10月26日、野田政権は、景気を下支えするための緊急経済対策を閣議決定した。
財源は予備費を活用し、4200億円規模で、地方自治体の負担なども含めた事業費の総額は7500億円超となる見込み。主な内容は次のとおり。
経済危機対応・地域活性化予備費等の使用を決定した緊要性の高い施策(総額:国費4,000 億円超、事業費7,500 億円超)パッと見、それほど目を引くような内容はない。というか、.「日本再生戦略」や東日本大震災の復興支援と防災対策といった元々用意されていた施策を前倒しで少しだけやるという印象を受ける。
1.「日本再生戦略」における重点3分野(グリーン、ライフ、農林漁業)をはじめとする施策の実現前倒し 1,051 億円
(1)世界を主導するグリーン・エネルギー社会の創造 411 億円
(2)農林漁業の6次産業化の推進、意欲ある若者等の雇用の促進 520 億円
(3)iPS 細胞による再生医療をはじめ世界トップレベルの研究開発の推進 38億円
(4)その他 82 億円
2.東日本大震災からの早期の復旧・復興及び大規模災害に備えた防災・減災対策 2,643 億円
(1)被災地の産業・雇用の立て直し(復興予備費) 1,203 億円
(2)学校の安全対策 200 億円
(3)ゲリラ豪雨等への対応や、地域の総合的防災力向上 1,240 億円
合計 3,694 億円 (事業費 7,200 億円程度)
※1.及び2.(2)、(3)は経済危機対応・地域活性化予備費を活用。
3.その他
(1)海上保安庁の装備等の緊急整備(170 億円)
(2)災害復旧等事業(62 億円)
(3)成長分野における非正規雇用労働者をはじめとする人材へのキャリアアップを支援(既存基金の活用)(最大300億円程度)。「経済対策の取りまとめに向けて(予備費の使用決定に際して)」より抜粋編集
特に、1の「日本再生戦略」における重点3分野については元々、国家戦略としていたもの。因みに1-(2)の「農林漁業の6次産業化」というのは、ここ数年、農水省でも推進していキーワードで、東京大学の今村奈良臣名誉教授が提唱している概念。
よく産業の種別として、農業、漁業、林業といった、「第一次産業」、製造業、建設業、工業、鉱業等の加工産業を「第二次産業」、そして、「卸売業、小売業、情報通信業、輸送業、電気・ガス・水道業、教育、医療、福祉、金融、不動産などなど」のサービス業を「第三次産業」と呼んで、3つに区分することがあるけれど、「第6次産業化」とは、農業が農産物を生産するだけでなく、それを加工し販売するところまで視野に入れた事業展開をすることで、農業者が多くの利益に関われる仕組みを作ろうというもの。
6という数字は、第一次産業の「1」と、第二次産業の「2」と、第三次産業の「3」を足したところからきている。
ただ、これらの内容はおおざっぱにいえば、1の「投資・研究」と2の「原状回復」および3の「緊急手当」というものだから、麻生政権でやったようなエコポイントのように、民間の需要を掘り起こして、景気をぐっと押し上げる類のものじゃない。しかもそのエコポイントだけでさえ、7000億の予算を投じたのに、今回の緊急経済対策では全部で4200億。この規模では、どこまで効果があるのか疑わしい。ただ、ドサクサ紛れに、3-(1)の「海上保安庁の装備等の緊急整備」を入れておいた部分は、国防を考える上で評価はできる。
10月26日、城島財務省は、閣議後の記者会見で、「今後需要や雇用の伸びが見込まれる分野で先導的な事業を後押しするものや、早期に需要、雇用の創出が見込まれるものに施策を厳選して重点的な措置をした」と述べ、内閣府が試算しているGDP押し上げ効果は、0.1%強と発表している。だけど、これはGDPを511兆円(2011年実質GDP)とすると、5110億くらいにしかならない。
エコポイントは7000億の予算で5兆円の経済効果があったとされている。これくらい効果があれば、確かに経済対策といっていいと思うけれど、4200億投入して5110億しか効果がないのであれば、緊急経済対策というよりは、やはり国家再生戦略と復興の一環と位置づけるべきだろうと思う。事実、対策の中身がそうなっている。
前原経済財政相は「すべての予算は年度内に消化されるため、経済効果も即効性がある」といっているけれど、一体どこらあたりを指して即効性と言っているのかよく分からない。まぁ、2の震災復興関連で即効性があるというなのかもしれないけれど、投入した資金並みにしかGDPを押し上げないのなら、あまり威張って「経済効果」とは言わないほうがいいかもしれない。
まぁ、それでもやらないよりはマシであることは確か。だけど、これで景気がぐんとよくなるとは思えない。やはり、特例公債を通した上での来年度の予算編成が鍵になるだろう。
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