野党が野田首相を攻めあぐねている。
自民党の安倍総裁は、11月1日、有楽町での街頭演説で「首相が言う前提条件は積極的にやる。問題を解決したら直ちに解散し、年内に投開票を行うべきだ」 として、特例公債法案の成立など三つの課題に協力する姿勢に転換した。
これは、これまで、特例公債法案の成立などと引き換えに解散を迫る戦略を立て、臨時国会での審議拒否もするくらいの構えだったのだけれど、強硬姿勢には世論の批判が強いこともあり、止む無く方針転換となったようだ。
ただ、急な方針転換だったのか、党内での根回しが十分ではなかったらしく、 自民党の浜田国会対策委員長は「いきなりハンドルを切るのはあまりいいことではない」と不快感を示している。
公明は依然として強硬路線を堅持していて、臨時国会開催前には自公と連携して、他の委員会審議に応じないと確認していたから、浜田国対委員長は、公明党の漆原国対委員長に安倍総裁の発言を陳謝するなど、急な方針転換の対応に追われた。
野田首相のように、少しも"尻尾"を出さない人物を相手にして、解散にまで持っていくには、野党一丸となって対峙する必要がある。少しでも自党内や野党間に亀裂が入ろうものなら、たちまちのうちにつけこまれてしまう。
先の3党党首会談直後に、野田首相は、自公以外の中小野党と党首会談を行っているけれど、安倍総裁が野党間との連携確認をする前に行っていて、先手を取られている。
野田首相は誠実ではないかもしれないけれど、"誠実そうに"手順を踏んでくるところがある。小沢氏を民主党から叩き出したときも、形だけであったにせよ2回も会談を設け、権力の横暴を振るったようには見せなかった。
野田首相は決して本音を漏らさない。本当に寝言を聞いていたって、解散は言わないだろう。
今回、自民は柔軟路線に転換した。だけど、たとえ、特例公債が可決して条件が全部整ったとしても、野田首相は解散する積りはないだろうし、批判を浴びても無視するだろう。そういう政権。
11月2日、参院本会議で、野田首相へ「緊急質問」を行った。質問で解散を迫っていたけれど、野田首相は同じ答えの繰り返し。
曰く、「政権の延命に汲々としていない」、曰く、「時が来ればきちっと自分で判断したい」。絶対に言質を取らせない。8月の増税法案可決以降の流れからいけば、解散するのが普通。
だけど、なぜか解散にまで追い込めない。まるで「のぼうの城」の様。
実際問題として、解散させるには、野田首相自ら解散を選択するか、衆院で不信任を可決するしかない。
自公を始めとする野党が野田政権を攻める様子を、城攻めに例えるとすると、安倍総裁が党首会談この方、炙り出しつつある、野田首相は「嘘つきだ」という認識を広く知らしめようとしていることは、丁度、城の周りを堤で囲んだあと、水没させる、いわゆる"水攻め"に当たるのではないかと思う。
また、水面下で民主党の議員に働きかけて、離党を促し過半数割れに追い込もうとする策は、城内からの内通者を作って開城させることに当たるだろう。
実際、最近は永田町には、「民主党離党予備軍リスト」なるものが流布されていて、そこには、民主党衆院議員15人の氏名、選挙区、当選回数と、脱出・転出先とみられる中小政党の略字もあるそうだ。10月29日に離党した熊田篤嗣衆院議員と水野智彦衆院議員は、このリストに含まれていて、それなりの信憑性があると見られている。
水攻めと"内応"、これで「どじょうの城」が陥落すればいいけれど、甘くみてはいけない。
肝心要の"水攻め"にしても、"安倍"堤を作ろうとしている自民党に対して、公明党は力押しを主張して譲らない。その他、中小野党にしても、必ずしも方針が一致しているわけでもない。
それにマスコミは自民も民主もどっちも悪いというスタンス。だから、仮に堤ができたとしても、マスコミからの攻撃にあって、その堤が崩れてしまうかもしれない。
こうなってしまうと、「どじょうの城」は「のぼうの城」になってしまう。
ただ、"どじょう"と"のぼう"で違うところがあるとすれば、それは人望。
のぼうのモデルとなった成田長親は、城下の民から物凄く人気があった。"でくのぼう"と思われながらも慕われた。そこが決定的に違う。
安倍総裁が"水攻め"を選択したことの是非については、色々意見があるかもしれないけれど、どんな攻め方をするにせよ、そこに「大義」というか、民心を自分の側に引き寄せておくことが大切。
何も「田楽踊り」をしろとは言わないけれど、敵味方関係なく、自分に惹きつけ、不敗の地に立つことが大事。それが政権を奪取した後の足場ともなる。
功を焦って、"どじょう"を"のぼう"にしないことを望む。
この記事へのコメント