政党における戦略の階層とは何か  (民主党の世界観を探る 後編)

 
昨日のエントリーの続きです。

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野田首相は、臨時国会での所信表明演説の最後で「私たちの背負う明日への責任を果たす道は、中庸を旨として、意見や利害の対立を乗り越えていく先にしか見いだせません」と述べている。

中庸の意味を辞書で引くと「かたよることなく、常に変わらないこと。 過不足がなく調和がとれていること。また、そのさま。」となっているから、これはむしろ「中道」の意味に近い。

野田首相は自分は「保守」だといいながら、所信表明では「中庸≒中道」と発言した。これは自身の信条と矛盾している。

これは、野田首相が「今臨時国会では、自分の意に染まぬ政権運営をする」という以外に説明しようがない。

そんな状況にある、野田首相が次期マニフェストで「中道」は駄目だ、と言ったのであれば、胸の内に秘めたる「守るべき何か」があるということなのだろう。

だけど、それが、政党レベルで反映する為には、その個人の思いが政党に属する議員の共通認識になっている必要がある。

政党には、すべからく、全体の共通認識足り得るものがなくてはならない。でなければ、政党は政党として一つに纏まることができずに、すぐバラバラになってしまう。言葉を変えていえば、その政党が掲げる、あるいは理想とする「世界観」が必要だということ。

では、政党における世界観とは何かというと、それは立党の精神、あるいは、党の「綱領」。「綱領」は、物事の要点や指針をまとめたものだけれど、そこには、立党の精神、つまり党の世界観が入っている。

例えば、自民党が2010年に策定した新綱領は、冒頭で次のように謳っている。
我が党は、「反共産・社会主義、反独裁・統制的統治」と「日本らしい日本の確立」―の2つを目的とし、「政治は国民のもの」との原点に立ち立党された。
自民党 平成22年 綱領」より抜粋引用
このように、自民党は「反共産・社会主義、反独裁・統制的統治」と「日本らしい日本の確立」を世界観として持っている。
これを基本として、党の政策が作られることになる。こうした構造を、戦略の階層で表すと次のようになると思われる。
世界観:党綱領
政策 :公約、大方針、基本政策
大戦略:誰を党首にするか等の役員人事
(以下略)
安倍総裁は、憲法改正とか、集団的自衛権の行使等について述べているけれど、それは、自民党の世界観である「反共産・社会主義、反独裁・統制的統治」及び「日本らしい日本の確立」の範囲に入っているかどうかが肝心なのであって、憲法改正だから駄目とか、集団的自衛権の行使なんてとんでもないというのは、目的と手段が逆転した議論に過ぎない。



では、翻って、民主党の世界観は何かというと、民主党には、未だに正式な党綱領がない。従って、民主党には世界観は存在しないことになる。

一応、民主党のHPには「基本理念・基本政策」が記載されているのだけれど、そこから、基本理念の部分を次に引用する。
●私たちの現状認識
日本は、いま、官主導の保護主義・画一主義と、もたれあい・癒着の構造が行き詰まり、時代の変化に対応できていません。旧来の思考と権利構造から抜け出せない旧体制を打ち破り、当面する諸課題を解決することによって、本格的な少子・高齢社会を迎える21世紀初頭までに、「ゆとりと豊かさ」の中で人々の個性と活力が生きる新しい社会を創造しなければなりません。

●私たちの立場

私たちは、これまで既得権益の構造から排除されてきた人々、まじめに働き税金を納めている人々、困難な状況にありながら自立をめざす人々の立場に立ちます。すなわち、「生活者」「納税者」「消費者」の立場を代表します。「市場万能主義」と「福祉至上主義」の対立概念を乗り越え、自立した個人が共生する社会をめざし、政府の役割をそのためのシステムづくりに限定する、「民主中道」の新しい道を創造します。
この民主党の基本理念・基本政策は1998年4月に行われた第一回 民主党統一大会にて決定されているのだけれど、実はこの段階で「民主中道」という言葉が出ている。

では、その「民主中道」とは何かについて具体的には書いてはいないのだけれど、この文章を読む限りでは、「自立した個人が共生する社会」というのがその理念になるように思われる。

だけど、「個人が共生する社会」とは、極端なことを言えば、唯生きているだけの社会とほぼ同じ。ともすれば、ただ生きることだけが目的となってしまって、何の為に生きるのか、何を目指して生きるのか、地域として、国家として何を体現していくべきなのか、といった方向性を見失ってしまいかねない。

この辺りは、自民党が綱領に「反共産・社会主義、反独裁・統制的統治」、「日本らしい日本の確立」と明確に、目的を持った世界観を打ち出しているのと実に対照的。

では、本当に民主党は綱領を持っていないのかというと、今年8月にやっとのことで策定された、党綱領原案というものがある。これは、まだ原案の段階で、来年1月の党大会で正式決定する見通しだという。

民主党の党綱領原案では、公共サービスをNPOや市民らも担う「新しい公共」の考え方を盛り込み、外交では「友愛精神に基づいた国際関係を確立する」と明記している。何やら先程の民主党の基本理念に、鳩山氏の「友愛」をくっつけただけのようにも見える。少なくとも鳩山氏の影響が少なからず入ってきているのは確かと言っていい。

実は、この「友愛」については、平成8年に、旧民主党が結党されたとき、その「立党宣言」でも同様に謳われている。次に引用する。
「私たちがこれから社会の根底に据えたいと思っているのは『友愛』の精神である。自由は弱肉強食の放埒に陥りやすく、平等は『出る釘は打たれる』式の悪平等に堕落しかねない。その両者のゆきすぎを克服するのが友愛であるけれども、それはこれまでの100年間はあまりに軽視されてきた。

(中略)

私たちは、一人ひとりの人間は限りなく多様な個性をもった、かけがえのない存在であり、だからこそ自らの運命を自ら決定する権利をもち、またその選択の結果に責任を負う義務があるという『個の自立』の原理と同時に、そのようなお互いの自立性と異質性をお互いに尊重しあったうえで、なおかつ共感しあい一致点を求めて協働するという『他との共生』の原理を重視したい。そのような自立と共生の原理は、日本社会の中での人間と人間の関係だけでなく、日本と世界の関係、人間と自然の関係にも同じように貫かれなくてはならない」

このように、今回の民主党の党綱領原案と非常によく似ている。むしろ、今の民主党の基本理念や、党綱領は、この旧民主党の結党宣言をそのまま引き継いだ流れにあると見るべきなのかもしれない。

本来、民主党は、これを党綱領にして、先の総選挙を戦かわなければいけなかった筈。だけど、実際にはそんなことは言わずに、反・自民党キャンペーンに注力していた。いわば、"自民党を否定する"という世界観を共通理念であるかのように振る舞っていた。

世界観が自民党の否定なのだから、政策レベルのマニフェストは自民が言わないことであれば何でもよかった。畢竟、その政策は、財源の裏付けのない、行き当たりばったりなものになった。

そこへきて、今回は、「中道路線」をマニフェストの方針にするという。もしかしたら、野田首相の意を組んで、「保守」を方針にするのかもしれない。

だけど、今回、策定された党綱領では、民主党の「基本理念」にある「民主中道の新しい道を創造する」という部分が、党内の保守、リベラル両勢力に配慮して削除されている。

民主中道の新しい道でさえ、党綱領から削除せざるを得ない世界観を持ちながら、どうやってその下の階層である政策(マニフェスト)で、「中道」やら「保守」とやらを打ち出せるのか。

綱領原案に「友愛」の文字が躍っている以上、その世界観はマニフェストを制約する。それ以前に、鳩山臭漂う「友愛」の世界観の下に民主党がひとつに纏まっていられるのか。それとも綱領を全面的に見直してしまうのか。

もし「友愛」とマニフェストが示す中道もしくは保守が合致しないのなら、その政策は、また、いきあたりばったりになるだろうし、逆に「友愛」の世界観を投げ捨てるのであれば、鳩山氏は自身の居場所を失う。

いずれにせよ民主党は、内部に自己矛盾を抱えたまま選挙戦を戦うことになる。




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この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    嘘付党には「守るべき日本」がないのだから,
    「保守」はあり得ない. 従って, 嘘付増税首相の
    いう「中庸」とは基本のない「宙ぶらりん」を
    指すのだろう.
    2015年08月10日 15:24
  • 日比野

    環境問題・保護さん

    明らかに誤解に基づくコメントですけれども、ご迷惑おかけしました。お詫びしておきます。
    2015年08月10日 15:24
  • 環境問題・保護

    1位になれそうなカテゴリーを探してウロウロするのはみっともないね
    2015年08月10日 15:24

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