民主党に凄まじい逆風が吹いている。
1.逆風の民主党
地元に帰って選挙戦を始めている民主党各候補は、地元有権者からの厳しい批判に晒されている。民主党は各地で「政策進捗報告会」を開いて、マニフェストについて説明と謝罪を続けているけれど、有権者からは、「マニフェストはウソの代名詞」「民主党はウソつき」と罵詈雑言を浴びせられているという。
11月17日、枝野経産相が「『優良可』で優を付けてくれとは言いませんが……」と民主政権の実績を訴えると、「ろくな仕事をしてない」「ふざけるな」などと罵声が上がったという。
まぁ、それはそうだろう。これまでいくら有権者が声を上げても、無視しては、ジミンガーばかり唱え、真摯さの欠片も見せてこなかったのだから、ようやく国民の前に姿を表したこの時に、堪りに堪った鬱憤をぶつけられるのも身からでた錆。
静岡4区から出馬する民主党前職の田村謙治氏は、「厳しい、厳しい選挙になります」とその選挙戦の厳しさを繰り返し、6区から立候補する、同じく民主党前職の渡辺周氏も「解散は5回目だが、逆風の中の選挙。小泉政権の郵政解散以上に厳しい」と述べている。
だけど、批判などをしてもらえるのはまだ良い方で、関心すら持って貰えない候補はもっと悲惨。
18日に、地元の東京18区のJR吉祥寺駅前で街頭に立った菅前首相には詰めかける聴衆もなく、罵声も声援もなく白けムードだったという。また、武蔵野市での夕方から夜にかけてと思われる街頭演説でもガラガラ。日本人は心底怒るとその相手の存在からなかったことにしてしまうところがあるから、菅氏の場合は、批判を通り越えて、無視される段階までいってしまっているかもしれない。
選挙情勢分析でも、菅氏は苦戦を強いられていると伝えられている。
今年に入ってからの、地方選でも民主党は連敗続き。ざっとした地方選の結果は次のとおりだけれど、この辺りに、地元有権者の声が集約されているとみていいだろう。
01/22 八王子市長選 58万都市自民党推薦新人石森孝志当選。民主党棄権ここまで、民主党の支持が落ちている状況では、民主党から立候補を断念したり、離党して他党へ転がり込む候補がいてもおかしくないし、現にそういう候補はたくさんいる。解散が決まってからも11人が離党した。
01/22 府中市長選 26万都市自民党推薦高野律雄氏圧勝。民主党棄権。
01/28 岩国市長選 自民党現職圧勝。民主は棄権。
02/05 上尾市長選 自民推薦候補が民主推薦をダブルスコア以上で圧勝
02/12 宜野湾市長選 自民党推薦新人佐喜真氏勝利。民主党は推薦を拒否され棄権
02/12 藤沢市長選 前自民党県議当選。前民主党女性市議は自民全体の4分1未満の得票。
02/19 前橋市長選 自民党県議当選。民主党国会議員が応援の現職は三選できず落選。
02/26 対馬市長選 自民党推薦候補が民主国新推薦候補をダブルスコアで圧勝
04/08 茨木市長選 元自民の維新推薦候補圧勝。民主共産推薦女性候補の1.5倍得票。
04/15 鹿児島市議選 60万都市民主5議席→3議席。得票数3割減。自民24議席。
05/13 福生市市長選 自民推薦候補共産推薦の2倍以上の得票で再選。民主は棄権。
05/20 小田原市長選 民主党神山議員応援の候補が現職にダブルスコア以上で大敗
06/10 沖縄県議会選 民主党4議席→1議席で県幹事長落選の惨敗。自民13議席
07/29 山口県知事選 民主党元衆議院議員出馬も自民候補に大差で落選(得票率10%vs48%)
10/21 入間市長選 民主党五十嵐衆院議員が応援する前副市長自民党推薦候補に大敗
10/28 岡山県知事選 自民党公認候補が元民主党女性候補に圧勝ダブルスコア
10/28 酒田市長選 民主党衆議院議員で県連会長が自民党相手に出馬して落選
10/28 衆院鹿児島補選 自民党公認候補が国民新党公認民主推薦候補に勝利
10/28 筑波市長選 自民党候補が元民主党市議に圧勝3選
ところが、その離党者達は、10月に総選挙の公認予定者として、1人あたり300万円の活動資金を支給して貰っていたのだけれど、離党後、誰もその300万を返却していないのだという。
11月22日、前原経財相は、「それは政治家以前に、人間として許されないことであると、そう思っています」 と批判し、 23日には安住幹事長代行が「お金を返してくださいとお願いしている。…別の政党に行って、民主党から受け取ったお金を使ってはならない。人間性が問われる」と述べている。
まぁ、それはその通りではあるのだけれど、貴方達執行部も、そうした人を公認する程度の身体検査しかできなかったというか見る目がなかったことも同時に意味している。
結局、民主党は公認申請書に「便宜の一切を弁済すること」という一文を加えることになったようだ。
現在までのところ、選挙対策なのかどうか分からないけれど、民主党は純化路線を歩んでいる。鳩山元首相の衆院選不出馬宣言をみても明らかなように、TPP賛成や消費増税に反対する勢力を党内からどんどん追い出している。世襲議員も認めない。
安住幹事長代行は18日のNHK番組で、「野田佳彦首相の考え方についてこられなければ公認はできない。袂を分かって新しい民主党を再生する仲間と戦いを進める」と述べているから、その腹を括っているのだろう。
2.自民の古い椅子に座って威張る野田民主
だけど、党を純化しようとすればするほど、党を束ねるための世界観がより重要になる。純化といえば聞こえはいいけれど、言葉を変えれば、純化とは、ある何某かの考え以外は認めないということだから、その純化する考えの質、いわゆる世界観が何であるのかを問われるこになる。
党の掲げる世界観がどれくらいの高さと広がりを持っているか、様々な考えをどれだけ許容できるか。そのの世界観の器の大きさが、そのまま党がどこまで大きくなり得る可能性があるかを規定する。
ところが、民主党は、中道中道と叫ぶばかりで、党の世界観を少しも示さない。
「政党における戦略の階層とは何か」のエントリーで、民主党に世界観があるとすれば、鳩山氏の「友愛」がそれに近いと述べたことがあるけれど、その鳩山氏を党から追い出した以上、野田民主党が目指す中道路線を規定する「世界観」は友愛ではないのだろう。だけど、これも、党が綱領なりなんなりで世界観を示していない現状ではただの推測に過ぎない。
はっきりしていることは、「中道路線」を進むということだけ。だけど、これは筆者には、中道という名の「反自民」路線をしようとしているようにしか見えない。
自民党は、先頃発表された公約に「日本人の手で、『日本の誇り、日本人らしさ』を示す新しい憲法をつくります。」と記している。
これからも明らかなように、安倍自民党は、本来の日本に立ち返るために、戦後レジームからの脱却をめざしている。そういう世界観を出している。これは勿論、戦後60年体制の終焉と共に、今までいたその立場から離れることを宣言している。
これに対して民主党は、自民を右翼と位置付けて、自分達は中道だと胸を張る。だけどそれは、現状維持であり、戦後体制を維持するということ。
安倍自民党が右隣の席に座りなおしてくれたお蔭で、これまで自民が座っていた椅子がぽっかりと空いた。野田民主党は、その椅子を中道と呼んでそこに座ろうとしている。それがたまたま反自民に見えているだけのこと。
野田民主党は、この構図を「右翼vs保守」、或いは「右翼vs中道」、と喧伝し、有権者の気を惹こうとしている。
その為に、野田首相は、純化路線を敷いて、党内の邪魔者を排除しようとしているのだけれど、世界観を出さず、TPPだの、消費増税だの、単なる政策レベルでの純化は党の器を狭めてしまう。なぜなら、政策に賛同できない議員は全部弾き出されてしまうから。
民主党が公認条件として、党の方針に従う「誓約書」を求めているけれど、これについて田中真紀子文科相は、「多様な意見を組み込まないことが民主党のレゾンデートルになる、と考える方が中心にいるんでしょう。」」と不満を顕わにし、その後、地元新潟県長岡市での記者会見でも「小沢さんがいなくなって、鳩山さんがいなくなって、いよいよ労働組合プラス松下政経塾の方々がルーツでは、民主党の間口が狭くなる」と述べている。
これはこのとおりで、政策を規定するところの世界観がないまま、政策だけで純化をかけるとついてこられる議員は減るばかり。
これについて、自民党の石破幹事長は「民主党の誓約書提出は評価できる。政策の純化に向かうという点で、政界再編のひとつの核をつくるという意図が感じられる」と述べているけれど、自民党は「純化路線」を採用しない。そんなことをすれば、多様な意見を飲み込む余地がなくなってしまうから。
自民党において、提出する法案を最終決定するなどの最高意思決定機関は、事実上、党総務会になるのだけれど、自民党総務会の意思決定は「全会一致」が慣例となっている。
一応、党の規則としては、党則第41条で「総務会の議事は、出席者の過半数で決し、可否同数のときは、議長の決するところによる」と多数決で決めることになっているのだけれど、慣例として「全会一致」を守っている。これは、多様な意見を吸収し、最後には纏まるためには非常によい慣例だと思う。この慣例があればこそ、いろんな考えがある人達を包含し、党として一つ纏まっていられる。
過去にこの慣例が破られたのは、郵政民営化法案提出の時。自民党史上初めて総務会の議決が多数決で行なわれ、大混乱に陥ったという。
確かに、全会一致を"原則"として、反対意見を主張する議員が納得するまでトコトン議論するのを厭わない姿勢。そして、採決のときには、反対議員はトイレに行くなどして退席してでも、この慣例を守ってきたというのは、それだけ、いろんな意見を尊重する気持ちの表れだと思う。
だけど、民主党にはこれがない。党内議論でも国会でも多数決に強行採決。そして、今回の公認での誓約書。異論は認めないのが民主党。進次郎議員が「自由がないのが民主党」と喝破したとおり。
民主党は、自分で党をどんどん小さくする方向に向かっている。今度の総選挙でどれだけ民主党が議席を取るかわからないけれど、現状の純化路線をすすめていけば、民主党は、その本来の器に沿った規模の政党になってゆくのではないかと思う。
この記事へのコメント
sdi
1970年代に暴れまくったレフトな方々の末路を見ている
・己の思想をさらに純化して観念の世界に閉じこもる
・転向して正反対の方向に突っ走る
この2パターンかな、と思います。
民主党の現在の動向を見ていると前者ですかね。
クマのプータロー
田村氏は別段人柄に問題があるわけではないですが、今回の選挙では人柄で選ぶ以前のところで消去される運命にあります。