更に、昨日のエントリーの続きです。
1.日本の「三戦」
7月11日、カンボジアを訪問している玄葉外相は、訪問先で中国の楊外相と会談した。その中で尖閣を巡って激しいやりとりの応酬があったようだ。
会談の要旨はおおよそ次のとおり。
玄葉外相 私も野田佳彦首相も、中国の発展は日本にとってチャンスだと繰り返し述べてきた。中国は日本にとって重要なパートナーだ。戦略的互恵関係を深化させながら、日中関係を前向きなものにしていかなければならない。同時に、両国間に存在する幾つかの課題について、率直に意見交換したい。とまぁ、日本が中国の領海侵犯について抗議したのに対して、中国は主権はこちら側にあると平行線。ただ、中国側は"国有化"などの具体的な言葉は使わずに、間接的な非難にとどめたようだ。中国外務省幹部によると、会談は、リラックスしたものだとは当然言えないが、極めて厳しいというものでもなかったとのことだけれど、だからといって安心できるわけでもない。
楊外相 いかに中日関係を擁護し、推進するかについて意見交換できると思う。
玄葉外相 中国漁業監視船が尖閣諸島周辺の日本領海に侵入したことに強く抗議する。尖閣諸島は日本固有の領土であり、領有権問題そのものが存在しない。平穏かつ安定的に維持管理していく。尖閣をめぐる問題が日中関係の大局に影響を与えないよう、冷静に対応していくことが重要だ。
楊外相 中日関係は一定の発展を得たと同時に、際立った問題も存在している。尖閣は中国の固有の領土であり、争いのない主権を持つ。中国との対話と協議を通じて相違点を適切に管理する正しい道に日本は戻るべきだ。日本側が関連する問題を適切に処理し、中日関係発展の障害を減少させることを希望する
実際に、日中外相会談のタイミングで領海侵犯を行い、東シナ海で軍事演習を行っている。要するに、刃物をちらつかせながらの恫喝外交。
それも、日本が尖閣国有化を表明し、これまでから一歩踏み出したことに中国が鋭く反応しているということ。昨日のエントリーで中国の「三戦」について触れたけれど、同じように日本側からみた尖閣に対する「三戦」は次のようになると思う
「輿論戦」
A)世論を味方に付ける
「心理戦」
B)国有化宣言
C)都の購入に対して、14億近くの寄付金が集まる
D)石垣市議らの尖閣上陸、尖閣釣りツアー実施
「法律戦」
E)尖閣周辺の無名の島に命名
ざっと見る限り、日本が実効支配している分、日本側の「三戦」のほうがより世間に対する訴求力がある。であるからこそ、中国としては、対抗するためにより強硬な手段に訴えなければいけなくなる。
昨日のエントリーでは、尖閣周辺での機雷掃海訓練をしたらどうかと述べたけれど、これはどちらかといえば、「戦術」というべきで、近々の対応という面がやや強い。それだけ緊急事態が迫っていると筆者は考えている。
だけど、「戦術」が効を奏するのは、更に上位の「戦略」レベルの下支えがあればこそ。では、尖閣防衛の「戦略」とは何か。
2.オスプレイの配備を急げ
日本がこれまで、尖閣領有を保持しえた「戦略」とは何かというと、これはもう言うまでもなく、日米安保を保持し続けてきたことに尽きる。世界最強のアメリカ軍を沖縄に引き入れることで、周辺海域に睨みを利かせてきた。吉田茂元総理のいうところの「番犬」がその役目をしっかり果たしていた。
だけど、これまでは、その番犬の小屋を沖縄に置いておきさえすれば良かったのだけれど、ここ最近になって、それが通用しなくなってきた。中国のA2AD戦略に基づいて、「空母キラー」と呼ばれる新型対艦弾道ミサイル「東風21D」の配備や、航空戦力の拡大などによって、中国に近い位置に基地を置くことが段々危なくなってきた。
そこで、有事に真っ先に投入される海兵隊を、沖縄からグアムやオーストラリアに分散配置することで、沖縄がやられても、そこで終りにならないように態勢を組み替えつつある。
だけど、単に遠くに移るだけなら、それこそ中国のA2AD戦略の狙い通りになってしまう。だから、遠く離れていても、これまでと同じように海兵隊を投入できるだけの機動力が必要になる。そのためには、航続距離や速力、搭載重量でこれまで以上の能力の輸送機が求められる。その鍵を握るのが、昨今話題になっている、垂直離着陸輸送機MV22、通称「オスプレイ」。
オスプレイは、航続距離約3900キロで空中給油も可能。2005年には、アメリカ本土からイギリスまで、空中給油を受けながら、3700キロの大西洋横断飛行を行っている。この航続距離はこれまで使用してきたCH46ヘリの5.5倍に当たる。次の図は、CH46とオスプレイの行動半径を比較したものだけれど、一目でその広さの違いが分かる。
また、オスプレイの速度は時速565kmでCH46の2倍。機内最大ペイロード:は9072kgでCH46の3倍もある。これまでと断然に優れた性能を持っていて、オスプレイを配備するだけで、海兵隊の展開能力が飛躍的に高まることは明らか。
だから、オスプレイの沖縄配備はそれだけで中国に対する牽制になる。特に尖閣問題に対する牽制に使うのであれば、10月の普天間配備とは言わず、早期配備しなくちゃいけない。
7月12日、沖縄県の仲井真知事が、オスプレイの配備計画の見直しを求める要請書を提出しているけれど、これは間違っている。尖閣を巡って、日中戦争になりかねない情勢になってきている。それでも、戦争を避けられる可能性があるのであれば、政府はその手段を尽くすべきで、その手段の一つがオスプレイの配備なのであれば、それを選択すべき。
オスプレイを配備することで、海兵隊を分散配置しても、これまで同様の抑止力を確保する。これが尖閣防衛の「戦略」の一つ。
また、これを同時に行う戦略として考えられるのは、中国の後背を突く動きをすること。例えば、インドやロシアと連携して、協力関係を強化する。日本が中国以外で力を割かずに済むように環境整備をするのも、戦略の一つ。その意味では、6月29日に、日本と韓国の間で軍事情報を共有できるようにする「日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」の署名が韓国側の都合で延期になったのは失点にあたるかもしれない。
こういった、戦略的な下準備をした上での、尖閣国有化の動きであれば、戦火に至らずにすむ可能性はあると思うけれど、正直そこまで今の民主党政府がやっているかは分からない。
もしも、何もやってなければ、早急に戦略レベルの足場固めを行なっておく必要があると思う。
←人気ブログランキングへ
この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
守る気概の問題.
国土調査として自衛隊員を送れば勝ち.
勿論, 生命の保証はないから自衛隊員で
なければならない.
自衛隊員を送り込めないなら, 負けだ.
何故なら, 工作員の侵入は防げないからだ.
世の中の動く仕組みは簡単.
死んでも引き下がらないものが勝つ.
命は何よりも重要だといっていると負ける.
国のために失われた命を顕称する仕組みを
軽視した日本の苦境がここにある.
米国が強いのは何も兵器が優れている
ばかりではない.
opera
必要なことは、中国及びその他の国際関係についての的確な情勢判断を前提に、日本がどう対応するのかという明確な国家ビジョンだと思います。
前回の羅援少将の発言でも、日本の尖閣諸島の領有を認めれば日本が資源大国になってしまうと言っているように、中国側は明らかな侵略的な意図を隠さず、国境紛争を公正に解決しようという発想はありません。
であれば、こうした敵性国家と中長期的にどう対峙するのかを考えていかなければなりません。
また、中国の国内事情として、今後は権力交代の度毎に軍への統制力は落ちていくであろうこと、バブル崩壊の影響で国内の社会不安が拡大すればそれに一層拍車がかかることにも留意する必要があります。
個人的には、今後の日中関係は、70年代末から80年代にかけての日ソ関係が参考になるのではないかと思っています。
当時の日ソ関係にも、ベレンコ中尉亡命事件(1976)・漁業協定の一方的破棄及び北方領土にソ連軍基地の建設(1970年代後半)・大韓航空機撃墜事件(1983)等の事件が頻発し、日本は日米同盟を基軸に、外交関
観戦武官
>どんな兵器も不要. 守る気概の問題.
●マジレスしますと、精神論なら自分のブログで「青年の主張」をしてください。
>米国が強いのは何も兵器が優れているばかりではない.
●「…ではない.」とは、上から目線の言い方で気分のいいものではありません。もう少し別な言い方があると思います。
もう少し社会勉強し、社会復帰を推奨します。
SAKAKI
sam
2.日本は、事実を見ようとさえしない。
3.政府は、法整備さえしていない。
4.尖閣地権者でさえ、早く売り逃げないといけないのに危機意識が甘く動きがない。
5.日本の状況は上記のとおり、これを自ら打開する手立ては日本にはない。
6.アメリカがどれだけやってくれるか。それだけ。
sdi
そんな時間的余裕を民主党政権が得るには、石原都知事が「公有化」をぶちあげる前に官邸や霞ヶ関に周到に根回ししていないとまず無理でしょう。果たして石原都知事がそれを行った上での「公有化構想」だったのか?現時点では不明の部分が多すぎますが、甚だ疑問です。
石原都知事にしてみれば、参議院議員時代から関わってきた尖閣公(国)有化の懸案を「オレの目の黒い内にしっかりした道筋を付けておきたい」という一念が主な動機なのかもしれません。しかし、本人もこんなに短兵急に事態がエスカレートするのは予想外だったのはないですかね。実は私もだったりしますが。
秋の全人大が終わるまで、せいぜい「漁政」が尖閣付近をウロウロするのみで中国がこれ以上の手を打てないと仮定しましょう。そうなると、国内輿論に覚悟を決めさせ米国に踏み絵を迫るのは「今」しかありません。7月と8月の1.5ヶ月しかありません。