第2次改造内閣と森本防衛相
6月4日、野田第2次改造内閣が発足した。
交代した閣僚は、参院で問責決議を受けた田中防衛相と前田国交相の2閣僚に加え、弁護士報酬をめぐるトラブルが指摘されている小川法相、スパイ疑惑のある中国大使館の元1等書記官との関係が浮上した鹿野農相。そして、自身で退任を申し出た国民新党代表の自見郵政改革・金融担当相の5人。
新しく閣僚に任命されたのは、防衛相には森本敏拓殖大大学院教授、国交相には羽田雄一郎民主党参院国対委員長。農水相には、郡司彰元農水副大臣が昇格し、法相も滝実法務副大臣が昇格した。
その他の閣僚は留任。執行部も国交相に任命された羽田氏以外は続投することとなった。
今回の人事で、注目すべきはやはり、防衛相に民間人である森本教授を起用したこと。大方の予想は、渡辺周副大臣の昇格だっとと言われていた。
渡辺副大臣は、先日の北朝鮮のミサイル発射対応を巡って、田中前防衛相に代わって、釈明や政府の発信役を一手に引き受け、国会でも田中前防衛相のミスを素早く修正したりして、特に評判が悪いわけでもなかっただけに、森本氏の起用はややサプライズ人事であったと言っていいだろう。
森本氏は防衛大卒業後、航空自衛隊を経て、1979年外務省に入省。在米日本大使館や情報調査局安全保障政策室長を務め、2000年に拓殖大教授に就任。2009年には麻生内閣で防衛相補佐官に任命されるなど、自民党のブレーンを長年務めてきた人物で、安全保障問題のエキスパート。
森本氏は防衛官僚に加え、自衛官である「制服組」も交えた勉強会を長年主宰していて、現場の声を重視する。森本氏は、自衛隊の任務と役割の拡大を訴え、自衛隊を「国防軍」に改めるべきだとも主張している。
こうしたことから、政府内では「防衛省、とりわけ自衛隊の代弁者」との見方が強いようだ。
その是非は兎も角として、防衛に関する知識と能力に関しては、少なくとも、前任者の田中氏より遥かに上であることは間違いなく、背広組を含めた防衛官僚を使いこなすことができるかどうかは未知数ではあるものの、ようやくまともな防衛大臣が就任したと言える。
ただ、与野党の一部から批判が出ているように、補佐官は兎も角としても、国家機密情報も扱う防衛省のトップに民間人を当てることは問題ではないのかという意見もある。
自民党の石破氏は「防衛庁時代から大臣や副大臣の民間登用は一度もなかった。選挙で選ばれた政治家が責任負う不文律が存在したからだ。森本氏の見識は比類ないが、このポストでの登用はいけない」と疑問を呈しているし、同じく自民党の別の防衛庁長官経験者も「国の安全保障のことだから与党の議員で責任をきちんと負うべきだ」と語っている。
また、民主党の一川元防衛相も、「シビリアン・コントロールということからすると、政治家がしっかり有権者の声を受けて、国防政策を責任を持ってタッチする方がいいのではないか、『あれでいいのかな』という感じがちょっとする。」とコメントしている。
この問題について、野田首相は、森本氏に「政治家ではないので、シビリアン・コントロールについて質問がくることもあるだろうが日本は、自衛隊の最高指揮官は首相。そういう意味で指揮監督権がきちっとしているし、まったく心配なく自分の信念で答えてください」と伝えている。
だけど、自分の信念で答えるというのは、記者会見とか国会の答弁などのように、質問に対して答えるというニュアンスが強い。だけど防衛大臣の仕事は質問に答えるだけじゃない。この間の北朝鮮のミサイル発射などのように、"有事"の際に、命令を下せるのかという問題はやはり残る。
自衛隊法では、海上警備行動や弾道ミサイルの破壊措置命令は、防衛相が発令すると規定されているから、有事の判断と発令は、まず防衛大臣がその責を負う。
森本氏の識見を考えると、有事の際の判断を間違えることはないだろうと思われるけれど、野田首相の言う、自衛隊の最高指揮官は首相というロジックに従えば、森本防衛相は、こうすべきであるという答えを出すことはできても、最後の判断は野田首相に仰がなくてはいけなくなる。そこに少しの弱点がないわけではない。
防衛省の制服組幹部は森本氏の起用について「自衛隊の最高指揮官として防衛に責任を持つ覚悟を決めたのだろう」と前向きに受け止めている声もあるようだけれど、"自衛隊の最高指揮官として"という枕詞がでるあたり、やはり民間人に責任が負えるのかどうかの部分で引っ掛かっている部分があるように思われる。
こうしてみると、政治家は確かに国民の負託を受けて、国政についているのだけれど、その肝心の政治家が国政につくだけの能力や見識が皆無であれば、やはりそれも問題なのではないかと思われる。それは、民主党政権がこれでもかというくらい証明している。
もしも、たとえば、一川氏や田中氏のような人物が民間人だったとして、彼らを突然、閣僚に任命したとしたら、その批難は、これまでの民主党政権の問責閣僚の比ではないだろう。首相の任命責任を徹底的に追及され叩かれることは間違いない。
特に今の政権は、政治家になるべき人は政治家にはならず、政治家には絶対なってはいけない人が政治家になって、素人劇をしているだけなのではないのかという気がしてならない。
それを何となく劇のように見せているのは、官僚という名の"黒子"が手取り足取り動かしているからなのだと思わずにはいられない。
その意味では、今回の森本氏の防衛相起用は、玄人がその役についたとは言えるけれど、肝心の政権与党である民主党に玄人がいないことの証明でもある。
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この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
大臣が「民間人/議員」の区別は無意味だろうし,
それが森本氏の考えでもあろう.
「民間人/議員」の左末な違いを問題にするなら,
「嘘を付いて政権を盗った」嘘付党の道義性は?
自民党時代は「嘘」には大変な道義的責任があった.
しかるに, 今の政権, 至る所に嘘があり,
嘘を見越して考えざるを得ない状況になっている.
この社会変化は今後の日本に大きく影響するだろう.
嘘付の嘘を問題にしないならこの世も末だ.
とおる
・森本防衛相と党で意見違わず、安住財務相
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120605/plc12060514170021-n1.htm
安住淳財務相は5日午前の衆院社会保障・税一体改革特別委員会で、民主党の安全保障政策に批判的だった森本敏防衛相を起用したことに関し「民主党と政策が180度違うから助けを求めたのではない」と述べ、集団的自衛権などをめぐる政府方針と森本氏の持論との間に食い違いはないとの考えを強調した。
流刑者
知識や見識も「(大臣という)肩書き」の前では無力である、ということが証明された。