6月7日、民主・自民・公明の3党は、幹事長会談を行い、社会保障・税一体改革関連法案の修正協議に入ることで合意した。
これは、同じく、6日に開かれた3党の幹事長会談で、民主党の輿石幹事長が15日までに修正協議の合意を目指す考えを説明したことで、今国会の会期末である21日までの衆院採決にめどが付いたとしたため。
3党の実務者による協議は、6月8日からスタートする。
当初、修正協議には応じない姿勢を見せていた公明党も、自民党との共闘を優先して方針転換。公明党の井上幹事長は、「協議自体を否定する必要はない。参加して公明党の主張を実現することでいい」と、関連法案への賛否は、修正協議の行方を見極めた上で判断する方針のようだ。
修正協議について、税制に関する実務者協議は、民主党の藤井裕久税制調査会長、自民党の町村信孝元官房長官、公明党の斉藤鉄夫幹事長代行が担当し、社会保障は、民主党の細川律夫前厚生労働相、自民党の鴨下一郎元環境相、公明党の石井啓一政調会長が担当することが決まったのだけれど、幹事長会談では、社会保障を先行して協議することが確認された。
社会保障については、自民は、最低保障年金の撤回や、後期高齢者医療制度廃止の取り下げを主張しているのだけれど、自民党の谷垣総裁は、記者会見で「基本的にはこれをのんでもらうことが必要だ」と強調しているし、石原幹事長も「これをやめないと言われると、にっちもさっちもいかなくなる」と譲歩しないとしている。
だけど、最低保障年金や年金一元化の撤回というのは、マニフェスト詐欺をしまくった民主党で、最後に残ったとも言える公約であり、これを撤回することは、完全に自身のマニフェストを葬り去ることを意味する。
実際、民主党の「中間派」には、野田首相が、これら自民党の要求を丸飲みしかねないと懸念が広がっているという。6月7日、民主党内の複数グループにまたがる議員が呼び掛けて行なわれた「党の『民主的合意形成』を実現する集い」には、28人が出席し、旧民社党系を束ねる田中慶秋副代表は「自分たちは社会保障が前提で、消費増税が前提なのではない」と挨拶している。
中間派は、消費増税は容認するものの、最低保障年金などの看板政策を取り下げれば党の存在意義が問われると主張し、会合では、「修正部分を党で議論して成案が得られない場合は、党議拘束を外してもいいのではないか」との意見が出たという。党議拘束を外しても、なんて意見が出る辺り、拘束されなければ反対するぞと言っているようなもので、丸飲みなんかした場合には、党内部で相当荒れる可能性もある。
社会保障の実務者協議の民主党担当者は、細川前厚生労働相なのだけれど、当初は、「ミスター年金」こと、長妻氏と、細川氏の二人を当てる予定だった。ところが、自民から「1人にしてほしい」と要求され、長妻氏は細川氏の補佐役に回ることになったのだけれど、長妻氏は、後期高齢者医療制度廃止の強硬論者であり、長妻氏が前面に出ると、修正協議が頓挫する恐れすらあった。一部には、修正合意させないために、小沢-輿石ラインが仕掛けた罠ではないかという見方すらあったくらい。
その長妻氏を引かせたことで、修正合意できる可能性が高まった代わりに、党内の反発の可能性は高まる。
去年の民主党代表選で、野田首相支持に周り、これまで支えてきた、鹿野前農水相のグループからも、「党内を切り捨てて、どんどん自民党に傾斜している」との不満の声があるという。
こうした中間派のいらだちを、小沢グループが見逃す筈もなく、中間派への働き掛けを強める構え。小沢氏は、既に造反を躊躇っている若手議員との個別面談を始めていて、非小沢反増税の中間派勢力議員との面談の調整を急いでいるという。
また、鳩山元首相も足並みを揃え、6日夜に、都内の中国料理店で自らのグループの所属議員約20人と会食し「とにかく同じ心構えで行動しよう」と呼びかけている。
更に鳩山氏は、同じく6日のBS11の番組で「民主党を作った張本人として『民主党を割る』という話は口が裂けても、本来は言うべきことではない。ただ、民主党より国民の暮らしが大事だという立場からどう行動すべきか考えねばならない時を迎えている」と述べ、離党の可能性を示唆し、「国民の暮らしが一番という政策を実現できるような集団と協力関係を作ることは十分あり得る」と大阪維新の会との連携に含みを持たせる発言もしている。
まぁ、とはいっても、ザ・ルーピー殿の発言なので、信用できる、できないと問うことすらもう論外ではあるのだけれど、新党結成時の「お財布」になってくれる可能性がある以上、小沢グループのみならず、中間派もぐらっとくる余地は残されている。
つまり、自民党は修正協議の最初のハードルに、社会保障を持ってくることで、民主党内に亀裂を生むことに成功しつつあるといえるし、おそらく、計算づくでやっているのだろう。そして、民主党の内ゲバの様子を眺めつつ、自分の要求の手綱を引いたり緩めたりしながら、亀裂が更に広がるように仕向けると思う。
そして、自民の策謀はそれだけに留まらない。肝心の消費税増税についても罠を張り巡らせつつある。
6月5日、自民党の石原幹事長は都内で講演し、消費増税関連法案の修正協議について、「年末の税制改正に先送りするしかない」とし、消費税法案の成立後に先送りする考えを示している。ただし、消費増税法案の論点として、低所得者対策、増税時期の繰り上げの可否、景気弾力条項を挙げているから、少なくとも、これらの項目に関して、「後で議論」できるように、消費税法案の中に盛り込むよう要求するのではないかと思われる。
6月7日、自民党税制調査会は、修正協議に向けた消費税増税に対する基本的な考え方を纏めているのだけれど、それによると、政府の消費税2段階引き上げを容認したものの、増税実施の半年前に経済状況などを見て、導入の可否を判断し、「社会保障制度改革国民会議」を創設し、国民会議がまとめる改革案も踏まえた「トリガー条項」を設けるとしている。
要するに、増税そのものは反対しませんが、実際にやるかどうかについては、半年前に考えますよ、それ以外にも条件をつけますよ、というもの。これは、6月2日のエントリー「『前門の狼、後門の虎』の野田首相と自民の策謀」で筆者が指摘したとおり。
自民党案は、表向き賛成しているかように見せておいて、実際は賛成にも反対にもどちらにも転べるようにしている。実にタヌキ。
仮に、野田政権が、採決の為の最初のハードルである、社会保障について自民案を丸飲みして、増税法案に自民のトリガー条項を付けた上で、話し合い解散を前提に可決したとしたら、どうなるか。
民主党のマニフェストは完全破棄させられた上に、増税法案はトリガー条項で雁字搦めに縛られるという、政策レベルでみれば、完全に自民の軍門に下ることになる。これは、民主党の第2自民党化であり、或いは、政策レベルでの事実上の連立政権といっていいのかもしれない。
最早、民主党の存在意義はもうかなり薄れているといっていいだろう。

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