中国の尖閣侵略に対抗する兵法について

  
善く戦う者は、人を致して人に致されず。進みて禦ぐべからざるは、その虚を衝けばなり。兵の形は実を避けて虚を撃つ。
孫子 虚実篇


画像


1.尖閣問題におけるアメリカの虚と実

アメリカ第7艦隊は、10月2日までに空母「ジョージ・ワシントン」と「ジョン・C・ステニス」を中心とした2個の空母打撃群を西太平洋上に展開し、警戒監視に当たっていることを明らかにしたと報道されている。

「ジョージ・ワシントン」は、ニミッツ級航空母艦の6番艦で、横須賀を母港とする原子力空母。「ジョン・C・ステニス」は同じく、ニミッツ級航空母艦の7番艦で、ワシントン州のブレマートンを母港とする。

「ジョージ・ワシントン」空母部隊は9月11日から19日までグアム近海で実施した統合軍事演習「バリアントシールド2012」に参加の後、ペルシャ湾周辺に向かう途中の「ジョン・C・ステニス」空母部隊と西太平洋上で合流し、警戒監視に当たっている。

アメリカは、かつて1996年の台湾総統選の際、中国軍が台湾海峡で軍事演習により威嚇したのに対して、空母「インディペンデンス」と「ニミッツ」の2隻を現地に急派して牽制したことがあるけれど、アジア太平洋地域で、2個以上の空母部隊が合同で任務に当たるケースは珍しいとされる。

海上自衛隊の幹部は「米国は尖閣諸島など同盟国の領有権問題に深く関与しないというが、何らかの政治的メッセージが含まれているはずだ」と指摘しているけれど、まぁ、誰が見てもそのとおりだろう。

更に10月3日、フィリピンのアメリカ大使館は「『オリンピア』は米国とフィリピンの軍事交流強化を目的として、4日にフィリピンのスービック湾に到着する予定」と発表し、ロサンゼルス級攻撃型原子力潜水艦「オリンピア」を派遣することを決めた。

ロサンゼルス級潜水艦は、アメリカ海軍の攻撃型原子力潜水艦。全長110メートル、全幅10メートル、排水量約6000トン規模で、最大射程距離1400キロの核巡航ミサイルなどを搭載している。

これで、アメリカは、西太平洋に2個の空母打撃部隊を配置して、フィリピンに攻撃型原潜を配備することになる。元々、ロサンゼルス級潜水艦は、空母打撃群を直衛し、ソ連海軍の巡航ミサイル潜水艦への対潜戦を優先的な任務として計画・建造された経緯がある。従って、「ジョージ・ワシントン」と「ジョン・C・ステニス」と共同で作戦行動を取る事も出来るし、仮に、尖閣で軍事的衝突が起こったとしても、中国軍の後背をつくことも可能になる。

中国は東シナ海での米国の軍事介入が本格化したとみて、米国の動きを鋭意注視しているようだ。

アメリカ国防省のアシュトン・B・カーター副長官は「米国はアジアの国家間の領土紛争が平和的に解決することを願っている。米国が推進する『アジア太平洋地域のリバランシング』戦略は、中国を封じ込めるためのものではない。…そのような懸念を抱く一部の中国の友人たちに、今後は米国の動きを見守るよう伝えたい。われわれの動きは協調的なものだ」と述べているけれど、「アメリカの動きを見守れ」と言っている時点で、目一杯牽制(脅し)していることは明らか。

このように、アメリカは表向きの言葉と裏腹に、実際の行動で政治的メッセージを発するというやり方を結構する。尖閣の問題にしても、表向きは中立の立場を取るといっているけれど、実際の部隊配置で、中国の勝手な行動は許さないという立場を明らかにしている。

「中立の立場を取る」という見解は言葉以上のものにはならないのに対して、空母打撃群や原潜の派遣は現実のもの。戦なんかでは、よく「虚々実々の駆け引き」なんて言葉を使うことがあるけれど、こうしたアメリカの態度を"虚"と"実"で分類するならば、「中立の立場を取る」という見解は、実体のない"虚"であり、空母や原潜の派遣は、現実に存在する"実"にあたると言える。




2.まぼろしで尖閣を手に入れようとする中国

この"虚"と"実"という切り口で、尖閣を巡る中国の動きと日本の対応を見てみると、面白いことに気付く。それは、中国が"虚"を持って"実"を得ようとしているのに対して、日本は"実"を持って、"虚"を打ち破らんとしている点。

中国が今尖閣で行っていることを、情報戦と物理的行動で区分すると、情報戦では、「尖閣を巡る情報戦と中国の嘘」のエントリーでも触れたように、中国は、「尖閣は清国領土であり、それを日本が盗んだのだ」というロジックを立てている。

9月27日の国連総会で、中国は日本が尖閣を"盗んだ"という表現を7回も使う異様な演説をしているけれど、逆にいえば、それしか言えないということを意味してる。しかも、その盗んだというのは、"尖閣は清国領土だった説"が前提になっているのだけれど、これは歴史的に証明されているわけじゃない。つまり、尖閣は本当に清国領土だったことが確定しない限り、中国の言い分に正当性は成り立たず、あくまでも"主張"の域を出ることがない。要するに中国の情報戦は"虚"の範疇にあるということ。

次に、中国が実際にやっている物理的行動は、漁船や監視船などで、尖閣の領海への侵入を繰り返してアピールする段階で止まっていて、尖閣諸島に上陸して軍事的に制圧しているわけじゃない。実効支配は日本が行っている。
※相手国の公船が常時領海内に入っていると、どちらが実効支配しているか分からなくなるという見方もある。

これを"虚"と"実"で区分けすると、中国は、尖閣を盗まれたと主張することで"虚"のレベルでは尖閣を自分のものとしているけれど、現実の実効支配という"実"のレベルでは尖閣は支配できていない。すなわち、"虚"の尖閣しか手にしていない。

万が一、日本が中国の主張に屈して、尖閣を明け渡すようなことがあれば、"虚"の尖閣しか手にできていなかった中国は、これまた、盗まれたという"虚"によって、尖閣の支配という"実"を得ることになる。

つまり、中国は情報戦を駆使して、日本や世界に"まぼろし"を見せることで、現実の尖閣を獲ろうとしている。"虚"を持って"実"を得ようとしている。

これに対して、日本の"実"と"虚"は、丁度中国と正反対になる。まず日本は現実に尖閣を実効支配している。"実"の尖閣を手にしている。そして、海保が尖閣をパトロールし、海自やアメリカの空母打撃群による警戒活動など、物理行動という"実"のレベルでも尖閣を支配している。

また、情報戦という"虚"の尖閣支配では、中国の度重なる宣伝に反論するという形での反撃しかしていない。これをどう評価すべきか。

もちろん、情報戦レベルでも、日本は中国にやられる一方じゃなくて、きちんと反撃すべきだというのは真っ当な意見だとは思うけれど、あえて、相手の土俵では全力で戦わないという手もなくはない。

これは、情報そのものを更に"虚"と"実"に分けることで戦う方法。




3."実"によって、中国の"虚"を打ち破れ

冒頭に引用しているけれど、孫子の兵法では、相手の"虚"すなわち、弱点を突くことで勝つことを教えている。当たり前といえば当たり前。

中国は、尖閣問題について、カイロ宣言だの、14世紀には清の領土だっただの、過去を持ち出して自国領土だと主張している。互いの主張がぶつかる"虚"の領域の情報を、さも"実"であるかのように押し出して攻撃している。だけど、いくら"虚"の情報だったとしても、中国の弱点はそこじゃない。情報戦における中国の"虚"は別にある。

現時点において、情報戦レベルでの中国の本当の弱点は、「法治が効かない無法国家である」という点。先頃の反日暴動を見ても分かるように、中国の横暴は広く知られてる。外国大使が襲われても保護をしないだけでなく、外国の国旗を大使の車から奪い取って破壊しても、起訴せず、拘留処分で済ませる国。およそ文明国とはほど遠い。

尖閣問題においては、こうした法の秩序が効かない国であるというのが中国の弱点であり"虚"にあたる。ここを徹底的に突いてやればいい。

9月26日、野田首相は国連総会の一般討論演説で、直接名指しこそしなかったものの、「自らの主義主張を一方的な力や威嚇を用いて実現しようとする試みは、国連憲章の基本的精神に合致せず、決して受け入れられない」と述べたけれど、これは正に、中国が法の秩序が効かない国であるという事実を指摘している。見事に中国の"虚"を突いた。

だけど、見事なのはそこまでで、当日の会場はガラガラ。肝心の演説を聞いたのは10ヶ国ほどにしか過ぎなかったという。この部分はしつこく世界に拡散するべきだと思う。

尖閣の領有権がどちらにあるかについては、日本・中国共に譲る訳がなく、互いに主張の応酬になる。尖閣がどこにあるかもよく分からないような、さして興味も持っていない外国にしてみたら、どっちもどっちだと見えてしまってもおかしくない。

であれば、現実に確認でき、中国自身もそれを否定できない事実を表に打ち出した方が、より外国の賛同を得やすくなる。日本が「法の秩序」を大々的に打ち出すことで、少なくとも、世界は中国も「法の秩序」に従うべきだと考えるだろう。

実際、尖閣で石油資源が発見される迄の70年以上もの間、中国は日本尖閣統治に異議申し立てしなかった。これは、国際法廷の事例からいって、領有権の放棄と見なされる。実は、「法の秩序」に従うだけで決着はつく。

中国の通信社である、中国新聞社は、先日、オーストラリアのバーク環境・水・人口相が中国を訪問した際に、日本政府による尖閣国有化について「「オーストラリアの国民は平和を好む。日本の見解は支持しない」と応じたと伝えているけれど、これに対して、10月5日、オーストラリア政府は、実際の発言は「特定の立場を取らない」とする政府の従来方針に沿った内容であると反論している。中国は自国の報道すら"虚"を使う。

だから、もちろん、尖閣は日本領土であることは、世界に発信して理解を得るように努める必要があるけれど、その一方で、中国は自分の都合のよいように事実を捻じ曲げ、恥じることのない国なのだということを、事実という"実"で持って反撃しておくのも大切。

日本は、尖閣の実効支配という"実"を土台にして、「法の秩序」を世界に訴え続けること。"実"を持って中国の"虚"を打ち破る。そんな兵法を検討してもいいのではないかと思う。

Twitter
画像 ←人気ブログランキングへ

この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    嘘付増税首相の発言を聞く国が少なかったのは
    単に同首相に魅力がなかったに過ぎない.
    政治力のないものの演説を聞いても意味もない.

    ところで尖閣諸島.

    別に国際社会にアピールする必要はない.
    単に自衛隊の一個部隊をおけば良い.

    「軍隊が存在する」=「死ぬ気で守る」

    この時に, 日米軍事同盟が鉄壁の守りとなる.

    国際常識がないから, 支那に乗せられて
    意味のない演説をするはめになる.
    どこへ出しても恥ずかしい首相は裏の山へ捨てましょう.
    2015年08月10日 15:24
  • sdi

    「虚実とりまぜて」というより「虚」のほうがかなり多いように私には思えますね。中国の情報操作は。先日、豪の尖閣問題についての態度について中国側を支持しているような印象操作をやり後から否定されています。なんともお粗末というか、彼ららしからぬ下手を打ったというべきか。北京の党中央は打つ手がなくなってきているように見えますね。目に見える形での成果を挙げれるような方法(順次戦略)は手詰まりになっているのでは?あとは、海保相手に尖閣海域で消耗戦&神経戦を仕掛けるくらいでしょうか(累積戦略)。こっちのほうが寧ろ始末に悪いけど、入ってきた奴らは追い出すことを続けるしかないですね。
    野田首相の演説は宣伝戦の手としては悪くなかったですが、観客が少なすぎたような。証人にするならもっと集める必要があったでしょう。まあ、国連の議事録に野田首相が演説したという事実と演説内容は残りますがね。これはどちらかというと、中国側の翌27日の「迷」演説を釣上げたという点のほうがメリットかもしれません。
    尖閣をめぐる宣伝戦については、皮肉なことに竹島をめぐっての韓国のやり口が「とても参考」になります。自ら進んでいわゆる「人柱」
    2015年08月10日 15:24

この記事へのトラックバック