尖閣と託古改制

 
6月11日、衆院決算行政監視委員会にて、東京都による尖閣諸島購入問題について集中審議された。

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そこで、石原都知事をはじめ、沖縄県石垣市の中山市長ら4人が参考人として出席したのだけれど、石原氏は、「「中国は『尖閣諸島は核心的な利益だ』としており、『日本の実効支配に対し、果敢な行動に出るための機材を準備する』と宣言している。これは『強盗に入るぞ』と言われて戸締まりしない国がどこにあるのか。…『島の購入は筋違いだ』と言われるが、筋違いでもやらざるをえない。本来なら政府に島を守ってもらいたい…こんなことになったのはあなた方の責任、政府や国会の責任だ」と、これまでの政府や国会、外務省の対応を厳しく批判した。

石原氏は尖閣の領有について、戦後の沖縄返還の時代からの経緯をのべ、尖閣諸島が日本国領土であることを丁寧に説明していた。筆者には、石原氏は、委員会の面々の多くが、尖閣の歴史を知らない可能性があると踏んでの発言であったように見えた。それに、石原氏が、沖縄返還時の日米間のやり取りの経緯を知っている、当事者であったというのは、その発言に、一定の説得力を持たせているように思われる。流石、亀の甲より年の功というところか。

そんな中、6月9日から10日にかけて、尖閣諸島周辺で、魚釣り大会が行われた。これは、チャンネル桜(頑張れ日本!全国行動委員会)が主催したもので、地元漁業関係者や一般参加者のほか、民主党の森岡洋一郎氏、自民党の下村博文氏ら衆院議員6人を含む、計約120人が14隻の船に乗り込み、尖閣諸島周辺海域で釣り体験や調査活動を行った。

漁船は、尖閣諸島及び魚釣島の周りを航行し、灯台や島の地形などを確認。参加議員からは、野生化したヤギが草を食べて島全体の裸地化が進むことで、生態系への影響を憂慮する指摘もあったようだ。

当初は、この釣り大会に便乗する形で、東京都の職員を現地に派遣する案が上がっていたのだけれど、同行する政治団体の活動に都職員が参加することに疑問の声もあり、この案は中止となっている。

都による購入は、魚釣島など3島の国の賃貸借契約が来年3月まであることから、石原氏は、都議会で所有権移転を「来年4月を目指す」と説明しているのだけれど、今回の委員会では、「年度途中でも東京都に預けてもらえるよう応援を」と要請し、前倒しへの意欲を滲ませている。

既に、尖閣寄付金は6月11日現在で11億円を突破している。東海大学海洋学部の山田吉彦教授は、尖閣寄付について「国民に海や島を守る意識が根付いてきた証拠。こうした多数の意思こそが、尖閣の実効支配への原動力になる。…日本国民の思いの強さに、中国も下手な動きは取れなくなった」としているけれど、同時に、国が買えば済むという意見に対して、「国が買っても無人で自然保護も開発もしないままでは、中国漁船に不法上陸されたとき竹島のようになりかねない」と指摘し、ゆえに、人が滞在するなどして実効支配を強めるため、まずは小笠原など離島振興にたけた都が所有することによる事態の打開が必要と述べている。

その意味では、今回の釣り大会などはささやかとはいえ、その一歩であると言える。



今回の釣り大会について、中国メディアは鋭く反応している。6月10日、中国の鳳凰網は日本の政治団体が尖閣諸島の魚釣島周辺海域で漁業活動を行ったことを伝えた上で、「このような行動は、完全に私利私欲からの考えだ。日中関係はおろか、日本の国家利益という観点から出た考えですらない」と中国の著名評論家、丁兆林氏の批判を紹介し、「これまで30年の間に日中両国の政治家が作り上げてきた政治的な暗黙の了解に背くものでさえある」と解説したようだ。

更に、11日、中国外務省の劉為民報道官が定例会見で、「新たな揉め事や茶番を起こすのを即刻やめ、実際の行動で日中関係の大局を守るよう要求する」と、日本側に申し入れたことを明らかにしている。

暗黙の了解とやらが何なのかは知らないけれど、それならば、中国福建省の気象局が、最近始めた、尖閣諸島周辺海域の天気予報を始めたのは暗黙の了解に背いてはいないのか。それに、領海侵犯など、新たな揉め事や茶番を起こしているのは中国。

それより何より、尖閣沖衝突事件によって、尖閣はもう"暗黙"ではなくなった。少なくとも日本国民の意識の中ではそう。それは、尖閣募金の件数と額をみれば明らか。いくら、建前上、"領土問題は存在しない"という立場を堅持すべきだとしても、尖閣を占領されてしまってからでは元も子もない。

6月5日、台湾の李登輝元総統が台湾北部桃園県の中央大学で講演し、その質疑応答で台湾に来て半年という中国の学生から、尖閣諸島の帰属に関して質問された。李登輝氏は、「領有権は日本にある。中国固有の領土というなら、裏付けとなる証拠の提出が必要」と返した、「それは個人の見解か」と畳みかける学生に対して、李氏の秘書が「見解ではなく歴史」と補足している。この認識が決定的に重要。

領有権の主張は傍からみれば、ただの「見解」にしか見えないけれど、長年の実効支配は、れっきとした「歴史」と認められる。例えば、日本の本州を中国が自国の領土だと主張したとして、それを認めるものはいない。それは、過去何千年にも渡って、日本人が住み、営々と積み重ねてきた「歴史」だから。

だから、日本人は尖閣についても、日本の領土だという"見解"ではなくて、「歴史」と認識しなくちゃいけない。石原氏が委員会で、わざわざ、沖縄返還の経緯を述べたのもそういう認識があるからではないのかと思う。

この見解と歴史の違いついて、中国はもう、知りすぎるほど知り抜いている。「歴史」にされてしまっては、勝てないことは十分に理解している。

だから、中国は占領した土地の歴史を悉く消してゆく。

相手の歴史を消してさえしまえば、あとは見解の相違だけ。見解の相違なんて、武力で押し潰してしまえばいいから。まず何よりも歴史を消すことで、"事実"を"互いの主張"のレベルに引き下げてくる。

実際、中国は、チベットにしても、ウイグルにしても、弾圧したり民族浄化したりして、相手の文化を根こそぎ抹消することで、その「歴史」を消そうとしている。国民が自分達の意志で、他国の文物や人々を受け入れていくのは、歴史の1ページとして刻まれるけれど、他国からその「歴史」を抹消されることはその国の断絶、亡国を意味する。

その意味では、近年、中国が、沖縄はもともと中国領土だったなんて言い始めているのも、沖縄の「歴史」を消そうとしていることに繋がっていると言える。

尖閣は元より、沖縄も含めて、全てを日本の歴史として捉え、国民が一体となってゆくことが大事。とても"地方分権"などといっていられる情勢ではない。



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この記事へのコメント

  • opera

    今回のエントリーを読んで、日比野さんはご存知だと思いますが、今は亡きあるチャイナウォッチャーの言葉をコピペしたくなりました。

     この記事が書かれてから約5年。日本国民の意識もようやく変わってきたということでしょうか。

    『言わずもがなのことですが、中国を一党独裁制で支配している中国共産党(中共)の価値観というのは、日本が到底共有できないものなのです。…

     野暮を承知で申し上げますが、中共政権が言うところの「対話」「協議」とは「中共の言い分の押しつけ」「中共からの命令伝達」であり、「協力」とは「中共への奉仕」ということで、「平和」とは「中共による制圧下での非戦時状態」という意味。

     「友好」とは「中共に従順」です。「友好団体」「友好人士」なんて中共に呼ばれている連中の顔ぶれを思い浮かべればわかるでしょう。中共のいう「中日友好」とは「日本が中共に従順な国であること」という意味です。「孫子の代まで友好を」なんて冗談じゃありません。

     ちなみに「交流」とは「中共の価値観の押しつけ&軽度の洗脳」。軽度の洗脳とは、
    「中国はいい国だ」
    「日本は昔なんてひどいことを中国と中国人にしてしまっ
    2015年08月10日 15:25
  • 日比野

    operaさん。こんばんは。

    今は亡きチャイナウォッチャー様のブログは私も愛読していました。中国の意図を見るには「政治文書」こそ注目すべきで、それ以外は些末なことだというのは、そのブログで教わりました。

    「中共政権=ちょっとオシャレな北朝鮮」チャイナウォッチャー様のこの表現は、今でもしっかり記憶に残っています。中国の振る舞いを見るにつけ、増々この言葉の信憑性が高まっているように感じています。
    2015年08月10日 15:25

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