橋下徹は本当にケンカが強いのか
10月20日、「日本維新の会」橋下代表が、鹿児島を皮切りに全国遊説をスタートさせた。
当日の遊説は、鹿児島、熊本、福岡で行われたのだけれど、副代表の松野頼久元官房副長官も同行し、 それぞれ1000人から2000人の聴衆を集め、それなりに盛り上がったようだ。
ただし、演説の内容はバラバラで、鹿児島、熊本では「ご当地ネタ」を使って盛り上げたものの、政策に関する話はほとんどなく、政策を訴えたのは福岡だけだった。
全体のトーンとしては、「次期衆院選で勝てなければ、今までの自民党と民主党との枠内通りだ」と既存政党を批判し、「明治維新のように古い体制を根こそぎ変え、自立した国家を作っていきたい」を体制を変えるという内容がメイン。
政策については、福岡市での演説で言い出したのだけれど、これは、熊本での遊説終了後に「政策への訴えがない」と記者団から指摘された為で、福岡では、一転して「道州制は、九州が生き残っていく唯一の道」「農業団体の票を気にして(TPPへの)交渉参加と言えないなんて情けない」などと政策を前面に出した演説に切り替えたそうだ。まぁ、柔軟といえば柔軟といえるけれど、いきあたりばったりだとも言える。
聴衆の反応は成否に分かれた。熊本市で演説を聴いた主婦は「生の橋下さんは初めて。迫力があった。この人ならなんとなく、やってくれるんじゃないか」と話し、鹿児島の建設業の女性は「ずばずばものを言うところがいい」と評価。中には、福岡市の会社員のように「一度、実物の橋下氏を見てみたかった」という声もあった。
その一方で、「橋下さんはさすがに話はうまい。でも具体的にどんな政策をやりたいのか、説明がない。ほかに誰がいるのかもよく知らないし、投票するのは不安だな」とか、「橋下さんは話しがうまく、若い人は引き込まれる。でもそれが政治に結びつくかは別だ」という具合に胡散臭さを感じている人もいる。
橋下代表は、福岡での演説で「今の政治は国民にいいことしか言わない。大変厳しい状況を素直に説明し、我慢してもらうところは我慢してもらう。…体制を変えるにはケンカの強さが重要だ。僕はケンカだけには自信がある」と述べている。
確かに、橋下代表は、言葉の"ケンカ"は強いかもしれない。実際、自身の出自報道で物議を醸した、週刊朝日との対決は、たった7時間で終わった。週間朝日は謝罪し、連載も打ち切りになった。
だけど、その"ケンカ"で勝ったとして、その後はどうするのか。
今回の週刊朝日騒動に関して、10月24日、朝日新聞出版の担当部長が、大阪市役所を訪れ、橋下代表に直接謝罪した。朝日側は、自身のグループの第三者機関「報道と人権委員会」による審理を受け、結果をHPで公表すると約束したのだけれど、橋下代表は、報道担当を通じて「検証報告は具体的な役職は任せるがトップの方から、あらゆるメディアが入れるオープンな場で受けたい」と要望している。
本当に公開検証報告とやらが行われるかどうかは分からないけれど、既に朝日側が謝罪している以上、勝ち負けという意味では勝負はついている。そこを公開でやったら、朝日は半ば見世物になるだけ。橋下氏を叩いた代償は大きかった。
今回の騒動にだけ関していえば、橋下氏は、ケンカに勝つだけでは済ましていない。徹底的に叩き潰すまでやろうとしているように見える。
だけど、政治を舞台としたとき、その"ケンカの強さ"が本人ひとりだけの強いのか、組織全体としての強いのかについて、よくよく見極める必要がある。
いくらケンカが強くても、その強さが本人ひとりだけのものであったなら、せいぜい今回の週刊朝日騒動のように、報道に噛みついて謝罪させるくらいしかできない。たとえ、国会での議論で無敵であったとしても、他の多くの人の賛同を得られないと法案は通せないし、その法案すら、他の多くの官僚や専門家の協力なくして作ることはできない。
要するに、ケンカの強さと一口にいっても、個人のレベルでの強さと、組織の長レベルでの強さでは、その質が異なるということ。前者は弁が立つというか討論に強いということが主なものになるけれど、後者は多くの人の意見を取りまとめて、ひとつに集約し、更に部下や協力者を手足のように動かして、実績を上げ得る力がメインになる。
確かに橋下代表は前者の「個人のレベルのケンカの強さ」はあるだろう。だけど、後者の「組織の長としてのケンカの強さ」はどこまであるのかは未知数。
事実、先日も「日本維新の会」内部で、国政課題の方針決定の在り方について、国会議員側が行なうのか、橋下代表が持つのかで主導権争いが起こっている。
まぁ、それでも、橋下代表が次の衆院選に出馬して、当選すれば、自分も国会議員になるから、こうした主導権争いは起きなくなるのだろうけれど、橋下代表は自身は次の衆院選には出ないとしている。
国会議員が代表を務める普通の政党だって、党内意見を取りまとめるのには、それなりに苦労しているのに、橋下代表は、それを大阪からリモートコントロールでやるとしてる。本当にそんなことができるのか。
しかも、「日本維新の会」には橋下代表以外に有力な議員もいないし、衆院選に擁立する候補者も同じ。増してや、彼らの"ケンカの強さ"なんかもっと分からない。
仮に、百歩譲って、橋下代表のリモートコントロールで、ケンカができたとしよう。だけど、ケンカが強い、体制を壊す、それだけでは、政治にはならない。壊すのは必要悪、もしくは手段の一部であって目的じゃないから。
壊した後に作り直して、更に、それをきちんと統治してこそ初めて政治。改革は壊すだけでは終わらない。
まぁ、最近になって、「日本維新の会」は支持率が落ちてきているから、そんなに議席が取れるとは思わないけれど、起死回生を狙って、橋下代表が総選挙に立候補して当選したとしても、橋下代表の「組織の長としてのケンカの強さ」が十分でない限り、あまり大したことはできないだろうと思う。
この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
本当に勝ったなら, 敗北の始りになるだろう.
政治家は明らかな勝利を避けるものだ.
この事実は橋下氏がやはり政治家ではないことを示している.
しかし, トップが日本遊説する暇があるのか大阪市!
GT.
以下の話があります。