福島・土湯温泉のバイナリー発電
東日本大震災からはや1年と3ヶ月余り。被災地はまだまだ震災の影響から抜け出していない。特に原発事故は、福島県の観光業に大ダメージを与えた。
震災直後に福島県旅館ホテル生活衛生同業組合が加盟施設631施設を対象に、観光客の予約キャンセル状況を調査した結果、延べ67万9,900人、金額にして約74億円の損失が出たというから相当なもの。福島県内の温泉地とて例外ではない。福島県の中通りに位置し、福島駅から約16km離れた土湯温泉もそのひとつ。
土湯温泉は、用明2年、病に倒れた聖徳太子の父、用明天皇の回復祈願と仏教布教のため東国に遣わされた秦河勝が半身不随の病に侵され臥していたところ、聖徳太子が夢枕に現れ「岩代国の突き湯に霊湯あり。そこで湯治せよ。」と説いたという伝承が残る古くからの名湯。
年間60万人の観光客が訪れ、福島市でも重要な観光地だったのだけれど、原発事故後は、宿泊者数が激減、16軒あった旅館・ホテルのうち5軒が廃業、1軒が長期休業に追い込まれている。
こうした中、土湯温泉町は町内会などで作る住民組織は「土湯温泉町復興再生協議会」を発足させ、温泉街の復興を目指し、廃業旅館の活用や再生可能エネルギーの導入などを柱にした「土湯温泉町スマートコミュニティ構想」を掲げ、復興事業に着手している。
この構想は、福島大の渡辺正彦客員教授らが示した構想で、廃業旅館の活用し、日帰り温泉と一体化した温泉センターなどへの転用、温泉水を活用し野菜を栽培する植物工場の開設、高齢者向けの温泉付き集合住宅の建設や、蒸気や熱水で電気を作るバイナリー発電を活用した温泉街のエネルギー完全自給化などがある。
環境省は、平成23年度第三次補正予算で、再生可能エネルギー事業のための各種調査・検討を公募し、44件の応募の中から、8件を採択しているのだけれど、土湯温泉のバイナリー発電もこれに採択されている。
バイナリー発電については、「高温岩体発電と地熱バイナリー発電」で触れたことがあるから、説明は繰り返さないけれど、地熱発電のひとつ。ただしタービンはアンモニアを気化させて回し、温泉はアンモニアを温めるだけにしか使わないから、温泉はそのまま温泉街に供給できるという利点がある。
土湯温泉の源泉は土湯温泉街を流れる荒川を上流に2キロほど上ったところにある。今は、震災の影響で4本ある源泉のうち1本を止め、3本を使っているのだけれど、源泉温度は135℃から150℃。これが地下を115メートルほど掘削すれば出てくるのだという。当然この温度では温泉としては熱過ぎるので、65℃に冷やして温泉街に分配している。わざわざ冷やす分、熱エネルギーが無駄になっているから、これを発電に使ってしまおうというのが、土湯温泉のバイナリー発電。これだと源泉を汚すこともないし、余分な熱を拝借して発電するだけ。新たに掘削する必要もない。
土湯温泉のバイナリー発電は、「売電」を目的としていて、平成26年春の稼働を目指している。2013年秋には、1時間当たり250キロワット、将来的には1000キロワットの発電量が目標で、これは、土湯温泉の1時間当たりの使用電力に相当するというから、電気については温泉街丸ごと自給自足できる計算になる。
最近、各プラントメーカー各社がバイナリー発電に相次いで参入してきているのだけれど、これは規制緩和の影響が大きいようだ。
従来の地熱発電においては、出力7500キロワット以上で環境影響を詳細に記したアセス作成が義務づけられ、作成から審査に至るまで数年の期間を要していたのだけれど、バイナリー発電のように、その多くが、7500キロワット未満の場合にはアセス作成が不要になる。また、電気事業法の改正でタービン技術者の選任が不要になったこと、更には、この7月から再生可能エネルギーによる電力の買い取りが始まったのも追い風になっている。
それでも、初期投資には約3億5千万円程度かかるそうで、土湯温泉観光協会は、費用の捻出のため、株式会社あるいは第三セクターなど、さまざまな組織づくりを検討しているという。
6月29日、復興庁は、2011年度予算に盛り込んだ事業費14兆9243億円のうち、約4割に当たる5兆8728億円が年度内に執行されていなかったと発表しているけれど、土湯温泉のバイナリー発電のように、費用捻出に苦しむところがある傍らで、6兆円近くもの予算が手つかずで繰り越される。どうにも納得がいかない。
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この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
売電で地元は旨く行けば儲かるから良いが,
高い電力を買わされる方, つまり一般消費者
にとっては実は迷惑な話だ.
効率の良い大規模発電をしっかりと考えて欲しい.
前にも書いた様に, あちこちで少しずつ発電され
るのが最も全体効率が悪いと思う.
最近リバイバルで売れたダイアモンドの
「銃・病原菌・鉄」を読めば分かるが,
生産効率こそが高い文化を維持する鍵である.
効率低下は生産に必要な割合の増加を要し,
それは物質的生産に携わらない人を減少させる.
文化的な観点からは, 発電効率の改善こそが善で,
社会主義的な自然エネルギー発電こそ悪である.