6月15日、中国の有人潜水艇「蛟竜号」が太平洋のマリアナ海溝で、水深6671メートルの潜水に成功したそうだ。
これまでの、潜水世界記録は日本の有人潜水調査船「しんかい6500」が持つ6527メートルだった。
中国の深海調査は、1986年3月に鄧小平の指示のもと企画された国家先端技術研究開発計画(通称:863計画)の海洋技術領域の一つとして発案されたもの。(他には、スーパーコンピュータ開発や天宮1号などの宇宙開発などがある)
だけど、深海調査技術は長い間進まず、2001年に中国大洋協会は、ハワイ東南沖のマンガン団塊鉱区の専属探査権と優先開発権を得たのだけれど、当時、中国の有人潜水艇が潜れる深さは300mが限界だった。
その後、2001年からの第10期5カ年計画の重要プロジェクトの一つとして、海洋技術の研究開発と製造能力の向上の為、7000m級有人深海潜水艇の研究開発が行なわれ蛟竜号が開発された。蛟竜号は、2009年に1000m級潜水試験、2010年には3000m級潜水試験、そして、2011年には5000m級潜水試験を成功させているから、長足の進歩だといっていいだろう。
潜水艇がどこまで深海深く潜れるかという能力は、ぶっちゃけて言えば、潜水艇がどこまで水圧に耐えられるかというのと殆ど同義。もっと厳密に言えば、耐圧殻の性能がどれくらいあるかということ。
耐圧殻とは、潜水艇に設けられた、人が乗り込む球形のコントロールルームのことで、もちろん、深海の水圧に耐えられるように、分厚い鋼で作られている。尤も、最近の耐圧殻には、軽くて丈夫なチタン合金が使われることが多い。
また、それだけでなく、耐圧殻の形状にも精度が求められる。例えば、水深6500mクラスの水圧は約681気圧もあるのだけれど、ここまで水圧が高いと、球形の耐圧殻にほんの少しの歪みがあっても水圧で破壊されてしまう危険がある。従って、耐圧殻は極限まで真球に近づけて作られる。
日本の深海調査艇である「しんかい6500」の耐圧殻は、厚さ73.5mm、内径2mのチタン合金製(64チタン合金[アルミ(Al)6%/バナジウム(V)4%])で、球の精度は、直径のどこを測っても±0.5mm以内に収まっている。誤差はわずか0.0025%。それでも、水深6500mともなると、その凄まじい水圧によって、耐圧殻が数mm縮むのだという。
「しんかい6500」の限界深度は大体6700mくらいなのだけれど、これは、十分な安全率を加味した数字で、単純に"壊れない"というだけであれば、もっと深海の圧力にも耐えられるようになっている。
「しんかい6500」の実物の耐圧殻は、水深6500mの1.1倍にあたる7150mの水圧をかけるという耐圧試験を行っている。更に、実物の三分の一サイズの耐圧殻を作成し、水深6500mに相当する水圧を1500回かけても異常がないことを確認しているから、6500mまでであれば、安全性は相当高いと言っていい。実際、「しんかい6500」は、2012年現在で、通算1300回の潜航を数えて、しかも一度も事故を起こしていない。
因みに、「しんかい6500」の耐圧殻の実力は、どれくらいあるのかというと、三分の一サイズの耐圧殻での実験によると、水深1万3000mの水圧で壊れたそうだから、そのくらいはあることになる。だから、安全率を削ってもいいのであれば、もっと深いところまで行けなくはない。
では、今回世界記録を達成した「蛟竜号」の耐圧殻はどうなっているかというと、中国は、「蛟竜号」を国産技術で開発したと宣伝しているのだけれど、実際の国産化率は58.6%。しかも一番肝心な耐圧殻はロシア製ときてる。
その耐圧殻は、内径が2.1mで、やはり64チタン合金製で、板厚は76~78mmと「しんかい6500」より少し厚い。だけど、その球の精度は±4mmで、誤差0.4%以下程度。「しんかい6500」の0.0025%には遠く及ばない。
「蛟竜号」の耐圧試験は、ロシアで行われ、深度7000mの1割増の7700mの水圧を1時間、7000m水圧を8時間連続、さらに潜水船の下、0~7000mの昇圧・降圧を6回繰り返し、いずれも問題なしとされているのだけれど、「しんかい6500」の入念な耐圧試験と比較すると、どうしても見劣りすることは否めない。だから、安全率からいえば、「しんかい6500」と比べて、結構、安全率を削った危うい潜航をしている可能性はある。
今回の「蛟竜号」の潜水実験は6回に分けて行う予定で、1回目の実験で6200mまで潜水。2~4回目は6500~7000m未満での潜水を繰り返して機体性能を点検し、5、6回目で7000mを超える潜水に挑戦するようだ。潜水実験の担当者は、「最終的には11000m級の有人潜水艇を造り、最も深い海底での自由な航行、作業をできるようにする」と述べている。
「養殖される海底資源と海底探査技術」のエントリーでも触れたけれど、今や、日本の深海探査は、数々のノウハウを持つベテラン技術者達が続々と定年を迎え、その技術の継承ができなくなる危機を迎えている。日本も国家戦略レベルで海底調査技術を開発・維持することも検討すべきだろう。

この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
逆に, 一番で喜んでいる間は周囲は安心.
有人ロケットの話しもあるから, 乗組員の
スペアも沢山用意しての話しだろう.
さて日本. 共産思想に毒された官僚が
邪魔をしている間に支那やロシアが日本海
の資源を狙っている. 支那が佐渡と新潟に
根拠地を構えたのは, メタンハイドレートを
途中で失敬するためだとしても驚かない.
官僚はその組織の行動原理は律令制度だから
社会主義・共産主義思想に向いていく.
政治のリーダシップの必要性が本当に良く
分かった3年間である.
谷垣氏に愛国心が残っているなら, 愛国心
溢れる若手を副総裁に引き上げ, 実質的に
権限を移譲すべきだろう. 総裁戦になると
昔のリベラルが大きな顔をするからね.
白なまず
それで、、、種子島の鉄砲伝来いらい日本の物作りの歴史を見れば、常に本物を越える物を作る能力がある事を証明している。縄文土器なんて弥生時代の土器より高度な芸術的造型技術がある。勾玉や石器の加工や貝殻の腕輪の加工でも匠職人の存在を暗示している。渡来人がもたらした技術を否定する訳では無いが、水田稲作技術だって本家と思われる長江文明の収穫量に負けてないし、鉄の技術も渡来人によってもたらされたが、タタラ時代から匠職人の努力で鉄の加工で他国に劣るような事になってない。日露戦争から大東亜戦争では独乙、イギリス、アメリカの技術や工業力の優れた物を学んで、現代では日本人の匠職人抜きに宇宙開発などで実現出来ない事も多い。つまりは、優れた科学技術(理論)だけでは無理で、実物を作る能力が無いと