田中法相辞任と任命責任、そして約束の場所へ

 
「内閣改造をするほど総理の権力は下がり、解散をするほど上がる」
第61-63代 内閣総理大臣 佐藤栄作

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10月23日、田中慶秋法相が、野田首相に辞表を提出し、受理された。

表向きの理由は、「体調不良」と「国民には迷惑をかけられない」ということなのだけれど、まぁ、誰がどう見ても、外国人献金や暴力団との交際についての引責辞任。

田中氏は法相就任直後の10月4日に、台湾籍の男性が経営する企業から政治献金を受けていたことが発覚し、12日には暴力団関係者との付き合いを大筋で認めるなど、もうスタートから、ぼろぼろだった。

18日の参院決算委員会は、野党からの批判を恐れたのか、「公務」を理由に欠席。19日の閣議も体調不良で欠席し、22日まで都内の病院に入院していた。逃げに逃げ回った挙句、とうとう、一度も国会に閣僚として姿を見せることなく辞任となった。

ところが田中氏は、22日までは続投する気で満々だった。周囲には、「辞任する考えはない。退院すれば職務に復帰する」と語り、19日には、藤村官房長官に電話し、「法相辞任の意向はない」と伝えていた。それがここにきての辞任。

尤も、本人が辞任しないと頑張ったところで、周囲からは辞任止む無しの声が溢れていたし、野田首相も最後には更迭するとまで言われていたから、それならば、としぶしぶ辞任を申し出たのかもしれない。

結局、就任3週間でのスピード辞任という結果しか残らなかった。国会で答弁や、何らかの職務上でのミスが原因での辞任ならいざ知らず、就任直後に外国人献金が発覚するわ、暴力団との関係が暴露されるは、果ては、参院決算委員会をすっぽかす始末。法相としての仕事を何もしていない段階での辞任だから、法相として云々よりは、政治家と資質を問われても仕方ない、というかそれしか問いようがないし、そんな人物を大臣に任命した野田首相の責任はどうしたって問われる。



自民の石破幹事長は「なぜ不適格な人を任命したのか。田中氏が国会に出席しなかったことは、辞任しても消えるものではない。首相の任命責任は極めて重大だ」と憤り、公明党の漆原国対委員長も「辞任は当たり前で遅すぎた。こういう法相を選んだ首相の任命責任は非常に重い。民主党政権は閣僚の任命を非常に軽く考えている」と批判している。

また、党内でも田中法相の人事は問題視され、仙谷副代表は「なぜこういう人事をしたのか分からない」と述べ、郡司農相も「信頼を取り返すには一定の時間がかかるかもしれない。残念だ」と語っている。

野田首相は常々、決められない政治からの脱却云々というけれど、すぐに更迭されるような人を閣僚に指名することそのものが、国民の信頼を失わせ、政治を停滞させる。

10月20、21の両日に行なわれた、朝日新聞の世論調査では、とうとう内閣支持率が18%と2割を割った。マスコミの報道を見ていると、この朝日の世論調査を引用しつつ、過去の政権では、支持率が2割を割ったら、数か月で退陣している、とか、青木の法則によると云々なんて記事がちらほらでてきているから、ついに、マスコミも解散圧力を掛け始めた可能性は考えられる。

尤も、この朝日の世論調査でもそうだけれど、「自民党は、年内解散する約束をしない限り、予算関連法案の審議などに応じない姿勢を示してきました。自民党の姿勢を評価するか」とか、「野田首相は、衆議院の解散の時期について、「近いうち」と言ってきましたが、年内に解散する約束はしていません。野田首相のこうした姿勢を評価しますか」と、いう設問も同時にしていて、いわゆる「どっちも悪い論」を仕掛けてきてはいる。

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自民党が、年内解散を約束しないと法案成立に協力しない理由については、評論家の渡邊哲也氏が、参院で問責が出ている以上、解散が前提でない限り、参院での審議に正当性がなくなるからだと指摘している。確かにそれは、そのとおり。

だけど、民主党にはまるっきり「年内解散」は頭にはない。ちょっと信じられない話ではあるのだけれど、衆議院の民主党秘書会が12月1日から、1泊2日で日光へ旅行会を計画しているそうだ。案内文は、今月15日付で、衆院議員会館の部屋に手渡しで配布されたというから、内々では、年内解散は絶対ないと白状しているようなもの。

ただ、こんな記事がこのタイミングでリークされること自体、政権末期の証拠ではあるし、マスコミ含めて、野田政権ももう潮時だろうと見ているものと思われる。

また、財界も早期解散を催促しだしている。10月22日、経団連の米倉会長は、記者会見で「『近いうち』という期間がゴムのようにのびたりしないように守ってほしい。ゴムが切れたら具合が悪い。…与野党の協力がなければ重要政策の決定を適時適切にできない。…総理も、言葉を選びながらいろいろ丁寧に説明し、野党側も何月何日に固執せずに、大人の対応、両者ともそういうことをやってもらったら何とかなるのかなと」と述べている。

だけど、"大人の対応"が大人の対応であるためには、その結果について責任が取れなくちゃいけない。「ハイ、対応しました。結果はどうなったって知らないよ」なんてのは、大人がやるべき対応ではないことは言うまでもない。

では、結果について責任が取れるとはどういうことかというと、何某かの対応をした結果がどうなるかがきちんと見えて、それに対してどう対応するかまで手を打てること。これが責任を取るということ。だから、物事に対して、ある程度の結論がみえて始めて責任を取ることができるようになる。

今回の場合だと、与野党が"大人の対応"をするためには、3党合意に基づいて「近いうち解散」をきちんと履行することになるのだけれど、少なくとも野党にとっては、「近いうち解散」が何時になるのかの確証が得られなければ、責任を取る事なんて出来ない。



これまでだと、何月何日に解散すると言わなくても、「概算要求まではする」とか、「来年の予算編成まではする積りはない」といった、曖昧な言葉であっても、大体この辺りに解散するのだな、と受け取って、"阿吽の呼吸"で法案成立に協力し、"阿吽の呼吸"で解散をしていた。「話し合い解散」が成立していた。

実際、谷垣・野田会談では、「来年の予算編成まではする積りはない」という言質があり、谷垣氏は"阿吽の呼吸"で「近いうち」解散の時期を"年内"だと感じ取り、増税法案成立に協力した。まさに"大人の対応"以外の何物でもない。

それを、野田首相は一方的に破り捨てた。安倍総裁、山口代表から、谷垣・野田会談でのやり取りを突きつけられたにも関わらず、「そんなことは言ってない」と嘘をついた。大人ではなく、子供の対応をした。

一方が"子供"なのに、もう一方が"大人の対応"をしたら、子供がつけあがるのは理の当然。だから、大人の対応をしたいのであれば、野田首相こそが"大人"にならなくちゃいけない。

米倉氏は、野党側も何月何日に固執せずに、大人の対応云々…なんて言っているけれど、既に、谷垣氏はその大人の対応をしていた。そして見事に"子供"の野田首相に裏切られた。

谷垣氏は総裁選に出馬できず辞任したけれど、結果として、騙された責任を取る形となった。だから、谷垣氏は最初から最後まで"大人の対応"をしたといえる。

その前提で、今回の3党党首会談での、野田首相のゼロ回答がある。だから、安倍総裁と山口代表は"大人の対応"をするために、「近いうち解散」の確証を求めた。これもまた、責任が取れるための"大人の対応"そのもの。

だから、米倉氏は、野田首相にこそ「大人の対応をしなさい」と言わなくてはいけない。

自らの言葉に信頼を失ったものは、何も手にすることはできない。野党の信頼を失えば法案も通せなくなるし、国民の信頼を失えば、自らの議席を失う。

その意味では、安倍総裁の「政治は信頼だ」という指摘は全く正しい。


やりたいことは何? そう聞かれるたび
青い空見上げた 答えはonly my heart

ほんとに大事な言葉は 簡単には言わない
ひとつクリアしても それじゃ終わらない



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この記事へのコメント

  • とおる

    > 果ては、参院決算委員会をすっぽかす始末。

    これは、憲法違反という話が出ています。
    そして、健康が悪いという理由だけで法相の辞任を認めるということは、野田首相・官房長官は憲法違反を容認・無視したという実績が残ります。
    憲法違反をしても罰則は無いし、取り締まる組織・法律が無いので、政権は憲法違反のし放題。
    日本国憲法の終焉。
    2015年08月10日 15:24
  • 深月

    戦略的な観点から見ると、野田首相は「民主党政権を維持する」という「政策(ポリシー)」を固く維持しているように見えます。
    法務大臣の任命などは、それよりも下の階層の「大戦略(人員の配分など)」になるから、幾ら実態が矛盾していても、野田首相本人は、もはや任命責任などについては、何も感じていないのかも知れないですね…(目的の遂行のためには友軍や民間人すら見捨てる、しかもその諸々は、「国民のあずかり知らぬ大義」のもとに免責される、というような感じ…)
    2015年08月10日 15:24
  • 日比野

    sdiさん。
    >「我々は彼らより上手くやれる。(彼らは無能だ)」
    >「我々は彼らより正しい(彼らは間違っている)」

    なるほど、言われてみればそうですね。同時にこれは、理念先行になりがちな安倍さんと、実務型の谷垣さんとの違いともいえるかもしれませんね。
    2015年08月10日 15:24
  • sdi

    大人の対応と少し違う見方ですが、谷垣前総裁と安倍総裁の対民主党アプローチの違いについて、私の独断と偏見で無茶苦茶大雑把にいうと以下になるかと。
    「我々は彼らより上手くやれる。(彼らは無能だ)」
    「我々は彼らより正しい(彼らは間違っている)」
    一部のラジカルライトコンサバティブな方々が、谷垣自民党に欲求不満が昂じていたのは、この違いではないでしょうかね。旗幟鮮明とは言えませし、傍からみると民主党をサポートしているように見えるかもしれません。野田民主党から見ると実に嫌らしい敵です。対抗するには「我々は自民党より有能」であることを証明するため、厳しい現実に向き合って問題を処理して結果を出さねばならんのですからね。そしてあまり上手くいってない。ただ、無得点ではないです。劣勢にかわりないですが。
    これに対していわば「○」「×」二択を掲げた観のある安倍総裁は争点が鮮明です野田民主党にとって正面から戦い易いかもしれませんね。
    2015年08月10日 15:24

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