対中関係の打開について

 
中国公船の尖閣諸島への領海侵犯が繰り返し行われている。

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1.中国人が考える最も「親中」な政治家

10月3日には、尖閣国有化後5回目となる領海侵犯。6日未明から朝にかけても、接続水域に出入りを繰り返し、6日の午後3時現在、海洋監視船「海監」4隻と漁業監視船「漁政」4隻の計8隻が魚釣島や大正島沖の接続水域を航行しているという。


最早、中国の領海侵犯は、すっかり常態化した感すらしないでもないのだけれど、野田首相は、改造内閣の人事で、対中政策の強化を計っている。

尖閣問題に対応してきた玄葉外相を再任し、副大臣・政務官人事では野田グループの長島昭久氏を防衛副大臣に起用。さらに、外交関係に詳しい吉良州司氏と、防衛副大臣を長く務めた榛葉賀津也氏をともに外務副大臣に配置している。

10月2日、玄葉外相は記者団に「静かな環境で対話をする必要がある。効果的な意思疎通のためにも中国側に自制を求めたい」と対話による関係改善を中国に呼びかけている。

果たして、野田政権で、対中関係の改善ができるのか。

今のところ、外交ルートで特段に関係改善への動きがあるわけではないけれど、10月1日、中国中央テレビは、田中真紀子・文科相に焦点を当て、田中氏を田中角栄元首相の長女で知中派と紹介「田中氏のルートで中日関係の改善を狙う意図がある」などと伝えている。

中日国交正常化40周年の一環として、中国紙『環球時報』の電子版である『環球網』は、ネットユーザーを対象に行なった大規模なアンケートを行っているのだけれど、その中で中日国交正常化以降で最も「親中」及び最も「反中」な日本の首相を選ぶ項目があった。

だけど、流石に、この40年で目まぐるしく代わる日本の首相を一人一人覚えている中国人は多くはなく、実に40.7%のネットユーザーが「よくわからない」と回答しているのだけれど、その中で「中国に対し最も友好的な首相」に選ばれたのが、田中角栄元首相で、30.8%の高い得票率を集めた。その他は、"友愛"の鳩山由紀夫元首相は7.9%、村山富市元首相は4.9%で、現職の野田首相は1.5%。田中角栄の名は、中国では、いまだに知られているようだ。

逆に、「中国に対し、最も友好的ではない首相」のトップに47.3%という高い得票率で野田首相が選ばれ、33.3%で小泉純一郎元首相が続く。そして、意外にも、安倍晋三元首相を「反中的」であると感じているネットユーザーは4.6%に留まっている。




2.野田政権後に照準を合わせる中国

さて、その田中角栄元首相の長女で知中派と中国で紹介された田中真紀子氏が果たして、日中関係の改善に資するかというと、筆者は、あまり期待できないと考えている。

なぜなら、中国は、尖閣の国有化を巡って野田首相によって、面子を潰されたと受け取っているから。

中国は9月9日のAPECで、胡錦濤国家主席が、『国有化には断固反対だ』と、野田首相に直接伝えたのに対して、その2日後に、何の連絡もなく尖閣国有化に踏み切っている。中国はこれを非常に面子を潰す行為であると受け取っている。

先日、北京を訪問した日中友好団体会長らと会談した、唐家セン前国務委員は、「会談直後に国有化することはないだろう。メンツをつぶされた」と不快感を示したという。

だから、たとえ、田中真紀子氏を特使として中国に派遣したとしても、けんもほろろに追い返される。いわゆる「面子潰し返し」をやってくると見る。

まぁ、日本から見れば、なんと身勝手な、と感じてしまうのだけれど、中国は中国で不満を持っていることは事実。

中国が面子を潰されたと受け取った行為は、外交レベルで行われた。だから、これを、同じ外交レベルで打開するのは容易じゃない。おそらく、中国にしてみても、何らかの切っ掛けがないと、国内外へ示しがつかないと考えているはず。

9月26日、中国外務省の洪磊副報道局長は定例記者会見で、尖閣問題について、「中日関係改善のための条件をつくり出すよう求める」としているから、やはり、それなりの「切っ掛け」がないと事態は動かさない積りなのだろう。

では、その「切っ掛け」とは何かといえば、日本の政権交代もそのひとつ。

洪磊副報道局長は、安倍氏が自民党総裁に選出されたことについて「日本の内政で、論評はしない」と回答を避けているから、今のところ、あえて敵対視しないようにしていると見る。

また、中国の日本専門家で知られる清華大の劉江永教授は、尖閣問題について、「釣魚島問題で根本的な変化が起こることはない。選挙後に中日関係の再構築が行われるだろう」との見方を示しているし、中国現代国際関係研究院の霍建崗氏は、「右翼」とされる安倍氏の首相就任が日中関係に与える影響について、「前回首相に就任する前、数多くの右翼的発言をしていたが、就任後は対中関係維持に取り組み始めた」と指摘し、安倍氏の発言よりも、実際にどういう行動をとるかに注目すべきだとの見解を示している。

これらのことから、中国は、野田政権での関係改善は期待しておらず、次期政権に照準を合わせているのではないかと思う。




3.安倍総理で日中関係は改善するか

先日、北京で行われた、日中友好団体と中国側との会談に参加した、自民党の高村副総裁は、フジテレビのインタビューで、日中関係について次のように述べている。
「小泉政権の時、国交正常化以来最悪の関係と、こう言われたんですけど、その時よりもはるかに悪い。そういう状況ですね。

安倍政権が誕生して、安倍総理が最初の訪問先を中国に選んで、胡錦涛国家主席との間で、戦略的互恵関係というのを打ち立ててきたわけです。今現実見ると、わたしがつくった言葉で言うと『戦術的互損関係』。小さなことにこだわって、お互いが損する関係になってるんですよね。

正しいことをぶつければ、それは相手がわかってくれるはずだっていうのは、それは子どもの論理でね、わからないんですよ。世界の領土紛争っていうのは。無数にあるんだけれども、それは解決しないんですよ。しないんだけれども、その領土問題をどう全体の関係を悪くしないようにするかというのが、それは知恵だし。それから領土問題自身も、どう両方があまり熱くならないようにするかというのも知恵ですよね。

お互い同じ漢字を使って意思疎通がしやすいといういい面もあるんですが、時にとんでもない誤解というか、行き違いを生むこともあるわけですよね。日本政府とすれば、現状維持ということを守るために国有化したんだということにとらえているわけですが、中国の体制の中で『国有化』という言葉を使うと、領有権主張を一歩高めたのではないかという受け取り方ね。本当に外交当局同士だったらね、それはゆっくり説明すれば、ある程度わかるけど、国民的誤解になっちゃうと、これはなかなか行き違いを元に戻すというのはそう簡単ではないと、こう思ってます。

食事の間にね、唐家センさんとみんなが食事をしている時、ちょっと離れて、10分足らずですが立ち話をしたんです。その時に唐家センさんが、『安倍さんのことを右翼だとも、タカ派だとも思ってません』と。これはどういう意味で言ったのかよくわかりませんが、それは安倍政権が成立してから十分話し合いをしましょうという意思表示かなと、私は受け取ったんですがね。

どうしたらいいかっていうのは、さっき言ったように、今の政府の立場より、わたしの立場で強いことを言って、中国の世論をさらに怒らせることは決していいことではないし、政府より、より柔軟なことを言って、交渉力を弱めることもいいことではないから、具体的な話は、メディアを通じて今はしない。外交権を持ってからしっかりやります。安倍さんが、安倍内閣が外交権持ってからしっかりやります。」
とまぁ、何やら含みのあるような受け答えをしている。或いは何らかの打開案を持っているのかもしれない。ただ、事態を打開する案を提示するということは、何らかの妥協をするかもしれないことを同時に意味してる。

筆者は、「安倍総裁の控えめ戦略」のエントリーで、安倍氏は総理になったとしても、野党にも一定の配慮をした「バランス政治」をすることになるだろうと述べたけれど、外交においても同様に、ある程度の宥和外交を行なう可能性はあると思う。

これについては、海外メディアでも、同じ見方をしているところがあって、例えば、アメリカの『クリスチャン・サイエンス・モニター』は、9月26日付の記事で、「安倍氏はタカ派で知られているが、対中関係での姿勢は既に軟化しつつあり、日本の右翼勢力にとっては期待はずれになるだろう。…安倍氏の再登板が決まった後の一連の発言は、既に対中国で軟化した姿勢を取り始めたことを示している」と述べている。

やはり、この見方が現実的なところではないかと考えている。


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この記事へのコメント

  • SAKAKI

    尖閣に跋扈する中国の監視船に台湾の漁民が何度も追い払われていたようですね。(笑)もう野田政権を潰すため北京は頑張りまくると思いますよ。よって北京は安倍ちゃんが融和的とのキャラを作り上げる筈。どのような日中にまた新しい融和的な言葉が生まれることになるでしょう。
    2015年08月10日 15:24
  • sdi

    理念先行から現実重視で判断して、周囲から「融和的」と評価される外交方針を第二次安倍政権が選択することは充分ありえます。というか、それくらいの柔軟性としたたかさは持ち合わせて欲しいですね。何しろ初めてじゃないのですから。ただ、手段の目的化の罠に陥らないことが必須ですが。
    2015年08月10日 15:24
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    もし, 過去の失政を反省しているなら,
    安倍総裁が支那に「融和的」になることはないと思う.
    融和的ではないが支那が理解できる姿勢を示すだろう.
    我々は「融和的」と「合理的」を混同している.
    例え融和的でなくとも合理的であれば対話は進む.
    むしろこれが世界標準である.
    中共政府としては国内向けに説明ができれば良いのであり,
    嘘付政権の「日本政府の意志の見えない外交」が
    もっとも困惑する.

    世界標準では「融和的」は「従属的」と同じ意味だ.
    日本国民は支那に従属的になるつもりは更々ない.
    その点でいけば安倍晋三の様に国益重視の政治家の方が
    分かり易い.

    メディアが「安倍総裁が融和的になる」と書くのは
    何時もの世論操作の戦術だ.
    2015年08月10日 15:24

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