今日は、野田首相サイドからの造反食い止め作戦について考えてみたいと思います。
1.執行部の説得工作難航
民主党執行部による、増税法案反対派や中間派への説得工作が難航しているようだ。
執行部及び野田首相は、電話で個別に説得をしているのだけれど、6月24日、岡田副首相は、都内での講演で「手分けして説得しているが、だいたい留守番電話でコールバックも非常に少ない」と漏らしている。また、前原政調会長はフジテレビの番組で「最後の最後まで賛成してもらうよう努力する。それに尽きる」と述べ、予断を許さない状況であることを白状している。
小沢ガールズの一人である三宅雪子議員の23日15時のツイートによると、これから賛成に転ずる人はいないので、反対を棄権欠席へというお願いに切り替えたとのことだから、これが本当であれば、執行部の説得工作も反対を賛成に転ばせることは諦めたということなのだろう。
また、野田首相の周辺は6月23日に「連合に働きかけを強めてもらう必要がある」と語っていることから、電話工作だけでなく、連合の地方組織を経由しての造反阻止工作も行っているようだ。
民主の最大支持母体である連合は、基本的に増税法案に賛成の立場。6月9日、野田首相は、古賀連合会長と会談し、一体改革関連法案成立への協力をとりつけていて、18日には民自公3党の修正合意を受けて、南雲事務局長名で「改革を一歩でも進めるためのものと受け止める」との談話を発表している。
だから、普通は野田首相サイドの意向を受けて、連合も造反阻止の為に、協力してしかるべきところなのだけれど、そうでもないようだ。肝心の古賀会長が小沢氏批判を封じていて、連合組織内にある「小沢氏への批判談話を発表すべきだ」という声も黙殺し、小沢氏との決別を躊躇っている。
一部にもあるように、古賀氏は、過去参院選などで、小沢氏とタッグを組んで、連合幹部共々各選挙区を訪れる全国行脚を行っている。
例えば、2007年参院選では、小沢氏は民主党の地方組織の弱さを補う為に連合を重視し、当時の高木剛会長や古賀事務局長(当時)とともに全国を回り、与野党逆転につなげた経緯がある。また2010年の参院選でもやはり、小沢氏は古賀会長と全国行脚をして、地方組織の引き締めをしている。
2010年参院選当時、古賀会長は、BS番組で、小沢氏と連合の地方幹部との関係について「一定程度根付いている」と述べているから、少なくとも当時はそれなりの信頼関係を築いていたことになる。
今でもそれだけの信頼関係をキープしているのかどうか分からないけれど、古賀会長が小沢氏批判を封印しつづけていること自体、連合の動きを鈍らせる一因にはなるだろうと思われる。
2.二律背反に悩む民主党議員達
さて、週末地元入りした議員も、賛成派も反対派も支持者達への説明に追われた。
例えば、反対を表明している、岩手1区の階猛衆院議員は、盛岡市内の7か所で街頭演説を行ない、「衆院採決では反対票を投じる。民主党を除名になるかもしれないが、党議より大義を大事にしたい」と理解を求め、2区の畑浩治衆院議員、比例東北の菊池長右ェ門議員も宮古市内の会合で、支持者に対し、同法案に反対する理由を説明したようだ。
一方、神奈川13区の橘秀徳衆院議員のように、「消費税率を上げるのは反対だ。26日の採決に賛成することは絶対にない」と支持者に理解を求め離党も辞さない考えを強調したものの、「民主党を出るかどうか迷ってる」とも漏らしたそうだから、反対派とて温度差がある。
また、賛成派と見られる、神奈川1区の中林美恵子議員は横浜市磯子区での「タウンミーティング」で「私は党に反逆いたしません。それで将来への責任を見せたいと思います」と賛成の考えに理解を求めたのだけれど、「本当は逃げたいけれど」と心情を吐露していたりもしてる。
どちらの陣営も、自身の態度を決めるのには、地元の支持者に対する説明も含め、それなりに苦悩を抱えている。
6月22日、城島国対委員長は記者会見で「法案成立に向け、全員が賛成できるような環境作りは最後までやる」と党内の締め付けに躍起になっているけれど、採決の期日は決まっている。もしも説得工作が上手くいかず、採決を先送りするようであれば、今度は自公から不信任案を突きつけられる恐れがある。だから、執行部としては、なんとしても26日までにカタをつけたいところ。
そして、とうとう輿石幹事長が画策する"激甘処分論"が政府や党執行部で拡大しつつあるという。これは、小沢氏らが衆院採決で造反した場合でも、除名や離党勧告ではなく、厳重注意や党員資格停止といった“大甘処分”で済ませるというもの。もちろんその狙いは「党を割らない」ためで、輿石氏に近い民主党関係者は「60人も造反したら離党などさせられない。自民党の協力を得れば法案は成立するのだから、野田首相も強く出てこないだろう。小沢氏側も民主党を出ても展望がない。増税反対を貫き、党に残れるなら文句はないはずだ。」と語ったという。
まぁ、これだったら、党は割れないかもしれないけれど、それを許してしまえば、他の法案についても、いくらでも造反していいことになる。畢竟、党として纏まっている必要はない。烏合の衆以下になる。常識的には考えられないのだけれど、民主党のことだから何が起こるか分からない。
ただ、本当にこの"激甘処分"をやってしまうと、党内の反増税派は勢いづき、秋の代表選で野田首相は引きずり降ろされ、反増税派が担ぐ、新代表が生まれる公算が大きくなる。これはこれで、折角修正合意した3党合意をやり直しだ、とちゃぶ台返しする可能性もあり、先々を考えるとあまりやりたくはないだろう。
やはり、説得工作によって53人以下の造反に留めたい。果たして、そんな手があるのか。
3.野田の逆襲
どこまでも小沢氏についていくというガチの反対派は兎も角として、反対するかどうしようか迷っている議員が何故迷うのかというと、「反対意思を貫きたいけれど、除名はされたくない」という二律背反の状況に陥っているから。
であれば、その二律背反を解消してやるか、二律背反で悩むこと自体を無効化してやればいい。
前者の方法として考えられるのは、"激甘"ならぬ"微糖"処分。反対票に対しては除名処分を行うけれど、棄権・欠席であれば、除名はせずに、厳重注意か会期内の党員資格停止処分で済ます。これならば、個人として、増税法案に賛成しなかったという意思表示ができる・それでいて除名されないのだから、完全ではないにせよ、そこそこの二律背反を解消できると言えなくもない。尤も、これは、野田首相サイドが現に今、電話工作でやっていること。だけど電話にも出てくれないのであれば、あまり効果は望めない。
とすると、残るは後者の"二律背反そのものを無効化する"方法。
これは、ぶっちゃけていえば、いくら反対したところで無駄であることを思い知らせることで、反対する意志そのものを踏み潰すやり方。要するに、造反を諦めさせるということ。
「小沢のLast Fortune」で指摘したけれど、54人以上の離党者を出すことの意味は、民主党を単独過半数割れに追い込むことで、内閣不信任案を可決する可能性を生み出すこと。法案が衆院通過後、参院で可決するまでの間に、そうした状況を作り出すことができれば、小沢新党が不信任案を出すことで、法案を潰せる可能性がある。
つまり、小沢氏は、不信任案が可決するかもしれないという状況をつくることで、野田首相を脅そうとしている。
だけど、これを逆手に取る方法があることはある。それは、野田首相が自分で総辞職又は解散を確約し、宣言してしまうこと。
例えば、法案が参院を通過するまでの間の何処かのタイミングで、野田首相自ら、「法案が可決したら辞任する。否決されたら解散する。」と宣言してしまう。
まず「法案が可決したら辞任」という宣言は、小沢グループを中心とした、増税反対派を一気に二律背反に追い込む一手になる。小沢派にとって、野田首相が辞任すれば、今度こそ、次の代表選で小沢氏若しくは、小沢グループから代表を出す可能性が出てくる。党の主導権を握ることができる。
これは、元々小沢氏の最大の目的だったのではないかと思われるのだけれど、そのためには、法案を可決させるという条件がついている。勿論、代表選に参加するためには、民主党員でなければならず、必然的に造反など出来なくなる。だけど、それは同時に、あれほど法案に反対してきた自分を自分で否定することになる。そうした二律背反に追い込んで踏み絵を迫る効果がある。
そして、中間派にとっても、野田首相辞任後の代表選で、中間派から新代表を出すことができれば、新代表の下で、増税法案見直しや、それが出来なくても、部分的に骨抜きにする法案を出すなどして、巻き返しをする余地が生まれる。実際、小泉内閣で成立した郵政民営化法案も、それを撤回する郵政民営化見直し法案が今年の4月に成立しているから、見直しは出来るんですという理屈で、地元に説明する材料にもなる。だから、ここで反対して、除名されるのは損だ、という計算が働いてもおかしくない。
次に「否決されたら解散」という宣言は、これまで何度か使ってきた、解散を盾とした脅し。これに、欠席なら注意だけ、反対なら除名という"微糖"処分を付け加える。これは、先にも述べたように、賛成か反対かで迷っている議員の二律背反状況を半分くらい解消する話に繋がるから、中間派はぐらっとくる可能性がある。
だから、この野田首相の「法案が可決したら辞任。否決されたら解散」宣言は、反対派に踏み絵を迫り、中間派を寝返らせる痛烈な逆襲の一撃になると思う。しかも、これは法案に強く反対した人程、より除名に追いつめられるという強烈な一撃。
その代り、野田首相は今国会を持って首相の座を降りるという代償を支払うことになるのだけれど、菅氏のように見苦しく権力の座にしがみ付く積りがなければ、こうした逆襲も可能になる。
民主党は25日に、臨時代議士会を開いて、野田首相が分裂回避に向け説得する考えでいるそうなのだけれど、嶋聡議員のツイッターによると、野田総理が、消費税法案が通過したら辞任すると代議士会で発表との情報が、永田町で駆け巡っているという。もしかしたらもしかするかもしれない。

この記事へのコメント
yutakarlson
こんにちは。野田総理、野党だったときには、言葉巧みに「シロアリを退治して働きアリの政治を実現」ということを主張していました。多くの人がこの内容を全面的とはいわなくても、ある程度は信じたのではないでしょうか?だからこそ、あの政権交代が成就したのです。この動画のように、そのときどきで、大衆受けするようなことを言う政府家のことをポピュリストといいます。 次の選挙で、ポピュリストの政治家を選挙で選んだり、ポピュリストが多く集う政党を政権の座につけるわけにはいきません。では、私たちは、どうすればポピュリストとそうではない政治家を見分けたら良いのでしょうか?私のブログでは、その見分け方について、私の考えを掲載してみました。詳細は、是非私のブログを御覧になってください。
almanos
後、何故かChromeだと、このサイトのCSS読み込みが失敗してます。一週間くらい前からでしょうか? IEやFirefox、スマホの標準ブラウザでは問題ないんですが、他に同じ症状の方おられますか?
ちび・むぎ・みみ・はな
我々の当たり前の観念「国が大事」が成立しない
群では何が起きるか分からない. かと言って,
猫の群ほどの意志疎通もない.
6/26 の結果で判断するしかないのではないか.