5月25日と26日の両日、沖縄県名護市で「第6回太平洋・島サミット」が開催された。
1.第6回太平洋・島サミット
これは、太平洋島嶼国・地域が直面する様々な問題について、首脳レベルで意見交換し、緊密な協力関係を構築すると共に、日本と太平洋島嶼国の絆を強化するため1997年から3年に一度開催されている首脳会議。
今回のサミットには、日本を含め17カ国・地域の首脳等が参加し、「We are Islanders:広げよう太平洋のキズナ」というキャッチフレーズの下、今後3年間に向けて「自然災害への対応」、「環境・気候変動」、「持続可能な開発と人間の安全保障」、「人的交流」、「海洋問題」の協力5本柱を策定。最後に「沖縄キズナ宣言」を採択している。
サミットでの協力5本柱の骨子は次のとおり。
(1)自然災害への対応
•東日本大震災の犠牲者への哀悼を表明。フラガールの親善大使任命を歓迎。
•総理は,東日本大震災の経験を共有すべく,(1)太平洋災害早期警報システム,(2)太平洋自然災害リスク保険,(3)国際会議の主催等のイニシアティブを表明。また,福島第1原発に関連するあらゆる情報と教訓の共有,国際原子力安全強化に向けた貢献を表明。
(2)環境・気候変動
•気候変動を最も深刻な脅威の一つとして確認。緑の気候基金を含む,COP17の成果に留意するとともに,COP18に向けた課題を認識。
•総理は,(1)気候変動への適応支援,(2)廃棄物処理,森林保全,水資源管理等の支援,(3)再生可能エネルギー導入促進に向けたSIDS-DOCKへのコミットメントを表明。
•再生可能エネルギー推進に関するワークショップが沖縄で開催されることを歓迎。
•太平洋環境共同体(PEC)基金の進捗に謝意。島嶼国は,同基金の拡充を要請。
(3)持続可能な開発と人間の安全保障
•総理は,島嶼国固有の脆弱性を踏まえ,教育,保健,インフラ整備等の重要性を確認。
•債務持続可能性の改善の重要性を強調し,新興ドナー国を既存の援助協調メカニズムに関与させることが重要であることを確認。
•持続可能な開発におけるグッド・ガバナンス,民主主義,法の支配の重要性を確認。
(4)人的交流
•沖縄県が宮古島で高校生サミットを開催することを歓迎。
•総理は,(1)被災地訪問を含む「キズナ・プロジェクト」(300名以上の青年招聘),(2)JETプログラムの島嶼国への拡大,(3)ボランティア派遣の継続,(4)人材育成面での防衛協力,(5)島嶼国との査証緩和等を表明。
(5)海洋問題
•海洋環境・安全保障,漁業等の分野における協力を確認。
•海洋秩序に関する基本文書である国連海洋法条約の重要性を強調。
今回のサミットで注目したいのは、アメリカが初参加したことと、国連海洋法条約の重要性を打ち出したこと。
2011年8月25日のエントリー「尖閣領海内に中国漁業監視船が侵入」でも触れているけれど、国連海洋法条約とは、沿岸国の権利と海洋の自由通航の確保を両立させるために1982年に採択された条約で、領海および接続水域・公海・漁業および公海の生物資源の保存・大陸棚に関する4つの条約のことを指す。
「海は全人類のものであり国家は海洋に関して人類に対する義務を有する」という基本思想の下に、12海里の領海、国際海峡、200海里の排他的経済水域、その外側の公海を規定し大陸棚の限界、閉鎖海、深海底、海洋環境の保護、海洋の科学的調査、紛争の手続も含む包括的内容で、別名、「世界の海の憲法」とも呼ばれている。
近年、覇権主義を強める姿勢を見せる中国は、太平洋島嶼国に対して、2005年から2009年の間に実に6億ドルもの経済援助を実施して、鉱物や漁業資源などを狙う一方、トンガやフィジーなどと軍事交流を行い、地域の「囲い込み」を進めている。
これらのことから、今まで、島嶼国の問題に高い関心を示してこなかったアメリカは今回のサミットに初参加した。
2.中国のEEZ解釈はA2/AD戦略と連動している
これまでアメリカは、国連海洋法条約に調印したものの、条約の批准はしていない。実は、2004年と2007年に、上院で、条約の批准について議論されたことがあるのだけれど、条約に温室効果ガス削減や、自国の資源採掘においても、採掘料を国連機関に収める規定があるという理由で共和党が反対し、いずれも否決されている。
そのアメリカが今回、条約の批准に本腰を入れ始めているのだけど、それは勿論、近年の中国の海洋進出に警戒感を募らせているから。
その遠因として、2009年3月に起こった、アメリカ海軍調査船の中国による威嚇・妨害事件がある。
これは、南シナ海の南方約70海里の公海上で、通常任務中だったアメリカ海軍音響観測船「インペッカブル」に対して、中国海軍の情報収集艦、漁業局漁業監視船、国家海洋局海洋調査船、トロール漁船2隻の計5隻が包囲した事件。
「インペッカブル」は、接近予防の為に、放水をしたのだけれど、中国艦船は約8mまで接近して、進路前方へ木材を投げ込んだり、曳航ソナーを棒で手繰るなどしたという。
当然アメリカは、在中国大使館や国防総省は、国際法の下、EEZを含む他国の領海外の海域で活動できると、抗議したのだけれど、中国外交部の報道官は、「国連海洋法条約」と「中華人民共和国排他的経済水域および大陸棚法」、「中華人民共和国大概海洋科学研究管理規定」を持ち出して、中国の許可なく活動したのはアメリカ側であり、ただちに活動を止め、類似の事件が二度と発生しないよう要求する、と反論した。
「国連海洋法条約」におけるEEZには"科学的調査"は入っているのだけれど、軍事活動については明文規定がない。それをいいことに、中国にEEZを自国の領海同様に扱わせてしまうと、他国の船舶は排除され、航行の自由を制限されることになる。同時にこれは、中国のA2/AD戦略と連動し、それを後押しすることにもなる。
だから、この中国のEEZに対する"俺様ルール"を認めることは、A2/AD戦略を完成させ、中国に、東シナ海や南シナ海を始めとする、地域海洋覇権の確立にも繋がってしまう。
中国は、「インペッカブル」妨害事件について、アメリカが国連海洋法条約を批准していないことを取り上げ、「自身が未批准な条約に従うよう要求するアメリカとは、どういう国なのか」と抗議したという。
自分が批准していない条約を他国に押し付けるのか、というロジックには、さしものアメリカも反論できなかったようで、国連海洋法条約の批准に動き出した。
5月23日、アメリカ上院外交委員会の公聴会で、パネッタ国防長官は、「南シナ海やホルムズ海峡の問題では、国際ルールに基づく平和的解決を推進している。だが、自身たちが未批准の条約に従えと他国に主張できるだろうか」と中国の反論をそのまま述べ、クリントン国務長官も中国との領有権問題を抱える日本とフィリピンを例に挙げ、同盟国の支援でも「法的な優位性を中国に譲り渡し、われわれは防戦に回っている」と、早期の批准を訴えている。
ただ、11月に大統領選を控えるアメリカは、条約批准問題を政争に使われるのを嫌っていて、大統領選が終わるまで採決することはないようだ。
その意味で、サミットにアメリカが参加した上、首脳宣言に国連海洋法条約の重要性などを盛り込むことが出来た意味は大きい。野田首相は、サミット閉幕後の記者会見で、国連海洋法条約の重要性などを盛り込んだ首脳宣言は中国を意識したものではない、とコメントしているけれど、まぁ、誰が見ても対中国牽制であることは明らか。
筆者は、日米同盟修復・強化と、対中国外交に限れば、野田政権はそこそこいい仕事をしていると思うのだけれど、それに対して、内政のガタガタ振りは目を覆うばかり。
既に、6月政局で末期状態を呈している野田政権。もしも、野田政権の成果があるとするならば、外交・安全チームになるのかもしれない。
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この記事へのコメント
(^o^)風顛老人爺
今、出ている
週刊ポストに
新潟市、中国領事館5000坪買取が特集されています。
チャイナの海洋権益と、日本への侵略であります。
ご高覧下さい。
m(_ _)m乱文にて 敬具