石原都知事が手にいれた「尖閣カード」
尖閣の国有化を巡って、政府の買い取り交渉が停滞している。
政府は当初、首相側近の長浜官房副長官らが地権者の栗原氏と会い、国有化について交渉したい意向を打診していたのだけれど、地権者が面会には応じなかったため、政府は関係者を通じ、購入額として約20億円の購入額を提示したと伝えられている。
だけど、栗原氏側は政府との交渉はせず、東京都との売却を進める意向のようだ。
7月20日、栗原氏側は日本外国特派員協会で会見し、「スタートラインは東京都ということで話し合いが進んでいる。政府等々話があるが、最初の話を蹴飛ばして、いきなり政府ということは、私どもとしては考えていない…Aさんに売買ということを終わっていない間にBさんに売っちゃうかな、というような心情の持ち合わせがない」と述べている。その一方で、東京都に売却された後の国有化について、「都がそのまま維持するか、国に移管するかは、都の問題」と容認する姿勢を示している。
栗原氏のこうした姿勢は、個人としての信義の通し方としてはほぼ完璧だろうと思う。もっといえば、都というか石原都知事に対して売ると見たほうがいいかもしれない。
まぁ、一部には、都に売っても、その後直ぐに、都が国に売ってしまったら、結局国に売るのと変わらないじゃないかという意見もあるのだけれど、そのとき、信義を問われるのは都であって、栗原氏じゃない。
栗原氏は信頼する人に、その人を信用して尖閣を委ねるのであって、売った後は、その思いを汲むも裏切るも都の信義の問題。だから、栗原氏が国への直接売却を拒み、都にしか売らない姿勢を貫けば貫くほど、その信義が浮き彫りになる。勢い、都が購入したとしても気軽に国に売るというわけにはいかなくなる。都としても国への売却にあたって、それなりの対応を求めるだろう。
実際、石原都知事は、国有化の条件として不法上陸した外国人を自衛隊などが排除することなどを挙げ、「国が買っても何もしないのではしようがない」と述べている。
面目丸つぶれの政府は、7月26日、政府高官が自民党の石原幹事長を訪ね、「知事と野田佳彦首相のメンツをつぶさずに尖閣を買い取れないか」と相談を持ち掛けるなど、下工作をしたのだけれど、石原幹事長は「そんなことを言われても困る。自分でできないから都知事の息子に会いに来るというのはひどい話だ」と一蹴している。
こうなると、政府としても、尖閣購入に対して"それなり"の姿勢を見せなければいけなくなる。
7月26日、衆院本会議で野田首相は、尖閣への中国船の領海侵入について「尖閣諸島を含むわが国の領土・領海で周辺国による不法行為が発生した場合は、必要に応じて自衛隊を用いることも含め、政府全体で毅然と対応する」と、尖閣諸島への自衛隊出動を検討していく考えを表明している。このタイミングでの発言は、当然中国に対する牽制であると同時に、石原都知事へのメッセージでもあろうと思う。だけど、それが本物であるかどうかは、実際の対応を見なくちゃいけないし、口だけならば、石原都知事も売却に同意しないだろう。
今回の野田首相の「自衛隊発言」について、中国は鋭く反応した。
7月27日、藤村官房長官の記者会見で、新華社通信の女性記者が、「自衛隊発言」について「尖閣の対応では軍事紛争を避け、外交努力を図る考えか」、「日本の自治体や一部政治家の動きが日中関係に悪影響を与えたという声があるが」などと7回も質問している。
また、同じく27日、中国外務省の洪磊報道官は「中国側はすでに日本側の極めて無責任な言論に重大な懸念と強烈な不満を表明した…外交努力を通して問題を解決したいという日本側の態度表明にも注目している」と不快感を示した上で日本側に探りを入れる発言をしている。
ここで、外務省なり、政府が中国に"配慮"して、野田首相が「自衛隊発言」を後退させるようなことがあると、今度は石原都知事が、こんなことでは、尖閣を国に売るわけにはいかない、と増々吼えるだろう。
つまり、石原氏が都知事でいる限り、尖閣を都が買い取った時点で、石原都知事は「尖閣カード」を持つことになる。この"尖閣カード"は、今後、小泉政権時代の靖国カードと同じような効力を発揮するのではないかと思う。
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この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
これがカードになるのは, 如何に日本の政治家が
「当たり前」のことをやって来なかったかを
浮き彫りにしている.
石原氏はこれが不満で自民党を飛び出たわけだが.