7月31日、放送倫理・番組向上機構(BPO)の「放送倫理検証委員会」は、日本テレビの報道番組の企画内で"不適切な取材対象者"が紹介されていた事案について、意見を公表した。
これは、4月25日に日本テレビ系列で放送された「news every」の中で、「飲み水の安全性」をテーマに、福島第一原発事故による放射能汚染が食べ物や飲み物にどんな影響を与えているかという検証番組のなかで起きた。
番組は、今年4月から、食品中の放射性セシウムに関する国の基準が引き下げられ、飲料水は200ベクレル以下から10ベクレル以下へと厳しくなったと説明し、水道水の安全性を徹底検証するという前置きで始まり、原発事故後、ペットボトルの水や、大型ボトルで宅配される水を購入する人が急増していることを紹介。
宅配の水を購入している主婦の方へインタビューし「1回、水道水に入っていたことがあったじゃないですか。だから怖いなと思って…神経質と思われるのもいやなんですけど、子どももいるし、あと10年後、15年後に、ああしとけばよかったとか、こうしとけばよかったとか思いたくないので」などと語る場面を放送した。
その一方、金町浄水場で、水道水がどのように浄水されるかについての検証として、放射性物質が除去される実験を行い、金町浄水場で作られた水道水からは放射性物質が検出されていないことを確認する場面を放送し、その上で、水を作る側の努力と飲む側の意識には溝があるという結論で締めくくっていた。
この放送で問題となったのは、宅配の水を飲んでいるとインタビューを受けた主婦が、宅配の水を製造・販売する会社の会長の娘で、社長の妹。更には、夫が執行役員として同社に勤めていて、本人もその会社の大株主であったこと。要するにヤラセではないかということが問題視された。
放送倫理検証委員会は、件の放送と、その後の日テレ内の社内調査にかかわった社員11人に対し、14時間に及ぶ聴き取り調査を行い、日テレの報告書や、宅配水企業の報告書等を参考に、その経緯を検証した。
その報告書を見ると、問題の主婦が選ばれれたのは、日テレ側が宅配の水を利用している人への宅配動向取材を、宅配水企業に申し入れたのだけど、個人情報の問題から拒否され、やむなく、紹介を依頼していたのだけれど、宅配水企業側の担当者が入社して日も浅かったことから、経営陣の親族だと気づかず、紹介してしまったようだ。
また、取材の際、くだんの主婦は「ご主人はどんな仕事をしていますか」などの質問にも、曖昧な答えで対応し、正確な事実を話さなかったのだけれど、取材側も、紹介してくれた宅配水企業の担当者も立ち会ってくれたことから、信頼できると判断し、それ以上突っ込んだ確認は特にしなかったという。
放送倫理検証委員会は、この件について、次の3つの問題点を指摘している。
1.ベテランゆえの過信
2.サブテーマゆえの落とし穴
3.機能しなかった「企業・ユーザー取材ガイドライン」
これらの詳細については、ここでは触れないけれど、報告書を読む限りでは、細かいミスが積み重なって大きな事故に繋がる典型例のように見える。似たような事例は、他の会社などでも、ままあることではないかと思う。
とはいえ、テレビなどマスコミにとっての製品とは情報そのものだから、製品の品質に問題があれば、クレーム対応や、保障を行うのは企業として当然行うべきもの。家電メーカーやなんかでは、1年保障とか3年保障とかなんか当たり前についているのに、マスコミは自身の記事に1年保障どころか、1日保障さえついていない。この点に関していえば、他業種に大きく遅れを取っている。
ただ、番組を制作する側に言わせれば、BPOは無視できない組織なのだという。週刊ポスト2012年8月17・24日号では、2人の現役テレビマンに、現場はどう捉えているのかについての匿名インタビュー記事を載せている。次に引用する。
お台場A:「局は本当にBPOのことを気にしていますよ。ウチでもBPOの審議入りしないために会議が開かれていて、その議事録が局の人間全員にメールで送られてくる。番組の作り方や、クレームの内容が書かれていて、『ヤラセ、過剰演出はしないように!』と注意を喚起している」とまぁ、現場の人の感覚では、すぐにネットの掲示板で騒がれて、「電凸しろ」なんて視聴者がいる、そうなのだけれど、例えば、買ったカメラが壊れていたら、直ぐに買った店に言って交換して貰うのは当然だろう。中には、本当は壊れてなんかいないのに、使い方がよく分からず、動かないから壊れたのだと勘違いして店頭に文句をいう人だっているだろう。そんな人に対しても、メーカーはきちんと対応する。客を客とも思わない殿様商売の店は潰れるだけ。
汐留B:「特に最近はすぐにネットの掲示板で騒がれて、『電凸しろ(電話でクレームを入れて突撃しろ)』なんて視聴者がいる。そしてフォーマットがあるのか、ご丁寧にテレビ局からスポンサー、BPOの電話番号まで転載する。誰かが電話し、BPOも無視できずに連絡してくる。最悪、審議入りです」
――審議入りするとどうなるのか?
お台場A:「BPOには放送倫理検証委員会というものがあり、そこが放送倫理に違反しているかどうかを審議する。ヤラセ、過剰な演出、公序良俗に反していないかなどがチェックされるわけ。ただ、違反認定されても罰則はない。ではなぜ気にするかというと、審議されたというだけで、CMスポンサーが極端に嫌悪感を示すからです。2008年のリーマン・ショック以降、広告出稿が低下したから、上層部や営業部門が敏感なんですよ」
汐留B:「今の日本のテレビ局はスポンサー第一主義。日テレのバラエティ番組『芸能★BANG+』が7月17日に打ち切りになった(※)のは、まさにBPOの審議入り後でした」
※5月4日放送分で、お笑いコンビ「オセロ」の中島知子が占い師と同居していた話題を取り上げ、「オセロ中島騒動 あの占い師がスタジオ登場」などとテロップで散々煽ったが、実際に登場したのは占い師の知人の別の占い師だった。同局には視聴者から多数の苦情が寄せられ、BPOの審議入り。7月17日の放送で番組が打ち切りとなった。
このテレビマン氏は、2008年のリーマン・ショック以降、広告出稿が低下して、スポンサーが敏感になったとこぼしているけれど、ようやくにして、世間一般の会社が揉まれている市場という海原の端っこに漕ぎ出したということ。人の口に戸は立てられない。電凸されるなんて愚痴をいう暇があるのなら、自社の報道品質を向上することに力を入れるべきだろう。
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この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
このような遵法義務のある法人のミスには
法律通りの対応をすべきだと思う. この例の場合,
知らない方が良いという判断もあったに違いない.
実際, 知っていたとすれば担当者への処罰がある.
調べていなければ今度は気をつけろで済む.
現在の日本は個人と社会的団体, 或は
私と公の区別が曖昧になっているのではないか.
公に厳しく私に優しくが公正な社会を作ると思う.