10月17日、自民党の安倍総裁は靖国神社を参拝した。
これは、靖国神社の秋の例大祭に合わせたもので、総裁になってからは初めて。安倍総裁は先月の党内の勉強会でも「どこかの時点で行こうと考えていた。英霊に対して申し訳ない」と述べていたから漸く念願叶ったというところか。
ただ、総理に就任した場合、靖国参拝するのかどうかについて問われると、「日中、日韓関係がこういう状況になっている中で、総理になったら参拝するしないということは言わない方がいいだろう」と明言を避けている。これは、前回、2006~2007年の総理在任中、中韓との関係に配慮して、靖国参拝について「行くとも行かないとも言わない」という"曖昧戦略"を彷彿とさせる。
これまで筆者は、安倍総裁は、内外からのバッシングを警戒し、政権交代したとしても、しばらくは「控え目」な言動を取るのではないかと述べてきたけれど、やはり慎重な対応であると言える。
これに対して、中国は予想通り反発した。
10月17日、中国外務省の洪磊・副報道局長は安倍総裁の靖国参拝について「日本は歴史問題におけるこれまでの態度表明や約束を順守し、責任を持って問題を処理すべきだ。…靖国神社問題は日本が軍国主義による侵略の歴史を正しく認識し、対応できるかどうかに関わり、中国を含む被害国の人たちの感情にも及ぶ問題だ」との談話を発表している。
また、18日付の人民日報は、「邪悪な靖国参拝」と題した論評を掲載し、「靖国神社参拝は何を意味しているのか、それは日本軍国主義の亡霊である」と批判している。ただ、その一方で、「軍国主義による被害を深くこうむった日本人民が、一部政治屋の狂躁のために歴史を忘却し、前車の轍を踏むことはあり得ない」と、"一部政治屋"なる言葉を使って、日本国民を切り離した論評をしているから、"一部政治屋"だけの問題に押し込めておきたいものと思われる。
ただ、安倍総裁がこの時期に靖国参拝したのは、例大祭に合わせたというのは勿論あるのだろうけれど、対中外交の一環として行っているのではないかという気がしないでもない。
というのは、尖閣問題この方、中国は事あるごとに日本を批難しているけれど、特に、9月の国連での中国の演説は、著しく自国の品位を落とすことになった。
中国の楊外相は、尖閣諸島を「日本が盗んだ」などという表現で批判したのだけれど、これについて、各国の高官は、中国が、あそこまで言うことに驚きを口にしているという。日本にしてみれば何を今更という気がしないでもないけれど、中国の"正体"を少しでも多くの国々に知ってもらうことは無駄にはならない。
まぁ、それでも、最近の中国の言動の「品位の無さ」具合は、昔と比べて、劣化している感は否めない。昔、さる有名ブロガーが、中国をして「ちょっとお洒落な北朝鮮」と表現したことを記憶しているけれど、正に核心をついた指摘ではないかと思う。
今や、悪化しつつある日中関係は世界でも注目を集めてる。このタイミングで靖国参拝をすることは、中国の今の反応を引き出す撒き餌のような効果を発揮する。
一般に、国の為に戦って亡くなられた戦没者を国家首脳が弔うのは普通のこと。それを、世界が注目するタイミングで行なうことで、中国が他国を尊重する国なのかどうかを、浮き彫りにする。そして、中国はお約束どおり反発し、見事に"釣り上がった"。それも「邪悪な参拝」というオマケつきで。
安倍総裁にしてみれば、今の段階で靖国参拝しておくことで、中国に対するハードルを上げることになる。つまり、今後、安倍総裁が総理になったら、中国が、日本と交渉をする相手は"靖国参拝した"人物ということになる。それを承知で交渉しなくてはならないこと自体が、中国に譲歩を迫ることを意味してる。
中国は尖閣問題については、日本が盗んだだの、軍国主義が復活するだの、昔のことばかり持ち出して批判しているけれど、要は、それしかもうネタがないから。
中国の国家測量地理情報局は、国内にある、尖閣を中国領土にしていない地図を「問題地図」として摘発し、発見し次第、処分するとの通知を出し、「問題地図」を載せたウェブサイトは閉鎖、携帯電話やパソコンなどの輸出入検査を強化して「問題地図」を閲覧できる製品を全て没収するよう税関当局に求めたという。よもや「焚書坑儒」を現代で見られるとは驚き以外の何物でもないけれど、中国は自分で歴史問題を持ち出すしか手がないことを自ら白状している。
だけど、その歴史問題で日本を批判しているくせに、"靖国参拝した"安倍氏を迎え、交渉するということは、その時点で歴史問題を不問にしたことになる。自分で自分を否定することになる。
だから、安倍総裁が現時点で靖国参拝することは、それだけで、中国の批判に対するカウンターパンチとなり得る。トランプのポーカーで言えば、掛け金をうんと積んでレイズしたようなもの。
その意味では、既に、対中外交を始めているともいえるわけで、今のうちにどんどん掛け金を積み上げていくことだって有り得る。
10月15日、安倍総裁はアメリカのバーンズ国務副長官と会談し、尖閣について「話し合う余地はない。領土問題はないのだから、1ミリも譲る気はない…こちらの考え方を見誤らないように伝えてほしい」と述べているけれど、これも見方によっては、賭け金を更にレイズしたと言えなくもない。
だから、安倍総裁がまだ野党の党首である今の内に、掛け金を積めるだけ積んでおくことは悪くない。
将来、安倍総裁が総理に就任したとき、それでも中国が、安倍氏との交渉のテーブルにつくのであれば、その時点で、領土問題と、歴史問題については日本優位が確定する。
ただし、そのためには、国内世論、特にマスコミが安倍バッシングをして足を引っ張らないように注意しないといけない。安倍バッシングが酷くなればなる程、安倍総裁は言いたいことを控えざるを得ない。そうなると、それ以上、掛け金をレイズすることが出来なくなる。
今のところ、外交で"毅然とした態度"を取るスタンスは、世論に歓迎されているから、その点での安倍バッシングはまだそれほどでもないけれど、カツカレーのようにあることないことで叩いてくることは十分予想される。しばらくは空気を読みながら、慎重にチップを上乗せすることになるだろう。
この記事へのコメント
sdi
「中国に対して『総理になったら、安易な妥協しないぞ』というサイン」
「中国に対して『今参拝したから、総理になったら参拝しないよ』というサイン」
安倍総裁は本音はどっちか曖昧したまま、相手をじらし続ける手を取ることも可能です。総理になったあと北京との交渉がこじれたら改めてこのカードを切ることもできます。しかし、どちらにしてもまず政権奪回しなくてなりませんけどね。
もっとも北京の党中央も、体制が固まるまで当分の間は「声討」と尖閣近辺での自国艦船による嫌がらせくらいしか打つ手がないようです。どこかのはねっかえりが早まった愚行をやらかさなければ、事態が大きく動くのは日本の総選挙の時期次第ということになるのでは?
とおる
ちび・むぎ・みみ・はな
> 安倍総裁は言いたいことを控えざるを得ない。
この点について安倍晋三総裁は学んだことであろう.
つまり, メディアのバッシングを気にして
言論を控えることが日本国民への裏切りになると.
何故なら, メディアの声は嘘ばかりだからだ.
対支・対韓の雑念があるとうまく行かない.
この混乱した状況下では, 適切な時に適切な発言と
適切な行動をとること以外には道はない.