天声人語のロジックを検証する

 
今日は一部で話題になっている、天声人語についてです。

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1.不思議な論理を展開する天声人語

笹子トンネルの崩落事故を受け、各地の高速道路で吊り天井方式のトンネルの緊急再点検が行われている。

12月6日、NEXCO中日本は、点検対象としている4つのトンネルについて、事故が発生した笹子トンネルの上り以外は緊急点検が完了したと発表した。

また、首都高速会社も緊急点検を行っており、その結果、1号羽田線・羽田トンネルで天井板を吊り下げる金具が2か所破断していたと発表した。損傷個所については金属製ワイヤで補強する応急処置を実施し、念の為、天井板そのものを年内にも撤去するとしている。

危ない箇所が見つかったら、それに対処するのは当然のこと。今のうちに見つかったことを幸いとすべきだろう。あれ程の事故が起こった以上、吊り天井方式のトンネルについては、そのあり方を見直されるようになると思う。

今回の事故について、ネットの一部で話題になっている社説がある。朝日新聞の12月4日付の「天声人語」がそれ。曰く「何が言いたいのか全然わからないんだけど」、曰く「前半と後半が完全に空中分解していて、なにがいいたいのか読者が混乱する」等々、意味不明だ、という感想が多い。

くだんの文章は、朝日のサイトで確認してもらえばよいと思うけれど、確かに筆者も、何が言いたいのかさっぱり分からず、何回も読み直してしまった。

どこまで、この"謎文"を理解できたのか、いまひとつ自信がないのだけれど、整理する意味で、箇条書きで論旨を纏め直してみると、次のとおり。
・1999年のモンブラントンネル事故後、走行規制の厳格さに驚いた。
・トンネル内は不安になるものだが、頭上を気にしたことはなかった。
・笹子トンネルの天井崩落は前例のない事故
・崩れたのは全長の3%。7秒で抜けられる距離。
・笹子トンネルが渋滞していたらもっと大きな被害が出ただろう
・笹子トンネルは老朽化していた。
・ボルトの打音検査をしていれば劣化が分かったかもしれない
・インフラは手入れが欠かせない
・悲劇を口実に道路予算が復活するのは困る
・命を守る策はむしろ「コンクリから人へ」だ
・日本には倹約の哲学が必要だ。それは劣化ではない。
やっぱりよく分からない。特に前半部と後半部の繋がりが分かりにくい。

まぁ、それでも、前半部をまるっきりすっとばして、後半部だけに着目すると、どうやら、「どれだけ老朽化していたとしても、検査或いは規制さえしっかりやればよいのだ。それは劣化ではないのだ」というロジックを立てているように思われる。それが「コンクリから人へ」の言葉になって表れている。

だけど、このロジックには、耐用年数という概念が欠落している。さすが天下の朝日新聞。文系最高峰の方々は物理法則をも超越できるらしい。コンクリートの耐久年数は40年から長くて50年程度というのが、市井の常識。

では、何故、この社説を"謎文章"にしている前半部をくっつけているのか。それを考えるために、この社説のロジックを逆に追って考えてみる。

まず、朝日が何故、「コンクリから人へ」を主張しなければならないのか、と朝日の立場で考えてみると、おそらくは、そうならない可能性があると恐れているからと思われる。それが、その前段の「悲劇を口実に道路予算が復活するのは困る」になっている。

では、道路予算を"復活させない"為には、どうすればいいかというと"悲劇という口実"が無ければいいことになる。悲劇というのはいうまでもなく、犠牲者まで出した今回の事故。

今回の事故を無くすためには、その原因を究明し、取り除かなくてはならないのだけれど、今後もトンネルを使うという前提にある限り、その対策は、吊り天井の撤去や、吊り金具及びボルトの補強、極端なことをいえばトンネルの作り直し、ということになる。だけど、これは道路予算の復活そのものになるから、朝日としては主張できない。ならばどうするか。

老朽化したトンネルの補強はしないけれど、悲劇も起こさない、というミラクルが成立する条件はたったひとつしかない。それは「事故が起こるときだけ、そのトンネルは使わない」ということ。"赤い彗星"な人が、「当たらなければどうということはない」と言ったやり方。



だけど、事故が起こるときだけ、トンネルを使わないようにするためには、事故が起こる少し前に、事故が起こることを察知できていなければならない。それが大前提。

だから、朝日は、その前段で「打音検査をしていれば劣化が分かったかもしれない」「インフラは手入れが欠かせない」と検査による危険予知を述べた。予算をつけて補強工事しなくても、検査をすれば悲劇は起こらないとしている。

だけど、事故って起こるときは一瞬。今回の天井板落下だって一瞬の出来事。検査によって危険を回避するのなら、それこそ24時間体制で検査しなくちゃいけない。そんなことしたら、トンネルはただの検査場になってしまって、肝心の車が通れなくなってしまう。

流石にそれは無理があるとみたのか、「当たらなければどうということはない」を実現するために、朝日は走行規制を持ち出す。つまり、高速道路を、渋滞どころか、滅多に車がとおらない"スカスカ"の状態にしておけば、それだけ「当たる確率」は減るだろうという理屈を持ち出した。

だから、その理屈に信憑性を持たせるために、「崩れたのは全長の3%。7秒で抜けられる距離。」というもっともらしい数字を出してきたのではないかと思う。だけど、いくら「崩れたのは全長の3%」と力説したところで、これは単に、今回の事故の話であって、他のトンネルでの事故も必ず3%になるとは限らない。だから、これは本当の意味で補完データにはなってない。単なる印象操作にしか過ぎない。

それに、いくら頑張って「当たらなければどうということはない」条件を提示したとしても、実際問題として出来っこないような条件であったら、それは単なる"物語"にしか過ぎない。だから、もうひとつ駄目押しのデータが欲しい。できれば、実例があればもっといい。

そこで出してきたのが、「モンブラントンネル」。

この天声人語でも触れているように、モンブラントンネルは大規模な火災事故を起こしている。その教訓として、制限速度を最低50km、最高70キロ、車間距離150mに規制したのは事実。

おそらく、朝日は、このモンブラントンネルの規制を実例として持ち出すことで、「当たらなければどうということはない」条件は夢物語ではないと言いたいのだろう。

要するに、「モンブラントンネル」のように走行規制をかけて、かつ、(打音)検査をやれば「悲劇」は回避できるはずだから、今回の事故を口実に道路予算をつけてはならない、というのが、今回の天声人語のロジックではないかと思われる。

だけど、ここには大きな罠が隠されている。モンブラントンネルの対策は走行規制だけではない。朝日はそこに触れていない。これが問題。




2.モンブラントンネル大火災

モンブラントンネルは、イタリアのアオスタとフランスのシャモニーを結ぶ全長11.8km、幅8.6m、高さ4.35mの2車線対面通行の道路トンネル。片側に幅80cmの歩道がついている。アルペンの重要な輸送路の1つであり、年間に75~80万台のトラックが通過する。一日の通過車両は約4000台。

トンネルの建設には、1959年から1965年までの6年間を擁したものの、モンブラントンネルの開通によって、冬に雪で通れなくなる峠越えの道路を迂回することができ、パリ・ローマ間が150km短縮された。

モンブラントンネルの火災事故は1999年3月24日に起こった。

小麦粉12トン、マーガリン8トンを積載したベルギー籍の食品運搬トラックが、イタリアに向かってトンネルを通過していた時に、燃料が漏れて出火した。

トラック運転手は、「複数の対向車がライトを何度も点滅させていたので、バックミラーを見ると後ろから煙が出ていた」ので、指示灯を点滅させながら、速度を落としてトンネル内で停車させた。運転手は、消火器を取り出して、煙の出ている車の下をチェックしたのだけれど、既にキャビンの下から出火。付近は呼吸できない程の大量の煙が発生し、間もなく爆発した。

火災発生地点は、フランス側出口から6700m地点。乗用車から投げ捨てられた葉巻の吸殻が、トラックの空気吸入口に入って、空気フィルターが燃え、オイルに引火したのではないかと推定されている。

トンネルの両側には換気設備と、指令調整所があるのだけど、フランス側の監視装置は事故トラックがトンネルに入った直後に煙を検知したものの、直ちにトンネルを閉鎖せず、火災発生の3分後に換気装置を最大排気レベルにした。

ところが、イタリア側では逆に換気装置を、排気ではなく最大給気レベルにしていて、被害は拡大。フランスに向かうトラック8台と、イタリアに向かうトラック12台、乗用車10~11台に延焼し、41名が死亡する惨事となった。

トンネル内には、煙と空気が混ざって充満し、死者の多くは火災発生後15分以内に窒息したと推測されている。また、トンネル内は、強い熱に晒され、トラックの塗料は剥がれ、タイヤは破裂していた。トンネルの天井・壁の一部は砂のようになって落下し、アスファルトは溶融。現場は1000℃程にまで上昇したとされる。

更に、ドライバーやトンネル作業員を救助中、イタリア側から吹く風で有毒ガスがフランス側に流れ、消防士27人が煙を吸い込み軽いガス中毒を起こし、フランス人消防士1人が心臓発作で死亡している。

事故後、フランス・イタリア両政府が7月に共同で発表した公式報告書では、大災害になった理由として次の3点を挙げている。
1.トンネルの排煙能力が長さ600m当たり、毎秒55m3と通常の半分程度と低いこと
2.道路脇に300m間隔で避難所があるだけで、脱出路がないこと
3.トンネルを管理する2社の安全管理が不十分で初動が遅れたこと
事実、これらの原因は、救助活動の障害になっていた。

火災発生当初、シャモニー側から消防車2台が火災現場へ向かったのだけれど、既に火災で配線は焼け熔けていて、暗闇となっていた事と、車が車線を塞いでいて到着が遅れ、煙に巻き込まれてしまう。

その後、フランス、イタリア、スイスから合計約100名の消防士が動員されたものの、換気装置が有毒ガスを排気しきれず、熱と煙のために、消防士達が現場に到着できたのは実に3日後であったという。

この火災事故によるトンネルのダメージは大きく、閉鎖を余儀なくされた。モンブラントンネルは、約3年後の2002年3月9日に再開通しているのだけれど、その時に盛り込まれた安全対策が凄まじい。

フランス・イタリアの両政府は、緊急時対応活動の分担と、先に情報を受けた方が緊急対策の指揮をとるよう管理機関の一本化を行い、安全管理用コンピューターシステムを導入して、車道1km毎にディスプレイ表示が可能な電子スクリーンを司令室に設置。そして、トンネル内に37ヶ所の1200℃の耐熱性を持った避難所を設け、トンネル中央部に消防車を配置。更に、120台の監視カメラと、トンネル内の温度・煙センサー、最新式の消火装置及び換気システムを設置し、退避トンネルも用意した。

それに加えて、トンネル内の走行は、時速50~70キロ、車間距離150mを厳守することとし、再開通後しばらくは、換気設備の不具合や監視モニターの数値変化でも、トラックの通行を一時的に閉鎖するなどの厳格な安全体制を取っていたようだ。

これら再開通の為の補修費用は、1.89億ユーロ(217億円)と積算されている。

モンブラントンネルはそこまでの金を掛けて、安全対策を取っている。彼らは、走行規制だけで安全になるとは露ほども思っていない。

だから、朝日がモンブラントンネルの設備的な安全対策に一切触れず、ただ走行規制だけを取り上げて、「当たらなければどうということはない」論を展開し、ゆえに道路予算をつけてはならないとするのは、非常に悪質な情報操作ではないのかという気がしてならない。

もしも、今後、朝日の「当たらなければどうということはない」論に基づいた対策しかせず、再び、似たような事故が起こったらどうするのか。今回の事故は二度と繰り返さないようにしなくちゃいけない。

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この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    恐ろしいが, 真っ赤な(嘘の)朝日は全てにおいて
    このような情報操作をしてきた. 彼ら嘘を書くもの達
    に共通するのは嘘をついても守る「主義」を持つこと.

    国民が毎日読む新聞がこのようなデマを流しても
    日本が共産革命に陥らずに済んだのには
    吉田茂, 岸信介, 池田隼人, 佐藤栄作等の傑出した
    リーダの存在が大きい.

    特に岸信介の「安全保障条約改正」は日本の最大の
    危機であった. なにせ, 新聞を読む限りは新安保条約
    の中身について一言も書いていないのだから.

    革命前夜の熱気は池田隼人の「所得倍増政策」の
    下で呆気なく冷え込んでいったが, その残り火が
    嘘付政権として生き返っていたわけだ.
    ゾンビが生き返った原因は政治腐敗でも何でもなく,
    小泉政権のグローバル政策が国民を不幸にしたから.

    国を安定させるとは国民の経済活動を豊かにすること.
    決して政府の財政を均衡させることではない.
    2015年08月10日 15:23
  • opera

    まぁ、内容に対する反論は「国土強靭化」の提唱者である藤井聡教授がすでに行っているので、今回のエントリーと併せて、そちらを読んで頂くとして、
    http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/index.php/general-election
    >さすが天下の朝日新聞。文系最高峰の方々は…
     日比野さんの憤りが伝わってくるようですw

     新聞を読まなくなって久しいですが、こうした自称エリートの新聞社の入社試験に『三題噺』というのがありまず。たとえば、「GDP」「祭り囃子」「脱原発」といった一見すると関連性がない単語を全て使って一つのお話を作るという、もとは落語の一形態です。これをうまくやるには専門知識や論理性はむしろ邪魔で、印象やウィットをうまく使って纏めるのがコツです。
     件の社説子は、「笹子トンネル事故」と「コンクリートから人へ」を結びつけ、野田首相擁護・安倍自民党の政策批判をするという結論が先にあり、「モンブラントンネル」を思い付いて、してやったりと思って書いたのかもしれません。
     まさか日比野さんのように、一つ一つ事案や論理性をチェックされるとは・・・嫌
    2015年08月10日 15:23
  • 貂天照毬

    おはようございます。
    この笹子トンネルの崩落事故に関する天声人語の検証は、大変優れていると思います。その偽善の顔に潜む冷酷さ、まさにカルトテロリストそのものといってよい正体が見事に暴かれていると思います。
     実際、天声人語はいつも極めて強引な我田引水。奇っ怪なロジックが多い印象です。そのグロテスクな印象も正体を示唆してますね。まさに左翼の残酷さの象徴の気がします。その傲慢さも凄まじいような。
    2015年08月10日 15:23
  • とおる

    > 確かに筆者も、何が言いたいのかさっぱり分からず、何回も読み直してしまった。

    朝日新聞の実態を反映した文章なのではないでしょうか。
    両者を立てるように折衷した結果、意味不明・論理不明。
    どちらか一方を立てれば、紛争(内ゲバ)が起きて崩壊。
    もはや、報道機関としてだけでは無く、工作期間としても崩壊の一歩手前にあるかもしれません。
    2015年08月10日 15:23
  • sdi

    まとめると「日本語明瞭、意味不明瞭。ただし、筆者の反安倍反自民のスタンスは良くわかる」というところでしょうか。でも、朝日新聞の天声人語が安倍総裁を支持するようなコラムを書いたら私は逆に「褒め殺しか?」と疑いますけどね。
    こんこなことを言ってはなんですが、マスコミ業界が反安倍反自民のスタンスを取るのは安倍晋三議員が自民総裁選に立候補したときから解っていたはずで、むしろをそれを予測できないほうがおかしいですよ。特に安倍総裁周辺の人たちは。中立性に違反する云々を主張するのは別に構わないですが、それによってマスコミ業界の反応が変わることには期待しないほうがよいでしょう。むしろ「それを前提にどう対処するかをどれくらい事前に準備できているか」にかかってくるでしょう。泣いても笑ってもあと九日ですね。
    2015年08月10日 15:23

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