秋田のシェールオイル

 
7月6日、日本国内初の「シェールオイル」の試掘が開始されることが明らかになった。

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これは、石油・天然ガス開発会社「石油資源開発」と石油天然ガス・金属鉱物資源機構が、早ければ来年度にも、秋田県由利本荘市の「鮎川油ガス田」で採掘を始めるというもの。

今年は、対象となる頁岩を取り出してシェールオイルの含有量を調べたり、効率的な採油方法確立に向けた実験を行う予定。予算は約1億円で、埋蔵量を確認し、採算が取れると判断されれば、男鹿市の申川油田、由利本荘市の由利原油ガス田の2カ所も候補に加えて試験生産に着手するという。

シェールオイルというのは、粘土質の層状岩に染み込んだ有機化合物や原油などの油の元(油母)から抽出した頁岩油のことで、油まみれの層状岩を乾留することによって天然の石油と同じ性質の油分が留出できるとされる。

なぜ、これまでシェールオイルが開発されてこなかったというと、単純に石油として取り出すことが難しかったから。

普通の石油は油田から採掘するのだけれど、油田というだけあって、地中に石油の形で溜まっている。だから、そこに井戸を掘ると溜まった石油は内部の圧力に押されて、勝手に地表に吹き出してくる。

それに対して、シェールオイルは、頁岩中の油母が、地中での加熱や加圧が不十分なために油分にまで分解していない。従って、井戸を掘っても、そのままでは石油は出てこない。

そこを何とかして石油を取り出す方法が開発されてきたのだけれど、その中の一つに「水圧破砕法(ハイドロ・フラッキング)」という方法がある。

これは、油母を含んだ頁岩層を水圧で破砕して割れ目を作り、それを通り道として頁岩中の石油やガスを押し出して回収するという少々強引な方法。

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これまでの技術では、垂直にしか井戸が掘れなかったこともあり、採算が取れなかったのだけれど、近年の技術開発によって、水平方向に複数の井戸を掘ることができるようになってから一気に開発が進むようになった。

なぜなら、水平に何本も井戸を掘って、何段階にも分けて破砕することで、割れ目を沢山作り、採取量を増やすことができるようになったから。この方法で採算が取れるようになってきた。

水平破砕は、地中深くまで井戸を掘って、大量の水を高圧で流し込んで、人工的に割れ目を作るのだけれど、割れ目を作っただけでは、その割れ目が自然に閉じてしまうことがある。だから、それを防ぐために、支持材として、砂などを混ぜて割れ目に圧入する。

このとき、肝心の砂が割れ目にまできちんと届かなければ、支持材としての役目を果たすことができない。従って、圧入する水は、砂を運搬できるように非常に高い粘度が要求される。そのため、圧入する水に、いろいろな化学薬品を混入して粘度を確保している。また圧入する液体は水だけでなく、油やエマルジョンなども用いられることがある。

この化学薬品に何が使われているかは、企業秘密となっていて、公開されていないのだけれど、近年、使用した化学物質が地中に堆積して、周辺にある飲料用の地下水に漏れ出す危険や、大量の水を輸送するトラックの往来で、周辺地域の大気汚染に繋がる可能性が指摘されている。

近年、アメリカは、シェールオイルやシェールガスの開発に力を入れているのだけれど、アメリカには、飲料水安全法という法律があって、石油やガス用の掘削・水注入に対して、周辺の地下水を汚染しないよう規制があった。

ところが、2005年に制定されたエネルギー政策法で、水圧破砕法をこの規制から除外する改正が行なわれている。当時のアメリカ大統領はジョージ・W・ブッシュだったのだけれど、副大統領は、天然ガス掘削設備を製造するハリバートン社の元CEOであるディック・チェイニーで、この法律の改正は、チェイニーの努力によって実現したと、広く一般に捉えられている。今ではこの法律は「ハリバートンの抜け穴」とも呼ばれているそうだ。



このことについて、消費者の認知度が高まるとともに、アメリカの環境保護庁(EPA)は停止していた水圧破砕法の環境への影響調査を再開。2011年12月には、ワイオミング州パヴィリオンにおける調査に関して、水圧破砕法と地下水に含まれる化学物質に因果関係があり得るとする報告書草案を発表している。

報告書には、検出された化学物質として、ガソリン、軽油、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ナフタレン、イソプロパノール、グリコールなどが挙げられているのだけれど、これらは、採掘時というより、使用済みの汚染水を貯蔵する溜め池からの漏洩や、汚染水を地下に圧入廃棄する段階で汚染が発生している可能性が高いと考えられているようだ。
※因みに水圧破砕法で、混入されるのはこれら化学物質以外に、圧入の様子を計測するために、放射性ヨウ素131も投入されるようだ。

このように、実際に採掘となった場合には、いろいろ検討・対策すべき問題が出てくるものと思われる。よって商用生産にあたっては、全体の埋蔵量と生産コストおよび環境影響との兼ね合いから慎重に進めるべきだと思う。

ただ、今回の秋田のシェールオイルの埋蔵量は、「鮎川油ガス田」「申川油田」、「由利原油ガス田」の3カ所合せて、500万バレルを想定しているようで、秋田県全域では1億バレルにもなる可能性があるという。

とはいえ、日本の年間石油消費量は桁が違う。「2011BP世界エネルギー統計」によると、日本の1日当たりの石油消費賞は445万バレル。年間だと16億バレルを超える。だから、秋田のシェールオイルの埋蔵量が1億バレルあったとしても、ひと月分にもならない。

それに一億バレルなんていっても、秋田全域での話。一体何か所掘らないといけないのか。

実は、2000年に、政府の石油審議会開発部会基本政策小委員会内の国内石油・天然ガス基礎調査検討ワーキンググループは、秋田の鮎川油・ガス田にある、女川層のシェール貯留岩がどこまで広がっているかの調査報告を出しているのだけれど、それによると、シェール貯留岩は女川層においても分布が限られ、広域的な広がりを持つものではないとして、当面国内基礎調査の対象とする必要は無いと結論づけられている。

今回候補に上がっている、3ヶ所の油田にしても、鮎川と由利は共に、秋田南部に位置していて互いに近いけれど、申川は牡鹿半島だから秋田北部になる。だから、今回の採掘も、シェールオイルの質がよく、採算が取れそうなところに絞ってのことで、秋田全域で一億バレルというのは、期待込みの少し虫の良い話に聞こえなくもない。

少なくとも、日本の原油の年間消費を全部カバーするだけのものにはなりそうにない。将来の採掘技術獲得のための事業だと考えたほうがいいかもしれない。

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この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    現場の人の考えは別として, 省庁の思惑は
    メタンハイドレート隠しに違いない.
    そもそも, メタンハイドレートの算出される
    地域は地震多発地帯であるから, 地中には
    多くのクラックが存在する. このため,
    本来は地中に溜るべきガスが海底で液化した
    と考えるのが常識的な線だ. 従って,
    石油にしても, シェールガスにしても,
    メタンハイドレートにしても相互の関連がある筈.

    この関連を調べるためには日本海の調査に
    相当な投資を行なう必要がある. この投資は
    現時点では大変に好ましいものだ.

    しかるに, 欧米で確立した手法を使うだけの
    シェールガス開発には国際資本や大陸・半島
    からの工作の臭いがプンプンする.

    兎に角, 日本に如何なる可能性があろうと,
    嘘付革命政権が日本のために何かをするとでも
    期待する方が無理.
    2015年08月10日 15:25
  • sdi

    この「水圧破砕法(ハイドロ・フラッキング)」自体が石油採掘技術そのまんまですね。油田に水または海水を注入して水圧で石油を押し上げて石油の噴出圧をあげて採掘量を増やすもしくは維持する手法ですが、地中の変化を予測しずらいせいかコントロールが難しく常に成功するとは限らないそうです。
    以前よりは地層シミュレーションの精度も上がっているとはいえ、どれぐらい採掘できるかは「やってみないとわからん」というのが正直なところなのではないでしょうか。秋田県は新潟県とならんで石油の産地で自噴していたくらいです。それなりの埋蔵量なのでしょうが、今の日本の石油の消費量が巨大すぎて量的には焼け石の水ですね。そういう点で「駄目で元々。上手くいげば儲物」みたいな面もあるかもしれません。
    ただ、日比野殿が仰るとおりここで採掘実績を上げることで資源外交のカードのひとつとして活用することは可能でしょう。海底からシャーベットを吸い上げたり深海油田掘るよりは難易度は低いでしょう。あとはお決まりの反対運動ですが、地下水汚染や地盤沈下で反対する人が出るのはデフォとして、「地震を誘発する水圧破砕法(ハイドロ・フラッキング)絶対反対」
    2015年08月10日 15:25

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