維新の会がちょっと揺らぎ始めているようです。
1.「特別区」設置特例法案
6月12日、民主党・国民新党の両党は共同で、東京都以外の道府県でも「特別区」を設置できるようにするための特例法案を提出した。
この法案は正式には「大都市地域における地方公共団体の設置等に関する特例法案」といい、人口200万以上の指定都市か、政令指定都市と周辺市町村を合わせて人口が200万人以上の地域であれば、特別区が設置できるというもの。
既に自民・公明の両党、みんなの党・新党改革の両党は、それぞれ特別区設置に関する地方自治法改正案を国会に共同提出しているから、これで、一応各党案が正式に出そろったことになる。
ただ、各党の案は、それぞれ対象地域の人口の基準や、設置において、議会の議決や住民投票の有無や、税源配分など国が法制上の措置を講じる必要のあるなしなどで、違いがある。
例えば、人口要件でいえば、民主・国民新案は人口200万人以上となっているのに対して、自公案は人口100万人以上だし、みんな・新党改革案は人口70万人以上となっている。また、議会の議決や住民投票は、民主・国民新案と自公案が共に必要としているのに対して、みんな・新党改革案は不要としている。
6月12日、民主党の前原政調会長は、自民、公明、みんなの党の3党と近く実務者で、特別区法案を一本化する為の話し合いに入ると表明していて、民主党の実務担当者である逢坂誠二氏は「できるだけ早く成立させたい」と、今国会での成立を目指す考えを示している。
この法案が成立すれば、大阪市の橋下市長が主張する「大阪都構想」の実現に向けて、その足掛かりとなるのだけれど、ここにきて、橋下市長が維新の会は国政に進出しないと言い出した。
2.両天秤の維新の会
これは、6月8日の記者会見で「大阪都構想」の実現に向けた法案が今国会で成立した場合について問われ、「僕は、そんなに積極的に考える必要はないんじゃないかと思う。元々、それを目標に掲げてやってきたところなので。それが成立してるのに、『じゃあ、何のため?』っていう理由とか説明が必要になる」と述べ、新たな政策目標がなければ衆院選で候補者を立てる大義がないとの見解を述べた。また、10日にも同じ質問を受け、これにも、「維新が国政に進出する必要は基本的にはない」と答えている。
ただ、これは、維新の会で諮ったわけではないようで、現時点では、橋下市長の個人的見解に留まっている。実際、維新の会の幹事長で、大阪府知事の松井氏は、「国会議員が行財政改革などの約束を実行しないなら、(国政進出を)やらなければならない」とコメントしている。
こうしたことから、一部の報道では、両者の溝を指摘する向きもあるのだけれど、橋下市長と松井知事の"食い違い"はこれだけじゃない。原発再稼働でも食い違い発言をしている。
先月末、橋下市長が、大飯原発の再稼働を巡って、事実上の容認発言をして、打倒民主党宣言を撤回しているけれど、松井知事の方は、「僕は容認したわけでも理解したわけでもない。声明をアリバイ作りに利用された」と不快感を露わにしている。
このズレについて、橋下市長は「僕が(倒閣撤回を)言ったからといって、(維新として)すぐに撤回というわけにはいかないと思う。ただ松井知事も僕も気持ちは一緒だ。」とし、松井知事は松井知事で「ずれているか、ずれていないかは皆さんで感じてもらうことだ。」と微妙な言い回しをしているのだけれど、松井知事は関係者に「わざと食い違わせている。」と打ち明けているそうだから、どうやら全て計算尽くの発言のようだ。
大阪府の幹部は、「原発再稼働でも民主との対決でも、違いをそのままにしておくことで、どの関係者や政党とも決定的に対立しないよう計算している。保険を掛けているのでは。」と述べているけれど、筆者もその線は濃厚だと思う。やはり、両天秤を掛けて、維新の会への世論の支持を"減らさない"ようにしているように見える。
今回の橋下市長の国政に進出云々発言も、松井知事とはズレがあるのだけれど、それも全部"計算尽く"での発言だとすると、維新の会の国政進出については、周囲から賛否両論があることになる。ただ、世論調査を見る限りでは、維新の会に対する期待はまだまだ大きい。
6月2日から3日に掛けて、毎日新聞が行った、全国世論調査でも、維新の会の国政進出について「期待する」が61%と、「期待しない」の33%を大きく上回っているし、大阪維新の会が次期衆院選で候補者を立てた場合、比例代表の投票先を何処にするかの質問では、維新の会が28%を占め、 民主党の14%、自民党の16%を大きく上回っている。
このように、維新の会が世論の支持と期待をまだまだ集めているにも関わらず、なぜか国政に出ないかもしれないという発言をして今から逃げ道を作りだしているのは、少し不思議ではある。
もしかしたら、維新の会は、周囲が思っている以上に、選挙を戦うだけの組織も金も準備できていないのが現実の姿なのかもしれない。
3.財界への詫びと維新の会の現実
実際、大飯原発再稼働について、橋下市長は「夏季限定」を主張しているのだけれど、これには経済界が反発している。6月11日、経団連の米倉会長は記者会見で「ああいう発言にはあまりコメントしたくないが」と前置きした上で、「経済活動や事業を全然ご存じない方の発言と理解している」とコメントしているし、経済同友会の長谷川代表幹事も「静観したいが、率直に言って動かしたり止めたりというのは、あまり現実的ではないと感じる」と話している。
従って、橋下市長や松井知事が、原発の期間限定稼働とか、再稼働反対などといった姿勢でいる限り、財界からのサポートは受けられないのではないかと思われる。
元はといえば、橋下市長は、大飯原発再稼働について強硬に反対していた。その手前、急に再稼働賛成なんていえば、世論の支持を失ってしまう。だから、とりあえず"容認"くらいにして、少しでもダメージを浅くしようとしているように筆者には見える。確かにこの作戦で、世論の支持を一気に失うのは食い止めているように思うけれど、その程度では財界は納得しないということなのだろう。
となると、維新の会が、財界のサポートを受けるためには、何かを差し出して、詫びを入れて許しを請う他ない。実は、筆者は、大阪府の特別顧問の飯田哲也氏に対する、大阪府、大阪市、そして維新の会の態度が、この財界への"詫び"に相当するのではないかと思っている。
飯田氏は、橋下徹・大阪市長らの電力政策のブレーンとして、今年1月から大阪市、2月から大阪府の特別顧問に就任し、大阪府市エネルギー戦略会議の座長代理も務めている。飯田氏は、自らの監修で「原発がなくても電力は足りる!」というそのものズバリのタイトルの本を出していることから分かるように、バリバリの原発再稼働反対派。
その飯田氏を、橋下市長や松井知事が冷たく扱い、遠ざけることがあるのなら、それは財界に対する"再稼働反対は、間違っていました。"というメッセージになる。これは、穿った見方なのかもしれないけれど、飯田氏を首にすることで、見せしめにして、財界に"詫び"を入れ、今後のサポートをお願いしようとしているのではないのかとさえ。
先日、飯田氏が山口知事選に出馬するという報道があったけれど、本人は、まだ白紙だとツイッターで述べており、確定したわけではないようだ。だけど、飯田氏は13日に特別顧問を辞任する意向をしめしていて、そこに、山口知事選出馬となれば、表向きは、転身の為の辞任だけど、その実態は"体のいい厄介払い"ということになる。
そして、飯田氏の山口知事選出馬について、6月10日、橋下市長は「山口知事選に維新の会が関与することは難しい」と答え、翌11日には、松井知事も「維新の会としては応援しません」と明言している。これについては両者とも発言に"ズレ"はない。明らかに厄介払いしようとしているのではないか。
維新の会には、今の時点では、本当に衆院選を戦うだけの金がない可能性がある。
6月11日、維新の会は、「維新政治塾」の受講生約2000人のうち、915人を正式な塾生に選抜しているのだけれど、面接で「選挙資金がない」と回答した受講生は塾生として選ばれてはおらず、選抜基準は露骨に金のあるなしだったことが明らかになった。
仮に、維新の会が国政に進出する場合、その候補者は「維新政治塾」の塾生から選ばれることは、ほぼ間違いない。明治維新を起こした幕末の志士達は、下級武士が中心で、金はなくとも志はあった。だけど、平成の「維新政治塾」には金持ちしか入れないのであれば、それは志士というよりは貴族であって、その塾は「貴族政治塾」とでもいうべきではないのか。
まぁ、維新政治塾の塾生全員に、志がないとまでは言わないけれど、その選抜基準が「選挙資金があるかないか」なのでは、どんなに優れた人物であっても、金がなければこの段階で弾かれてしまうことを意味してる。
そう考えると、今の段階で、風を頼りに維新の会の候補者が大量に当選したとしても、国民が望むような結果にはならない可能性だってある。それは、民主党がこれでもかというくらい証明している。
仮に、橋下市長や松井知事が本心では国政に進出したいと思っていたとしても、肝心の維新の会に、組織も金もないのでは、どうにもならない。だから早期解散せずに、もっと時間が欲しいというのが本音なのではないかと思う。

この記事へのコメント
せみまる
かくして、橋下も原発再稼働を認めた。ある種の「市民感覚」の表明でなんとなく民衆に幻想を与えてきた彼も、結局は、財界の代弁人、政府の代弁人に堕落した。彼を「勝ち馬」として、彼の人気にあやかる正体不明の維新の会のものどもも橋下の変節に厳しい対応を迫られるだろう。民主・自民・公明の手練れの政治家たちは橋下の底のなさを知っている。