口先円安と後追いする実態経済

 
12月27日、麻生財務相は、臨時閣議後の記者会見で、2012年度の補正予算編成と2013年度予算の概算要求見直しを指示したことを明らかにした。

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麻生財務相は、来年1月にとりまとめる今年度補正予算について、「政権交代して間違いなく景気対策に政府が重点を置き、安心・安全に目配りしたものをやろうとしているという方向性を示すことは大事…最初に額ありきということはしない。…『復興防災対策』『成長による富の創出』『暮らしの安全・安心・地域の活性化』の3分野を重点として思い切った規模にする。」と述べた。

また、来年度予算についても、「民主党政権時代の要求内容を徹底的に精査しつつ、3分野に重点化した要求に入れ替えて、差し替える」とした。

麻生財務相は、安倍総理から、「経済再生を実現するため緊急経済対策を早急に策定し、今年度補正予算は国債発行枠44兆円にこだわらず、思い切った規模とすること」と指示があったとした上で、臨時閣議で各大臣に13年1月7日までに補正予算に関する要求を出すことと、1月11日までに13年度予算に関する要望の提出を求めることを伝え、「44兆円にこだわらないことは間違いない」と表明している。

これらの発言を受けて、円は反応した。

26日のニューヨーク外国為替市場では、1ドル=85.7円の2010年9月以来の高値を付け、翌27日には86円に届いた。

今回の麻生財務相の発言は、これまで、安倍総理が述べていた、金融緩和だけでなく、補正予算や来年度予算で、大規模な予算を組むという、財政出動をすると表明したことに意味がある。

日銀は毎月1.8兆円の国債の買いオペを行って、市場への供給資金を増やしているけれど、その金は、銀行から企業への貸出には回らず、日銀の当座預金口座にどんどん滞留している現実がある。

日銀当座預金の増加率は、前年比で、2009年が58%、10年が30%、11年が77%と高止まりが続いている。銀行は、せっせと国債を買い、企業にお金を貸していない。

なぜかというと、国債が一番安全だから。長引く不況で、金利が低下して、今や短期金利は殆どゼロになっている。こんな状態で、企業に貸しても利子がない上に、貸し倒れリスクを負ってしまう。そんな危険を冒すくらいなら、日銀の当座預金に預けておくか、国債を買って、安全第一で運用したほうがいい。

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麻生財務相は、「日銀がお金を刷っても、それを必要とする実需に回らなければ、お金は銀行で寝たことになる。そういう失敗が2000年代に入ってある。そういう轍は踏まないよう(金融と財政、成長戦略の)3つを合わせて一緒にやる政治力がないと、対応は難しい」と述べているけれど、正にそのとおり。

市場は、安倍総理、麻生財務相の発言ひとつひとつに好感し、敏感に反応している。何やら、円安・株高の為の材料を、口を開けて今か今かと、待ち構えている気さえする。

これについて、マスコミ記者は、麻生財務相にバブルではないのか、と問うていたけれど、麻生財務相は、期待値のひとつであることには間違いないとしながらも、口先だけで、いい方向にいくのなら、それはしめたものだと答えている。

それはそう。実際、円安で助かる企業は沢山ある。「アベノミクスで復活する製造業」のエントリーで、紹介したように、日本の各企業の採算ラインは82円程度。今の水準から円安になればなるほど、赤字は減って黒字に変わっていく。

例えば、2012年6月に、日本の自動車メーカーは、2013年3月期の業績見通しとして、1円の円高で、業界全体で約850億円の利益を失うと試算していた。この当時は1ドル=80円かそこら。今はそこから5円も上がってるから、その恩恵は計り知れない。

この円安がこの先、四半期、半期と続けば、日本企業の業績も回復傾向を見せてくるだろうから、それもまた、市場には好材料になる。良い循環が起きてくる。だから、折角の円安・株高の流れは一過性のものにしてはいけない。

麻生財務相は、27日午前に財務省の職員向けの挨拶で、「デフレに対する経験がないのだから、やむを得ないが、『俺たちは間違いじゃなかった』という発想だけはやめよう。これは明らかにデフレ。デフレ対策を真剣にやらないと。…数々のインフレの不況はあったが、デフレの不況はない。…日本は今回、世界で最初にデフレ(脱却)の経験をやる。他国が(今後)陥る確率が高いと思われるデフレに、日本が最初に(脱却に)成功したと言われるものを作りあげねばならない」と強調し、円安株高についても、「単なる目先の話。安定したものになっていかないと」と述べている。

政府が本気の姿勢をみせることで、市場がそれを"期待"して、景気を先取りしていく。単なる筆者の感覚だけれど、市場は、大体半年先の景気を織り込みにいっているように感じている。

口先の円安でも、実態がついてくれば、それは本物になる。市場の期待を裏切らない政治力がそれを可能にする。




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この記事へのコメント

  • 洗足池

    小泉内閣の時、政府日銀の為替介入で120円の円安となり、企業業績は急回復したが、このチャンスを生かして企業は次の発展に繋ぐことが出来ず、今の惨状をもたらした。市場原理に反して国家が為替や債券市場を操作しようとしても麻薬の覚醒状態と同じで一時的に気分が良くなるだけで、実体経済は蝕まれるばかりだ。

    米国の保守政党である共和党がみれば、安部や麻生のやろうとしてることは共産主義者の考えと同じだ。これを支持する国民も自立精神の乏しい親方日の丸の怠け者といえる。
    2015年08月10日 15:23
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    やっと「政治」が始まる.
    2015年08月10日 15:23

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