11月10日、国土技術政策総合研究所は、茨城つくば市で、走行中の電気自動車にケーブルを使わずに電気を送る未来の給電システムの実験を公開した。
実験は一周約25メートルのコースで実施。電球を付けた無線操縦の模型自動車が、コイルを埋め込んだアクリル板の上を走ると明かりが灯る仕掛けが、施されていて、中々好評だったようだ。
実用化の際には、路面の下70~90センチメートルにコイルを埋める必要があるのだけれど、国土技術政策総合研究所高度情報化研究センターの小原弘志主任研究官は「10キロメートルごとに設置すれば、走行中に勝手に充電してくれる。バッテリー切れを心配する必要もなくなる」とコメントしている。
このワイヤレス送電技術については、2010年8月7日のエントリー「ワイヤレス送電技術」で触れているけれど、大きくは「電磁誘導式」「磁気共鳴式」「マイクロ波式」の3種類がある。
「電磁誘導式」とは、2つの隣接するコイルの片方に電流を流すと発生する磁束を媒介して隣接したもう片方に起電力が発生する、所謂"電磁誘導"を利用した給電方式で電送効率が非常によい(90%以上)反面、数mmから数十cmと近距離でしか使えない弱点がある。
「磁気共鳴式」は音叉の共鳴現象と同じ原理によって送電する。2つのコイルを互いに離して設置し、「共振器」として利用するのだけれど、給電側のコイルに電流が流すと、発生した磁場の振動は、同じ周波数で共振する受電側の共振回路に伝わって、受電側にも電流が流れる。この仕組みで充電を行う。
最後の「マイクロ波式」は、電気を一度、マイクロ波のビームに変換して送信し、受信側で直流に戻す送電方式で、宇宙太陽光衛星構想等で採用が検討されている送電方式。
次の表は、これら3方式それぞれについての電気自動車に対する開発状況なのだけれど、各社それぞれの方式で開発を進めている。今回の実験ではどのワイヤレス送電技術が使われているかは分からないけれど、実験車にコイルが使われているところをみると、おそらく「電磁誘導式」か「磁気共鳴式」のどちらかではないかと思われる。
筆者は、同じく、2010年8月8日のエントリー「キャパシタ搭載バス」で、高速道路の側壁に全部送電コイルを埋めておけば、高速道路でも、ワイヤレス給電ができるかもしれないと述べたことがあるけれど、今回の実験では、側壁ではなく路面下に送電コイルを設置するという違いがあるにせよ、早くも現実のものになりつつあるのは驚きではある。
電気自動車が、高速路線から給電を受けながら走行するということになると、これは動力方式としては電車と殆ど変らない。
だから、仮に、高速道路にリニアの線路を敷設して、電気自動車にリニアモーターを搭載して、高速道路を"浮上走行"なんかしようものなら、電気自動車はそのままリニアモーターカーになってしまう。
現在日本で、浮上走行するリニアを営業運転しているところは、2005年に開催された愛知万博で会場への足として開通した、東部丘陵線(名古屋市名東区藤が丘駅から豊田市八草駅間)、愛称「リニモ (Linimo)」。
リニモは「完全自動無人運転」で、運転手がいない。運行は、車両基地にある運転指令室でコントロールされている。そのお蔭で車両の全面ガラス張りと見まごう程開けている。
始めて乗車する人は、振動と騒音の少なさに驚くそうなのだけれど、騒音が少ないために線路の両脇には防音壁がいらないのだそうだ。更に、車輪がないので小回りがきき、通常の電車の半分以下の半径のカーブを曲がることが可能だという。
リニモの最高速度は100km/hなのだけれど、もちろんリニアはもっと速度が出せる。
現在計画中のリニア中央新幹線の最高速度は500kmと試算されていて、今の新幹線の倍。尤も、山梨実験線では2003年12月2日に最高速581kmを記録しているし、理論上ではもっと速度が出せるものと思われる。
だけど、実際の運行を考えると、速度が速くなればなるほど、止まるための距離。制動距離が長くなるという問題がある。
現在の新幹線では、時速270kmから非常ブレーキをかけた場合の制動距離は約4kmだけれど、リニアの時速500kmでは、制動距離は6kmになると見積もられている。実運行では、安全のために列車間の間隔を制動距離以上に開けなくてはいけない。畢竟、列車間隔を空けた分、運行できる本数が減ってしまう。
だから、速度を速くして制動距離が長くなればなるほど、今度は運行可能な本数が減ってしまうことになる。つまり、速度を取るか、輸送量を取るかの選択を迫られることになる。おそらく、中央リニアは速度と輸送の兼ね合いを考えた上で、最高速度を500kmに設定しているのではないかと思われる。
ただ、それでも、時速500kmは相当なもの。
2005年夏、山梨県のリニア実験線で時速500キロの体験試乗会が行われているけれど、その模様を映した動画をみても、凄まじい速度。500kmの速度になると、1.2kmを僅か8秒で通過する。遠くの景色ならまだしも、近場の景色はもう目では追えない。ただ、加速や減速時には結構Gがかかるようだから、もう列車というよりは旅客機に近いのかもしれない。
未来はまだまだある。
この記事へのコメント
白なまず
安倍総理、「ものづくりの日本を取り戻したい。その中心にあるのが自動車産業」
2013年の「自動車工業団体賀詞交歓会」が開催
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20130108_580829.html