7月25日、産経新聞が自社記事について、お詫びと削除する一幕があった。
これは、7月23日付の朝刊2面に掲載された『「迷彩服を区民に見せるな」「水や電気を使わせるな」 自衛隊の防災演習、東京の11の区が庁舎立ち入り拒否』という記事で、掲載後に各区から厳重抗議が寄せられ謝罪と該当記事の削除をすることになった。
まず、この問題となった記事を次に引用する。
「迷彩服を区民に見せるな」「水や電気を使わせるな」 自衛隊の防災演習、東京の11の区が庁舎立ち入り拒否
16日夜から17日午前にかけて行われた陸上自衛隊第1師団(東京都練馬区)の連絡要員の自衛隊員が23区に徒歩で出向き、被害状況や出動要請の有無などを確認する統合防災演習で、自衛隊側が23区に「隊員を区役所庁舎内に立ち入らせてほしい」と要請していたにもかかわらず、11区が拒否していたことが22日までの産経新聞の調べで分かった。区職員の立ち会いも要請していたが、7区の防災担当者は立ち会わなかった。要請を拒否した区には「区民に迷彩服を見せたくなかった」と明かした担当者もいた。(三枝玄太郎)
隊員の立ち入りを認めなかったのは、千代田▽中央▽港▽新宿▽目黒▽世田谷▽渋谷▽中野▽杉並▽豊島▽北の11区。大半は「自衛隊から要請がなかった」と断った理由を説明した。
防災担当職員が立ち会わなかったのは千代田▽中央▽港▽墨田▽世田谷▽渋谷▽中野の7区。各区とも「要請がなかった」と口をそろえる。千代田区の担当者は「いつ来て、いつ帰ったかは分からない」という。
しかし、自衛隊は口頭で23区に(1)庁舎内に立ち入らせ、通信訓練を行う朝まで待機させてほしい(2)庁舎の駐車場を使わせてほしい(3)防災担当の職員に立ち会ってほしい-の3項目を要請していた。
自衛隊の担当者は「区によって要請の中身は変えていない。お願いする立場なので強くは言わなかったし、文書は出さなかったが、確かに要請した」と話す。
陸上自衛隊第1師団第1普通科連隊の石井一将連隊長は16日、記者団に対し、全面的な協力を得られたのは7区で、残りは「休日で人がいない。庁舎内の立ち入りを断られた区もあった」と明かした。
庁舎使用を認めた区担当者は「区民のためになる」「有意義だ」などと話していたが、3項目すべての要請を拒否したある区の担当者は「区民との接触を避けてほしい」「迷彩服姿を庁舎内で見せないでほしい」と申し入れたという。
16日午後7時。「市街地での災害訓練反対!」「基地へ戻れ」という反対派のシュプレヒコールと、「自衛隊頑張れ」という励ましが交差するなか、陸自第1師団の隊員は練馬駐屯地を2人1組で出発した。
最も遠い大田区に向かった隊員は17日午前3時50分、大田区役所に到着。大田区側は課長1人が対応したが、区庁舎内には入らなかった。2人を訓練終了後、練馬駐屯地まで乗せて帰る予定の自衛隊車両も、区庁舎から約300メートル離れた大田区消費者生活センターの駐車場で待機した。
通信訓練の際には自衛隊員は大田区庁舎の中に入り、防災担当部長は区庁舎内で隊員を休憩させるなどしたが、17日未明には立ち入らせなかった。
世田谷区には自衛隊員2人が16日午後10時~午後11時の間に到着したとみられる。世田谷区の防災担当職員が立ち会っていないため、到着時間は不明確だ。渋谷区、中野区なども(1)(2)(3)すべて実現しなかった。
江戸川区では約3キロ離れた公園の駐車場で、江東区に着いた隊員は木場公園に泊めた車両で夜を明かした。文京、品川区は庁舎の駐車場に止めた車中泊だった。
なぜ区側は夜通し歩いてきた自衛隊員に冷たい対応をしたのか。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120723/plc12072301070002-n1.htm(リンク切れ)
この記事に書かれている、各区の対応を整理すると、次のとおり。
a)自衛隊側が23区に口頭で、「庁舎内に立ち入らせ、通信訓練を行う朝まで待機させてほしい」「庁舎の駐車場を使わせてほしい」「防災担当の職員に立ち会ってほしい」の3項目を要請した記事で、"事実"とされるものを中心に拾ってみたのだけど、ざっと読んだだけでは概要はつかめないだろう。自衛隊の要請は、「庁舎内への立入り」「駐車場借用」「防災担当職員の立会い」という3点なのだけれど、どの区がどの要請を受け入れ、どの要請を拒否したのかなんてさっぱり分からない。
b)隊員の立ち入りを認めなかったのは、千代田▽中央▽港▽新宿▽目黒▽世田谷▽渋谷▽中野▽杉並▽豊島▽北の11区で、その理由は「自衛隊から要請がなかった」から
c)防災担当職員が立ち会わなかったのは千代田▽中央▽港▽墨田▽世田谷▽渋谷▽中野の7区で、その理由は「要請がなかった」から
d)陸自によれば、全面的な協力を得られたのは7区
e)ある区は3項目すべての要請を拒否した
f)大田区は通信訓練時は庁舎内に立ち入らせたが、車両は区庁舎から約300メートル離れた大田区消費者生活センターの駐車場で待機させた
g)世田谷区の防災担当職員は立ち会っていない
h)渋谷区、中野区などは3項目すべて実現しなかった
i)江戸川区は3キロ離れた公園の駐車場で車中泊した
j)江東区は木場公園に泊めた車両で夜を明かした
k)文京、品川区は庁舎の駐車場に止めて車中泊した
もうなんというか、「各区は自衛隊の3つの要請にそれぞれどう対応したのか表をうめなさい」なんて、算数かなにかの問題にしたほうがいいくらい。それくらい分からない書き方をしている。
まぁ、比較的判り易いものは、b)とc)になると思うのだけれど、b)で名指しされた11区は、この記事に対して、厳重抗議をしている。
11区の抗議内容は次のとおり。
千代田区:「駐車場借用」に協力した。「立入(b)」「立会(c)」は要請がなかった。とまぁ、産経記事は完全否定されてしまっている。くだんの記事は、各区が明らかに協力したことを、拒否したと書いている。だから、単なる誤報というレベルじゃない。中には、港区や新宿区のように、無線訓練は庁舎の屋上で行ったことを取り上げ、だから、庁舎内に受け入れた訳ではないと強弁できなくもないけれど、それでも、区担当者が立会をしていることは変わらない。まぁ、屁理屈にもならない。この記事に限っていえば、週刊誌のゴシップ以下。これでは、早々の謝罪記事も当たり前。
中央区 :「立入(b)」「立会(c)」をした。拒否した事実はない。
港区 :「立入(b)[庁舎屋上]」、「立会(c)」をした。庁舎を開けなかったのは自衛隊の要請によるもの。
新宿区 :「立入(b)[庁舎屋上]」、「立会(c)」をした。拒否したことはない。
目黒区 :「立入(b)[防災センター]」、「立会(c)」をした。拒否した事実はない。
世田谷区:「立入(b)」「立会(c)」をした。拒否した事実はない。
渋谷区 :「立入(b)」「立会(c)」をした。拒否した事実はない。
中野区 :「立会(c)」をした。拒否した事実はない。
杉並区 :「立入(b)」「立会(c)」をした。拒否した事実はない。
豊島区 :「駐車場借用」協力、「立入(b)」「立会(c)」をした。車中泊については自衛隊側の計画変更で取りやめになった。拒否した事実はない。
北区 :「立入(b)」「立会(c)」をした。拒否した事実はない。
ネットが普及することで、情報発信が報道する側の特権ではなくなった。取材される側も堂々と抗議し、情報発信できるようになった。誤報や歪曲もバレなきゃOKから、即座にバレてしまう時代になった。
ネット時代では、自身の記事に対する抗議も同じくネットで拡散するから、その拡散スピードと範囲に追いつくくらいの謝罪・訂正をしないと、それを打ち消すことはできない。
まぁ、これまで新聞なんかでの謝罪や訂正記事は、紙面の隅っこにちょっとだけ載せて、はいお仕舞い、なんてのが定番だったけれど、そんな情報の一方通行時代のやり方はもう通用しない。もたもたしている間に自分のイメージはどんどん傷ついてゆく。
訂正・謝罪も今の時代に即したものが求められるようになるだろう。
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この記事へのコメント
八目山人
共産党や左巻きが、事前に各区に文句を文書で出していたこと。
自衛隊にまとわり付いて文句を言い続けていた人が居たこと。
などを勘案すると、単純な話ではないと思います。
何か裏がありそうな。例えば産経が引っ掛けられたとか。