野田退陣後の亜民主政権

 
政局が混沌としてきました。

画像


1.方針転換した自民党

10月26日、野党各党は、国会内で参院国対委員長会談を開き、来週29日から召集される臨時国会で、野田首相が所信表明演説を行う参院本会議を開かない方針で一致した。

これは勿論、前の国会で野田首相に対する問責決議が可決したことがその理由。この後、参院議院運営委員会理事会が開かれたのだけれど、ここでも与野党は折り合わず、所信表明演説は行われないことが決まった。

一方、衆院では、29日の衆院本会議で所信表明演説を行うことを、衆院委員長に内定している民主党の高木義明氏の職権で決めている。

所信表明演説を衆院だけで行うのは、憲政史上初めて。やはり何から何まで掟破りの政権。ここまで国会と国民を馬鹿にした政権もないだろう。

さて、参院では、所信表明をさせないものの、例の特例公債法案は通ることになりそうだ。26日、自民党の甘利政調会長は、BS朝日の番組収録で、特例公債法案について「いずれにしても成立させないといけない。通るだろう。…審議拒否はしない。おやりになるならどうぞ、というのは審議拒否にならない」と臨時国会での成立を容認する考えを示した。

先の決裂した3党党首会談で、野田首相は、「近いうち解散」の条件整備の為に、特例公債法案可決、1票の格差是正、社会保障制度改革国民会議の早期設置の3つについて、自公に協力を求めている。

自民の容認姿勢転換で、特例公債法案は可決するとして、一票の格差是正については、先頃、最高裁が、「一票の格差」が最大5倍となった2010年7月の参院選について違憲判決をだしているから、やはりこれもやっておかなくてはいけない。

一番手っ取り早いのは、自民が求めている「0増5減」案を成立させること。「0増5減」については、前原国家戦略担当相が、26日、TBSの番組収録で「0増5減が成立した時点で衆院を解散しても衆院選の内容が無効とは判断されない」と、この法案が成立すれば、是正前の状態でも解散できるとの見解を示している。

こうしたことから、自民は、社会保障制度改革国民会議の早期設置も含めて、特例公債法案と「0増5減」案を可決して条件を整え、野田首相に、解散を迫る方針に切り替えたものと思われる。




2.野田首相は特例公債が可決しても解散しない

先の3党党首会談の内容については、その後のマスコミの取材は、その詳細が明らかになってきている。次に引用する。
野田首相の言う「近いうち」とは、いったいいつなのか。3党のトップ会談では「言った、言わない」の異例のやり取りがあった。19日に行われた党首会談の詳細が、FNNの独自取材で明らかになった。

安倍総裁「近いうちに信を問う。という3党合意があった。きょうまで何もない。約束は果たされていない」
野田首相「特定の時期の明示というのは、これは控えさせていただきたい。事柄の性質上、申し上げることはできない」

解散時期の確約を求める自民党の安倍総裁に対し、具体的なことは言えないと突っぱねる野田首相。
これは、19日に行われた、民主・自民・公明の3党による党首会談でのやり取り。
FNNの独自取材で、会談の詳細が判明した。

安倍総裁「総理は、谷垣総裁(当時)に対して、『予算編成は行わない』と言った。(谷垣氏は)2人のやりとりであるので、『これに関しては表にしない』とおっしゃった」

谷垣前総裁が、8月に野田首相と会談した際、こう伝えられたとして追及する安倍総裁。
「2013年度予算の編成を行わない」ということは、年内に解散するということになる。
しかし、野田首相は、記憶にないと発言を否定した。

野田首相「来年度予算編成を、われわれは放棄するという話をした記憶はありません」
山口代表「谷垣さんを呼んで、もう一度確かめますか?」

3党のトップ会談は「言った、言わない」の話になった。

安倍総裁「あうんの呼吸で理解しろと言われても、それは不可能な話だ」
山口代表「解散の時期を具体的に、いつと言わないまでも、腹を割って、われわれに示す方法があるのではないか」
野田首相「だらだらと、延命を考えているのではありません。国のために、政治判断をしていきたいと考えています。そこは、信頼していただけるかどうかです」

「信頼」という言葉を使って協力を求めようとした野田首相。

山口代表「信頼してどうする?」
野田首相「国民との約束だから、国民がその判断を下すでしょう」
山口代表「そこが、もう一度見えない。表にどう表現するかは別にして」
安倍総裁「具体的回答があるということで、党首会談に臨んだが、回答がゼロなわけですね」
野田首相「時期については、先ほど申し上げた通りです」

なおも時期を明言しない野田首相の発言で、10秒以上沈黙の状態が続いたという。

安倍総裁・山口代表「じゃあ、しょうがないですね。会談の意味がなかったということで」

この言葉を最後に、安倍総裁と山口代表は席を立ち、会談は決裂した。

と、野田首相は"信頼"を口にした。だけど、野田首相は、たとえ、この3条件が整ったからといって解散はしないだろう。信頼しても馬鹿をみる可能性は極めて高い。

実は、23日、岡田副首相は、これら3条件について、「これをやれば解散するというものではない。…メディアを含めて誤解している発言が随分ある。議員にもそう受け取って発言している方がいるが、間違いだ」とし、党首会談前に、野田首相との間でこうした方針を確認していたことを明らかにしている。自分であれは"嘘"だと白状している。

まぁ、特例公債が通らないと、国民生活に多大な影響を与えるから、これを通すのは仕方がないにしても、やはり国民の生活を人質に取って延命を図る卑怯な対応については徹底的に追及する必要がある。

その意味では、自民が3条件を整えた上で解散を迫るというのは、野田政権が「近いうち解散」になぜか条件がついて、それをクリアしても、まだ延命しようとしている"嘘つきぶり"を炙り出す効果はある。




3.亜民主政権樹立の可能性

昨日のエントリーで、筆者は、石原新党が立ち上がることで、民主党からの新たな離党者の受け皿になると述べたけれど、早くも離党の動きが表面化してきた。

10月26日、民主党の熊田篤嗣衆院議員は、離党届を提出する見通しが明らかになり、さらに民主党の水野智彦衆院議員も離党を検討していることが明らかになっている。

民主党幹部によると、「消費税増税法案の採決で造反した離党予備軍の中から、石原新党に行く議員が出るのではないか」と懸念を示している。

一方、自民党関係者は、「石原新党の目的は、野田内閣を不信任案可決に追い込むのが目的だ」とし、石原知事に近い関係者が民主党議員に新党参加の意向を確かめたところ、民主党を過半数割れに追い込める人数が確保できたと明かしたそうだ。

だから、石原新党の立ち上げに伴って、民主党から離党者がでて、過半数割れに追い込めば、内閣不信任案が成立する可能性が出てくることになる。

だけど、仮に、与党を過半数割れに追い込むことができたとしても、内閣不信任案を出すがベストなのかどうかについては、一考の余地がある。なぜなら、内閣不信任案が可決したとしても、野田首相が解散を選択するとは限らないから。

不信任案が可決したら、解散が総辞職をしなければならないのは衆知のことだけれど、臨時国会で不信任が可決されたら、野田首相は解散ではなく、総辞職を選ぶ可能性がある、と見る。理由なら、政治空白を作らないためとかなんとか、幾らでも後付けできる。

不信任案可決後の総辞職では、すみやかに次の総理を首班指名しなければならない。もちろん野田首相が指名されるわけがないから、他の誰かということになるのだけれど、それが安倍総裁である保証はどこにもない。

例えば、民主党と、国民の生活が第一が手を組んでしまったら、どうなるか。その時は、民主党の野田首相以外の誰かか、国民の生活が第一の中の誰かを首班指名することになる。両党合わせれば余裕で衆院過半数を超える。

国民の生活が第一の小沢一郎代表は、野田首相が増税をしなければ、離党はしなかった。だから、逆にいえば、野田首相以外で、増税をしない人を担ぎだせるのであれば、誰でもいいことになる。民主の輿石幹事長は元々増税には乗り気でなかったし、小沢代表に話を持っていく可能性は十分考えられる。

なんとなれば、国民新党の中から首班指名するなんて話にしたら、国民新党は喜んで飛びついてくるのではないか。

そうして、民主、または元民主および国民新党内から次の首相が出れば、それは、純粋な民主党ではないにせよ、限りなく民主党に近い、民主党亜流、亜・民主政権が出来上がることになる。解散恐怖症に怯える民主党議員だって、任期一杯まで議員でいられる上に、もしかしたら支持率だって好転するかもしれない。それを考えると、民主+国民の生活が第一で首班指名の話が出れば、民主党員で反対する議員は殆どいないのではないかと思う。

こうして考えてみると、安倍総裁は、たとえ、不信任が可決できそうな状態になったとしても、喜び勇んで不信任を出すことは却って危ないかもしれない。どうしてもやるのであれば、野党にしっかりと根回しして、野田内閣総辞職後の首班指名でちゃんと自分が指名されるように手を打っておく必要がある。少なくとも、民主党と、国民の生活が第一の両党が手を結ばないように楔を打っておかなくちゃいけない。

ただ、実際問題として、元々ひとつだった両党を分かれたままにする工作を、自民がどこまでできるのかは正直未知数。小沢氏が離党した最大の理由が野田首相にあった以上、その最大の理由を排除してしまうと却って両党を結び付けてしまうことに成りかねない。

だから、逆説的ではあるけれど、次の衆院選で、自公が政権を奪取したいのであれば、野田首相自身の手で解散させたほうがいいし、そうさせるべき。

何とも歯痒いところではあるのだけれど、安倍総裁は、野田首相にあえて騙されて見せることで、野田首相に総辞職させずに、支持率をじりじりと落とさせたほうがいいかもしれない。

解散を迫るのか、それとも真綿で首を絞めにかかるのか。この辺りの見極めは非常に難しい。





画像

この記事へのコメント

  • 八目山人

    全く記事と関係ない事を書き込みます。
    安倍さんが、今度の衆議院選は憲法改正でやりたいと仰っています。

    96条のみの改正だとか破棄だとかかまびすしいです。
    そこで、G7の国の憲法の改正条項はどうなっているか調べてもらえませんか?
    すでに西修さんが出しておられるかもしれませんが。
    2015年08月10日 15:24
  • 日比野

    八目山人さん。コメントありがとうございます。

    G7の憲法の改正条項ですか…。私には荷が重いかもしれませんけれども、一応調べてみますね。
    2015年08月10日 15:24
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    考えれば色んな可能性はあるだろうが,
    安倍総裁がとるべき道は道理を貫くしかない.
    つまり, 永田町での争いで主導権を得るのではなく,
    国民の支持を一身に集めること.

    不思議なことに, 今だに多くの人が国民を動かすことを
    「国民煽動」として躊躇する.

    共産主義者は国民煽動を道具として使うのだから,
    国民を動かすことを躊躇させるのは
    共産主義の日本人の良心に訴える工作の結果だろう.

    民主主義は国民が政治を動かす仕組みだ.
    従って, 国民が本気で動いた時,
    嘘付政権なぞどれほどの正当性も主張できまい.
    そもそも, 官僚は国民から完全に見離された
    政権の命令は聞かない.

    従って, 安倍総裁がとるべき道は道理を貫くしかない.
    2015年08月10日 15:24

この記事へのトラックバック