政治は結果なんです
12月16日の衆院選告示を前に、事実上の選挙戦がスタートした。
1.訴求力に欠ける民主党のマニフェスト
各候補者は早速地元に帰り、選挙戦の準備を進めている。また、早速、街頭演説を始めている候補者もいるようだ。
民主党は解散した16日の夕方には、有楽町で民主党の菅直人氏、安住淳氏、蓮舫氏が街頭演説をしたのだけれど、物凄い野次が飛んでいた。どれくらい凄かったのかは、ネットにアップされている動画を見れば一目瞭然なので、詳しくは触れないけれど、それだけ国民の怒りが凄いということなのだろう。
筆者は、民主の街頭演説をそんなに聞いているわけでもないし、まだ選挙も始まったばかりなので、まだ確たることはいえないのだけれど、今のところ、民主の街頭演説は、自民を批判して、「世襲政治でいいのか、昔の政治に戻していいのか、もう一度チャンスを下さい」路線のようだ。
まぁ、政策をうったえようにも、党内でこれといった統一が取れた政策がないだけのかもしれな。ただ、16日に明らかになった、民主党マニフェスト原案では、TPP参加とか脱原発とかがあるようだけれど、子供手当も、ガソリン税などの暫定税率廃止も記載していない。
2009年の選挙では、目玉政策としてこれ見よがしに出していた子ども手当が、記載できていないということは、今回、子供手当並みの政策が出せない限り、前回と比べてインパクトが弱くなることを意味してる。
つまり、民主党は、マニフェストという面からみれば、2009年と比べて、国民に対して訴える力が格段に落ちる可能性が高いということ。
まぁ、前回と比べて、出来そうにない政策をマニフェストに書かない/書けないようになっただけ、少しは進歩したといえるのかもしれないけれど、政策の力が落ちてしまえば、その分、国民への訴求力も落ちることになる。
それに、選挙となれば、対立政党との争点を明確化しなければいけなくなるから、民主党政権時代に散々使った、自民の政策を悉くパクる、いわゆる"抱き付き戦略"を使えない。
民主党政権3年半で、民主党には国政を担うだけの力がないことが多くの国民の目に明らかになった。素人政権であったことがバレてしまった。それに加えて、有効な政策も出せない、となると、後は、ひたすらジミンガーをして相手をこき下ろすしかなくなってしまう。
民主党が言い出した中道路線にしても、何が中道なのかを示さない現状では、所詮は自民党を右翼と位置付け、自分達はただ、その左側にあるという以上の意味を持たない。
また、「昔の政治に戻していいのか」というロジックにしても、それが通じる為には、"日本が昔の政治に戻さなくても大丈夫"という、ある種の社会的安定感および安心感がないと成り立たない。
民主のいう「昔の政治に戻していいのか」というのは言葉を代えれば、「もう一度チャンスをくれ」ということ。だけど、前回与えたチャンスをモノにできなかった政党に、もう一度チャンスを与えるというのは、ただの"分の悪い賭け"にしか過ぎない。
これが、前の総選挙が行われた2009年ぐらいの状況であれば、もしかしたら通じたかもしれないけれど、内政、外交と国難が襲い掛かり、不安定感が増す今の状況で、このロジックはちょっと厳しいのではないかと思う。
2.安倍発言と国民の気持ち
それと比べると、自民の街頭演説のテーマは実に明快。11月17日に安倍総裁が熊本で街頭演説をしているけれど、政治は結果であるということと、政策を練ってきたことをうったえていた。
そして、政策については、経済・外交・教育と幅広く取り上げていた。経済では、大胆な金融緩和と公共投資をセットに行うことで景気を回復させる、外交では強い日米同盟を再構築して各国との関係を改善していく、教育では、過去、教育基本法の改正したことを通じて、教育再生が出来つつあったことを述べていた。
中でも、解散後にこうした経済政策を述べただけで、円安になり、株が上がったと述べたときは盛り上がっていた。確かに、安倍総裁が一段の金融緩和に言及した14日以降、円相場は対ドルで2円近くも円安が進んでいる。
野田内閣は2011年10月31日に史上最大となる8兆円もの、ドル買い為替介入をしているけれど、それでも週足ベースで2.5円ほど円安になっただけ。
ところが、14日の安倍発言後は14日の始値79.39円から16日の終値81.344円まで、3日で1.954円も上げている。来週含めれば、もう少し円安になるかもしれない。
この安倍総裁の発言について、民主党の前原氏は「日銀の独立性を度外視する発言だ」と批判しているけれど、その前原氏自身、10月30日に日銀の金融政策決定会合に出席して、強力な金融緩和を求める前提に、意見陳述したとされている。しかも、その日銀会合に自ら出席して発言したくせに、金融緩和は見送られたというオチまでついている。
ところが、安倍総裁が政権を取ったら金融緩和を求めたいと発言しただけで、2円も円安に動くということは、少なくともマーケットは、安倍自民党ならば、金融緩和させるはずだと受け止めているということを意味してる。
ここら辺りが、党として、国家運営力のあるなしを市場がどう認識しているかを如実に示していると言える。
安倍総裁の熊本での街頭演説と、有楽町での民主党の街頭演説との動画を比べてみると、余りの落差に驚くばかり。それくらい、民主への逆風と自民への追い風との落差を示しているとはいえるけれど、街頭演説に来てくれる人だけが有権者の全部であるとは限らない。
無党派層だっている。有権者の4割とも5割とも言われる彼らの気持ち如何で選挙は大きく変わる。
今度の選挙で自民が圧勝するのか、民主が踏みとどまるのか、或いは第3極が躍進するのかどうかについては、国民の現状認識というかその思いが奈辺にあるかが鍵を握る。
もしも、国民の気持ちが、「改革よりも、まず原状回復が先だ。世襲だろうが何だろうが、兎に角、元に戻してくれ。変える・変えないはそれからだ」という気持ちが強ければ、過去55年の実績を持つ自民に票がいくだろうし、逆に「いや、まだ日本には余裕がある。もう一度、改革をさせてやってもいい」という気持ちが勝れば、民主が健闘することになる。
また、「日本がこの先、どうなるかなんて良く分からないし、関心もないけれど、兎に角、既成政党だけはいやだ」という気持ちが席巻すれば、第3極が票が集まる可能性が高くなる。
何れにしても、国民が今の日本をどう捉え、どうしていきたいのかが重要なことで、ただ「何処何処が悪いからお灸を据えてやる」という気持ちだけで投票行動に走ってしまうと、足元を救われ、こんな筈じゃなかったということにもなりかねない。
同じ過ちは繰り返してはいけない。



この記事へのコメント
せみまる
安倍は地方の自民党員の苦渋や地方の経済疲弊を知らないし、知ろうともしない。
opera
これを考える一つのポイントは、民主党の無能・不作為・失政によって直接間接に被害を被ったと感じている国民がどの程度いるかだと思っています。このような人は、従来の支持政党に関係なく、現政権に罰を与えるべく積極的に行動します。2009年の選挙の際にも実際に存在し、一般にお灸層と言われる人々とは別です(医療関係者、地方行政幹部や地方商工団体及び農業関係者等)。
おそらく今回は、日比野さんが指摘した三勢力のどこにも積極的な追い風は吹かないでしょう。あるのは民主党に対する逆風だけです。それに適切に対処したところが多数の国民の支持を得るということになるのではないでしょうか。
民主党はひたすら懺悔するしかありません。責任転嫁は以ての外です。自民党は民主党のリカバリー、何よりも今やるべきことを最優先することを明言し、信頼を回復しなければなりません。第三極は、民主党はもちろん、自民党よりも自分たちの方がうまくやれるということを証明しなければな
ちび・むぎ・みみ・はな
良かったのに結果が出なかったという事は無い.
安倍晋三が最初の政権保持に失敗したのは小泉政権
の残像の払拭戦術を練っていなかったことに尽きる.
複数の演者が競う講演会に例えると分かる. 前講演の
興奮を自分の講演に繋げれなければ自講演は埋没する.
それに対して, 巧みな演者は一言で注意を転換する.
安倍第一次政権のつまづきは自らの政策の中における
靖國の位置付けを明確にせずに訪支したことと思う.
「第一声」はその後の千語万語を凌駕するのだから,
「その場」で意志表明の覚悟のないものはリーダにあらず.
日比野
木道氏のカキコは私も読みました。その通りだと思います。私も今回のエントリーで言いたかったのは、街宣車に乗る候補者も、その動画を見ている人も「浮かれてはいけない」ということです。わざわざ街宣を見に来る人は、それなりに関心のある人か、たまたまその場に遭遇した人でしょうからね。
街宣車から見えない、その向こうにいる大多数の人々の"関心"をどれだけこちら側に向けさせることができるか、如何にいい"印象"を持って貰えるかが大事だと思います。説得や納得はその次の話ですから。
sdi
2chでこんな書き込みを見ました。広島在住の自民党員でもある「木道」氏です。
「『民主党に比べればマシ?。第三極に比べれば安心か?』 その辺りの消極的な支持層をいかに広げるかに、選挙戦の行方はかかっています。」
前回の総選挙で民主党に投票した無党派層を「消極的な自民支持層」にしなくては次の総選挙での政権奪回、そのあとの参議院選でのねじれ国会阻止はおぼつきません。
そのためには自民支持者は「贔屓の引き倒し」にしかならないような、無党派層が反感を持ったりドン引くような行動を自制しなくてはならないのでは?有楽町の民主党の街頭演説の模様を無党派層が見たとき、どう反応するでしようか?消極的自民支持に回ってくれますかね?
「政治は結果」ですが「選挙も結果」です。過半数をしめて政権を奪回できなければ、いかに高邁な理想をいだいていようが愛国に燃えていようが現実政治に反映させることはで