日本の防衛戦略と自衛隊の尖閣常駐

 
昨日のエントリーの補足です。

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昨日のエントリーのコメント欄で、opera様から、オスプレイの配備は戦術レベルの問題ではないかという指摘と、今後の日中関係は、70年代末から80年代にかけての日ソ関係が参考になるのではないかというご意見を受けて、もう一度振り返ってみたい。

まず、戦略・戦術レベルの切り分けに、地政学者である奥山真司氏の「戦略の7階層」を使って整理してみる。

戦略の7階層とは、戦略にはそれぞれの段階と各々を包含する「上位概念」による階層構造になっているという考え方。その戦略の7階層の段階と概念は次のとおり。
世界観 …人生観、歴史観、地理感覚、心、ビジョン等
政策  …生き方、政治方針、意思、ポリシー
大戦略 …人間関係、兵站・資源配分、身体など
軍事戦略…仕事の種類、戦争の勝ち方など
作戦  …仕事の仕方、会戦の勝ち方など
戦術  …ツールやテクの使い方、戦闘の勝ち方など
技術  …ツールやテクの獲得、敵兵の殺し方など
これらのどこからが戦略でどこまでが戦術になるのかについては、人それぞれの考え方があるのかもしれないけれど、ここでは文字通り、"戦略"と記載されている、軍事戦略より上位を「戦略」、作戦より下を「戦術」としておく。

さて、現在の日本の防衛戦略についてなのだけれど、平成22年12月に新防衛計画大綱が閣議決定されていて、防衛省のサイトで公開されている。この情報を読む限り、戦略7階層の上から2番目の政策から下の戦略について記載されているように思われる。

そこで、戦略7階層の上から2番目の政策から4番目の軍事戦略までについて、簡単に整理してみると次のようになるかと思う。
◎防衛政策
 1.我が国に直接脅威が及ぶことを防止し、脅威が及んだ場合にはこれを排除するとともに被害を最小化することであり、もって我が国の平和と安全及び国民の安心・安全を確保すること。
 2.アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化とグローバルな安全保障環境の改善により脅威の発生を予防することであり、もって自由で開かれた国際秩序を維持強化して我が国の安全と繁栄を確保すること。
 3.世界の平和と安定及び人間の安全保障の確保に貢献すること。

○防衛大戦略
 A.我が国自身の努力
 B.同盟国との協力
 C.国際社会における多層的な安全保障協力

□防衛軍事戦略
 A-1)同盟国等とも連携しつつ、平素から国として総力を挙げて取り組む
 A-2)防衛力の存在自体による抑止効果を重視した、従来の「基盤的防衛力構想」によることなく、より実効的な抑止と対処が必要。このため、即応性、機動性、柔軟性、持続性及び多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力に支えられた「動的防衛力」を構築する。
 B-1)日米同盟を新たな安全保障環境にふさわしい形で深化・発展させていく
 C-1)アジア太平洋地域における協力
 C-2)国際社会の一員としての協力
これらをみる限り、日本の国防の大方針は、平たく言えば「水際阻止」。有事になる前に抑え込むことを基本(防衛政策)にしていて、それらを、日本自身の努力・同盟国との協力・国際社会間の安全保障協力の3つの領域での活動で実現するとしている(防衛大戦略)。

そして、そのために「平素からの活動」、「動的防衛力」、「日米同盟の深化」、「アジア太平洋地域における協力」、「国際社会の一員としての協力」を行なうとしている。(防衛軍事戦略)

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ここで筆者が注目したいのは、やはりA-2の動的防衛力構想。これは、今回の新防衛計画大綱から盛り込まれた構想で、これまでは"在るだけで抑止力になっていた"という考え方から、より実効的な抑止と対処を目的とした"実際に活用すること"を想定した防衛力へとはっきりと転換している。

とりわけ、尖閣防衛に関連すると思われる部分として、海域の安全確保と島への攻撃にどう対応するかについて、大綱では次のように記されている。
ア 周辺海空域の安全確保
 周辺海空域において常続監視を行うなど同海空域の安全確保に努め、我が国の権益を侵害する行為に対して実効的に対応する。
イ 島嶼部に対する攻撃への対応
 島嶼部への攻撃に対しては、機動運用可能な部隊を迅速に展開し、平素から配置している部隊と協力して侵略を阻止・排除する。その際、巡航ミサイル対処を含め島嶼周辺における防空態勢を確立するとともに、周辺海空域における航空優勢及び海上輸送路の安全を確保する。
とまぁ、事前に監視していち早く兆候をキャッチして、攻撃を受けたら、部隊を迅速に展開・配置することでこれを阻止する、となっている。

このためには、偵察・監視体制の強化と部隊展開の為にの兵站および輸送力の確保が重要になる。そこでオスプレイの位置づけはどうか、ということになるのだけれど、"兵站および輸送力の確保"を目的と捉えた場合、それは、動的防衛力を実現するための一手段に過ぎないから、軍事戦略に位置づけらる「動的防衛力」の更に一階層下の「作戦」階層になると思われる。

ただ、オスプレイを「沖縄に配備する」という面に着目すれば、沖縄の地政学的位置とオスプレイの行動半径の広さから、沖縄配備=島嶼部への迅速な部隊展開を意味することになるから、これは「動的防衛力」の構築そのものになる。従ってこの場合は戦略の「軍事戦略」階層になると思われる。

…正直ここまで書いて、自分でも「こまけぇこたぁ、いいんだよ。」と思わなくもないのだけれど、一応ご指摘を受けたので、改めて整理してみた。まぁ、お蔭で昨日のエントリーでは、この辺りが少し曖昧であったことが自分でも分かったのでよしとしたい。

また、70年代の日ソ関係については、今回は割愛するけれど、当時も今も日米関係が国防の基礎のひとつになっていることは間違いないし、事実、新防衛大綱でも「防衛大戦略」レベルで同盟国との協力が謳われている。それに何より、オスプレイはアメリカ軍の輸送機であって、日本のものじゃない。それを、わざわざ沖縄に配備しようという意図をちゃんと汲み取らないと、日本の国防そのものが非効率かつ的が外れたものになりかねない。

ともかくも、沖縄に航続距離と輸送力に優れた航空機が配備されることが決定的に重要だと思う。ただ、中国がよく使う、民間人を装って漁船で上陸する「海の便衣兵作戦」でこられると、オスプレイが配備されたとしても、海兵隊を尖閣に展開できるかどうか…。

石原都知事は13日の記者会見で、中国人の活動家らが漂着という形で尖閣諸島に上陸し、日本が退去させた場合、イメージ悪化につながりかねないと指摘し、尖閣には自衛隊が常駐すべきだと言っているけれど、今の民主党政府にそこまでの決断は難しいだろうと思われる。

それを考えると、軍事演習(掃海訓練)をして、相手をして近づけさせない方が、まだよいような気がするのだけれど、あまりモタモタしている時間はない。


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この記事へのコメント

  • SAKAKI

    中国は幼稚ですね。まるで満州事変前夜のような。これで軍事力を行使した場合、日本と中国でどちらのダメージが大きいでしょうか。そもそも天然ガスや石油があのあたりにどれだけあるのでしょうかね。採掘する技術、ハード、さびないパイプなど、日米の同盟あってのものですけど・・・・
     私は性格が悪いので・・熱川のバナナワニ園の園長に相談しました??。
     狭い島ですが、暖かい気候をフルに活用し、陸上は毒蛇公園、島の周りはアミで囲んでサメと海蛇とウツボの養殖場にすると効果的だそうです(笑)ハングルと中国語で「毒蛇猛魚注意 日本国政府」と看板立てておきます(笑)日本領とするより効果があると思います。
     さらに・・もし、天然の沼や湖があれば、食用の人食いワニが一番だそうです。ハンドバックや財布にもなるし、丈夫で長生き、狩も上手とのことですよ。
     便衣兵と撃ち殺すと戦争ですが、野生動物に喰われちゃえば平和解決(笑)
     少し真面目にかんがえ
    2015年08月10日 15:25
  • 日比野

    sdiさん
    >「動的防衛力構想」については具体的な「構想」の段階にまだ降りてきていないと思います。先日某所(笑)で、市ヶ谷の制服組と背広組が同席したときに聞いた話から私はそう思いました。

    そうなんですか…。まだまだ水際防衛方針でいくしかないのですね。

    >沖縄本島に陸海空三軍の統合部隊を配備し奪還戦力及び洋上邀撃戦力として相手に脅威を与えるようが抑止力になるのではないでしょうか?

    これです。これです。こちらのほうがよっぽど"動的防衛力"に近いのではないですかね。

    >世界的にみても、国境警備をその国の陸軍(もしくは海軍)が担当しているところよりは準軍隊に任せている国のほうが多数派です。

    昔、http://kotobukibune.at.webry.info/201103/article_6.html
    で、海上警備専門の海上警備と領空監視を統合運用できるような総合警備会社なんかを立ちあげたらどうかとエントリーしたことがありますけども、そっち系で固めるという手もアリかと思います。ただ、今どうこうには間に合わないのが、苦しいところですね。
    2015年08月10日 15:25
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    色々言わんと, 戦闘部隊が上陸するのがよろしい.
    一般人では武力で容易に排除できるから駄目.
    そう, 国土は国民の命で守るしかない.

    福島原発でも, 米軍が何に反応したかを見れば良い.
    2015年08月10日 15:25
  • せみまる

    石原が国士面し、東京都を私し、同自治体を己が国家主義の道具にした。同調する者は十数億の献金をしている。このブログの筆者も「きな臭くなった云々」と無責任な駄文を弄している。領土問題を軍事的にしかアプローチできない(これこそ中国の論理である)愚者、思想の貧困、劣化というべきか。オスプレイを云々するのは、筆者が米国の走狗であることを意味する。自衛隊を尖閣に常駐せよ、と短絡した主張をなし、自衛隊という「軍」の常駐が直截すぎるという指摘に対しては、かつての記事を持ち出ている。「日本の調査捕鯨船なんかは、いつもシーシェパードと戦っているのだから、彼らをリクルートして、尖閣に近づく漁船を追い払う警備会社があれば、自衛隊を動かすための閣議決定などなんだの時間を食っている間の時間稼ぎにはなるだろう。」この指摘の傍若無人ぶり―捕鯨の人たちにこれを言ってみろ!―に筆者の傍観者ぶりがよくわかる。
    2015年08月10日 15:25
  • sdi

    「動的防衛力構想」については具体的な「構想」の段階にまだ降りてきていないと思います。先日某所(笑)で、市ヶ谷の制服組と背広組が同席したときに聞いた話から私はそう思いました。長島内閣総理大臣補佐官(外交および安全保障担当)が防衛大臣になって具体化するべく動いていれば、今頃何かまとまっていたかもしれませんが。現在の日本の防衛構想はいまだ水際防御中心と考えたほうがよろしいでしょう。
    私は尖閣に自衛隊の駐留させるのは反対です。チョークポイントにいちいち守備隊を配置していたらそれでなくても、定員充足率が低い陸自の人的資源を枯渇させるだけです。それに台湾を睨んだ対中軍事戦略で考えるなら石垣島など尖閣に劣らぬ重要ポイントは他にもあります。それより、沖縄本島に陸海空三軍の統合部隊を配備し奪還戦力及び洋上邀撃戦力として相手に脅威を与えるようが抑止力になるのではないでしょうか?
    世界的にみても、国境警備をその国の陸軍(もしくは海軍)が担当しているところよりは準軍隊に任せている国のほうが多数派です。いきなり陸海軍が戦闘行為に突入した場合、いきなり国家対国家の戦争状態に突入したとみなされかねません。準軍隊が戦
    2015年08月10日 15:25

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