尖閣防衛と習近平の実力
12月19日、防衛省のシンクタンクである防衛研究所は中国の人民解放軍と政府部門の政策調整に関する「中国安全保障レポート2012」を発表した。
このレポートは、中国の軍事や安全保障について、中長期的な観点から、着目すべき事象を分析し、広く国内外に提供することを目的とし、2011年4月に第1号、2012月2月に第2号を公表している。
今回の「中国安全保障レポート2012」は第3号にあたり、人民解放軍を巡る中国の意思決定や政策調整の問題にスポットを当てている。
人民解放軍は、中国共産党の軍事部門で、中華人民共和国の事実上の国軍にあたるのだけれど、党中央指導部は、「党の軍に対する絶対的指導」の原則を掲げており、人民解放軍の指導機関である中央軍事委員会は党中央委員会で決定される。軍の統帥権は、中央軍事委員会主席が有するのだけれど、党の総書記が中央軍事委員会主席を兼務する場合は、最終的に党総書記が最終権限を握る。
従って、人民解放軍は、党と一体化した軍であるといえ、党の意志を離れて独断で行動することは殆ど有り得ないとされている。
ただ、2011年1月にアメリカのゲイツ国防長官が訪中した際に、人民解放軍が次世代ステルス機であるJ-20の試験飛行をしたことを、胡錦濤主席を始めとする文民指導部が把握していなかったのではないかという疑念の声が挙がったことがあった。これについて、「中国安全保障レポート2012」は中国は文民統制されていないのではなく、調整や連携の問題であるとしている。
人民解放軍は、党の軍事部門ではあるけれど、党の政府部門である国務院とは完全に別部門であり、国務院の傘下にあるわけではない。両者は、これまで政策の執行にあたって密接に協働することは殆どなかった。
ところがそうした人民解放軍も時代の流れと共に変化を余儀なくされている。
近年の軍事技術の発達は、同時に、それらを扱う軍隊により高度な専門性を要求する。その要求に応えるために、人民解放軍も専門的な人材を育成し専門集団化を進めているのだけれど、それはこれまで以上に高度な訓練と先端装備に習熟しなければならないことも同時に意味しており、軍事に関する法整備をより進めることが急務となった。
人民解放軍は60年代に階級制度が廃止されて以来、80年代までは階級制度がなく、殆ど規則に縛られない軍隊だったのだけれど、90年代になって、軍事法規や規則が次々と制定され、その活動を規定されるようになった。
また、人民解放軍に求められる役割も変化・拡大していて、担うべき安全保障の領域が、伝統的な国土防衛のみならず、海洋権益、サイバー戦、宇宙空間、災害救援活動といった分野にまで拡大している。それゆえ、人民解放軍は、それらの多くの分野と深くかかわっている政府部門との連携や調整が必要になっているのだという。
「中国安全保障レポート2012」によれば、現在中国は、人民解放軍と政府部門との調整メカニズムを構築しつつあり、2012年4月にフィリピンとの間で起こったスカボロー礁を巡る睨みあいの事例などから、両者の連携が進展していると指摘している。
このようなことから、「中国安全保障レポート2012」は、今後、中国の周辺諸国が中国との係争地域における権益擁護のために軍隊を派遣すれば、中国は、権益擁護活動への支援として人民解放軍が投入される可能性があると警告している。
中国の政治主導者の多くは、軍務経験を殆ど持っていないため、現状の人民解放軍についての詳細な知識を持っていないとされている。だから、実際に人民解放軍を投入する場面に遭遇したとしても、果たして、効果的な投入及び判断ができるのかどうかについては一定の疑問の余地がある。
ただ、それが現在の最高指導者である習近平にも当てはまるかどうかは分からない。なぜなら、習近平はほかの同世代の指導者と比較して、人民解放軍と密接な関係を有しているから。
1979年に清華大学を卒業した習近平は、中央軍事委員会弁公庁に入り、党委が県、市、省と上級になるに応じて、軍務も県武装部第一政治委員、軍分区党委第一書記、高射砲予備役師団第一政治委員、軍区国防動員委員会主任、省軍区党委第一書記と上がっていった。2007年には上海警備区党委第一書記を兼務し、1979年から2007年の間、広義の軍務経験がなかった時期は数年しかない。また、習近平の夫人である、彭麗媛は、人民解放軍総政治部歌舞団団長であり将官級の待遇を受ける文職幹部。
こうした経歴から考えると、習近平は、これまでの中国国家主席と比べて軍事に精通しており、サイバー戦を含めた、ありとあらゆる軍事的挑発その他を、効果的にやれる手腕を持っている可能性は捨てきれない。
今年9月の尖閣国有化以後、中国公船による、尖閣周辺海域の航行は常態化し、領海侵犯も週1、2回のペースで繰り返している。また、先日は、海洋監視機の領空侵犯など挑発行為も多様化している。
海、空ときたら、今度は夜陰に紛れての尖閣上陸なんかもあるかもしれない。
海上保安庁は、「尖閣での中国公船とのにらみ合いの長期化は避けられない」と睨み、尖閣海域を管轄する第11管区海上保安本部に巡視船を増強配備する方針を固め、専門的に対処にあたる"尖閣部隊"を設けるという。
自民の安倍総裁は、尖閣防衛のために、「海保、防衛予算を増やし、断固として島を守るとの意思を示す必要がある」と述べているけれど、海だけ増強しても十分ではないかもしれないことは頭の片隅に入れておく必要があるように思う。
2012年11月に行われた、中国共産党第18期中央委員会で、習近平は、党の総書記と中央軍事委主席に就任した。つまり、政治部門と軍事部門の両方のトップを兼任し、さらに現在の人民解放軍の状況にも通じているとなると、政治・外交から軍事まで、ありとあらゆる方向から揺さぶりを掛けてくる権限と能力を有しているとみるべきだろう。決して甘くみないほうがいい。
この記事へのコメント
白なまず
神の国には昔から神の民より住めんのであるぞ、幽界(がいこく)身魂は幽界(がいこく)行き。一寸の住むお土も神国にはないのざぞ。渡れん者が渡りて穢 して仕舞ふてゐるぞ。日本の人民、大和魂 何処にあるのざ、大和魂とは神と人と解け合った姿ぞ。戦いよいよ烈しくなると、日本の兵隊さんも、これは叶はんと云ふ事になり、神は此の世にいまさんと云 ふ事になって来るぞ。それでどうにもこうにもならん事になるから、早よう神にすがれと申してゐるのぞ。誠ですがれば、その日からよくなるぞ、神力現れる ぞ。今度の建替は、此の世 初まってない事であるから、戦ばかりで建替出来んぞ。世界隅々まで掃除するのであるから、どの家もどの家も、身魂も身魂も隅々まで生き神が改めるのざか ら、辛い人民 沢山出来るぞ。ミタマの神がいくら我張っても、人民に移っても、今度は何も出来はせんぞ。世の元からの生神でない事には出来ないのであるぞ。それで素直に 言ふ事聞けとくどう申すのぞ、今度は神の道もさっぱりとつくりかへるのざぞ。臣民の道は固(もと)より、獣の道もつくりかへぞ。戦の手伝い位 誰でも出来るが、今
ス内パー
小沢に30日ルール破らせての訪日の件にしろ北朝鮮の前回のミサイル発射の件にしろ無理をしておおポカ何回もやらかして政治的(物理的)に追い詰められてますので。
ただ毎回甦れる生命力の強さ、上司に愛される処世術をみるに彼を追い落とすのは難しく、彼を矢面にたてて軍事強硬策する勢力がいる以上毎回あしらえる程度の外交能力は求められるでしょうしそれを援護する必要もあるでしょうね。
日比野
>中国側が狙っているのは「日本が先きに手を出した(武力行使した)」とプロパガンダできる「事実」でしょう。
これはそのうち、取り上げておかなければいけない論点だと思っているのですけれども、まさに仰るとおり、中国は、日本に先に手を出させようとしていると私も見ています。
これが陸の上であれば、便衣兵を使って、自作自演の発砲をして、日本がやったとインネンをつけてくる可能性は極めて高い。
その意味では、海上では、便衣"海保"が仕立て上げられないがために、挑発を繰り返す段階で収まっているだけだとも言えます。
なので、もしも、尖閣に上陸でもされて、日本の警察なりなんなりと陸での睨みあいになると、この便衣兵による自作自演をやってくる危険があると思っています。
ちび・むぎ・みみ・はな
海上保安庁は現在全力投入で頑張っている.
更に自衛隊と早期警戒機の投入ができれば
万全だ. 自衛隊は信頼できる組織.
求められているのは「単に」我々の覚悟なのだ.
sdi
www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=67778
コメント欄によそのサイトの記事のurlを張るのはほめられたことではないのです。すみません。
先日のネット記事です。この記事の論点は「日本が中国に武力行使すれば」というのが中国メディア(要するに北京の党中央)の主張です。日本「が」中国「に」先の武力行使をした場合、日米安保の対象外になる、ということは確実に認識しておかなくてはなりません。中国側が狙っているのは「日本が先きに手を出した(武力行使した)」とプロパガンダできる「事実」でしょう。当然、この「武力行使」の範囲
も拡大解釈してくるでしょう。対象が中国人や中国籍の航空機・艦船だけととは限りません。尖閣諸島そのものを含めてくる可能性だってあるのです。「自重」という言葉の意味を「怯懦」と混同してはなりません。