解散密約と内戦に突入する日本

 
昨日のエントリーのつづきです。

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1.野田・谷垣の解散密約はあった

10月20日、自民党の石破幹事長は、鳥取県倉吉市で講演し、先の3党党首会談で解散に関する具体的な提案をしなかった野田首相に対して、「これが人間のすることか。恥を知れと言いたい。…悪いのは輿石東民主党幹事長ではない。野田首相はまっとうだと思っていたが、絶対に許せない。国益に反する内閣は倒さないといけない」と厳しく批判した。

まぁ、それはそうだろう。幹事長会談で下準備して、新たな提案があると言われて、それならばと党首会談を設定してのゼロ回答。分かっていたこととはいえ、"常識外"の輩を相手にするのは骨が折れる。

ただ、会談の内容が徐々に伝えられるにつれ、野田首相が"ペテン師"であることは疑う余地がないことが誰の目にも、明らかになってきた。というのは、8月の野田・谷垣会談で、やはり解散密約があったことが暴露されたから。

3党党首会談では、野田首相が「予算と一体で特例公債法案を処理するルールを作りましょう。来年の通常国会でそういう法案を提出するという付則を入れてはどうか」と切り出したのだけれど、公明党の山口代表は「谷垣禎一前自民党前総裁はあなたが社会保障・税一体改革関連法を成就したことでここにいられなくなった。谷垣氏との約束があるのでしょう」と詰め寄った。続けて安倍総裁が「あなたは谷垣さんに『来年の予算編成をしない』と言った。私は引き継ぎを受けている」と畳みかけた。

何でも、野田・谷垣会談で、野田首相は「来年度予算の概算要求はするが、予算編成はしない」と話していたらしく、谷垣氏は、これが話し合い解散の確約と受け取ったようだ。

通常、予算編成は、財務省が各省庁と協議の上作成し、閣議決定された後、その年の1月中に国会に提出されるから、予算編成はしないという発言は、どんなに遅くても年内には解散することを意味することになる。安倍総裁が、"近いうち"というのは常識的には年内のことだ、と発言していたのも、この解散密約を踏まえてのことだったのだろう。

3党党首会談で、解散密約を暴露することについては、安倍総裁と山口代表との間で、「近いうち解散」をなかったことにはさせないようにしようと、事前に打ち合わせしていたのだそうだ。

解散密約を指摘された野田首相は慌てて、「言った、言わないの話になるから、言わない。…そういう認識はない。概算要求をすることが、予算編成をすることには直結しないという意味だ」と訳の分からないことを答えたのだけれど、山口代表が「ここに谷垣氏を呼んだら困るでしょうね」とにらみつけると、首相は「それはちょっと…」と口ごもったという。

今回の野田首相の対応で、結果的に"近いうち解散"で合意した谷垣氏は騙されたことになるのだけど、「予算編成はしない」という発言さえも嘘だったとなると、最早、野田首相が何を言ったところで、信じられるわけがない。決裂は当然。

これで、与野党の対立は決定的となった。




2.国民を馬鹿にしきった"奴ら"

自民・公明の両党は「首相は詐欺師」と激怒していて、安倍総裁氏は法案成立に協力するどころか、事態が動かなければ臨時国会で審議拒否する方針を示した。当然のこと。

だけど、民主党幹部はこのことは織り込み済みで「自公が特例公債法案で協力を拒否すれば、批判は自公両党に向かう」と余裕綽々らしい。全く持って卑劣の極み。

ただ、"奴ら"がそう考えるのには、理由がある。昨日のエントリーでも触れているけれど、マスコミ各社が社説で「自民・民主どっちも悪い論」を掲げ、世論を誘導しようとしているから。

例えば、毎日新聞は「党首会談決裂 これでは政治が動かぬ」と題した社説で、「いたずらな引き延ばしは政治の停滞を加速させることを悟るべきだろう。」とする一方で「安倍総裁も年内解散に固執するあまり、最初から審議拒否で臨むような対応を取るべきでない。」と、"どっちも悪い論"を展開している。

また、読売新聞も「民自公党首会談 首相が守り一辺倒では困る」と銘打って、「解散先送りが第一では、政府・与党の責任を果たせない。」としつつも「衆院解散の確約なしでは法案成立に協力しないとか、参院の首相問責決議を理由に国会審議を拒否する、といった姿勢では、国民の理解は得られまい。」と、こちらも、"どっちも悪い論"に終始している。

ただ、なぜか朝日新聞はまともな社説を出していて、野田首相を厳しく批判している。10月20日付の社説「党首会談決裂―首相の責任感が見えぬ」で、次のように述べている。
 野田首相は、政権の延命がそんなに大事なのか。さらなる離党者が出ることが、それほど怖いのか。

 社会保障と税の一体改革をめぐって、首相が「近いうちに国民に信を問う」と自民、公明両党に約束してから2カ月あまり。ようやく、民自公3党の党首会談が実現した。

 だが、会談の内容は寒々しいものだった。

 首相は、赤字国債発行法案や衆院の「一票の格差」是正などへの協力を要請した。一方で、自公両党が求める「近いうち」の衆院解散の時期については具体的な答えを避けた。

 要求するばかりで、相手の求めにはゼロ回答では、話し合いは成り立たない。会談が物別れに終わったのは無理もない。

 首相には、政治を前に進める責任感がないのか。そんな疑いを禁じ得ない。

 [中略]

 いまの野田政権は、政権の体をなしていない。そう批判されても仕方あるまい。

 もはや民主党だけで政治を動かす力があるとは思えない。ならば、首相が最優先すべきことは明らかである。

 29日に召集予定の臨時国会に向けて、3党の関係を修復する。そして、自公両党をはじめ野党の協力を得て、赤字国債発行法案や一票の格差是正など懸案の処理を急ぐ。

 そのために必要なら、自公両党が求める早期の解散も逃げてはならない。
党首会談決裂―首相の責任感が見えぬ」 朝日新聞 10.21社説 より
全文は朝日のサイトを見ていただければと思うけれど、与党の責任を問う内容となっていて、"どっちも悪い論"は取ってない。与党が悪いという論陣を張っている。これは正しい。

昨日のエントリーでも触れたように、意見が相容れないから与野党に分かれているのであって、責任をなすりつけるのなら、その前に連立なりを組んで与党にいれなくちゃいけない。自分は権力を持ち、責任は野党が負うなんてのは通らない。

その通らないことを、朝日を除いてマスコミが吹聴している。だから、民主の"奴ら"が図に乗ってしまう。

だけど、国民は、"奴ら"にそう思われていること自体がすでに馬鹿にされているのだ、と気付かなければいけない。なぜなら、その卑劣な"奴ら"を政権の座につけたのは他ならぬ国民自身であるから。




3.思想内戦に突入した日本

今でこそ、国民の過半数が早期解散すべきと思っているけれど、その前に、まず国民自身が、民主党なんかを政権につけてしまった反省をしなくちゃいけない。それをまず確認する必要がある。それなくして、次の展開は有り得ない。

本当に国民が、民主党を政権与党にしたことを反省をしているならば、与党への批判がまず先にあるべき。そうでなければ、2009年の総選挙で自らが下した判断に責任を取ったことにならない。あの時、国民は自民が駄目で、民主がいいと判断した。その判断の責任は負わなくちゃいけない。

それを等閑にして、足の引っ張り合いなんかしないで、どっちでもいいからなんとかしろ、とは言ってはいけない。国民自身が政権選択をした責任を放棄したことになる。

今回、"奴ら"が政権の座に座り、しがみつき、国民を苦しめる事実に直面したことで、国民は、図らずも、国民主権の意味をまざまざと"体感"することになった。この経験は次に生かさないといけない。

我々は、自らの過ちを深く反省し、次の総選挙で正しい判断を下さないといけない。そのとき、"奴ら"は、この3年だか4年だかの責任を問われ、その報いを受けることになる。

今後、総選挙に向けて、表向きは民主と自公の対立の様相を呈するだろうけれど、その背後にある考え方をもっと見なければいけないと思う。

昨日のエントリーでも触れたけれど、安倍総裁は、野田首相に解散を迫る理由を世界観、すなわち「政治は信頼である」という世界観に求めている。それに対して、民主及びマスコミは、解散しない理由を、野党が協力しないからだ、国民だって野党を批判するだろう、と"自分は悪くない"という自己保身に置いている。

つまり、今後、世論は、安倍総裁が強調した「政治は信頼である」という世界観と、マスコミの"どっちも悪い論"に代表される、自分は悪くない的な無責任な考えを支持する立場との対立が起こるのではないかと思っている。

これは、一種の思想戦でもあり、思想レベルでの内戦状態に突入しつつあるとも言える。

それは、特例公債法案が通らないことによる、予算執行の遅れおよび停止といった、具体的な痛みとして国民が負うことになるのだけれど、それを、「国民が自らの選択の結果なのだ」と我慢できるか、それとも、「こんな筈じゃなかった、自分は悪くない」と無責任な立場に立つか、それを問われることになる。

これは、日本国民が真の意味において、国民主権、民主主義を理解しているかの試金石にもなり得る。

安倍総裁は、著書「美しい国へ」の中で次のように述べている。
たしかに自分のいのちは大切なものである。しかし、ときにはそれをなげうっても守るべき価値が存在するのだ、ということを考えたことがあるだろうか。
「美しい国へ」安倍晋三 p.108より
これが、これから目の前に突き付けられる。日本国民は思想内戦に突入した。



折れそうな心は 孤独なまま震えて
差し伸べられた その手の温もりを求めた
確かな旋律を 一緒に奏でよう
今私の想いと重なるから
into your black heart

笑い方さえ忘れてしまっていた すべて失くすはずだった
でも残されてたひとつの痛みだけが 生きてる証になった

あなたもきっと違った哀しみを抱きながら
ただ 儚いほどの涙を見せるように
深淵の瞳で私を映した

折れそうな心は 孤独なまま震えて
差し伸べられた その手の温もりを求めた
確かな旋律を 一緒に奏でよう
今私の想いと重なるから
into your black heart


歩き方さえいつまでも手探りで 諦めていた明日も
隣に優しく寄り添う影があれば 何度だって立てるから

人はそれぞれ違った時代に生まれ出会った
そう その瞬間に同じ時間を感じて
あなたと描く物語が始まる

臆病な心で 夢のかけら集めて
闇に紛れた あなたの温もりを見つけた
あなたの存在は 強い力になる
今私の想いが溢れるから
confine break my heart


傷ついた翼に ふたりの夢を乗せて
今日も羽ばたく あなたは真実を求めて

私が願うのは あなたとの絆だけ
色褪せない約束を この胸に刻んで
確かな旋律を ふたりで奏でたい
今私の想いと重なるまま 響いてく




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この記事へのコメント

  • 日比野

    sdiさん。
    >「安倍総裁の世界観を自民党全体でどの程度まで共有できているのか?」

    ここなんですよ、問題は。ご指摘のように、前回の安倍政権は、安倍氏を単騎突撃させてしまったと私も認識しています。そのときは世界観=「美しい国」、政策=「戦後レジームからの脱却」でしたけれども、自民党内でそれを共有しきれなかったという問題があると見ています。

    であるがゆえに、今回は「控え目」戦略で慎重にいっていただきたいのです。

    特例公債法案を巡る安倍氏の対応は「政治は信頼である」という世界観を持ち出したまでは上手いのですけれども、あまりにこれを全面に出し過ぎると、それを理解できない者達に足を引っ張られるのではないかと危惧します。

    ただ、世論の対立構造としては、「嘘つきは許してはいけない=政治は信頼である」と「党利党略で政治をするな=選択責任の放棄」に流れるのではないかと見ています。

    その結果はというと、6:4か7:3で後者が優勢になるのではないかと、若干ネガティブに見積もっています。
    2015年08月10日 15:24
  • とおる

    民主党の「無駄づかいは自民党や公明党のせい」詐欺。

    ・蓮舫、復興予算の無駄遣いは自民や公明のせいじゃないだろ(参院 宮沢洋一 111115) - エコドライブ日記
     http://blog.goo.ne.jp/moja_gd/e/3fd976399196c15a5594de9768c64959
    安住  災害復旧10兆、インフラ整備8兆、全国防災が1兆となっている。
    安住  全国防災については緊急を要するものということで入れた。急激な円高対策も必要だろう
        ということで入れたわけだが、確かに復興関係の以外のものも入れて予算を組んだ。
    2015年08月10日 15:24
  • グー

    3紙の比較は面白いですね。このところマスコミの変質の様なものを感じるのですが。TV、新聞、雑誌で一斉に流れをつくることで世論など誘導できると高を括っていた姿勢から、声を大きくしても世論形成ができなくなってきている現実に。ネットは一部の人間と無視をしていたものが、段々とネット方向にボリュームゾーンが移行して行く現実に抗しきれないと判断したのか。特に朝日系列。週刊朝日の「ハシシタ 奴の本性」の一件にしても、石原都知事や麻生元総理の会見時の朝日名指しの批判にしても、嫌いなキャスターランキング古館伊知郎氏1位の件にしても・・・。「またあの朝日がなんか言っている」レベルが浸透しちゃいましたもんね。大変換か小手先の批判回避かの判断はまだできませんけれども。民主党の人間はまだ気が付いていないでしょうけど。
    2015年08月10日 15:24
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    「戦争」は既に始まっている. それは2009年に
    「嘘を武器とした」政権簒奪の嘘付革命の時から.
    クーデターは物理的な武器を用いなくともできる.
    当たり前だが, 「民主主義」という絶対的な仕組みはない.
    各々の国の各々の社会的モラルに従った政治原理を
    民主主義という.

    日本の民主主義は嘘を付かないことを基本とする.
    従って, 「嘘を武器とした」政権簒奪はれっきとした
    民主主義に反するクーデターなのだ.
    我々はこれを重く見なければならない.
    何故なら, 任期が終っても嘘付どもが居直ったら
    どうなるかを考えれば分かる. まず, 日本の警察・
    自衛隊の指揮系統は混乱し, 最善で米軍による占領,
    最悪でロシア・支那の侵入を招く.

    ではどうすれば良いか.

    「国民」の声を統合するしかない.

    そのためにはどうすれば良いか,

    安倍総裁が道理を国民に繰り返し語りかけることしかない.
    2015年08月10日 15:24
  • mayo5

    民主党の事ですから、自分の権力を守るためなら、嘘でもなんでも平気でしょう。ですから、解散などするわけもなく、中国共産党と結託して来年の七月くらいに尖閣で火を吹かすでしょう。そうして、非常時に総選挙などできるわけがないと居座るのではないかと思いますけれど。
    まあ、人はそれを売国と呼ぶのですけれど。
    2015年08月10日 15:24
  • sdi

    日比野殿のこんどの分析は先鋭的すぎるように感じました。
    「民主党側が対立軸をいえるほどはっきりした世界観を持っているか?」
    「安倍総裁の世界観を自民党全体でどの程度まで共有できているのか?」
    このあたりの判断はまだ早いのではないでしょうか?特に後者は要注意かと思います。
    野田民主党にとって安倍総裁は戦いやすい相手かもしれません。「対立軸が鮮明」になるからです。これは民主党側がはっきりした対立軸をもっているということではなく、安倍総裁のイデオロギー面の旗色が鮮明な故です。いうなれば「≠安倍総裁のイデオロギー」という対立軸を民主党は持てるからです。ただ、この場合の旗頭は野田首相である必要はありませんけどね。
    以前に、安倍政権崩壊を振り返っての弁で「我々保守勢力は安倍総理をただ一人で突撃させてしまった」というコメントを見た記憶があります。安倍総理は他の保守勢力との間で世界観を共有が不十分な故に誰も追随できなかった、という可能性はないでしょうか?。スターとと同時に他のランナーを置き去りにしてフルスピードで突っ走る長距離走選手のような状況になっていたのではないか、と思います。
    2015年08月10日 15:24

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