幕末の勝と平成の勝


「幕末の勝は国を救ったが、平成の勝は国を滅ぼす」
亀井静香

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1.集団辞任と暗躍する財務省

民主党の小沢グループを中心とする集団辞任が拡大している。

4月2日、民主党の鈴木幹事長代理は、自らを含む21人が執行部に役職辞任届を提出したと明らかにした。これ以外に、政調会の役職者8人も辞表を提出していて、合わせて党の辞表提出者は29人となった。(33人という報道もある。)

マスコミは、政務三役が4人しか辞表を提出しなかったことを持って、小沢氏は「集団辞任」に失敗したという報道をしているけれど、29人も辞めたからには、代わりの29人を用意しなくちゃいけない。だから、執行部もダメージゼロにはなり得ない。

執行部は辞表は受理せず、慰留を続ける方針でいるようなのだけれど、辞表を提出した牧義夫厚生労働副大臣ら政務三役4人は慰留を拒否したと伝えられているし、残りの辞表提出者とて、慰留できるか分からない。そもそも、政府の増税方針に逆らうというリスクを冒してまでも辞表を出しているのだから、そう簡単に慰留できるのか疑問が残る。

ただ、そうであっても、増税法案が国会に提出されたのは事実。それを受けて、財務省は早速、工作を始めているようだ。

民主党の馬淵議員によると、財務省は増税法案の事前審議を通じて行われた、修正条項を元に戻そうと、野党に働きかけているそうだ。馬淵議員のブログから引用する。
消費税法案が閣議決定されたが、法案審議に向けて様々な動きがさっそく始まっている。

自民党議員と懇談の機会に、財務省の動きを知った。

事前審査で行ってきた法案修正を、ことごとくなきものにせんと、野党自民党の有力議員たちに国会審議での再修正を働きかけているのである。

その主張は三つ。

一つは、歳入庁の設置をなくすこと。
二つ目は、再増税条項(附則28条)の復活。
三つ目は、弾力条項からの数値の削除。

ホントにあきれる。八日間、四十数時間の与党の議論などまったく何とも思っていないのだろう。閣議決定で法案提出までこぎつけたら、次は国会での再修正を野党に働きかける。そして、法案成立して増税の既定路線が出来上がれば、政界がどうなろうが、政権をどこが担当しようが関係ないのだろう。

増税には内閣の一つや二つ吹っ飛ぶくらいは覚悟しなければならない、とうそぶいた大物財務官僚の言葉を今もハッキリと覚えているが、政治が弱体化すると、ここまで露骨になるということか。

件の役人が、民主党政権などなくなっても構わない。いや、自民党政権であろうが、第三勢力だろうが関係ない、と笑っている姿が目に浮かぶ。

国会審議では、自民党も議論が分かれるところでもあるようだ。これから、与野党ともに、入り乱れての混乱が予想される。

まさに、ゴングがなったところなのかもしれない。

まぶちすみおの「不易塾」日記 「閣議決定のゴング」より引用

ここで取り上げられている、「増税には内閣の一つや二つ吹っ飛ぶくらいは覚悟しなければならない」と嘯いた、大物財務官僚が誰なのかは分からないけれど、少なくとも、今の野田政権が、財務省の言いなりになっていることは衆目の一致するところ。

その中心にいるのが、十年に一人の大物次官とも言われる勝栄二郎財務次官。




2.勝海舟とは無縁の勝栄二郎財務次官

勝栄二郎氏は1950年生まれの62歳、4歳から高校1年生までの間、ドイツで過ごし、1975年に旧大蔵省に入省。その中でも、エリート中のエリートが集まる主計局畑を長く歩んできた。

2000年には官房文書課長。2002年に主計局次長、2007年理財局長、2008年に官房長、2009年には主計局長を歴任し、2010年7月に事務次官に就任している。

勝栄二郎次官は、一時期、勝海舟の子孫ではないかと話題になったことがある。どうやら、政治評論家の三宅久之がある番組か何かで「勝海舟の子孫だという勝栄二郎事務次官がキレ者らしい」と発言し、それが広まったのが発端らしいのだけれれど、財務省時代に勝栄二郎次官と面識があったという高橋洋一・嘉悦大学教授は、本人から「何の姻戚関係もない」と直接聞いたことがあるとツイッターで述べていて、勝栄二郎次官本人も、雑誌「AERA」の取材でこれを否定しているから、実際は、何の関係もないのだろう。

ただ、財務省関係者によると、本人は、それをあえて大っぴらに否定してはこなかったので、この「海舟の末裔伝説」は、いまだ一人歩きしているという。

高橋洋一教授は、これについて、勝海舟の子孫というのが流布しているのは、財務省による消費税増税キャンペーンと関係あるかもしれない、と発言している。だから、勝栄二郎次官本人も、意外とこの都市伝説があることをいいことに、増税論に箔をつけようとしている部分もあるのかもしれない。

さて、その勝栄二郎次官は、大物次官とされているものの、自分から話すほうではなく、どちらかといえば聞き上手なのだという。実際、会議などでも発言は少なくて、喋ってもボソボソとした話し方で、部下たちは何を言っているのか、聞き取るのに必死になるのだそうだ。

だけど、勝栄二郎次官は公の場では笑顔を絶やさず、人たらしなところがあり、政治家のウケはいい。

冒頭の「幕末の勝は国を救ったが、平成の勝は国を滅ぼす」という発言は国民新党の亀井静香代表が、勝栄二郎次官に面と向かって直接言ったそうなのだけど、その亀井氏をして、「よく勝を呼びつけて怒鳴りつけるんだが、あいつは呼べばすぐにやってくる。可愛げがあるんだよ」と周辺に語っている。

勝栄二郎次官は、政治家をその気にさせて乗せるのが抜群にうまいと言われている。

例えば、2010年の参院選で、当時の菅首相が消費税増税問題を争点に取り上げたけれど、その背後に勝栄二郎次官が居たのだそうだ。

ジャーナリスト・須田慎一郎氏によれば、参院選直前に、勝栄二郎次官は、菅前首相と伸子夫人と、会食の場を設け、菅前首相にではなくて、伸子夫人に財政再建の重要性を説き、増税を成し遂げれば、菅首相は歴史に名が残る、と説得した。伸子夫人はその気になり、伸子夫人に頭の上がらない菅前首相も消費税発言に繋がったのだという。

この「増税を成し遂げれば歴史に名が残る」というフレーズは、野田首相にも囁いているとも言われているけれど、野田首相が、本当にその気になっているのだとすれば、菅前首相と同じく、勝栄二郎次官の術中に嵌っているといえる。

ただ、その表向きの笑顔の裏には、非常に強面で、強権的な面も併せ持っている。




3.勝栄二郎の本性

先の民主党の代表選でも、勝栄二郎次官は「消費税引き上げ内閣」の誕生に向けて、積極的に政界工作を行ったとされている。代表選の1回目の投票時に、勝栄二郎次官はじめ、財務官僚が「野田氏に入れてほしい。反消費税の小沢系の海江田万里はまずい」と民主党議員に働きかけたと言われている。

更に、野田内閣が誕生するや、秘書官に、財務省ナンバー3の太田充主計局次長を送り込み、官房副長官には、勝栄二郎次官の東大時代の先輩で、同じサークルに在籍していた、盟友の竹歳誠・前国土交通省を当てている。

秘書官に財務省ナンバー3ランクの人材を当てるのは、通常では有り得ず、その"格"の差で、他の省庁からの秘書官は何も言えないのだそうだ。また、過去の官房副長官人事は、主に総務省と厚生労働省の事務次官経験者が襷掛けで担当してきたのだけれど、その例を破って、財務省の人物を送っているということは、官邸を支える人事の面で財務省が一切を取り仕切ると宣言しているようなもので、これでは、野田政権が「直勝内閣」だと言われても仕方ない。

旧大蔵省出身の民主党・田村謙治代議士によると、勝栄二郎次官は、自分の気に入らない人材は潰していて、今の財務省の幹部たちは、皆勝栄二郎次官のお眼鏡に叶った〝勝帝国〟の子分達なのだという。

そして、勝栄二郎次官の人事工作は、野党にも及んでいて、財務省関係者によれば、寝業師がいない民主党議員の代わりに、自身の片腕である香川俊介官房長を、自民党の谷垣禎一総裁ら幹部のもとに通わせ、『経験豊かな自民党の皆様の知見を求めたい』と低姿勢に出て谷垣氏らを転がし、増税への布石を打ち続けている」という。

更に、勝栄二郎次官の工作は当然、マスコミにも伸びている。

勝栄二郎事務次官は、昨年秋、複数の大手広告代理店に「税と社会保障の一体改革が大詰めを迎えている。PRしたくよろしく」という趣旨のFAXを送って、プレッシャーを掛ける一方、新聞やテレビに登場する有識者らに対しては、財務省や内閣府の官僚らが、「なぜ増税が必要か」を2人1組でレクチャー行脚している。

広告代理店にとって、政府広報は大きな収入源であるから、ひとつよろしくというFAX一枚であっても無視することはできないから、畢竟、広告代理店は消費税増税キャンペーンを張ることになるし、財務省のレクチャーを受ける有識者も、財務官僚が低姿勢で、自分を持ち上げてくるので、ついついその気になってしまうのだそうだ。

その反面、増税に反対する論調は徹底的に潰しにかかる。「言論封殺と言論統制の国」でも指摘したけれど。財務省は、増税に批判的なコメンテーターを使わせないようにマスコミにプレッシャーを掛けていると言われている。財務省は管轄に国税庁を持っているから、なんとなれば、言うことを聞かないマスコミに対しては、税金の面から恫喝することだってできる。

3月30日、朝日新聞社が、東京国税局から2億5200万円の申告漏れを指摘され、修正申告し、法人税約7500万円を納付したとの報道があるけれど、その中で、重加算税の対象とされた2件が数年前のものだった。

ひとつは、2006年と2007年に朝日新聞の西部本社が新聞販売店に支払った販売奨励金のうち、4300万円について支払い根拠を確認できないとして販売経費とは認められなかったこと。そして、もうひとつが、西部本社が2010年度に費用として計上した催事宣伝物品のうち500万円分について、同年度末時点で未納品だったこと。

申告漏れが分かるのに、多少時間がかかるのは分からないではないけれど、税申告自身は毎年やっているから、財務省が、その気になれば、いつでも調べることができる。何となれば、ターゲットを絞って、前もって、税申告をつぶさに調べておいて、怪しい部分をピックアップしてストックしておけば、恫喝したいときには、いつでもそれを取り出して使えばいい。

この税申告漏れの報道があった翌日の31日、朝日新聞は「税制改革の法案提出―やはり消費増税は必要だ」という社説を掲載しているから、穿った見方をすれば、財務省からの税の脅しに対する、朝日新聞の"財務省様には逆らいません"という降伏宣言だと見えなくもない。

だから、言葉は悪いかもしれないけれど、勝栄二郎次官には、表の柔和さとは裏腹に、昔であれば、闇夜で暗殺を企てるような"黒い"面があることに注意する必要があると思う。

つまり、野田政権やマスコミが流す論調には、勝栄二郎次官の息が掛かっている部分が相当あるかもしれないということ。




4.勝海舟の智慧と配慮

政界には、政治家をおだてつつ、秘書官に子飼いの部下を送りこみ、世論に対しては、有識者の囲い込みと、税をちらつかせながらマスコミを操る勝栄二郎次官。

勝栄二郎次官の工作の深さと、野党にまで及ぶ範囲の広さを考えると、時の内閣が、野田内閣だろうが、何だろうが、どうでもよいと思っているのではないか。

例えば、増税法案を通せずに野田内閣が倒れることがあったとしても、勝栄二郎次官であれば、おそらく次の"操り人形首相"を準備しているのではないかと思う。まぁ、次の仕込みをやるには、自分のところの財務大臣を洗脳してしまうのが一番手っ取り早いのは間違いない。だけど、安住財務大臣を次の首相に推すのは、洗脳自身はあっと言う間に出来るにしても、安住大臣のこれまでの言動を考えると、あまりにもリスクが大きい。だから、第二候補、第三候補と仕込みをしている気はする。

ただ、悩ましいのが、勝栄二郎次官の任期が今年の7月までという問題。次官を退官すれば、今のように大っぴらに工作しにくくなる。それを考えると、財務省べったりという絶好の野田内閣のうちに、増税法案を通してしまうのがベストであることには違いない。

ただ、そうまでして今増税しなければならない理由とは何なのか。

先に取り上げた、朝日新聞社説の「税制改革の法案提出―やはり消費増税は必要だ」ではこう説明されている。
・財政悪化の最大要因は、社会保障費の膨張だ。これは、医療や年金、介護の保険料ではとても追いつかない。だから、高齢者から、働く現役組まで幅広い層が負担し、税収も安定している消費税でやるべきだ。
・歳出削減にも限界がある。特別会計だって一時しのぎに過ぎない。
・景気回復を待ってからの増税では、それまでの間に借金がどんどん積み重なる

とまぁ、今やらないとさも国が潰れてしまうような論調になっている。先に述べたように、この社説が財務省の恫喝に対する答えだとすると、財務省の意向にそって書いた内容である可能性は高い。

平成の勝は日本を救うのか。

これまでの国会論議や、マスコミの増税キャンペーンを見る限り、政府の財政を再建するということだけは伝わるけれど、国民生活がどう再建されるのかについては少しも見えてこない。

幕末の勝海舟が救ったのは日本国であって幕府では決してなかった。幕府を超えた日本を見据えて手を打っていた。だけど、勝栄二郎が救おうとしているのは、政府の財政であって日本国ではない。幕末の勝と平成の勝とでは、ここが決定的に違う。

毎日新聞が3月31日と4月1日に行った、全国世論調査でも、消費増税法案について「賛成」は37%にとどまり、「反対」が60%を占めている。世論は、消費増税に反対している。国民は消費増税によって救われるとは思っていない。

もしも、そうではないというのであれば、勝栄二郎次官は、今、消費増税することによって、日本国民が確かに救われることを指し示して、納得させる必要がある。

お金は取るにしても、配るにしても、智慧と配慮がないといけない。

明治維新後の勝海舟は、旧幕臣達の就労先の世話や資金援助、生活保護などを行い、彼らの生活を助けていた。

勝海舟は、三円、五円、十円が入った包みを袂に沢山入れては、昔、海舟の屋敷にいた女中や、その他の人が零落して裏の長屋に住んでいるのを訪ねては、包みを渡していたという。

その理由を訪ねると、「使いに頼んで金を配っては、三円が三円の価値しかないけども、自分が持っていけば、十日を二十日に使うよ。」と、答えたという。

其処には、人情の機微を知る智慧があり、零落した人々への配慮がある。翻って、民主党の子ども手当などのやり方を見ると、支給する額面の価値どころか、それ以下の価値にまで落としているような気がしてならない。なぜなら、手当を配るというその口で、増税するといい、自らの身は切らないと踏ん反り返る。そんな人から"包み"を貰っても、"十日を一日"に使ってしまうだろう。

実際、厚生労働省が行った、平成23年6月に支給された「子ども手当」について、その使い道と使用金額に関する調査では、2割の人が「子どもに限定しない家庭の日常生活費」に使うと答えている。

国民の思いに心を配れば、今の時期に増税などできないと誰でも分かるはず。逆にいえば、政府が国民のことを真剣に考ている、ということが伝わるのなら、増税もある程度、諒としてくれる余地はあるとは思うけれど、嘘と言い訳で塗り固めた政権にそんなことは期待できない。

それでも、増税をするというのなら、やはり「平成の勝は国を滅ぼす」と言わざるを得ない。


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