鷲尾発言の波紋と獅子身中の虫

 
今日は、先日話題となった鷲尾政務官発言についてです。

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1.所有権と領有権

10月9日、民主党の鷲尾英一郎農林水産政務官が、都内で自身の政治資金パーティーで、尖閣諸島について「誰が所有するかの問題ではない。日本の登記簿に中国政府と書いてもらったらいいだけの話だ。日本の領土として、われわれが断固たる決意のもと島を守り抜くことが大事だ」と発言し物議を醸した。

だけど、尖閣については、国有化するという政府方針が下され、それに先立って動いていた東京都による尖閣購入を押しのけて、国有化に踏み切っている。

国の地方自治体である東京都の購入は認めないくせに、中国政府の購入なら認めるということは、日本は中国の属国に成り下がったとでもいうのか。政権の一員でもある政務官にしてのこの発言は、閣内不一致でもあるうえに、筋も通らない。有り得ない。

当然のことながら、この発言について野党は猛反発。翌10日、公明党の山口代表は1「誤解を招く極めて軽率な発言だ。いかに政権の統率がとれていないかの表れだ」と批判し、自民党の石破幹事長も「政府の一員である政務官という責任ある立場の人間として法律や立場の重さも知らないようだ」と述べている。

鷲尾政務官のこの発言を受け、藤村官房長官は、郡司農水相に「誤解を招く表現で、政府方針として結論が出ているから発言に十分注意するよう伝えてほしい」と電話で伝え、結局、鷲尾政務官は10日午前に、「誤解を招くような発言があったと受け止められたことは事実だ。…本意としては、政府の方針に賛成だ」と釈明している。

果たして、鷲尾政務官が何を考えて、こんな発言をしたのか分からないけれど、発言通りに捉えるならば、領有権と所有権を分けて考えるべきだ、ということではないかと思われる。

領有権とは、文字どおり、対象となる土地や島などを自国のものとする権利のことで、所有権とは、対象となる土地や島を自由に使用・収益・処分する権利のこと。

所有権を持っているいうと如何にも、全て100%自分のものだ、なんていうイメージを持ってしまうかもしれないけれど、所有権というからには、その"権利"そのものを保障する存在があることが前提になっている。

何故なら、誰かが何かを所有する"権利"を護り、保障する存在がなければ、誰も彼も、ここは俺のものだと主張することが可能になって、収拾がつかなくなってしまうから。

権利を保障する存在がなければ、畢竟、争いが起こり、最終的には腕力に勝るもの、つまり武力によってそこを支配するものがそこを「領有」することになる。そうなってから、いくら、ここは自分が買った土地で所有権は自分にあると主張したところで、誰も護ってくれない"権利"なんて、無いも同然。

だから、所有権を云々する前に、そこを実効的に支配している存在は誰なのかを確定し、その支配下に入ることを前提としなければ、所有権は成立しない。言い換えれば、所有権は、そこを領有する存在、即ち、国などのように物理強制力と権限を有する存在が、所有を認め、それを守ってくれるという前提があって初めて成り立つものであるということ。

領有権と所有権は別のもの。

この観点から、くだんの鷲尾政務官の発言を見てみると「誰が所有するかの問題ではない。日本の登記簿に中国政府と書いてもらったらいいだけの話だ」としているから、尖閣の領有権は日本で、その支配下の元に中国政府が所有権を持つという意味だと解釈できる。

つまり、日本の登記簿に中国政府と書いた時点で、尖閣の領有権は日本にあると認めたことになるのだけれど、いくら解釈の上では、そうなるからといって、中国相手に、特に尖閣でこんなことは有り得ないし、絶対に認めてはいけない。




2.獅子身中の虫を封じ込めよ

昨今、都内や大阪、福岡などで、中国が大使館や総領事館の土地を落札・購入したことが問題になっている。これは、中国政府が日本国内に購入した土地の用途を変更したとしても、日本政府が検証することが出来ないことや、中国は、日本の土地を購入できるのに対して、日本の在中国公館がすべて賃貸で、事実上、片務主義になっていることなどが指摘されているから。

更に問題なのは、中国は2010年に国防動員法を施行していることで、これは在日中国人にも適用されることになっている。中国の国防動員法の内容はざっと次のとおり。
・中国国内で有事が発生した際に、全国人民代表大会常務委員会の決定の下、動員令が発令される
・国防義務の対象者は、18歳から60歳の男性と18歳から55歳の女性で、中国国外に住む中国人も対象となる
・国務院、中央軍事委員会が動員工作を指導する
・個人や組織が持つ物資や生産設備は必要に応じて徴用される
・有事の際は、交通、金融、マスコミ、医療機関は必要に応じて政府や軍が管理する。また、中国国内に進出している外資系企業もその対象となる
・国防の義務を履行せず、また拒否する者は、罰金または、刑事責任に問われることもある
これらをみれば分かるとおり、中国の国防動員法は、中国政府が有事だと判断すれば、資産や人員含めて、すべて中国政府が接収・管理できるという内容になっている。

これが在日中国人に適用され、しかも、中国が日本国内で購入した土地や建物を何に使うかすら、日本政府が検証できないようになっている。

これでは、中国が日本の知らない内に、在日大使館や総領事館をこっそり、要塞化することだってできてしまう。これは同時に、一朝事あれば、日本国内の中国大使館や総領事館が、いきなり中国の前線基地に成り得ることを意味してる。

同じことは尖閣についてもいえることで、いくら尖閣の領有権を日本が持ったところで、所有権を中国に渡してしまったら最後、中国は尖閣を好き勝手に改造するだろう。

筆者は2011年3月2日の「ホリエモンの『尖閣明け渡せばいい』発言について」のエントリーで、尖閣は中国にとって、太平洋に出るための玄関口であり、尖閣を手にいれれば、橋頭堡として港を作るだろうし、場合によっては潜水艦の基地をも造るかもしれないと述べたことがあるけれど、もしも、鷲尾政務官の言うように、中国に尖閣の所有権を渡してしまうと、これが現実化してしまう危険がある。

尖閣を日本の領土として、断固として守り抜くことは結構だけれど、その守り抜いている筈の島で、日本を攻撃するための基地を建設されたら堪らない。

そんな寝言をいう暇があるのなら、日本政府が、国内の中国大使館や総領事館の使途をいつでも検証できるようにすべきだし、更には、中国が購入した土地に対しての電力供給ラインや電話回線を完全に独立させて、イザというときには、即座に全面供給カットできるようにすべきだと思う。

中国が国防動員法を日本に対して施行したら、中国大使館や総領事館は中国の前線司令基地になる可能性はゼロじゃない。だから、そんなとき、即座に中国大使館や総領事館への電力や電話回線をカットして、彼らの機器や通信手段を奪えるように、インフラレベルで体制を敷いておく必要があるのではないか。

現に中国は、核ミサイルのいくつかの照準を日本に合わせている。政治家は万が一に備え、そのための手立てを打てなければ、政治家でいる資格はない。その意味で、鷲尾政務官の発言は、日本の安全保障を考慮しない危うい発言だと言わざるを得ない。

獅子身中の虫を自分で飲み込むような馬鹿な真似をしてはいけない。


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この記事へのコメント

  • opera

    少し視点を変えて考えると、中国(支那)という地で歴史的に個人の所有権が保障されたことは無く、そのアナロジーで、伝統的な中国には領土・領有権という概念も無く、独特な版図(territory)意識しかなかったということを日本人は思い出すべきでしょう。この「版図」意識は、中華思想に基づく文明観と外交関係が混じり合ったもので、今の中国はかつての「版図」概念を領土主張にすり替えているだけです。沖縄に対する領有権の主張などはまさにこれで、例えば200年後にアメリカが、アメリカの同盟国だった国はアメリカの「領土」だと主張するようなものでしょう。福沢諭吉の『脱亜論』ではないですが、中国との関係を考える基本はここにあります。
     また、個人の所有権についても、古代ギリシャ・ローマ以来の伝統がある欧米諸国や貞永式目・二十箇年年紀法で中世的所有権が成立し「一所懸命」の気風を確立した日本とも著しく異なります。2006年、中国でも「土地所有法」なるものが成立しましたが、法文こそ日本法のパクリでもっともらしく見えるものの、体系的な内容は、極めてご都合主義的で危険なものだということを進出企業はどれだけ理解しているの
    2015年08月10日 15:24
  • mayo5

    尖閣買うアル。日本滞在中のシナ人を住まわせるアル。独立運動を行うアル。要請を受け、出兵するアル。9条信徒を日本国内で騒がせるアル。
    2015年08月10日 15:24
  • ス内パー

    今回の発言、実は中国にとっても受け入れられない代物なんですよね。
    文字通りに解釈した場合尖閣諸島が日本のものであることを自ら認めるばかりか日本に頭を下げて買わせてくださいと『お願い』する→日本の下に着いたことを認めることになるので面子丸つぶれです。
    しかも今は面子丸つぶれになったことを吹聴して回る新しいメディアがあるし権力闘争で不利になるという国内事情もありますから。

    まあ発言者があれなんでそこまで考えてはいないことは確実ですが。
    2015年08月10日 15:24
  • sdi

    >領有権と所有権を分けて考えるべき
    誰かに入れ知恵されたのか自分で考え付いたのか、どっちにしても机上論ですね。
    法律の理屈から考えると「間違ってはいない」のでしょう。現実世界のパワー・ポリティークについての考慮が皆無。特に中国のやり口や決意をあまりに甘く見すぎています。
    民主党の内部に「領有権と所有権を日本と中国で分け取りすれば尖閣問題は解決する」というあまりに無邪気な感性だけで判断している方々が一定数いるのでしょう。
    2015年08月10日 15:24

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