増税か民主党かの二者択一

 
8月6日、自民党の谷垣総裁は、増税法案の参院での採決前に、野田首相が早期の衆院解散の確約をしない限り、問責決議案と内閣不信任決議案を提出する意向を示した。

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これは、谷垣氏が広島市で開かれた平和記念式典に出席したあと記者団に対して述べたもので、谷垣氏は、増税法案について、「成立すれば、どこかできちんと国民に信を問うて、体制を立て直していくことが必要だ。野田総理大臣が、そろそろそういう決断をするかしないかというところに来ている」とし、記者団が「衆議院の解散を確約しなければ問責決議案や内閣不信任決議案を提出するのか」と質問したのに対し、「自民党内ではそういう議論が極めて強くなってきている」と答えている。

谷垣氏の要求は、要するに"話し合い解散"のこと。筆者は、8月2日のエントリー「3党合意破棄と話し合い解散」で、本当に増税法案を成立させたければ、「話し合い解散」をしろ、との自民が野田政権にメッセージを送っていると指摘していたのだけれど、それが表沙汰になった形。先月末からサインは出ていた。

この裏には、小泉元総理の存在があるという。

7月28日、小泉元総理は、都内のホテルのロビーで、石原幹事長を呼び止め、「いったい何をやっているんだ。野党が解散権を握ってる政局なんてない。こんなチャンスは珍しいんだぞ!」と、激を飛ばし、他の党幹部や派閥領袖らにも電話で「勝負時だ」と説得したのだという。なるほど、これなら、8月1日、小泉進次郎議員が、3党合意破棄を谷垣氏に申し入れたのも納得がいく。

これに対して、野田政権は実に鈍かった。

野田首相は、8月1日、連合の古賀会長と会談した際、来年度予算編成にまで言及し、「俺にけんかを売っているのか」と谷垣氏を激怒させ、8月2日、自民党が党幹部会で首相問責決議案を提出すると打ち出しても、解散・総選挙日程について「寝言でも言うつもりはない」と明言しなかった。

そして、8月3日、野党7党の内閣不信任決議案に自公が同調するのを避けるためか、輿石幹事長に「自公両党とガタガタするのは良くない。これから輿石さんと会ってお盆前の採決をお願いする」と、申し訳程度の10日の採決を指示しているけれど、何とも想像力に欠けている。

自民の要求を、額面どおりにしか受け取らず、それすら駆け引きや交渉でなんとかなると考える暢気さ。"ぶぶ漬け"を出されても、平気で食べてけろっとしているようなもの。



8月6日になって、自民が強硬姿勢を崩さないのに慌てた民主党は、自民党との参院国対委員長会談を開き、消費増税関連法案を8日に採決する案を提示したのだけれど、二手は遅れてる。

自民党は谷垣禎一総裁ら幹部が、民主党の8日採決案について対応を協議したのだけれど、野田首相が早期の衆院解散を採決前に確約しない限り拒否する方針で一致。不信任案や問責案の扱いを谷垣氏に一任している。

石原幹事長は、民主党の8日採決案について、「遅きに失した…緊迫した事態を乗り越えていけるのは首相の決断だけだ。『法案を通した後、3党合意が正しいのか(国民に)聞く』とはっきり言えば、新しい局面が生まれる」と述べ、民主党を批判した。

ということで、野田首相が早期解散を確約しない限り、問責と不信任案の提出は避けられない事態となった。

ただ、不信任案についていえば、自民以外にも、野党7党が共同提出する方針でいる。だから、場合によっては、自民からと野党7党からと2つの内閣不信任案が提出されることになる。

これまで複数の不信任案が衆院本会議に同時に提出された例は過去3回あるのだけれど、一つの会期中に同じ議案を2度は扱わない一事不再議の原則から、会派勢力がより大きい政党からの不信任案を採決し、残りは採決されなかった。

今回も同様に扱うのであれば、120人の会派を持つ自民党から出される不信任案のみ採決し、野党7党の不信任案は採決されないことになるのだけれど、8月5日、「生活」幹部は都内で記者団に対し、「理由はどうであれ大局的には同調することになるのではないか」と述べているように、野党7党は自民提出の不信任案に同調すると見られている。

ただ、野党がこぞって不信任案に賛成したとしても、衆院では依然民主党が過半数を押さえているから、そのままでは不信任は可決しない。可決させるには、民主党内から15人以上の造反が必要になる。

民主党には、先の小沢氏らの離党騒動で、増税法案の衆院採決で反対・欠席しながら党にとどまった議員が32人いるのだけれど、鳩山元首相ら23人は、消費増税に反対する「消費税研究会」を設立するなど、その大半は鳩山氏に近い。

その意味では、不信任案が可決するか否かは鳩山氏が握っているともいえる状況になっているのだけれど、鳩山氏は、早期の総選挙は避けたい様子で不信任案には反対すると見られている。

鳩山氏は反対に回ると不信任案は否決される公算が高いのだけれど、自民が不信任案および問責を出すとなれば、当然、その後の参院での審議は拒否することになる。公明は、自民が不信任案や問責決議を提出することについて反対しているのだけれど、民主と公明だけでは、参院の過半数に届かない。だから、参院で採決しようとしても否決されるだろうし、採決をしなくても、衆院から送付後60日経過すれば、「みなし否決」になる。

「みなし否決」の場合は、衆院の3分の2以上の賛成で再可決できるのだけれど、民主と国民新では衆院3分の2の議席なんてないから、再可決はできない。増税法案は廃案になってしまう。

つまり、自民が不信任案及び、問責を出した時点で、増税法案の廃案はほぼ確定する。

かといって、法案を通すために、解散を選ぶと、総選挙では民主党が大敗北する可能性が高く、民主党そのものが崩壊の危険にさらされる。

野田首相は、増税を選んで民主党を壊滅させるのか、それとも、増税を諦めて、党の存続を図るのかという究極の選択を迫られている。


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