国防権限法と安倍外交

 
12月21日、アメリカ上院議会が、2013会計年度(12年10月~13年9月)の国防権限法案を賛成多数で可決した。

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国防権限法(NDAA:National Defense Authorization Act)とは、アメリカ国防総省の予算と支出を指定するもので、予算支出に直接関係のない条項は、議会としての意思表示をする決議に近い意味を持つものとして扱われている。

2013会計年度の国防権限法案での予算は、総額6333億ドル(53兆円)で、その内訳は次の通り。
•5,274億ドル(44兆円): 国防総省基本予算
•885億ドル(7.4兆円): 主にアフガニスタン等向けの海外活動費(Overseas Contingency Operations : OCO)
•178億ドル(1.5兆円): エネルギー省の国家安全保障プログラム及び防衛核施設安全委員会(Defense Nuclear Facilities Safety Board : DNFSB)
アメリカの国防予算は2001年度3162億ドルから、2011年度7250億ドルまで増加の一途を辿っていたのだけど、オバマ政権は、財政健全化のため、去年から予算の削減を進めており、2012年会計年度総額6620億ドル(約51兆円)と減らしていた。

ただし、2011会計年度で7割削減し、2012会計年度では盛り込まれなかった沖縄海兵隊のグアム移転経費については、当初上院は支出を凍結する判断を下していたのだけれど、政府要求通りアンダーセン飛行場の駐機施設整備費2600万ドル(約22億円)を計上している。

今回のアメリカの国防権限法は、日本でも注目されている。なぜなら、この法案の追加条項でアメリカの尖閣防衛が明記されたから。(追加条項については11月29日に上院可決)

この追加条項は、ウェッブ上院議員による"修正条項"と呼ばれているのだけれど、その中で尖閣に関する条項は3、4、7項で記されている。その内容は次のとおり。
第1246条尖閣諸島情勢に対する上院の意見(SEC. 1246. SENSE OF THE SENATE ON THE SITUATION IN THE SENKAKU ISLANDS.)

第3項「アメリカは、尖閣諸島の領有権に関しては立場を明確にはしないが、尖閣諸島が日本の施政下にあることは認めている」

第4項「尖閣諸島が日本の施政下にあるというアメリカの認識は、第三国の一方的な行動によって影響されない」」

第7項「アメリカは『締約国は、日本の施政の下にある領域における、日米いずれか一方に対する武力攻撃が自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動する』という日米安保条約第5条における日本政府に対する責務を再確認する」
とまぁ、アメリカが、他国の領土を巡る争い(尖閣については、日本は領土問題はないという立場)について、自身の立場を法案に明記するのは異例のことで、これは、アメリカ政府及び議会が日本政府の立場を後押しする意志を示したことになる。

これについて、ウェッブ上院議員は「日本の施政権が尖閣諸島に及ぶとの米国の立場が脅迫、強要、軍事的行動によって揺らぐことはない」とする声明を発表している。

ただ、法案でもそうだけれど、アメリカは、他国の領土に関する領有権については、あくまでも中立であり、その施政下にある領域についての防衛義務を定めているだけということには注意しなけばいけない。



アメリカは、「日本が尖閣を実効支配している限り、日米安保第5条に基づいて尖閣防衛を行なう」としているだけであって、尖閣が日本の領土であるとはいってない。だから、万一、日本が尖閣を実効支配できなくなったとしたら、アメリカは防衛義務を負わなくても良いことになる。

だけど、ここで問題になるのは、"実効支配"についての国際法上の定義が存在しないこと。それ以前に"実効支配"の定義すら曖昧であるのが現実のようだ。

そもそも、領有権問題は、対象地域を争う当事国が互いに自国の領土であると"主張"して譲らないから問題になるのであって、ここからは貴国の領土で、ここからは自国の領土ですという明確が線引きがされ、それを当事国同士が認めるのであれば、問題なんぞ起こる筈もない。

従って、互いに自国の領土だと主張して譲らない、いわゆるグレーの領域については、実際問題として何処が統治しているのかという"実態"をもって、実効統治としているのが現状。

だけど、この統治ということについて、例えば、そこに実際に当事国の人が住んでいて、当事国政府の施政下にあるような場合は分かり易いのだけれど、これが無人島となると、だんだんとアヤフヤになってくる。

日本は、尖閣について、昔は人が住んでいたとか、それを周辺国も認めていたとか、そういったことを持ち出しては主張しているけれど、それは過去の話であって、今現実に尖閣に人が住んでいるわけじゃないし、過去の話は、領有の事実こそ示せるのかもしれないけれど、今現在の統治を証明してくれるとは限らない。

例えば、尖閣領海に24時間中国の船が入って、更に尖閣に中国人が上陸して住みついて、それが何年も続いてしまったら、今現実にどちらが統治しているかどうかなんて、分からなくなる。

だから、いくらアメリカが尖閣防衛について法案に明記されたといっても、あくまでも、日本が尖閣を実効支配していることが前提で、しかも、その定義自身が曖昧な現状では、現実に尖閣を支配していることを実績として示す必要がある。

具体的には、今、海保がやっているような尖閣領海警備や、尖閣領空侵犯にたいするスクランブルを怠ることなくきちんとやって、アピールしなくちゃいけない。

まぁ、そうであっても、今回、アメリカの国防権限法案に尖閣が明記された意味は重く、中国に対する大きなメッセージになることは間違いない。

安倍総理は、尖閣への公務員常駐については、検討するとして、今すぐどうこうという動きは見られないけれど、どうやら、その周辺国との連携によって、中国を牽制する方針のようだ。

12月28日、安倍総理は、首相官邸でイギリスのキャメロン首相、オーストラリアのギラード首相、インドのシン首相、インドネシアのユドヨノ大統領、ベトナムのグエン・タン・ズン首相とロシアのプーチン大統領と電話会談を行い、安全保障や経済面での関係強化を確認している。

これらの国々は、中国を取り巻く周辺国であるから、これらの国々との連携強化は当然、中国に対する牽制となるし、中国包囲網の形成の一環とも取れる。

会談相手については、安全保障の観点から日本が連携をすべき国として安倍総理自身が決めたということだから、明らかに対中戦略を意識した外交だといっていいだろう。

まぁ、尖閣に人をおいて、直接刺激することはしない代わりに、周辺国と連携して真綿で首を絞めるように包囲網を形成していくという流れ。

尖閣については、中国が退かない限りは、今のような睨みあいが延々と続くものとして、対応を考える他ないように思う。




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この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    尖閣諸島の防衛問題は台湾関係とも直結
    している. 尖閣諸島に自衛隊を常駐できるか
    否かは台湾との国交関係如何によると思う.
    しかも, それは難しい問題ではない.
    難しいのは支那との関係を整理していくことだと思う.
    支那の強気とは裏腹に, 中共政府が米国と敵対関係
    になれば所有する米国国債は瞬時に紙屑となる.
    米国にとっては借金の消滅となり, 喜ばしい.
    全体を見れば, 支那に未だに多くの資産を残して
    いる日本が日米同盟の弱点である.
    安倍政権は戦略的立場から経団連としっかりと
    話し合う必要がある. 場合によっては,
    在支那資産の保護や保障を国がやっても良いと思う.
    2015年08月10日 15:23
  • 日比野

    sdiさん。
    >「尖閣は琉球の一部。琉球は元々、中国のもの。だから尖閣も中国のもの」というレトリック…

    これについては、半年程前に
    「用兵の道は心を攻むるを上と為す」
    http://kotobukibune.at.webry.info/201208/article_28.html

    のエントリーで指摘したことがあります。やはりというか何というか、使ってきそうですよね。同じレトリックで対抗するには、台湾は昔日本だったから、戻ってきてもいいんだよ、と言ってみる手がありますけれども、「排外ライセンス」なるものが効いているとすれば、この手は難しそうですね。
    2015年08月10日 15:23
  • sdi

    尖閣諸島の場合、「尖閣は琉球の一部である。」という古文書が見つかったというニュースがありましたが「尖閣は琉球の一部。琉球は元々、中国のもの。だから尖閣も中国のもの」というレトリックが、彼らの間では成立する可能性があることは要注意でしょう。
    日本と中国を比較するとき、同じ対外政策を実施した場合に中国は国際世論から非難されず日本は非難を浴びる、というダブルスタンダードを喰らう可能性があります(中国が安保常任理事国であることを除いても)。この事象に対して「排外ライセンス」とい単語を用いている人の書き込みを見たことがあります。日本は「排外ライセンス」の基準が高く、中国は低いということです。我々は最初からハンディ付きの戦いを強いられていることを認識する必要があります。
    2015年08月10日 15:23
  • 白なまず

    『増税をもくろむ財務省の真の意図①』高橋洋一 AJER2011.12.3(1)
    http://www.youtube.com/watch?v=gDEBjfCfGIQ

    『増税をもくろむ財務省の真の意図②』高橋洋一 AJER2011.12.3(2)
    http://www.youtube.com/watch?v=Qt5sA_ucLxk

    『増税をもくろむ財務省の真の意図③』高橋洋一 AJER2011.12.3(3)
    http://www.youtube.com/watch?v=hIZy9yKuWgI

    『増税をもくろむ財務省の真の意図④』高橋洋一 AJER2011.12.3(4)
    http://www.youtube.com/watch?v=1PwJ9M4swyU

    『増税をもくろむ財務省の真の意図⑤』 高橋洋一 AJER2011.12.3(5)
    http://www.youtube.com/watch?v=bpGIovMIq6o

    『増税をもくろむ財務省の真の意図⑥』高橋洋一 AJER2011.12.10(1)
    http://www.youtube.com/watch?v=
    2015年08月10日 15:23

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