11月27日、民主党は衆院選マニフェストを発表した。
1.変節した民主党マニフェスト
もうすでに報道各紙が指摘しているけれど、2009年のときのマニフェストと比べて、具体的な数値目標や財源の記載が無くなった。
高速道路無料化の記載は消え、子供手当も支給金額を明示しなくなった。最低保障年金7万円実現も、最低保障年金の創設をめざすになり、ガソリン税などの暫定税率を廃止して2.5兆円減税に至っては、"そうでしたっけ、うふふ"とばかり記載が消えた。無論、改革の工程表も無くなっている。
率直に言えば、数値目標と工程表がなくなった分、当り障りのないというか、無難というか、通り一遍のインパクトに欠けるマニフェストになった印象は否めない。
民主党の政調幹部は「具体的な数値を盛り込むと実現できない可能性が高くなるから曖昧にするしかない」と語り、野田首相は27日の記者会見で「あまりに細かく規定したことが縛りになり、柔軟性に欠ける部分があった。3年間の教訓と反省を踏まえて、現実的なマニフェストになった」と述べている。
尤も、数値目標を書かないことについては、党内でも異論があったようで、一部若手議員が「スローガンだけ訴えても、選挙で戦えない」と前回のような目標数値付のマニフェストが必要だと唱えたそうなのだけれど、中堅議員から「『民主党はまたウソをついた』と言われかねない」と潰されたというから、"民主党=ウソツキ政党"の二つ名はそれなりに堪えているようだ。
民主党は自分のマニフェストにインパクトが無くなった代わりに、どうしているかというと、もう多くの人が御存知のとおり、ジミンガーで違いを出そうとしている。
11月8日、細野政調会長は地方組織の幹部に「今後は公約の達成率ではなく、『自民党時代と比べてこうなった』と打ち出す」と話しているし、野田首相なんかは、最近、やたらと自民の選挙公約にある「国防軍」の文字や、安倍総裁のインフレターゲット論を批判している。
まぁ、違いを出したい気持ちは分かるけれど、それが「外交・安全保障」と「経済」という民主党が一番苦手とするところを「違い」として出さなければならない時点で、既にブーメラン臭が漂っている。
では、民主党は今回のマニフェストで何をやりたいのか。その為に、まず柱となる政策とその一丁目一番地を確認しておきたい。
民主党は今回のマニフェストで5つの重点政策を上げている。それは次のとおり。
民主党5つの重点政策ここで述べられている重点政策の一番上が、政策の一丁目一番地とするならば、民主党が一丁目一番地と考えているのは、社会保障ということになる。そして、経済、エネルギー、外交、政治改革と続いている。
1社会保障
2経済
3エネルギー
4外交・安全保障
5政治改革
この重点政策の中には、震災復興が入っていないのだけれど、重点政策のページの前に「民主党の理念」と「震災復興が最重点」と書いてある。だから、一応、一丁目ゼロ番地に「震災復興」を掲げているように見えなくもないけれど、重点政策に入れていないということは、"重要ではないけれど、急いでやる"程度の扱いなのか、それとも、4年も掛けてやるほどのことでもないと思っているのか何なのかよく分からない。
震災復興として何をやるかについては、マニフェストに書いているけれど、復興支援・賠償等、どちらかといえば、原状回復的な項目が殆どで、そこから先の発展していく方向性の政策が弱いように見える。僅かに、「再生可能エネルギー産業や医療関連産業の拠点を創出する」として地域経済活性化と雇用の拡大を謳っている部分があるのだけれど、なぜか"福島"という枕詞がついていて、その他の被災地の経済活性化はどうするのか少し引っ掛かる。
なので、全体的には、震災については原状回復して、その次に社会保障で、二の次に経済がきていて、正直、日本が力強く回復するイメージはあまり感じない。
2.震災復興を第一とした自民党の政権公約
次に、同様に自民党の選挙公約を見てみる。柱となる政策を確認するために自民党総合政策集の目次から拾ってみると次のとおり。
1.復興と防災自民党の公約は、復興、経済、教育、外交、社会保障の順となっていて、復興を一丁目一番地の政策に据えていること、そして、2番目に経済成長、3番目に教育・人材育成を掲げていることから、どちらかといえば、国の立て直し、或いは、新しい国造りを中心に据えた印象を受ける。
2.経済成長
3.教育・人材育成、科学技術、文化・スポーツ
4.外交・安全保障
5.社会保障・財政・税制
6.消費者、生活安全、法務
7.エネルギー
8.環境
9.地方の重視・地域の再生
10.農林水産業
11.政治・行政・党改革
12.憲法・国のかたち
安倍総裁は選挙のスローガンとして 「日本を取り戻す」としているけれど、なるほど、選挙公約には、それが色濃く反映されているように思われる。
また、自民党が一丁目一番地に据えた復興についていえば、「復興」と「防災」の2つに分け、復興として被災地の原状回復を図り、防災として国土強靭化を進めるという二段構え的な政策となっている。とりわけ国土強靭化でインフラ整備を進めるとしているから、この部分について言えば投資的な色合いも帯びているといえる。
まぁ、これだけで経済成長というか発展にまで結びつくかどうかは微妙なところではあるけれど、一応「ICT(情報通信技術:Information and Communication Technology)による復興と経済成長の両立」を掲げているから、その気はあるように思われる。ただ、筆者的にはインフラの再整備と強化による流通の効率化による経済効果のほうがより大きくなるのではないかと思っている。まぁ、情報通信も流通の一種だと言われればそれまでなのだけれど。
あと、全体的な印象としては、各政策において、一定のビジョンを掲げているから、この政策を実行することでどのようになっていくのか非常にイメージがしやすいという面があるように思う。少なくとも前に進むのだという意志を感じ取ることはできる。
その点でいえば、民主党のマニフェストは自民党の公約と比較すると、やはり「停滞」するイメージがあるように思う。おそらくそれは、社会保障が経済よりも上に持ってきていることもさることながら、民主党の世界観がそうさせているように思えてならない・
今回の民主党マニフェストには、民主党の理念が掛かれているのだけれど、それは次のとおり。
民主党の理念筆者は、11月7日のエントリー「政党における戦略の階層とは何か」の中で、民主党の世界観(理念)が「自立した個人が共生する社会」なのであれば、ともすれば、ただ生きることだけが目的となってしまって、何の為に生きるのか、何を目指して生きるのか、地域として、国家として何を体現していくべきなのか、といった方向性を見失ってしまいかねない、と述べたことがある。
誰のための政党か
民主党は、「生活者」「働く者」「納税者」「消費者」をよりどころにし、将来世代の声なき声に耳を傾けています。
めざす国
民主党は、共生の社会をつくり、平和と繁栄の世界の実現にむけ、貢献する国をめざしています。
めざす社会
透明・公平・公正なルールにもとづき、正義が貫かれる社会。
働く人が豊かさと幸せを実感できる社会。
格差を是正し、誰にも「居場所」と「出番」のある社会。
民主党は改革を前進させます。
国民と国家の安全を守り、「開かれた国益」を追求。
憲法を活かし、「国民主権・基本的人権の尊重・平和主義」を徹底。
官から民へ、国から地方へ、「新しい公共」と地域主権を確立。
今回、民主党がマニフェストで掲げた「めざす国」やら「めざす社会」を読むと、筆者には、個人が生きやすいように生きる社会にするという、どちらかといえば、義務よりは権利の方の主張が強くでているように見える。
それの良い悪いは別としても、個人の権利を厚く遇するようにすればするほど、法規制にしても、補助金にしても、国が面倒をみなければいけない部分がどんどん増えていくことになる。畢竟、政府はどんどん「大きな政府」になっていく。
だから、民主党の世界観で、国家運営をすれば、政府支出はどこまでも増えつづけ、税金が上がるばかりではないのかという気がしてならない。
つらつらと自民と民主の選挙公約を比較してみたけれど、国民はどう受け止めるのか。その答えは来月の投開票で明らかになる。
この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
途絶しない交通網の整備がある. この事から
自民党が狙っているのは高規格の鉄道・道路網を
日本全国に張りめぐらすこと, になる. 情報網の
整備も必要であるが, 一番重要なものは物流.
現在の日本で起業がICTに偏っているのは
情報流に対する物流の悪さが制限になっている
からだろう. 地方の産物を, 大流通企業に頼ることなく
安価に日本全国に持っていくことができれば
もの作りの方に個人の起業が移っていくだろう.
情報は重要だが, 結局は, 情報は着ることも
食べることもできない. お金があっても幸せでない
のと同じか.