F35A正式契約

 
6月29日、防衛省は次期主力戦闘機に選定したF35Aについて、2017年度に取得する4機分をアメリカと正式契約した。

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価格は交換部品を含めて当初予定の1機99億円から若干上がって102億円となったのだけれど、これは、F35の共同開発が遅れていることに加え、今年1月にアメリカ政府がF35調達計画の一部を先送りしたことにより大量生産の目途が立っていない為。

ただ、2017年度に4機導入するといっても、F35の機体が日本にくるとは必ずも限らない。というのは2017年度時点ではF35は完成品にはなっていないから。

戦闘機は、勿論、機体さえあれば、それでOKじゃない。ミサイルなどの兵装を装備し、レーダー、地上とのデータリンクや訓練用シミュレータなど様々な装備を含めて全体として運用できて始めて戦闘機としての性能を発揮する。

現代の戦闘機の生産は、いきなり完成品を作るわけではなくて、生産ロット毎にブロックと呼ばれるいくつかのグループに分けて、徐々にバージョンアップしながら生産を行なう。

F35についていえば、次の4段階のブロックに分けての生産が予定されている

ブロック0.5(lot1~2)
ブロック1.0(lot3~5)
ブロック2.0(lot6~)
ブロック3.0

ブロック0.5は、基本的な飛行能力だけの機体で武器は使用できず、訓練用のソフトウェアのみ搭載されている。

ブロック1.0は、限定的に武器が使えるもので、最大2発の中距離空対空ミサイル(AMRAAM)と精密誘導弾(JDAM)のみ使用可能。

ブロック2.0は、限定的な戦闘能力を持ったもので、ブロック1.0の武器に加え、レーザー誘導爆弾も使用できる。また、航空阻止攻撃や近接航空支援、電子攻撃などのミッションの遂行能力を持っていて、統合戦術情報伝達システムである無線データ通信システム(リンク16)も搭載する。アメリカ軍はこのブロック2.0で「初期運用能力(IOC)」を取得するとしている。

ブロック3.0は、完全な戦闘能力を持たせたもので、敵防空網制圧(SEAD:Suppression of Enemy Air Defence)などのミッションの遂行能力を持っている。更に、完全なデータリンクやAMRAAMの4発内蔵や外装運用も可能となる。

このように、F35はブロック3になってようやく完成品となるのだけれど、アメリカはIOCを獲得した段階で許可されるF35の量産承認は2019年以降になるとの報告書を議会に提出していることから、どんなに早くてもブロック3を搭載したF35は2019年以降でないと納入されない可能性が高い。

当初の計画では、ブロック1を2012年から生産開始し、ブロック2は2014年度から生産、そしてブロック3を2016年から生産の予定だっったのだけれど、ブロック3が2019年度以降に開発が遅れたことを考えると2017年度の日本が取得できる機体は、良くてもブロック2、下手をするとブロック1になる可能性がある。

では、現時点でF35はどこまで開発されているのかというと、ロッキードマーチン社のレポートによると、2011年12月5日現在、F35A(空軍仕様)は初期量産(LRIP)10機と、システム開発・実証(SDD)2機、F35B(海軍仕様)は初期量産(LRIP)7機、そして、F35C(海軍仕様)が初期量産(LRIP)3機納入され、各基地に移送され、飛行訓練が行われている。

更に、ようやく、初期量産(LRIP)ロット5についての長納期部品(約30機分)に対する予算が承認されたと報告されていることを考えると、現時点では、ブロック1の開発段階だと思われる。

それに、F35の契約には、価格や納期を変更しても違反を問われない有償軍事援助(FMS)が結ばれていて、特例が認められない限り、初期運用能力(IOC)の承認前に装備品を海外に輸出できないことになっている。

従って、2017年度の段階では、書類上だけで、F35を日本に納入する、いわゆる「名義変更」だけ行って、実物は2019年度以降にならないと入ってこないのではないかと見られている。

だけど、F4Jの後継として選定されたF35の調達が7年も先の話となるのは、日本の防空にとっては痛手となる。いくらなんでもF4Jがあと7年も今のまま運用できるとは思えない。

ただ、今の日本の防空任務からいえば、要撃戦闘機には、搭載した兵装が運用できることは当然だけれども、高度なステルスも、敵防空網制圧能力も必要ない。むしろ、対ステルス感知能力を強化し、地上とのデータリンクをどうするかをもっと検討すべきだろうと思われる。

だから、日本の防空を考えるならば、2019年以降のブロック3量産機の導入まで待つのではなく、ブロック2レベルから運用を考えてもいいのではないかと思う。もちろん、ブロック3が開発されたら、ブロック2の機体をブロック3にバージョンアップすることは大前提であるのはいうまでもない。

是非、政府・防衛省には頑張ってもらって、ブロック2の生産ロットからの納入・運用も検討していただきたい。


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この記事へのコメント

  • sdi

    後知恵ですがユーロファイターよりはベターだった、ということになるのでしょうね。
    インドへのセールス合戦でラファールに完敗している理由が電子兵装のグレードの差、なんて話を聞くと結果としてF-35は無難な選択なのでしょう。アメリカ側から生産についていろいろ妥協案もでてきました(実現するかは今後の交渉次第)。何より、一国が独力で戦闘機を自主開発する時代は終わったとのでは?、と私は考えます。かかる経費がハンパじやない。それもハードではなくソフトです。強引にそれをやろうとするなら、開発にかかわる莫大な赤字を全て調達側(要するに政府)が負担し、かつ赤字減らしのために官民一体でなりふりかまわず無節操に海外セールスするくらいの覚悟が要ります。フランスやスウェーデンがF-35相当の新世代機を自国だけで開発できるかどうか。ラファールやグリペンのバージョンアップが精一杯ではないでしょうか。
    2015年08月10日 15:25

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