アベノミクスで復活する製造業
日銀は12月19、20両日に開いた金融政策決定会合で、今年2月に導入した物価上昇率1%を目指す「中長期的な物価安定の目途」について、次回会合で点検を行うことを決めた。
また、資産買い入れ基金を10兆円増額する追加緩和策を全員一致で決定。基金の規模は2013年末に101兆円となる。
これらについて、安倍総裁は「われわれが選挙戦で訴えてきたことが、ひとつひとつ実現している」と評価。アベノミクスは着実に進んでいる。金融緩和を頑なまでに嫌がっていた白川日銀総裁とて、やる人がやれば、これほど簡単に兜を脱いでしまう。このあたりに、自民と民主の政策実行能力の差が如実に表れているように思えてならない。
この流れでいけば、今後も円安・株高のトレンドが続いていくことが期待される。
ここで、昨今、すっかり元気をなくしている日本の製造業が、この円安で助かるのかどうかについて、少し考えてみたい。
2011年8月に帝国データバンクは、円高に対する企業の意識について、全国22762社について調査を実施している(有効回答企業数は11070社)。
それによると、円高による売り上げへの影響では、「悪影響」が35.5%と、2010年8月調査時とほぼ同水準で、円高が日本にとって好ましくないとする回答は67.6%に及んでいる。
そして、円高対策としては、海外と取引がある企業のうち「海外調達を増やす」が23.4%で最多。一方、海外生産拠点を拡充・新設し、輸入の拡大で対応する企業が増加する結果となっている。要するに円高では、海外生産、海外調達が進み、国内の空洞化が加速されるということ。
では、具体的に製造業において、円高と売上との間に、果たしてどのような相関があるのか。これについて、嘉悦大学の高橋洋一氏が家電業界の売上高と為替レートの相関を分析し、家電の売り上げの8割は為替で決まると述べている。
高橋氏によると、為替が1円安くなると業界で4000億円の売上増になり、1ドル=80円が家電業界全体の損益分岐点なのだという。
損益分岐点とは、管理会計上の概念の一つで、売上高と費用の額がちょうど等しくなる売上高または販売数量のこと。平たく言えば、儲けが丁度ゼロになる点のこと。採算ライン。
高橋氏の分析に従えば、家電業界は1ドル=80円以上の円高になると、赤字になってしまう。
実は、2012年の頭に、内閣府が「企業行動に関するアンケート調査」として、各産業・業種の採算レートを調査しているのだけれど、こちらでも似たような結果が出ている。
上のグラフは、1年後の予想円レート及び採算円レートの推移のグラフなのだけれど、水色の点線が採算が取れる円レートで、黒の実線が前月の実際の円レート。黒の実線が水色の点線の下にくると、採算割れとなって会社は赤字になる。
このグラフで明らかなとおり、平成20年度(2008年)、丁度リーマンショックあたりから、円レート(黒実線)は、採算レート(水色点線)の下となり、採算割れの状態が続いている。
尤も、その採算レート(水色点線)自身も年を追って下降しており、企業努力によってコストを削減していることが分かる。
だけど、如何せん、現実は、採算レートが下降する以上のペースで円高が進んでしまっており、結果として、企業努力も空しく、恒常的に赤字になってしまっている。次に、業種別の採算レートのデータを見てみる。
大体、どの業種も採算レートはおおよそ80円前半で、製造業はおよそ81.3円。確かにこれでは、70円台の円高では利益は出ない。
勿論、企業は企業で内部留保なり何なりを取り崩すことで、多少の赤字が続いてもなんとか持ちこたえてきたのだろうけれど、今年になって、シャープやパナソニックなど、大手電機メーカーが千人単位、万人単位でリストラを行っている。これは、即ち、その蓄えもとうとう底をついて、自分の身を削るしかなくなってしまったことを意味してる。円高によってそこまで追い込まれてしまった。
一部には、日本の家電メーカーがつぶれそうになっているのも、企業努力が足りないからだとか、iphoneのような画期的な商品を生み出すイノベーションをしてなかったからだ、という意見もある。
確かにそういう面があることは否定しない。だけど、そのイノベーションなり、画期的な商品を作るのだって、そのための研究期間と投資が要る。その時間と金は企業自身が確保しなくちゃいけない。
これまでは、その金も日々の売り上げから蓄積していった内部留保などから捻出することができたのだけれど、その貯金も底をつけば、投資も何もできなくなってしまう。どんなに画期的な製品のアイデアを思い付いたとしても、一文無しでは、それを形にすることさえできない。
それを考えれば、やはり、政府が急激な円高を阻止して、なんとか企業の採算レートを割らせないように対処すべきではないかと思う。実際、円高が進んでいった時期でも、企業は努力して採算レートを下げている。だから、それを少しサポートしてやるだけでも、随分助かった企業も多数あったと思われる。だけど、民主党政権はそれを放置した。
それに加えて、大手メーカーの倒産は、単に、その会社だけの倒産で済むとは限らない。大手企業の倒産は、そこにぶら下がっている子会社や、多くの取引先企業も仕事を失うことを同時に意味してる。例えば、シャープは13社に及ぶ連結子会社があり、2031社の一次取引先と6500社の取引先を持っているし、パナソニックの取引先に至っては、実に3万社を超える。
だから、大手メーカーの倒産ひとつとっても、その波及効果はずっと大きく、下手をすれば数多くの中小企業の連鎖倒産を招きかねない。「平成恐慌」が現実のものになる可能性だってある。
民主党政権になる前の2009年前半は1ドル=91~96円だった。今後、安倍自民党による景気対策で、早いうちに2009年並みの円安、1ドル=95円くらいに持っていくことができたとしたら、多くの製造業は、そこに光明を見出していくのではないかと思う。
政府の経済政策によって、徐々に力を蓄えることができれば、また、研究開発なり設備投資なりを行なうことができるし、新たな製品を開発できる余地も生まれてくる。
アベノミクスによって、製造業が復活を果たし、再び世界と戦う日がくるのを期待している。
この記事へのコメント
白なまず
千束の汚れし池の求浄化、応神復活悪霊退散、南無宇佐八幡台菩薩。
日比野
私は、円安になったら、即、競争力が回復するとはいってませんよ。円安によって採算が取れるようにして倒産を防ぎ、研究開発や設備投資をできるだけの体力を回復させるべきだといっているのです。
競争力云々は体力がついた後の話ですね。値段勝負での競争力回復となると、2割どころか半額以下のバーゲン価格にしないと無理かもしれまん。そうなると、それこそコストの安い海外生産でという話になりますよね。
日本の生き筋はそこにはないと思います。
かつて、ソニーがウォークマンで世界を席巻したように、日本のメーカーは、新しい付加価値を生み出すことが大切だと思います。今現在において、日本が持っていたブランド力が消え失せているのであれば、それは、これまでそのブランドを形作っていた付加価値が無くなったからでしょう。
魅力的な商品、ニーズを生み出すようなオンリーワンな商品は付加価値の塊です。けれどもそれは、一人のアイデアから生まれたりするのです。ウォークマンだって井深さんがいなければ作られなかったですし、iphoneやipadだってジョブスがいなければ生まれなかった筈です。
[つづく]
洗足池
それより、日本人のパーキャピタGDPの世界ランキングは円安で急落、世界での日本の存在感は益々小さくなる。
適度の物価上昇はよいとして、インフレが加速した場合、日銀が売りオペ介入するが、金利は高騰する。長期金利が1%上がれば国債を大量保有する金融機関の損失は7兆円といわれている。安倍君どうするの?
sdi
なにしろ需要が回復しても、国内生産がそれに追随する形で回復しないと不足分を補うため輸入が増えるという事態もありえます。ただ「来年夏まではとにかく国内景気対策最優先にする」という点で、自民党内合意はとれているそうですから一丸となって邁進してほしいですね。
ついでに今後の長期的なエネルギー供給政策の最大の不安定要因となりそうな要素を挙げると、皮肉なことにアメリカの動向ということになるかもしれません。シェールオイルの採掘量と採掘コスト次第ではアメリカが化石燃料の輸出国として復活する可能性もあ
ス内パー
金融バブル政策と違いアベノミクス式の伝統的なインフレで小売商やレジうちが潤う速度はかなり早いんですが(公務員の財務省は恩恵0に近い)その辺の理解もないっぽい。
WN
日本の主力輸出品は資本財です。消費財しか見ていないのではお話になりませんよ。