安倍総裁の控えめ戦略 (安倍総裁の戦略を読む 後編)

 
昨日のエントリーの続きです。

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3.政策アウトソーシングを行う野田首相

カツカレー報道や腫瘍性大腸炎報道を例に出すまでもなく、マスコミは、安倍総裁が総裁選に勝利した瞬間から猛バッシングを始めている。高々、野党の党首に就任しただけで、ここまで叩くのだから、総選挙後に首班指名されたならば、もっと叩いてくるであろうことは目に見えている。

まぁ、カツカレーくらいであれば、流石に、国民もマスコミの異常さに気づくだろうけれど(カツカレーで叩いた当の新聞社の社屋に入っているレストランのカレーの方がもっと高額だったと叩かれている)、尖閣に施設を作るだとか、河野談話見直しだとかになると、すわ「どこどこの反発は必至だ」と喜んで叩くに決まってる。

竹島や尖閣の問題が起こって、ようやく敵対国家がすぐそばにあったんだと気づいて慌てふためき、それでもオスプレイの沖縄配備に反対運動が起こっているのが、今の日本の現実。

そんな状況で、安倍総裁が持論を主張すると、マスコミの猛バッシングにあって、潰される恐れがある。折角、総裁に返り咲いたのに、総理になる前に潰されてしまったら元も子もない。

前回、マスコミのバッシングにあった安倍総裁が、再びそんな愚を犯すはずがない。だから、今回は物凄く自重して、尻尾をマスコミに掴まれないように慎重に事を運ぶと思う。

また、自民党にとっても、政権を奪取する前に、あまり党の政策をひけらかしてしまうのはよろしくない。なぜなら、野田政権がこれ幸いと自民の政策をパクってくると予想されるから。

筆者は、これまで「安倍元総理と政策アウトソーシング戦略」や「自民党と幸福実現党の連携戦略」のエントリー等で、何度か、安倍氏が、自分のいいにくいことは、別の政党と連携することで、その政党に代わりに発言してもらう「政策アウトソーシング戦略」を採るのではないかと述べてきた。

今でも、この「政策アウトソーシング戦略」は生きていると思っているのだけれど、実は、この戦略を野田首相も使っている節がある。3党合意に代表される、所謂"自公抱きつき"がそれ。

野田首相は、自公の法案をほぼ丸呑みすることで3党合意を成立させたけれど、同じように、別の問題についても丸呑みしてはいけないなんて決まりはない。なんとなれば、安倍総裁が主張する河野談話見直しでも、自民の国土強靱化法案でもいくらでも丸呑みしようと思えば出来なくはない。

まぁ、現実には、あまりにも自公の丸呑みばかりやってしまうと、民主党内から離党者が続出する危険があるから、そうそう無茶な丸呑みはできないだろう。だけど、逆に言えば、党が割れない程度であればいくらでも丸呑みできる訳で、自公の政策の中から自分に都合のいいところだけ"つまみ食い"すればいい。

この関係は、自分がいえないところを相手に言って貰って、それを採用する「政策アウトソーシング」と良く似ている。強いて言えば、元々そんな考えなんか持っていなかったというくらいで、表向きには政策アウトソーシングをやったことと同じになる。

だから、自民が野田政権を解散に追い込みたいあまり、党の政策を吹聴していい気になっていると、それらの法案の"美味しいところ"だけを持っていかれる危険がある。

特に、今、国民を不安に陥れ、安倍氏を総裁にまで押し上げた国防に関する政策などは、丸ごと民主にパクられる可能性があるし、それをもって野田政権の延命や民主党の支持率アップに繋がってしまうと、政権奪取戦略が根本から崩れることにもなりかねない。

このように、安倍総裁が持論や自党の政策を主張し、野田首相がそれらを"つまみ食い"する構図が、仮に出来上がってしまうと、これもまた、マスコミの絶好の餌食になる可能性がある。




4.右翼vs保守

中国や韓国が安倍総裁を右翼だといって騒ぐのは、当然予想された反応だと思うけれど、日本のマスコミも、安倍総裁に"ウヨク"のラベルを貼ってくると見る。

朝日新聞は安倍氏が総裁に決まった翌日「安倍新総裁の自民党―不安ぬぐう外交論を」と題した社説で、安倍総裁は外交安保において、公約からタカ派の主張を取り下げるべきだと、いかにも安倍総裁が危なっかしそうだと思わせる記事を掲載しているし、日刊ゲンダイに到っては「安倍は5年前に下痢で政権をブン投げ、その後の政治を迷走させた張本人だ。苦労知らずの3世議員で、『戦後レジームからの脱却』『憲法改正』ばかりを叫び、戦争も辞さないウルトラ右翼である」と、"ウルトラ右翼"というなんともストレートなラベルを貼っている

まぁ、マスコミにとっては、「自民党野田派」だと揶揄されるくらい自公に擦り寄っている今の野田政権を苦々しく思っているのかもしれないけれど、それでも安倍総裁が総理になるよりはマシだと考えているのだろう。或いは、自民でも民主でもない第3極に票を流したいと思っているかもしれない。

その為には、安倍総裁を叩きに叩いて、総理になる前に沈めておきたい。それには、安倍総裁に"右翼"のラベルを貼り、野田首相には"保守"のラベルを貼ることで、「右翼vs保守」の構図を作ってくるのではないか。

世論調査を見ても、上がったとはいえ、自民の政党支持率は20~30%で、民主は10~15%程度。両者を足しても50%もない。それに対して無党派層は40~60%もある。だから、投票率にもよるけれど、無党派層の票がどこに行くかによって、選挙結果は大きく左右されるという現状がある。

だから、安倍総裁が今の段階で、持論を主張すればするほど、マスコミはその発言を取り上げて安倍総裁を「ウルトラ右翼」に仕立てあげてくるのではないか。そうすることで、政治にあまり興味を持っていない無党派層に対して、安倍氏だと"ちょっと危ないかもしれない"という印象操作をかけてくる可能性がある。

勿論、先の竹島・尖閣問題によって、世論も国防についての関心を高めているから、無党派層とて、それなりに気にかける部分はあると思われる。その時、マスコミが、「安倍氏は「ウルトラ右翼」で危なっかしいけれど、野田氏は「穏やかな保守」だから危なくありません」という印象操作キャンペーンを大々的に打ってきたら、安倍政権時の数々の功績を知らない無党派層は、危ないのは厭だとばかり、自民ではなく、他の政党に入れるかもしれない。

だから、政権を取っていない段階で、安倍氏が持論を主張することは非常にリスクがある。下手をすると自分も党も潰されてしまう。そんなリスクを犯さないためには、専ら聞き役に徹して控え目に発言するのが一番いい。

だから安倍総裁は、しばらくは、こうした"控え目戦略"を採るのではないかと思っている。




5.控え目戦略とバランス政治

ただ、この安倍総裁が持論を声高に主張しない「控え目戦略」は、マスコミからの攻撃を回避することができるメリットがある反面、安倍氏の"タカ派"に期待していた層の支持を失う事態も予想される。

竹島や尖閣で、韓国や中国にやりたい放題、言いたい放題されても、「遺憾です」とか言わず、制裁措置一つすらまともにできない日本政府に苛立ちを感じている層は少なからず存在している。彼らは、安倍総裁の誕生を歓迎し、安倍"総理"が「強い日本」にしてくれることを期待してる。

その安倍氏が、総理になる前から、これまでのようなタカ派発言をしなくなり、「尖閣問題で日本に問題がないなんて言うな」という経団連の言うことに理解を示したとしたら、一体何考えてるんだ、と失望するだろう。下手をすると彼らの支持までも失うかもしれない。

では、この「控え目戦略」は安倍総裁が総理になったら、解除されるかというと、必ずしもそうとは限らない。

なぜなら、衆院選に勝っただけで「ねじれ国会」が解消されるわけではないから。

現在、参院の自民の議席数は83議席。公明の19議席を足しても過半数の122議席には届かない。安倍"総理"がいくら衆院で法案を通しても、生き残った民主やその他野党が参院で審議拒否したり反対したら、たちまち法案はストップしてしまう。

だから、安倍総裁は総理になったとしても、やっぱり、野党の意見を伺って、法案を修正したり、止む無く妥協したりする場面だってあるかもしれない。つまるところ、野党にも一定の配慮をした「バランス政治」をすることになる可能性は高い。従ってここでも、安倍氏の"タカ派"に期待していた層の失望を買う恐れがある。

こうしてみると、安倍"総理"が、本当にやりたいことがやれるのは、来年の参院選にも勝って、ねじれ国会を解消してからということになる。それとて、マスコミの猛バッシングの中をかいくぐってやることになる。

だから、仮に安倍政権が誕生したとしても、必ずしも、みんながみんな思い描いたような政権になるとは言い切れないところがある。

ただ、ひとつだけそれを変え得るものがあるとすれば、それはおそらく世論の声。

たとえ、安倍"総理"が「バランス政治」をやるとしても、そのバランスの基準となる世論全体が右にシフトすれば、バランスをとった中心も右にシフトする。

世論が右にシフトして、対中、対韓強硬政策を行うことの是非は別として、安倍"総理"がやりたいことをやれるかどうかは、最後まで世論が安倍氏を支持しきれるかどうかにかかっている。


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この記事へのコメント

  • sdi

    「贔屓の引き倒し」という愚考を自覚なしに行う、元気だけは有り余っている「無能な味方」が最大の障害ということですかね。
    2015年08月10日 15:24
  • 日比野

    SAKAKIさん

    コメントありがとうございます。

    >某国を刺激する燃料投下は子分にやらせて、安倍さんはその収集を図るスタイルがベスト(笑)。
    そうですね。それが良いと思います。安倍総裁の立ち位置と取り巻く環境の厳しさを考えると、相当慎重に事を運ばないと厳しいと思っています。

    昔は、一法案一内閣と言われたものですが、民主党があれこれやらかした後を引き継ぐ内閣は無茶苦茶大変です。後始末だけでどこまで掛かるのやらという感じですし、今の日本の立て直しには、総理が2人、3人同時に必要(外交・安保+経済+震災復興)な気がします。
    2015年08月10日 15:24
  • SAKAKI

    安倍さんを潰したのはその右翼的な期待を負ってしまいすぎたからですよね。しばらくはその期待を削ぐため、慎重だなぁという雰囲気を作る必要があると思います。某国を刺激する燃料投下は子分にやらせて、安倍さんはその収集を図るスタイルがベスト(笑)。日々野さん軍師として自民党中枢に行かれてはいかがでしょう??
     個人的には・・世界的な不況を目の前にし、内需の大きな国が優位な状況です。シェール革命で対外依存度が下がる米国、メタン掘削で変貌が期待される日本。共に、外需依存度がOECD中では低いうえ、経済軍事とも補完関係で同盟が成り立っていいる稀有な例です。2国が国内の立て直しに注力する間に、中韓ともバブル崩壊で不良債権の山ですから、金融麺から国際ルールの洗礼を浴びるのです。日米同盟に屈するのはむしろ、中韓になると思います。
    2015年08月10日 15:24
  • 八目山人

    先回の安倍政権時、「靖国、靖国、・・・」と騒いだバカ保守の光景がよみがえります。

    また靖国に行けば勝てるとか、公明を切れば勝てるといっている馬鹿がいます。

    でも児童ポルノ法で、狂ったように戸井田議員や早川忠孝議員のブログに、自民の保守派議員を貶める言説を書き込んでいた保守派を名乗る人たちとはなんだったのでしょう。
    馬鹿か工作員か?どう思われます?
    2015年08月10日 15:24
  • 白なまず

    マスコミの攻撃は年中無休の呪いみたいな、悪呪の結界、封印の類だとすると、その仕組みが機能不全になる事で効果が無くなるはずである。そうなると情報源は知人やインターネットが主流になり、日頃会話する相手からの情報が支配的になると、呪われた状況を一変させられるチャンスが巡ってくる。それは恐らく、太陽から神風のようなスーパーフレアが突然発生し、人工衛星が故障し、TV局の通信施設が故障し、修理に莫大な費用が必要な自体になれば、呪いの結界は機能不全になる。同様に天界でも地上に封印された神々を解放すべく、古代から行われてきた封印の儀式を天災の力で機能不全にするだろう。節目の今年はそれに相応しい。これで本格的に龍神が復活する。そうなれば陰陽師と同じ名字の総理大臣が誕生し、日本の全ての悪しき封印を解く時こそ、、、夜明けは近い。
    2015年08月10日 15:24
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    本日の主張には全面的に反対.

    安倍首相に好感を持つ国民は嘘付党の次から次へと
    でてくる政策力のない首相に呆れているから. だから,
    嘘付党と如何なる協力関係も自民党にはマイナス.
    また, 政策企画力は自民党と嘘付党では雲泥の差なので
    「政策アウトソーシング」なぞ不可能だろう.
    大体,一人二人詳しい議員が居ても政策はできない.
    嘘付党が次から次へと反日法案を出してくるのは
    反日法案製造器である旧社会党事務局があるから.
    彼らは戦前からの共産主義・社会主義革命思想を連綿と
    受け継いできている. ついでに言えば, この譜系が
    近衛文麿をして戦争突入を実現させたものだ.
    安倍晋三がそれを知らない筈はない.
    総裁は国民が求める「非嘘付」なるものを出す義務がある.
    国民が求めているものを反日勢力に気兼ねして出し
    そびれたのが第一次安倍内閣の爪付きの始まりだった.
    安倍晋三はそれを反省している.

    要は, 安倍晋三として総裁に選ばれたのであるから,
    安倍晋三らしい発言をするのが一番である.
    2015年08月10日 15:24

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