公共事業の物価下落抑止効果

 
12月21日から23日にかけて、NNNが行った世論調査によると、自民党の安倍総裁に「期待する」と答えた人が55.4%、 「期待しない」は35.7%と期待すると答えた人が5割を超えた。

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期待する理由は「他に代わる人がいないから」が26.6%と最も多く、次いで「政策に期待がもてるから」が23.8%、「人柄が信頼できるから」は18.3%となった。

また、安倍内閣に最も取り組んでほしい政策課題を2つまで選んでもらったところ、やはり、「景気・雇用対策」が42.9%と最多で、「議員定数削減など自らの身を切る改革」が28.9%、「年金や医療・介護」が28.6%となっている。

こういった世論調査で、新総理に期待する理由を聞くと、これまで大抵は「人柄が信頼できるから」はトップになるのが多かった。

NHKの世論調査でも、野田内閣発足時の内閣を支持する理由も「人柄が信頼できるから」が34%でトップだったし、2006年の前回の安倍内閣発足時の世論調査でも、「人柄が信頼できるから」が32%でトップだった。

ところが、今回は同じ安倍内閣でも、期待すると答えた人の理由が、「他に代わる人がいないから」というのが一番多くなった。これは、もう、"人柄"をみて、信頼できそうだからというイメージ的な支持から、政治力あるいは実行力といった、実質的な支持に意識が変わっているように見えなくもない。

一頃、よく言われたように、"政治なんて誰がやっても同じ"なんて、甘えた考えを捨てて、選挙は、よりマシな選択をするものだという現実的かつ切実な欲求へと政治を見る目が変わってきているのではないか。

安倍氏に対する支持や政策に対する期待については、他の世論調査でも似たような結果がでていて、12月23日放送のフジテレビ「新報道2001」でも、安倍氏に対する支持率は53.8%、期待する政策は、「景気・雇用対策」が41.0%、「年金・医療などの社会保障制度の立て直し」が28.6%と続き、やはり景気対策に対する期待が大きいという結果となっている。

だから、安倍政権が経済対策を最優先で取り組む意欲を見せているのは、有権者のニーズとも合致しており、これを如何にきちんとしていくかがポイントになるものと思われる。

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ただ、景気対策への期待というのは、何も今回の世論調査で初めてクローズアップされた訳じゃない。鳩山政権、菅政権、野田政権といった、歴代民主党政権発足時の調査でも、景気対策は一番か二番に期待するものとして上がってていた。だけど民主党政権は、脱官僚だの、事業仕分けだの、消費税増税だの、行財税改革を中心にあちこち弄るだけで、景気は一向に良くなることはなかった。有権者の期待は、結果として裏切られた。

国民は一番に景気対策を求めていた筈なのに、なぜこんな結果に終わったのか。

それは、多少乱暴な言い方だとは思うけれど、結局、民主党政権が経済対策としてやろうとしたことは、無駄を削れば財源は出てくる、無駄な公共事業を止めて手当を配れば景気はよくなると、"コンクリートから人へ"の具現化であり、それは景気回復には役に立たなかったということではないかと思う。

では、逆に、安倍政権が行おうとしている、コンクリートへの投資、つまり、国土強靭化計画に基づく公共事業投資が景気を回復させるのか。

一般に、公共事業の経済効果は、「施設効果」と「事業効果」の2つに分類される。そして、事業効果はさらに「乗数効果」と「真水の事業効果」の2つに分類されることがある。

乗数効果(マルチプライヤー・エフェクト:Multiplier effect)とは、マクロ経済学で用いられる経済効果のことで、政府支出や投資を増やすことで、国民所得を何倍かに増やすことができる効果のことを指す。

たとえば、投資が100万円増加すると、100万円の生産物に変わって、それが売れることで100万円の所得になる。この100万円の所得の八掛けが次の消費に回るとすると、80万円が消費されることになる(消費性向=0.8)。この消費された80万円は次の誰かの所得になるのだけれど、この80万円の八掛けが次の消費に回ると、80万円×0.8=64万円の消費が更に生まれることになる。こうして数珠つなぎに所得と消費が循環して、最後に所得がゼロになるまでの全部を足した合計額が最初の投資の何倍になっているかを「乗数」という。

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また、真水の事業効果とは、公共投資にそのものが生み出す直接的な効果のことで、「雇用創出等による経済社会の安定」や「遊休施設や失業者などの経済資源の有効活用による経済効率化」。そして「潜在成長率の維持」や「デフレの抑止」が挙げられる。

京都大学の藤井聡教授は、デフレギャップが存在している1991年のバブル崩壊以後のマクロ経済データを統計分析した結果、1兆円の公共事業は0.6%(97年以前)~0.8%(98年以後)程度の物価下落抑制効果が存在し、1兆円の公共事業は1.65兆円(98年以後)から5.26兆円(97年以前)程度の名目GDPの押し上げ効果が存在すると述べている。

藤井教授によると、公共事業削減はデフレの原因の一つであり、デフレ下では、公共事業は名目GDPを増進させ、更に、デフレが進行している状況下では、物価下落抑止効果がより顕著になるとしている。

日本のマクロ経済が、この藤井教授の分析通りであるとすれば、安倍政権が行おうとしている公共事業への大幅な投資は、デフレを脱却させうるものになると思われる。期待したい。

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この記事へのコメント

  • 白なまず

    将来、東京や大阪、名古屋、静岡等の工業都市や都会が震災や津波の被害が出た時に、どうやって復興するのでしょうか?
    工業力が集中していている工業都市が瓦礫の山になり、これを何処で処理するのでしょうか?
    片付けた後には復興の為の生産設備はどうするのでしょうか?
    様々な事を考慮すると、都会だけでは危険だと思います。
    それとも、震災、津波の後は、今有る都市は見捨てる?
    自分は一人で大人に成ったなんて理屈、最近の子供でも云いませんよ。
    2015年08月10日 15:23
  • WN

    >東京の人間が地方の世話になったのは戦争中に疎開した時くらいです。

    高度成長期に地方が都会に大量の人材を供給したことは無視ですか?
    2015年08月10日 15:23
  • 心に棒(余裕)を

    余りにも愚かで、「釣り」か「荒らし」にしか見えないコメントに、まじめに反応するのはいかがなものかと。実際、愚鈍を装った『工作員』なら、目的達成になるかもしれませんしw
    2015年08月10日 15:23
  • mony

    足洗池殿
    電力や食料等も当然東京で自足が前提だろうね。まあ、都内に派手に発電所っていうのも悪くはないがね。
    2015年08月10日 15:23
  • 洗足池

    電力は東京で自給できます。東京都が出資して東京湾の埋立地に発電所を造ると既に決めてます。送電費用がほぼゼロなので電気代も安くなる。熱電併給が可能なので省エネにもなる。六本木ヒルズの自家発電を大規模化したものになる。

    TPP加入で輸入米の価格は三分の一になる。新潟の米など必要なし。東京湾の津波は最大でも3Mで大した被害は出ない。地方に東京の富を搾取されなければ耐震強化などの地震対策は都民の支払う税金で充分出来る。田舎の人の心配は余計な事。

    東京の人間が地方の世話になったのは戦争中に疎開した時くらいです。
    2015年08月10日 15:23
  • とおる

    自民党は「公共投資」を多く使い、マスコミは「公共事業」を多く使い(先日の報道2001では、フジテレビ側の人は「公共事業」ばかり使い)、橋下市長は「公共工事」を使う。
    2015年08月10日 15:23

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