増税法案成立合意と解散までの道のり

 
8月8日夜、民主、自民、公明の3党は党首会談を行い、消費増税法案を早期に成立させることで合意した。

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ただ、これには朝からすったもんだした。

8月7日の段階では、自民は8日の昼までに早期解散についての明確な回答がなければ、独自の不信任案、問責決議案を出すとしていて、8日の朝に民主・自民・公明の3党の国会対策委員長の会談が行われた。この中で民主党は「一体改革の関連法案が成立したあかつきには、近い将来、信を問う」との妥協案を示し、党首会談を要求した。

自民党は、これを持ち帰って衆参両院の幹部が対応を協議したのだけれど、「自民党が求めている衆議院の解散の時期が『近い将来』という表現では話にならない」といった意見が相次ぎ、現状では党首会談に応じられないとして、これを拒否した。

実際、この『近い将来』という表現は、民主党には任期の切れる来年夏頃までを想定していたようだ。というのも、8日の午前、民主党の樽床幹事長代行は、国民新党の下地幹事長と会い、「急に衆院解散するものではない」と説明していて、下地氏が「近い将来」は来年8月の衆院議員の任期満了も含まれると念を押すと、樽床氏はこれに同意している。要するに、任期一杯まで解散しないという、実質上のゼロ回答。

ゼロ回答をしておいて、党首会談などと、どこまで人をナメた態度でいるのかと思うのだけれど、自民がこの段階で拒否したのは結果的に正解だった。石原幹事長が「『近い将来』が一体いつを指すのか、全く分からないので、もっと具体的な表現でなければ、到底納得できない。『信を問う』と言ったことは一歩前進だが、あまりにも漠然としているというのが率直な印象だ」というのも、むべなるかな。

そして、15時過ぎには、2度目の国対委員長会談が行われたのだけれど、民主党の城島氏は、「『近い将来、信を問う』というのはギリギリの表現」と時期の明確化を拒否し、物別れに終わった。

だけど、その後民主党側が軟化。藤村官房長官は16時の会見で「午前中に、そういう言葉があったのは確かだが、むしろそれは、そういう言葉も『一旦白紙に戻す』ということも、城島さんも、なんかそういうことを言っているようですから、そういう言葉が出るかは党首間の腹臓なきやりとり…」と、『近い将来』発言を白紙撤回した。

ところが、17時半から行われた民主党の両院議員総会で、野田首相が「総理の専権事項、大権として、解散時期を明確化、明示することはどんな事情があってもできない」と、白紙撤回を撤回する"ちゃぶ台返し"を見せる。もう訳が分からない。

普通であれば、これで決裂だろうと思うのだけれど、それでも、夜には3党による党首会談を行い、今回の合意となった。悶着した『近い将来』の文言は『近いうち』と書き換えられ、「法案が成立した暁には、近いうちに国民に信を問う」という表現となった。だけど、"近い将来"と"近いうち"で一体何がどう違うのか。何故これで折り合えたのか。

会談後、野田首相は解散時期について「具体的に明示することは控えなければならない」と述べ、自民党の谷垣総裁は「近いうち」の解釈について「それ以下でも、それ以上でもない」と述べていることから、実際の会談の席上では具体的な解散日程について提示された可能性があると見る。



まぁ、一部には、谷垣氏は、またいいように騙されたなんて意見もあると思うけれど、谷垣氏は谷垣氏でそれなりにプレッシャーを受けていた。8日に行われた、参院自民党総会での溝手参院幹事長の挨拶にその一端が垣間見える。産経新聞の阿比留瑠比氏のブログから、次に引用する。
溝手氏 最終的に昨日の夕方、谷垣総裁、大島副総裁、石原幹事長と打ち合わせをしました。大変失礼だと思ったんですが、(谷垣氏に)はっきり、言わせていただきました。「いい結果が出ないときには責任を取る覚悟はあるか。それだけ腹をくくっておやりになっているでしょうね。腹をくくってやろうということになれば、執行部の端くれにいるわれわれにとって全力をあげて協力する」という話をした。(谷垣氏は)「政治生命を懸けてやる」ということをわれわれ参議院のここにいる全員の前でおっしゃったから「嘘付け」とか「そんなことあるか」とかと言うような状況ではないし、説明を受け入れた。

それから、最後の問題ですが、ものごとが健全に動いているときはアンダーグラウンドとアッパーグラウンドがあるが、保育所や幼稚園の子と議論するような状況であるので、表も裏もまったくない。非常にわれわれは不幸だと思わなくちゃいけないと思う。われわれが培ってきた政治手法が通用しない人たちに政権を盗られてしまったことは反省しなければいけないが、いわゆる新しい時代であります。中がばらばら、がちゃがちゃですから、いろんなことをやろうとしているということは事実だし、理解していただきたい。
とまぁ、谷垣氏も今回のことで政治生命を懸けると発言しているから、軽い気持ちで党首会談に臨んではいないだろう。したがって、表沙汰には出来ないけれど、やはり、具体的な解散日程についての言及はあったのではないかと思う。とすればそれはいつなのか。

やはり可能性が高いのは、今国会会期末である9月8日。会期末の解散ではないかと思う。

というのは、党首会談後の記者会見で、谷垣氏は、自民党独自の内閣不信任決議案と野田佳彦首相の問責決議案について「当面は出さない」と述べたから。

既に、自公以外の野党6党から内閣不信任案と問責決議が出されている。一事不再議の原則からいえば、野党6党から内閣不信任、問責の採決を先に行われてしまえば、もう今国会中に自民は不信任や問責は出せないことになる。

実際、党首会談が終わった後、衆議院議院運営委員会は理事会を開いて、野党6党の内閣不信任案について、9日夕方に採決を行うことを決めている。

つまり、谷垣氏の「当面は出さない」発言は、実質上、今国会で、自民は不信任や問責を出せないということを意味している。ただ、これは裏を返せば、今国会中でケリをつけるという意味にも解釈できるから、やはり、会期末解散になるのではないかと思う。谷垣氏の党首会談後の会見動画を見る限り、筆者には谷垣氏が、どことなくすっきりした表情のように見えた。おそらく何らかの"成果"を得たのではないかと思う。

とはいっても、そこはそれ、世間から「嘘つき政党」の二つ名を頂戴している民主党のこと。仮に解散の約束をしたとしても、それを守ってくれる保証は全くない。

特に、野田首相はいざ知らず、民主党内は解散には真っ向反対している。だから、万が一、"話し合い解散"が党内に漏れようものなら、猛烈な"野田降ろし"をやって、民主党代表から引きずり降ろす可能性がある。そして新しい代表が、「話し合い解散の約束なんて、知らない」としらんぷりして反故にしてしまえば、それで終わり。

だから、自民党としても、裏切られた時の為の、何らかの保険はかけておきたい筈。となると、次には、特例公債法案を人質にして様子を見ることになるだろうと思われる。

一方、野田首相としても、本当に"話し合い解散"を約束したのであれば、解散直前まで、それを党内に気取れてしまうことは大きなリスクになる。だけど、夕方まで強硬に不信任を出すとしていた自民党が党首会談が終わった途端、ころっと不信任を出さないとなったこと自体が、話し合い解散の約束をしたのか、と民主党内を疑心暗鬼にさせる要因になるだろう。おそらく、野田首相は党内に対しては、「早期解散なんて約束していない」と言い張ってやり過ごすだろうと思うけれど、そう簡単に事が運ぶかどうか…。

だから、増税法案が採決されたとして、そのあとの会期末までの間に、何の法案が審議されるのか。そして、民主党内で解散に向けた動きや"野田降ろし"が起きるのかどうかを含めて、状況を注視する必要がある。まだまだ、どう転ぶか分からない。


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この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    決断力のないものほど「苦渋の決断」と言う.
    何のプレッシャを受けたのか知らんが,
    命を捨てる気になれば何でもなかろう.
    命をかけた経営者は世間にゴロゴロしている.
    自由民主党の総裁とはそこまで野党化したのか.
    2015年08月10日 15:24

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