10月29日、第181臨時国会が開かれた。
この日午前に開かれた、衆院議院運営委員会の理事会と委員会には自公両党も出席し、33日の会期を議決したのだけれど、自民党の鶴保参院議員が委員長を務める参院議院運営委員会は理事会で「問責を受けた首相が登壇するのはまかりならない」と、野田首相の演説を聴取する本会議を開かないことを決めた。
これは、憲政史上初めてのこと。つくづく掟破りの政権ではある。
こうして通常は衆参両院で行われるはずの、所信表明演説は衆院だけで行われることになったのだけれど、正直なところ、また嘘かと思うと聞くのが虚しくなる。
野田首相の衆院での所信表明演説の全文はこちらにあるので、詳細は見ていただければよいと思うけれど、特徴的なところがあるとすれば、それは「明日への責任」というキーワード。
野田首相は演説で、社会保障・税一体改革などについては「宿題が残ったままだ。道半ばの仕事を投げ出すわけにはいかない」、特例公債法案は「与野党が胸襟を開いて、解決策を見いださないといけない」、1票の格差問題は「必ず、この国会中に結論を見いだす」と強調し、「明日への責任」というキーワードを20回も繰り返した。焦点とされた「近いうち解散」については「やみくもに政治空白を作って、政策に停滞をもたらすことがあってはならない」と野党を牽制しただけ。
だけど、いくら「明日への責任」を繰り返したところで、今という足元が崩れてしまったら、明日はない。
自民党の安倍総裁は、所信表明演説について「極めて評論家的な演説で、具体論もなく、大変失望した。…野田内閣に明日はないことを確信した。…国民に信を問うという一番重要な約束を果たしていない中では、何を言っても国民に届かないし、言葉にリアリティがない。ある意味、痛々しい演説ですらあった」と述べているけれど、これなどは、まさに野田政権の"今"が崩れていることを指摘している。
野田首相の所信表明は、明日のことばかり述べただけで、過去の反省もなければ、今の行動もない。
野田首相は演説の中で、脱・原発について「困難な課題から、目をそらしたり、逃げたり、あきらめたりするのではなく」と言っているけれど、その前にまず、解散総選挙という「困難な課題から、目をそらしたり、逃げたり、あきらめたりするな」といいたい。
今の状況に至った第一の責任は誰にあるのか。今やらなければならないことは何なのか。それに触れずに、明日を語られても、ただ鼻白むだけ。
安倍総裁ではないけれど、本当に心に響かない所信表明だったと思う。
では、野田首相が語るべき、過去の反省と今の行動とは何であるか。その答えは、先の参院で可決した問責決議の賛成討論の中にある。
野田首相に対する問責決議の賛成討論には、自民党の川口順子議員が立ち、その理由について述べている。その主旨を次に引用する。
この問責は、野田総理に対する問責であると同時に、民主党政権の3年間への問責であります。民主党政権はこの3年間に我が国に一体何をしたのか。端的に言えば、それは我が国の歴史の、我が国の政治の、経済の、そして外交の、修復しがたいレベルまでへの棄損です。この賛成討論を見てもわかるとおり、自民党は、民主党の過去と今について、問責している。明日への責任などではなく、過去の反省を求め、今の態度の間違いを正せ、と指摘している。過去と今が、全然ダメだから問責した。それが理由。
野田政権及び民主党には、それらを解決に導くための国家運営能力、すなわち与党力が、絶対的に欠如しています。また、責任感もありません。
野田政権は、全野党が欠席する中、衆議院選挙制度改革法案を衆議院本会議で強行採決しました。政権党が単独で自らに都合の良い制度をつくることをやってはいけません。野党との間で合意をつくる努力を放棄し、自民党提出の法案を無視し、参考人からも意見を聞かず、数の力で押し切りました。これは民主主義の土台作りを、非民主主義的手法で行うという、憲政上許されない暴挙です。
民主党政権が成立してから、日米同盟関係は劣化し、尖閣諸島の領土問題化を許し、韓国大統領の竹島訪問やロシア大統領の北方領土訪問を阻止できませんでした。米国の超党派の知日派が書いた報告は、日米同盟は、現在、危機に直面しており、日本は一流国家であり続けるか、二流国家に成り下がることを選択するのかについて、意思決定をしなければならないと厳しく述べています。そして日米同盟の評価は、日本が十全なパートナーであるかどうかにかかっている、と強調しています。
我々が大きな問題だと思うことは、民主党が約束を守らない政党だということです。民主党の作ったマニフェストは、最初から実現不可能でした。それを「実現する」と国民を欺いて政権を取りました。そして、当然の結果として、マニフェストでの国民との約束をことごとく反故にしました。その上で、マニフェストにない消費税増税に「政治生命をかける」という野田総理を誕生させたのです。本来は、この時点でマニフェストを撤回し、国民の信を問うべきでした。しかし、野田総理は、そうしないばかりか、消費税の増税はマニフェストに違反しないと強弁しています。
野田総理は、社会保障と税の一体改革を、与党内の造反のため、野党の支援がなければ通せなかったのです。こんな総理がよくやっている総理なのでしょうか。野田政権は、民主党との間で政策を一元化する力がありません。与党の議員をその決定に従わせることもできません。最近の離党騒ぎが、まさに、それを表しています。
決められない政治の正体は、まず、民主党が与党として機能していないことです。その党首が野田総理なのです。自分の党を統治できない総理には、政策を実行にうつす力がありません。多数を持っている民主党がその党首を支えられず、野党が支えてはじめて政策が前に進むのは、正しい、国民にとって分かりやすい議院内閣制でしょうか。
問責決議案について、法律に定めのない単なる決議だ、と思われる方もいらっしゃるようですが、本当にその程度の意味合いのものでしょうか。立法府である参議院の決定で法律ができるのですから、問責決議は非常に重いものなのです。これは、野田総理に問責を出した以上、二度と野田総理を参議院にお迎えすることはないという意思表示であります。内閣総理大臣野田佳彦君問責決議案・賛成討論 自民党・川口順子議員 から抜粋編集
この問責が可決した以上、これは参院議会としての意思になる。
だから、野田首相が参院に足を踏み入れたいのなら、過去を反省し、今の傲慢な態度を改めなければならない。でなければ、参院への参加は許されない。筋からいえばそうなる。
ところが、野田首相は、衆院の所信表明で、過去も今も一切触れず、ひたすら、明日のことだけを騙った。これが参院の問責に対する答えなのであれば、野田首相は、「けじめ」どころか、議会の意志すら拒否したことになる。
議会の意志を拒否した議員は、誰であろうとも議会に入れる訳いかない。良識の府であれば尚の事。でなければ、議会はその意味を失う。だからこそ、その象徴として、参院は野田首相の所信表明を拒絶したのだろう。この判断は正しい。
この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
渡さなかったらどうなるかが心配になってきた.
嘘付党の上層部のかなりが種々の法律違反を
行なっており, その伝で行くと, 前原氏も
責任は取らないだろう. 詐欺師が政権にいる時
誰が詐欺を取り締まるかと言う問題が起きる.
まさに, 日本の支那化を地で行くようなもの.
嘘付政権の「不法性」が明らかになってきている.
政府が法律を守らない場合, 警察はどうすれば
良いのか, 自衛隊はどうすれば良いのか, そして
国民はどうすれば良いのか.
答を出しておく必要があろう.