性化することは間違いない。
消費税を10%に引き上げる時期については、"当面"というだけでいつになるのか定かではないけれど、景気が上向いてから行うのであれば、今の民主党政権のように闇雲に2014年に上げるなんてものよりは全然いい。
筆者は、この時期に、自民党が次期衆院選のマニフェストを公表したことによって、今後の政局にも大きな影響を与えると見る。
なぜなら、これが、自民の今後の大方針を示すものであり、今国会は勿論のこと、与野党協議においても、自民の要求を表すものでもあるから。
2.自民党のマニフェストに隠された「一石三鳥」戦略
野田首相は、増税法案を何とか成立させようと、ステルスモードになって、党首会談や与野党協議の場で、世間から見えないようにしながら、話をつける腹であろうと思われるのだけど、果たして、自民は、マニフェスト原案を公表するという手で対抗してきた。
自民党が、政権公約であるマニフェストを打ち出した以上、党首会談だろうが、与野党協議だろうが何だろうが、このマニフェストを盾にしてやれば、簡単に民主党の協力要請を拒むことができる。何となれば、自民のマニフェストを丸飲みするのであれば、大連立してやらなくもないという具合に、上から目線で協議に臨むことだってできる。
だけど、この自民党のマニフェストには、野田政権には、絶対飲めないものがある。インフレターゲットがそれ。
「野党が手にいれた最強カード」のエントリーで指摘したように、野田政権は、増税法案についての党内の事前協議で、景気条項に数値目標を入れることを頑として拒んだ。これが譲れない一線であることを白状した。それが逆に弱点として曝け出してしまっている。
それに対して、自民はマニフェストに、実質3%、名目4%を巡航速度とする2%のインフレターゲットを掲げた。だから、これを盾にすれば、いくらでも野田政権の要求を拒否できる。それも、自民から拒否するのではなくて、野田政権がその条件は飲めないと、自分から拒絶させるという形でそれができる。自民は、こちらは協議に応じていますが、民主さんと条件が折り合わないだけです、と素知らぬ顔で嘯いていればいい。野田政権の弱点を逆手にとる一手。
また、この自民党のマニフェスト原案は、財務省に対する自民としての痛烈な答えでもある。
「幕末の勝と平成の勝」のエントリーでも紹介したけれど、民主党の馬淵議員によれば、財務省は、増税法案の修正条項を元に戻そうと、野党に「歳入庁の設置をなくすこと」「再増税条項(附則28条)を復活させること」「弾力条項からの数値の削除」の3つを働きかけているという。
こんな工作が本当に行われているという前提での話ではあるのだけれど、自民のマニフェストの「消費税は当面10%」の文言は、財務省が工作している"再増税条項(附則28条)の復活"はしないぞというものだし、「2%のインフレターゲット」の部分は、"弾力条項からの数値の削除"なんてしないよ、ということ。
歳入庁の設置をなくす部分については、はっきりとした情報がないから分からないけれど、少なくとも財務省の3つの工作のうち、2つを自民は拒否する、ということをマニフェストという形で大々的に宣言した。
更には、マニフェストという形で公にしたから、今後、マスコミが、「自民は野田政権に協力せよ」という"ジミンガー攻撃"に対しても、「民主党はマニフェストを破ったかもしれませんが、自民党は約束は守る党です」という具合に、反撃できる利点もある。
こうしてみると、野田政権が与野党協議や党首会談で増税法案を通そうと狙いを定めた、まさにそのタイミングで、自民がマニフェスト原案を公表したのは、実に見事な戦略で、対民主党、対財務省、対マスコミと、一石三鳥を狙った戦略であるといえる。
野田政権はまた一歩追いつめられた。

この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
これではデフレ脱却はなるまい.
一番目に書くことは譲れないことなのだろう.
誰にとって譲れないなのか. 政調会長, 総裁?
このようにアンバランスなところに自民党内部の
新旧の相剋が伺える.
sdi
消費税税率アップについてですが、早速「消費税は当面10%」のところだけとりあげていろいろ言い出すやからがちらほらでてくるでしょうね。あとは、目標数値の「高さ」を言い出すとかね。「そんなの絶対達成できっこない。不可能な目標数値を掲げるなんて」云々あたり。
日本社会の立て直しを考えたら景気の回復は必須ですし、景気が回復したら税制・福祉制度についての見直しが俎板にあがってくるでしょう。そのとき、アジテーターやポピュリストに権力を与えてはなりませんね。
日比野
>部分的には政策が重なり合うように見えて、全体的には先日発表された維新の「八策」に対する対案になっている点です。
なるほど、これは言えてるかもしれないですね。
>マスゴミは絶対にこういう視点では報道しないでしょうねw
ですね。早速、自分の都合のよいところだけ取り上げて、ネガキャン始める雰囲気が…
opera
また、この案はまだ叩き台に過ぎず、各都道府県連や地方支部の意見を待って再調整されるものですから、内容はもちろん選挙対策を考慮して表現方法も変更される可能性もあります。
これを読んで、日比野さんが指摘した点に付け加えることがあるとするなら、部分的には政策が重なり合うように見えて、全体的には先日発表された維新の「八策」に対する対案になっている点です。
私なら「維新型構造改革八策 vs.自民型日本再生七策」とか言って選挙を煽りたいところですが、マスゴミは絶対にこういう視点では報道しないでしょうねw
なお、最近面白かった動画を一つ紹介します。
さくらじ 26
http://www.youtube.com/watch?v=VF2s2MRINI4
白なまず
とおる
「大局に立って、民主党に協力してくれ」では無く、「大局に立って、野党に協力」できるか?