旱魃と楼蘭と遺伝子

 
「無秩序に欲望を追い続け、その抑制も満足にできなかったのがお前達だ。その為に資源を浪費し、人類が存在する為に必要な環境さえ破壊した。無教養な人間達は、根拠ない主義主張に踊らされ、戦い、殺し合った。最悪だ。」
ヒロト・アマギワ ジーンシャフト 第6話 「過去からのホットライン」より


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1.大旱魃に見舞われたアメリカ

世界的な大旱魃が進行している。アメリカでは、およそ56年ぶりの大旱魃に見舞われ、アメリカ全体の約8割ものトウモロコシが枯れ、輸出にも影響が出ているという。

今年8月末のアメリカ農務省の予想レポートによると、トウモロコシ生産予想は、昨年を4000万トン下回る2.74億トンで、トウモロコシ商品価格も記録的な高値になっている。

8月15日のトウモロコシ価格は、シカゴで記録的な1ブッシェル(56ポンド=25.4kg)当たり8.13ドル、あるいは1トン当たり320ドルと24%急騰、世界的な食料価格の上昇の懸念を引き起こしている

これは日本の穀物輸入にも、大きく影響を及ぼしている。

日本は世界最大のトウモロコシ輸入国で、世界の総輸入量の約2割を占めている。2008年にはその99%をアメリカからの輸入で占められていた。現在では供給源の多様化を進めてはいるのだけれど、それでも、2010年の輸入の9割がアメリカ産。

財務省貿易統計によると、2011年のトウモロコシ輸入量は1528万トンで、1986年以来の低水準に落ち込んだのだけれど、東日本大震災で東北地方などの飼料メーカーや畜産農家が被災したのがその理由。

日本で消費されるトウモロコシの65%は配合飼料に、20%はコーンスターチに用いられる。配合飼料の内訳でみると、トウモロコシが47.3%、大豆油粕が14.1%、こうりゃんが6%となっていて、配合飼料のほとんど半分はトウモロコシ。

だから、旱魃などによって、トウモロコシ価格が上昇すると、国内の畜産にそのまま影響する。

東京に本社を置く穀物会社のコンチネンタルライス代表の茅野信行氏によると、日本はブラジルの出荷業者がアメリカ産より1トン当たり20ドル以上低い価格を提示していることから、2012年にブラジルから100万トン以上のトウモロコシを輸入し、アメリカ産トウモロコシの占める割合は8割を切る可能性があるとしている。

また、ブラジル以外にも輸入先として注目されてきているのがウクライナ。ウクライナでは、2011年10月にトウモロコシの輸出関税を撤廃したこともあり、ウクライナ産のトウモロコシの輸入も進めている。飼料輸出入協議会の晴野三義専務理事は「これまでも米国産に限らずアルゼンチンなど南米産のトウモロコシを買うことがあったが、最近はウクライナなど黒海近辺の国から輸入している」と述べている。

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2.注目されるウクライナ

そんなウクライナに注目しているのは日本だけじゃない。中国もウクライナを自国の食糧供給国として手を伸ばしている。というのも、中国もトウモロコシの消費量が年々増加していて、輸入量が急増しているから。

元々、中国は自国でトウモロコシを生産していて、アメリカに次いで、世界2位のトウモロコシ生産国だった。ところが、その大半は国内消費に費やされ、2009年からは輸入国に転じている。

中国の年間消費量は1億9100万トンで米国に次ぐ世界2位。中国税関総署のデータによるとトウモロコシ輸入量は2010年に157万トン、 11年に175万トンだったのだけれど、今年は1~2月の2カ月だけで通年並みの127万トンに上っているという。

そこへきて、アメリカの大旱魃。中国は新たなトウモロコシの調達に迫られ、今年初めて、ウクライナからトウモロコシを5万トン輸入している。

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ウクライナは、日本の約1.6倍に当たる6035.5万haの国土面積を持ち、そのうち約54%にあたる3243.4haが耕地になっている。国土の大半が平野で、中部、南部に広がる肥沃な黒土地帯は、ロシア帝政時代から「欧州の穀倉」と呼ばれていて、農業は今でも主要産業の1つに数えられる。

ウクライナのトウモロコシの生産量は年々増えていて、2009年の生産量は1049万トンもある。これは2000年の385万トンの約3倍。

ウクライナは、今年10月に、中国と年々およそ300万トンのトウモロコシを供給するのと引き換えに30億ドルのローンを引き出す「穀物ローン」協定を結ぶという。これにより、中国は毎年約300万トンのトウモロコシを輸出市場価格で得ることになる。一方、ウクライナは「穀物ローン」によって、中国が提供する農業技術・除草剤・殺虫剤の購入に使うという。

ウクライナは全体のトウモロコシ生産量こそ年々増えているものの、単位面積あたりの収穫量でみれば、5トン/haと、アメリカの9~10トン/haと比べて半分程度しかない。従って、農業技術の進歩等で更に生産量が上がる可能性がある。中国はその辺りを見越して、「穀物ローン」による農業技術の提供をしているのかもしれない。

元々、トウモロコシの生産国だった中国が、近年輸入国に転じたのは、国内で、肉の需要が拡大していることに加え、水不足で国内の生産量が頭打ちになっていることが背景にあるとみられている。

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3.海水西調プロジェクト

中国の水不足は、これまでも指摘されていたことなのだけれど、その原因のひとつに中国国内の砂漠化が挙げられる。一説には、中国国土の18.2%に当たる174万平方キロメートルが、すでに砂漠化し、毎年3436平方キロメートルの国土が砂漠になっているといわれている。

3436平方キロといえば、鳥取県の面積が3507.26平方キロだから、面積だけでいえば、毎年鳥取県くらいが丸ごと砂漠化していることになる。

人工衛星から地球を見ると、中国は、緑の部分が少なく、大半が土に覆われていて、専門家は、「森林の乱伐で蒸発散量が不足し、降水量の減少につながった」と過度な開発が原因と指摘する。

中国は深刻は水不足の対策として、中国南方地域の水を北方地域に送って、慢性的な水不足を解消する「南水北調プロジェクト」を計画して2002年から着工しているのだけれど、南部水源の枯渇や水質汚染のために難航しているという。

また、渤海湾の海水を大陸を横断して、新疆まで引く「海水西調プロジェクト」という何とも破天荒な計画まで検討されているという。

中国の新彊日報によると、「海水西調プロジェクト」は、海水を渤海西岸から海抜1200メートルの内モンゴル自治区に送り込み、そこから北緯42度に沿った凹状地形を利用して新疆ウイグル自治区まで給水するというもの。最終的に海水を砂漠の塩湖や盆地に送り、人造の海水河や海水湖を形成させることを目的とする。

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新疆ウイグル自治区にあるタクラマカン砂漠の中の湖の殆どは塩水湖であり、この地域は東が高く西が低い地形になっている。従って、砂漠東側塩湖にまで海水を引っ張ってくることができれば、途中の運河や塩湖から大量の水が蒸発して降水をもたらし、中国北西部から北部に広がる乾燥地帯の気候を劇的に変化させるのではないかと期待されている。

そんな都合よくいくのかとも思わないでもないけれど、地形的にいえば、ここに湖があることは不思議でもなんでもない。かつて、砂漠東側の外れには、「彷徨える湖」と呼ばれた、ロプノール湖があった。

現在、ロプノール湖は干上がり、湖面は存在していないのだけれど、もともと、この湖にはタリム川が流れ込んでいて、湖から流れ出る川がないため、湖水は強い陽射しで蒸発するか地中に浸透して消えるなど消滅を繰り返していた。

かつて、この地は、中国で古来から西域と呼ばれ、漢の時代にはロプノール西岸に都市国家楼蘭が栄えていた。中国科学院の生態・地理研究所は、砂漠化対策として「新ローラン計画」を起草し、ロプノールに人工の淡水湖をつくる計画をしているというから、淡水、塩水の違いは別として、ここに水を引くというのは、それなりに意味があることだと思われる。

ただ、ロプノール周辺地域は、1964年以来、核実験場として使われ、1996年までに核実験が46回に渡り実施された。

大気圏内核実験はロプノールの北西約100km、地下核実験はロプノールの北西約220kmの地域で行なわれ、1950年代から1960年代にかけてロプノール付近は軍事上の立ち入り禁止区域となった過去がある。

だから、仮に、「海水西調」プロジェクトが上手くいったとしても、折角引いた海水が汚染されないとも限らない。過去からのホットラインは無視してはいけない。


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この記事へのコメント

  • sdi

    この手の、超大型開発構想を見ると「アラル海、今どうなってたっけ…」を連想しますね。
    残留する放射性物質もそうですが、大陸沿岸の特に黄海あたりの海水を内陸に運んで何に使う?いや、何に使える?原発の冷却水とかですかね。
    2015年08月10日 15:24

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