「社会保障と税の一体改革」の3党合意について


「社会保障と税の一体改革」が3党合意しましたけれども、今日はこれについて。
 
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1.「社会保障と税の一体改革」の修正合意成る

6月15日夜、「社会保障と税の一体改革」関連法案をめぐる民主、自民、公明3党の修正協議が合意した。

尤も、合意したといっても、実務者レベルの合意であり、最終的な政党間の合意ではないから、正式決定ではないけれど、事実上の合意。

だけど合意したのは、自民党の社会保障制度改革基本法案をベースとする修正案であって、その中身も殆どの内容について具体的なことは今後話し合って決める、という事実上の先送り法案となっている。次に3党合意した「社会保障・税一体改革に関する確認書(社会保障部分)」について抜粋・引用する。
政府は四から七までに定める基本方針に基づき、社会保障制度改革を行うものとし、このために必要な法制上の手続きについては、この法律施行後1年以内に八の社会保障制度改革国民会議における審議の結果等を踏まえて実施する。

四 公的年金制度
 1 今後の公的年金制度については、財政の現況および見通し等を踏まえ、社会保障制度改革国民会議において議論し、結論を得ることとする。
《以下略》

五 医療保険制度
 政府は、高齢化の進展、高度な医療の普及等による医療費の増大が見込まれる中で、健康保険法、国民健康保険法その他の法律に基づく医療保険制度に原則として全ての国民が加入する仕組みを維持するとともに、次に掲げる措置その他必要な改革を実施する。
《以下略》

六 介護保険制度
 政府は、介護保険の保険給付の対象となる保健医療サービス及び福祉サービスの適正化等による介護サービスの効率化及び重点化を図るとともに、低所得者をはじめとして保険料に関わる国民の負担の増大を抑制しつつ必要な介護サービスを確保する。

七 少子化対策
 政府は…《中略》…待機児童に関する問題を解消するための即効性のある施策等の推進に向けて、必要な法制上、財政上の措置その他の措置を講じる。
 
八 社会保障制度改革国民会議
 《前略》
 2 国民会議は委員20人以内で組織し、委員は優れた識見を有する者のうちから、内閣総理大臣が任命する。委員は、国会議員であることを妨げない。

そして更に、別の確認書で次の3項目について合意されている。
1.今後の公的年金制度、今後の高齢者医療制度にかかる改革については、あらかじめその内容等について三党間で合意に向けて協議する。

2.低所得高齢者・障害者等への福祉的な給付に関わる法案は、消費税引き上げまでに成立させる。

3.交付国債関連の規定は削除する。交付国債に代わる基礎年金国庫負担の財源については、別途政府が所要の法的措置を講ずる。

と、年金及び高齢者医療制度については民自公の3党間での協議という条件がついている。だから、年金・医療といった社会保障制度改革は、民自公の3党合意がなければ、実施できず、更にその改革基本方針が自民案をベースにしているから、ほとんど自公に民主がくっついた形の自民中心の連立政権が主導すると見ていいだろう。事実上の自民による民主の乗っ取り。




2.野田政権をコントロールする自民

そして、肝心の消費税増税に関してだけれど、マスコミは、もう増税が決まったという風に報道しているけれど、修正合意の中で消費税引き上げにあたっての検討課題として次の項目が確認されている。
1)消費税の引き上げに当たっては、低所得者に配慮した施策を講ずることとし、以下を確認する。
《以下略》

2)転嫁対策については、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保する観点から、独占禁止法・下請法の特例に関わる必要な法制上の措置を講ずる旨の規定を追加する。

3)医療については、第7条第1号に示した方針に沿って見直しを行うこととし、消費税率8%への引き上げ時までに、高額の投資に関わる消費税負担について、医療保険制度において他の診療行為と区分して適切な手当を行う具体的な手法について検討し、結論を得る。また、医療に関関する税制上の配慮等についても幅広く検討を行う。

4)住宅の取得については、第7条第1号トの規定に沿って、平成25年度以降の税制改正及び予算編成の過程で総合的に検討を行い、消費税率の8%への引き上げ時及び10%への引き上げ時にそれぞれ十分な対策を実施する。

5)自動車取得税及び自動車重量税については、第7条第1号ワの規定に沿って抜本的見直しを行うこととし、消費税率の8%への引き上げ時までに結論を得る。

6)扶養控除、成年扶養控除、配偶者控除に関する規定を削除する。

7)歳入庁に関する規定を「年金保険料の徴収体制強化等について、歳入庁その他の方策の有効性、課題等を幅広い観点から検討し、実施する」

とまぁ、こちらについても結構な部分を別途検討することで合意している。
※政府の増税案「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」の概要については、こちらを参照。

そして、景気条項を定めた附則第18条について、以下の条件で合意されている。
○附則第18条について

・以下の事項を確認する。

1)第1項の数値は、政策努力の目標を示すものであること。
2)消費税率の引き上げの実施は、その時の政権が判断すること。

・消費税率の引き上げにあたっては、社会保障と税の一体改革を行うため、社会保障制度改革国民会議の議を経た社会保障制度改革を総合的かつ集中的に推進することを確認する。

・「税制の抜本的な改革の実施等により、財政による機動的対応が可能となる中で、我が国経済の需要と供給の状況、消費税率の引き上げによる経済への影響等を踏まえ、成長戦略や事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、我が国経済の成長等に向けた施策を検討する」旨の規定を第2項として設ける。
《以下略》

と、景気条項の数字(平成23 年度から平成32 年度までの平均において名目の経済成長率で3%程度かつ実質の経済成長率で2%程度)は残し、引き上げの実施は時の政権が判断することとして、自動的に増税するようにはなっていない。

だから、マスコミが増税決定だと騒ぐのはまだ早計で、あまりやり過ぎると国民へのマインドコントロールになりかねない。

しかも、今回の修正合意で「成長戦略や事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分する」という条項が追加されているのだけれど、これは注目に値する。

なぜなら、この項目は、自民党が6月5日に国会に提出した「国土強靭化基本法案」とリンクしていると思われるから。

国土強靱化基本法案とは、多極分散型の国土形成、国土の保全及び均衡ある発展、大規模災害発生時におけるわが国の政治・経済・社会活動の持続可能性の確保を基本理念として、今後10年間で総額200兆円規模のインフラ投資を行うことを目指す法案。

修正合意で確認された「防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分する」というものは、必然的にインフラ投資を行うことが前提になるから、ここでも自民党の政策が行われることになる。

だから、今回の修正合意によって、大きな政策については、自民党が主導権を握り、民主党政権を逆にコントロールする下地を作ったと見ていいのではないかと思われる。

そう考えると、自公にすり寄る、野田政権である限り、自民は如何様にでもコントロールできると思っているのではないか。名を捨て実を取ったのは自民で、名だけは取れたけれど、マニフェストという"実"を投げ捨てたのが野田政権だということになるのではないか。

今後、民主党内で、修正合意についての党内手続きが行われるけれど、これで民主党が分裂でもして、衆院過半数を割り込みでもしたら、民主党は法案成立の為に、悉く自公の協力を請うしか手はない。必然的に、国会運営の主導権は更に自公が握ることになる。

民主党にとって、「社会保障と税の一体改革」法案成立の代償は大きい。


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この記事へのコメント

  • opera

    >今回の修正合意によって、大きな政策については、自民党が主導権を握り、民主党政権を逆にコントロールする下地を作ったと見ていいのではないか

     現時点で、基礎資料をここまで読み込んでこういう判断ができるというのは凄いと思います(カスゴミも見習うべき)。
     概ね日比野さんの意見に同意ですが、私自身はまだ資料を読み込めていはいません。ただ、関連する周辺の問題についていくつかコメントします。

     まず、今回の修正合意に関し、「解散の確約が取れていないではないか」という批判がありますが、もともと解散は総理の専権事項で、民主党は嘘つき政党ですから、それを主眼にしてもうまくいかないのは自明です。

     次に、民主党の政策に直接介入する「動機」ないし「意義」です。
     私にとってちょっとショックだったのは、大飯原発の再稼働問題です。
     結局、安全対策も何もしないままタイムリミットになり、政治判断とやらで再稼働を決定しているのに、誰もその深刻さを指摘せず、原発を止めていた理由を考えない点です(止める必要がなかったのなら、昨年度の「10兆円以上の資源輸入増大→電気料金値上げ」は何だったのか)。
     先日、自民党
    2015年08月10日 15:25
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    外国人地方参政権法案との取引になるのではないか.
    これなら嘘付の利権屋も公明党も反対しないだろう.
    増税は財務省の要求だが, 嘘付達の本来の要求はこれ.
    次の総選挙は見込みがないとなれば, やる事は一つ.
    問題は, その時に自民党がどう割れるかではないか.
    政局を操る嘘付どもの手腕は侮れない.
    2015年08月10日 15:25

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