珍しく橋下市長が負けた発言をしましたね。
1.橋下市長の倒閣発言撤回
6月1日、橋下大阪市長は、関電の大飯原発の再稼働を巡り、「民主党政権を倒す」としていた、自らの発言を撤回する考えを明らかにした。
これは、4月、政府が大飯原発の安全性を確認したとして再稼働を容認した際に橋下氏が「次の選挙で政権は代わってもらわないといけない」などと反発。維新の会は4月14日に緊急幹事会を開いて、次期衆院選で民主党と対決する方針を決めていた。
橋下市長は当時の対応について「民主党政権が暫定的な判断で安全を宣言したことは国民をだましており、『おかしい』と言った」と説明し、5月30日の関西広域連合委員会で、細野原発事故担当相が「現在は暫定的な安全基準だ」としたことを挙げ、「暫定を真っ正面から認めたのであれば、僕が言ったことの前提条件がなくなる」と対決方針を撤回した。
橋下市長は、「正直、負けたといえば負けた。そう思われても仕方がない」と敗北を認め、「『倒閣』は人生で1回使うかどうかのフレーズ。今後は慎重に使う」と述べる一方、「安全判断したから他の原発をどんどん動かせとの論調にはならない…反対し続けなかったことには責任を感じている。僕は、期間限定にこだわっていく」と牽制している。
ただ、橋下市長は、倒閣宣言を出した当時、ツイッターで次のように批判していた。
「僕は、何かあればすぐに戦争時代に逆戻りだというコメントは嫌いだ。しかし今の民主党の統治のやり方は、戦争に突っ込んで行った時の政府の状態とだぶる。流れのままにずるずると流されて、政府の明確な政治意思がない。大きな流れに身を委ねるだけで、後手後手で後付けの説明を加えるから二転三転する」
橋下氏は、政府の明確な政治意思がないと批判しているけれど、では、橋下氏の原発に対する明確な政治意思とは何なのか。反対なのか賛成なのか。「容認」は"流れのままにずるずると流される"ことと殆ど同義であって、意志とは言わない。
そこへ行くと、間違ってはいるけれど、この期に及んでも、「原発が止まった状態でもこの夏、何とかなると思う」などど、臆面もなく講演で発言する菅前首相のほうがまだ筋だけは通っている。ただ、"何とかなると思う"なんていうだけで、何をどうするから、何とかなる、という構想や計画を示さない限り、相変わらずの無責任発言の域を出ない。国民に我慢を強いるというのは解決策にはならない。
「エネルギー白書2011」によると、最終エネルギーの消費割合は、運輸部門が23.6%、業務部門が19.5%、家庭部門が14.2%、産業部門が42.8%となっている。
今回、関電が大飯原発が再稼働しなかった場合、夏に不足する電力は15%としていたから、エネルギー白書の統計に従えば、各家庭が夏の間中、一秒たりとも電気を使わなかったとしても、まだ足りない。
菅ナントカ氏は、「場合によっては国民もかなり我慢しないといけない」などと寝言を言っていたようだけれど、国民がかなり我慢したって到底駄目。新エネルギーとて現段階ではベース電力にはなり得ない。
本気で脱原発を目指すなら、それこそベース電力をどう賄うかについての長期計画を立てて進めていかなくちゃいけない。
2.原発停止で苦悩するドイツ
ドイツは福島原発事故わずか3ヶ月に満たない2011年5月30日に、2022年までに国内の全ての原子力発電所の稼動を停止すると決め、ドイツの原発17基のうち8基を停止しているけれど、ドイツは元々原発以外の発電設備も充実していて、電力の輸出国である点は日本と大きく違うところ。
次の表は、ドイツの国別電力輸出入量を記したものだけれど、2011年の輸入が544.54億kW、輸入が484.92億kWで59.62億kWの輸出超過。
それにヨーロッパの国々の送電線は相互に結ばれていて、各国の需給状況や価格の変動などに応じて電力を相互に融通し合うようになっている。日本でいえば、東電や中電、関電や九電なんかが互いに電力を融通し合うことに相当する。
ドイツの暖房は大半が石油かガスなのだけれど、フランスは電気の利用が多いのに対して、ドイツは一般家庭の冷房が少ない。だからドイツは夏場の電力需要が減るのを利用して、発電設備の定期点検や修理したりする。
そんな電力輸出国のドイツであっても、原発停止の影響は大きなものだった。特に問題になったのは送電線。
閉鎖された原発の大半はドイツ南部にあったため、ドイツ南西部のシュットガルドや南東部に位置するミュンヘン周辺の工業中心地が、もの凄い量の電力をドイツ北部の石炭・ガス火力発電所や風力タービンから調達し始めるようになったのだけれど、高圧送電網は、北部から南部へのこれ程の供給急増に対応できるようには設計されていなかった。
このため、送電網を運営する企業電力の安定供給に大変苦労している。
ドイツに4つある地域高圧送電網の1つを運営するオランダ企業のテネット社は、2011年に、北海とアルプス山脈を結ぶテネット社のケーブルの電圧を維持したり、障害を回避したりするために、前年の4倍に及ぶ1024回も出動したのだという。
北部から南部への送電線の問題を解決するためには、今後10年で、3600キロメートルの古い送電網を38万Vの超高圧送電網に切り替える必要があるのだけれど、ドイツ中部のテューリンゲンなど、少なくも4ヶ所で反対運動に遭い、立ち往生しているそうだ。
そして、今年2月初旬には、あわや停電という事態まで起こっている。
これは、フランスで電力価格の上昇があり、更に、折からの寒波で、ロシアからの天然ガス供給を滞ったことで、エネルギー商社がドイツの電力を大量に輸出した。これまでは、送電網を運営する事業者は、原発事業者に発電量を増やすよう要請すれば済んでいたのだけれど、8基の原発が停止し、20GWの供給力が12GWに低下していたから、原発に頼ることはできなかった。
そこで、各社は約10日間にわたり、ドイツ南西部とオーストリアにある古い予備のガス火力発電所を利用したのだという。
このように、予備の電力供給設備が不足すると万が一の事態に対応できないのはどの国も同じ。今の日本のように殆どの原発が停止している状況では、もしもの事態に対応することは難しい。
3.剣客商売・橋下徹
「大飯原発再稼働へ」のエントリーでも指摘したけれど、今夏、電力不足に陥った場合、橋下市長を始めとして、原発再稼働問題を長引かせた関西の各首長の責任が問われることは十分有り得る。
昔、政界風見鶏と言われた宰相がいたように記憶しているけれど、橋下市長のそれは、世論風見鶏というか、やはりポピュリズムに近いと言わざるを得ない。
民衆が心の中に思ってはいるけれど、中々、表だって、口にできない不満を公言して、それを攻撃することで支持を得る橋下市長の手法には危ういものがある。
それは、不満や民意が常に正しいとは限らないから。流れのままにずるずると流されて、戦争に突っ込んで行ったと批判してたのは橋下市長。その橋本市長自身が、民意という名の"流れ"に流されて再稼働反対を唱えていたのではないのか。
以前、筆者は、橋下市長のことを"剣豪タイプ"と呼んだことがあるのだけれど、今回の事を通じて、少し見方が変わった。
それは何かというと、確かに、剣豪は剣豪であるのだけれど、決して、剣の道を追求して究めるという意味での剣豪ではなくて、どちらかといえば、自らの剣の腕を、売って稼ぐいわゆる"剣客"に近いタイプ。
あたかも、背中に「敵討ち、金10両」という幟をさして、諸国を渡り歩いているような感じ。旅先で、庶民から敵討ちを依頼された相手をバッサリと切り捨てては、糊口を凌ぐ。
言葉は悪いけれど、橋本氏の流儀は、何が正義で、何が悪かなんて全く考慮しない。"剣の道"なんぞお構いなし。金さえ払ってもらえるなら何でもやる。そんな感じ。
たしかに、剣の腕は立つから、上手く使えば、凄く使えるのだけれど、一歩間違うと、世の中を滅茶苦茶にする危険を孕んだ諸刃の剣。
やはり橋下氏にはポリシーがない。
「維新八策は"維新"なのか」のエントリーでも指摘したけれど、橋下氏が自身の政治哲学だと主張する、仕組を変えるというのは哲学にはならない。それはただの方法論。哲学には方向がある。
脱原発が政治哲学にまで磨かれているのであれば、容認なんて言葉は出ない筈。自身の哲学を徹頭徹尾貫けば、それこそ毒杯をあおったソクラテスまで行き着いてしまう。
「龍馬と維新と橋下と」で述べたように、剣豪がその力を発揮するのは、自分に歯向かう輩を切り捨てる時。だけど、何のために、何をやるのか、という哲学と方法論の部分をしっかりと補う人物がいないと、橋下氏に国政を委ねるのは危険と言わざるを得ない。
そして、今回の原発再稼働問題で、橋下市長のブレーンの能力と見識に疑問符が与えられたことは間違いない。
これは、橋下人気に影を落とす切っ掛けになるかもしれない。

この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
選挙スローガンとしない良識があった.
しかし, 嘘付党が年金で味をしめてから,
国家に関わることを政局に利用する風潮が盛んだ.
戦前の統帥権干犯問題を思い出さざるを得ない.
これにより軍部の我儘を抑えられなくなり,
日本は近衛文麿に地獄の縁までひきずり込まれた.
国の根底の問題を政治スローガンとするのは,
鳩山一郎, 小沢一郎と同じであり,
鳩山・小沢が日本の政治を駄目にしたように,
橋下も日本の政治を駄目にしていくだろう.
ところで, 独の電力問題を平均電力輸出量
で計るのは問題だろう. 日本であっても,
一番の問題はピーク電力への対策なのだから.
独の原発停止は仏国の原発が健全であることに
基礎をおいている.
独は戦後の社会主義的原理主義のために
欧州経済の息の根を止めようとしているが,
化石燃料依存の比重が高まると, ロシアに息の根を
止められかねない.
そもそも, 今後暫くは寒冷化が進むのであるから,
夏を過ごせても, 寒い冬に電力がパイプラインが
損傷したらどうするのか. 恐い話しだが,
見てみたい気もする.
クマのプータロー
とおる
彼の職業である弁護士業に似ていますね。
八目山人
池田信夫なんかは「あんたは課長クラスや」といわれてもヨイショしまくっています。
ブレーンに雇ってもらいたいのかな。