小沢が狙うチキンレース

 
そろそろ、小沢氏絡みの政局エントリーも飽きてきたのですけれども、次に大きな動きがない限り、一応今日のエントリーで一区切りとしたいと思います。

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6月27日、民主党は臨時常任幹事会を開き、増税法案の衆院での造反者に対する処分を、野田首相と輿石幹事長に一任することを決定した。

ただ、"厳正に"と言った、野田首相に対して、やはり輿石幹事長は、大甘処分を考えているようで、与党幹部の会合では、除籍や離党勧告、党員資格停止の処分は行わず、 「公職の辞任勧告」など、より軽い「措置」にとどめる意向を示しているようだ。

輿石氏は26日の東京都内での講演でも「除籍となれば党はどんどん分裂ということになる」と除名以下の処分を強調しているのだけれど、民主党の過去の重要法案への造反に対する処分がいずれも党員資格停止3カ月であることから、この程度以上にはなるのではないかとの観測が広がっている。

過去の事例を振り返ると、2011年3月に衆院採決が行なわれた、11年度予算案では欠席が16人出たのだけれど、処分は、当選回数が多い渡辺浩一郎議員だけを党員資格停止6カ月。その他の15人は厳重注意にとどめている。

また、2011年6月の菅内閣不信任案の採決のときは、欠席した議員は小沢氏を始め、8名いたのだけれど、その時の処分の党員資格停止3ヶ月だった。

前者の例に倣えば、当選回数の多い、小沢氏と鳩山氏だけ除名して、反対票を投じた、その他の造反議員は「党員資格停止3ヶ月」。欠席は「厳重注意」どまりになるし、後者の例に従えば、欠席者は「党員資格停止3ヶ月」。造反議員はもう少し重く、「党員資格停止6ヶ月」くらいになるだろうか。或いは、2011年の菅内閣不信任案に欠席し、今回の増税法案に反対票を投じた、小沢氏、太田和美氏、岡島一正氏、川島智太郎氏、笠原多見子氏の5名を除名とし、その他は「党員資格停止」か「厳重注意」とする案もあるようだ。

民主党関係者には、小沢切りすれば自民も満足するし、小沢系議員も引き剥がせるのではないか、とみる向きもあるようだけれど、そんなに上手くいくかどうかは分からない。

27日、自民党の岸田国対委員長は、民主党の城島国対委員長に会い、民主党議員の造反に関して、「一定のけじめを付けてもらいたい。衆院の委員長もいる」として造反議員の処分を求め、同じく27日、大島副総裁は、自民党の造反者処分要求に野田首相が「他党から言われる筋合いはない」と語ったことに対して、「間違っている。民主、自民、公明の3党合意の信頼を崩したことに首相は気が付かなければいけない。ケジメをつけないと今後の審議も議論もできない」と激怒している。

更に、石破氏も、テレビ番組で「党内に造反者を抱えたまま『参院で一緒にやってね』というのはおかしい…3つのうち2つは賛成したから処分は許してよ。そんなあさましい話がどこにあるか」と述べ、ケジメ要求のボルテージは上がる一方。だから、小沢氏とあと数名だけの除名で済むという話にはならない可能性が高い。



仮に、民主党執行部が小沢氏だけ除名という方針を出したとしても、それに反対して小沢氏と共に離党する議員も出てくるものと思われる。

ただ、小沢氏は小沢氏で、離党を含めて、今後の対応は簡単じゃない。増税法案に反対するにも、民主党を単独過半数割れに追い込むだけの54名以上の離党者を集めなくちゃいけない。現時点では小沢氏と共に離党すると見られているのは42人前後と言われているから、あと10人以上集めなくちゃいけない。

28日には、小沢氏と輿石幹事長との間で、会談が開かれるようなのだけれど、小沢氏は周辺に「輿石さんは、何とかなると思っているのかな。採決前に何とかしてほしかった」と述べたそうだから、本人も一線を越えたという自覚があるのではないかと思う。もう後には引けないと腹を括っているのだろう。

では、いつ離党して新党を結成するのか、ということになるのだけれど、ただひとつ、離党しないで法案を撤回ないし先送りさせる道があるかもしれない。それは、参院の採決前に自民から内閣不信任案を提出させること。

仮に、民主党内の造反者に対する処分が甘かったり、だらだらと処分を決めなかったりして、自民が業を煮やして、不信任案を出すとする。この時こそ小沢氏にとってのチャンス。

小沢氏は、不信任案に同調する構えをチラつかせて、野田首相との会談に持ち込む。そこで、野田首相が増税法案を撤回するか、先送りするなら、小沢グループとしては、不信任案に反対する。もしも、撤回・先送りしないなら賛成に回ると、取引を持ちかけるという手。

今回の造反では、当初、野田首相周辺は「反対は30から40」と読んでいた。それが、あれよあれよと造反者が増え、採決前夜の票読みは「反対55、棄権・欠席12」にまで膨れ上がった。だけど採決では、「反対57、棄権・欠席16」と更に上回った。

この結果に、野田首相は「30と言ったじゃないか」「どうして正確な情報が入らないんだ」と静かに怒りをぶつけたそうだけれど、採決での反対57がそのまま不信任案賛成に回ったら、不信任案は可決してしまう。

だから、小沢氏が「不信任案賛成に回る」と脅すと、野田首相からしてみれば、採決での反対57という事実と、自分には正確な情報が上がってこないのではないかという不安と相まって、たとえそれが、ハッタリだったとしても、それが通じてしまう可能性がある。

2011年6月9日の「連立やるやる詐欺」のエントリーで紹介したけれど、当時の菅内閣不信任案騒動の時、実際は、小沢氏と鳩山氏は、不信任可決に必要なだけの人数を集められなかったのだけれど、不信任案賛成議員リストを水増しして作成し、菅氏から辞任示唆発言(実際はペテンだった)を引き出している。

だから、今回も同じように、リストは作らないまでも、不信任可決に必要な人数は確保していると、集まっていなくても、集まっているとハッタリをかます可能性はあると思う。

こうなると野田首相は、増税法案を取るか、党の存続を取るかの二者択一を迫られることになる。ここで野田首相が折れて、法案撤回もしくは先送りとかになると、小沢氏は薄氷の勝利を得る。これなら、離党せず、増税法案を潰し、なおつ、党内の主導権を握ることができる。秋の代表選でも野田首相を代表の座から引きずり降ろすこともできるだろう。

だけど、これは恐ろしく細い綱渡りでもある。もしも、野田首相が腹を括って、解散に打って出るか、自民が小沢切り+αくらいで満足してしまえば、この策も泡と消える。

だから、事はそう簡単じゃない。ある意味、野田首相、小沢氏、自民党の3者のうち、誰が最初に動くかという、チキンレースが始まったのかもしれない。

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この記事へのコメント

  • opera

    これは、少し前にあるところで議論になっていたのですが、内閣不信任を出す場合には、「不信任の理由」というのを明記しなければならないんですね。
     そうすると、普通に考えれば、小沢一派が出す不信任と自公が出す不信任は、その理由が真逆になってしまうことが予想されるわけです。
     となると、自公の出す不信任に小沢派が乗ること(あるいはその逆)は、筋として難しいのではないか、ということが問題になるわけです。

     つまり、不信任を出すといっても、自公と小沢派及びみんな・社民・共産とは同一行動を取れない可能性が高く、その点を含めて今後どう詰めていくのかが問題になってくるんでしょうね(政局はさっぱり読めませんがw)。
    2015年08月10日 15:25
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    勝負は理詰めではない.
    理解が得られなければ戦争にならざるを得ない.
    参議院自民党は最もまともな議員集団であるから,
    今までのような取引はできまい.
    しかも, 一度は嘘付達との全面対決を宣言している.
    谷垣総裁も二度も調整はできまい.

    後は衆議院で再可決をする状況ができるかと言う話.
    参議院否決後, 大義銘文は自民党執行部には残されまい.
    とすれば, 好むと好まざるとに関わらず,
    不信任案で小沢氏と協力するしかあるまい.
    2015年08月10日 15:25

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